プロ責法改正案をざっと読んでみた

1 はじめに

このnoteは、2/26に公開されたプロ責法の改正案をざっと読んだ感想になります。
完全に私見であり、立案担当者の見解とは異なる可能性がありますので、ご注意ください。
改正案が掲載されている総務省HPへのlinkは以下のとおりです。

2 プロ責法改正案のポイント

ポイントは、次の4つになるかなと思いました。

① 「損害賠償責任の制限」は変更なし
② 現行の「発信者情報開示請求」も維持(実体法上の請求権構成のママ)
③ ログイン型に対応するため開示請求範囲を拡大
④ 発信者情報開示に関する「新たな裁判手続」を創設

3 損害賠償責任の制限は変更なし

損害賠償責任の制限(3条)は、実質的な変更はなさそうです。

4 従前の「発信者情報開示請求」を維持

⑴ 発信者情報開示請求権

現行法の発信者情報開示請求権は、手続法上の権利ではなく、実体法上の請求権であり、訴訟外でも行使可能です。
改正案でも訴訟外での行使は認めているように読めますので、発信者情報開示請求権を実体法上の請求権として構成しているものと思われます。

⑵ 発信者情報開示請求の要件

現行法の発信者情報開示請求は、①権利侵害の明白性②開示を受けるべき正当な理由の2つを要件としています(4条1項)。
そして、改正案もこの2つの要件を維持しています(改正5条1項1号、2号)。
ただし、後述しますとおり、開示対象となる情報が現行の省令で列挙されていた情報ではなく、いわゆるログイン時の情報の場合には要件が加重されています。

⑶ 発信者への意見聴取

現行法は、発信者情報開示請求を受けた場合には、原則として、発信者に対する意見聴取を行う必要があります(4条2項)。
そして、改正案も現行法と同様、発信者に対する意見聴取を義務づけています(改正6条1項)。
ただし、現行法の聴取事項である「開示するかどうか」だけではなく、「発信者が開示に応じない場合には、その理由」を聴取事項として追加しています(改正6条1項カッコ書)。

⑷ 開示を受けた者の義務

現行法は、発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない旨を規定しています。
そして、改正案も現行法と同様の義務を規定しています(改正7条)。

⑸ 開示関係役務提供者の免責

現行法は、開示関係役務提供者が、発信者情報開示請求に応じないことにより生じた損害については、自己が発信者である場合を除き、故意又は重過失がない限り、免責される旨を規定しています(4条4項)。
そして、改正案も現行法と同様の免責を規定しています(改正6条4項)。

5 ログイン型に対応するため開示請求範囲を拡大

いわゆるログイン型投稿に対応するために発信者情報開示請求が可能な範囲を法律上拡大しています。

ポイントは次の3つかなと思います。

① 通信を2つにわけて考える
 ・ 権利侵害情報を書き込んだときの通信
 ・ ログイン・ログアウト時の通信
② 開示関係役務提供者を2つにわけて考える
 ・ 権利侵害情報に関する通信を媒介したプロバイダ等
  →改正案5条1項を適用
  例:権利侵害情報が書き込まれたSNS事業者
 ・ ログイン・ログアウト時の通信のみを媒介しているプロバイダ等
  →改正案5条2項を適用
  例:ログイン・ログアウト時の通信を媒介する接続プロバイダ
③ 発信者情報をログイン・ログアウト時の情報現行省令の発信者情報の2類型に分けた上で、権利侵害情報に関する通信を媒介等したプロバイダ等に対するログイン・ログアウト時の情報の開示請求については開示要件を加重する

⑴ 2類型の通信

改正案は、通信の種類を「権利侵害情報が書き込まれたときの通信」(改正5条1項柱書)と「ログイン・ログアウト時の通信(侵害関連通信)」(5条3項)の2つに分類しているように読めます。

⑵ 開示関係役務提供者の2類型

その上で、改正案は、開示関係役務提供者を2つに分類しています。

① 権利侵害情報が書き込まれたときの通信を媒介しているプロバイダ等(改正5条1項)
② ログイン・ログアウト時の通信のみを媒介しているプロバイダ等(「関連電気通信役務提供者」、改正5条2項)

⑶ 開示要件の加重

そして、上記⑵①のプロバイダ等に対して、ログイン・ログアウト時の情報(「特定発信者情報」、改正5条1項)の開示を求めるためには、当該プロバイダ等がログイン・ログアウト時の情報以外は保有していないと認められる場合等に限るなどとして、開示請求権の要件を加重しています(改正5条1項3号)。

⑷ 実際の権利行使

実際の権利行使の場面としては、改正5条1項に基づき、SNS事業者に対してログイン・ログアウト時のIPアドレス・タイムスタンプの開示を請求した上で、改正5条2項に基づき、ログイン・ログアウト時の通信を媒介した接続プロバイダに対して氏名・住所の開示請求を行うことなどが想定されます。

6 発信者情報開示に関する「新たな裁判手続」

⑴ 裁判所による命令の創設

改正案では、次の3つの命令とその手続等を創設しています。

① 発信者情報開示命令(改正8条)
② 提供命令(改正15条)
③ 消去禁止命令(改正16条)

⑵ 発信者情報開示命令

裁判所は、被害者からの「申立て」によって、「決定」で発信者情報の開示を命じることができます(改正8条)。
裁判所は、開示命令の申立について決定をする場合には、不適法又は理由がないことが明らかであるため却下する決定をするときを除き、当事者の陳述を聴く必要があります(改正11条3項)。
決定に不服がある当事者は、「異議の訴え」を提起することができます(改正14条1項)。
他方、異議の訴えを提起しなかった場合や却下されたときは、決定は「確定判決と同一の効力」を有することになります(改正14条5項)。
開示命令を受けた開示関係役務提供者は、原則として、開示を拒否する旨の意見を述べた発信者に対して、遅滞なく、開示命令を受けた旨を「通知」する義務を負います(改正6条2項)。

⑶ 提供命令

被害者は、発信者情報開示命令事件が係属する裁判所に対し、提供命令の申立てができます(改正15条1項)。
裁判所は、「発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるとき」には、2種類の提供命令ができます(改正15条1項)。
提供命令の要件は、発信者情報開示命令と比較して緩和されています。
① 申立人に対する接続プロバイダ等の名称・住所等の提供(1号)
② 接続プロバイダ等に対するコンテンツプロバイダ等が保有する発信者情報の提供(2号)
提供命令を受けた開示関係役務提供者は、即時抗告ができます(改正15条5項)

⑷ 消去禁止命令

被害者は、発信者情報開示命令事件が係属する裁判所に対し、消去禁止命令の申立てができます(改正16条1項)。
裁判所は、「発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるとき」には、発信者情報の消去禁止命令ができます(改正16条1項)。
消去禁止命令の要件は、発信者情報開示命令と比較して緩和されています。
消去禁止命令を受けた開示関係役務提供者は、即時抗告ができます(改正16条3項)







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