10/1の緊急事態宣言解除後に向けて（2021/9/30）
明日から緊急事態宣言が全国すべて解除ですね！新たな生活に向けて大切な時期ですので、皆様が目にする情報を補完する目的で、当方視点を公表させていただきます。お役に立てば幸いです。【飛騨市民病院 中林玄一ICD】
現状と今後の予測
第1波～第5波までの感染パターンと拡大傾向の予測が的中しましたが、自身が最も重視していたことは、R0（実効再生産数）/ウイルス自身の性質（ステルス性・重症化率の低さ・変異）/ワクチンの効果（発症率の低下・無症状率・重症化率）だけでなく、それ以上に社会学的な恐怖指数/隣人同士の抑制力/文化背景（大声で話す・抱き合うなど）/社会接触予定行動、などでした。ほかにも様々考慮しており体系的、定量的、数理学的に説明が困難なため表現が難しいのがもどかしいです。
第5波における注目ポイントは、「ワクチン」と「恐怖感の多寡（以下は恐怖指数と表現）」そして「変異株の動向」だったと考えています。報道・注目されていませんが、これまで第1～4波で「恐怖指数」の関与は大きかったと考えています。第5波では「若者は重症化しにくいと信じられていた＆若年者にワクチンが普及していなかった」という状況下で、「感染力の高いデルタ株が流行」し、「若年者による恐怖のない感染拡大行動」によって波を形成したと考えられます。
「慣れてしまう」という精神構造はヒトが生きる上で大切な感覚ですが、これにより「許容される感染者数」は増大の一途をたどり、「絶対数において明らかに多い感染者数でも減少傾向になれば安心してしまう」結果となっています。現在も安堵感が広がりつつありますが、絶対数は以前と比較して多く、病院の重症者数は地域によっては楽でない水準です。第５波では、予想より死者が大変少なく経過して幸いですが、ワクチンだけでなく本邦の医療者の踏ん張りに寄るところが大きいと考えていますので、油断して第6波の急速な拡大を試すという「危険な賭にでるべきではない」と考えています。
第5波においては途中から若年者の重症化・後遺症の怖さが浸透し、タレントの野々村氏の辛い闘病報道が昼バラエティで報道された（普段ドキュメンタリーやニュースを見ない層にインパクトが届いた）効果などもあり、若年者の恐怖指数が急上昇し、感染が急速に消退したと考えられます。これは昨年の志村けんさんによる第1波の急速な収束と同様の効果です。
若年感染が中～高年層へ波及することを防ぎ得たことに関してはワクチンが非常に大きな役割を果たしたと考えており、9月中旬以降では若年にも目に見える効力を発揮してきていると見ています。
さて生体がウイルスに感染するためには、あるまとまった数が同時に侵入することが必用です。新型コロナはデルタ株への進化の過程で、感染に必用な数の減少（容易に感染）を来すと共に、感染者が放出するウイルス量に劇的な増加を来して「パワーアップ」しました。一方でワクチンは感染に必用なウイルス数を引き上げる効果があり、生体防御力を「パワーアップ」させることで、これに拮抗し、感染しにくい状況にしてくれます。この効果はウイルスの「パワーアップ」を少なくとも短期的には凌いでいます（長期にはブースター接種を要します）。すなわち「感染防御行動を継続している」条件において実効再生産数を十分に低下させて感染収束方向にする事が可能と考えます（言い換えると、通常感冒のように「マスク無し、密に接する」などを行った場合はワクチン効果を上回る感染力で一気に感染拡大する恐れがあります）。
新型コロナウイルスは従来のウイルス（麻疹など）と比較して、とても大きな違いがあり、「Ⅰ型インターフェロンを中心とした、生体の早期免疫防御システムを多数（8箇所以上?）で断線させることで起動困難にする」という特徴が有ります。例えると「火事なのに、消防通報しようとしたら電話線があちこち切れていて繋がらない」状況です。
そもそも、生体がウイルスに感染したときの「初期症状」は、ウイルスを洗い流して排除しようとする「鼻汁」や、吹き飛ばそうとする「くしゃみ・咳」、体温を上げてウイルスの増殖に不適当な高温にする「発熱」などですが、これら初期応答を起動できないということは、「見かけ上は無症状」となります。その間にウイルスの増殖を許すために「無症状でもウイルス量は多く、拡散力が高い」という厄介な状況になります。これはワクチンを接種していても同じです。
体が感染に気付き、「初期応答が起動」されてしまえば、ワクチン(済)の人は迅速にウイルスを排除できるため重症化は避けれますが、「体が感染に気付くまでの、通常より長いタイムラグ」の間に感染を広げてしまうと考えられます。これがブレイクスルー感染の本態と考えられ、麻疹などと異なり「集団免疫が完全には成立しない」原因と存じます。
なおワクチン後の感染者は軽症に加えて、（ひとたび免疫が起動されれば）短時間で体がウイルスを排除することによって「あとから検査しても非感染者と判定される」可能性が高くなり、感染経路が追いにくくなっている原因と考えています。
なおインフルエンザを始めとして数十年前から判明していることですが、「いちどに体に入ったウイルス量が多いほど重症化しやすい（死亡率が上昇する）」ことが分かっており、新型コロナにおいても、動物実験にて「侵入ウイルス量が多いほど致死率が高まる」ことは既に確認されています。むしろ免疫応答が遅くなる性質によって「更にその傾向が高まっている」と考えられます。
したがって★「感染防御を継続して体内に入るウイルス量を減らす」ことは、「感染しない」ことに役立つだけでなく、「感染したとしても重症化しない」ために有用となり、今後の「ウイルスとの共存」のためには、ワクチンだけでなく、物理的な感染制御の継続が大切と考えられます。特に換気の優先順位／重要性が増大しています。
上記の性質のため、今後の予想されるシナリオは以下の様になると考えています。
感染の拡大パターン
これまでの感染状況を例えると「綿毛を沢山付けたたんぽぽが咲いた状況」と表現できます。ひとたび感染が起こると、クラスター状態で見つかると言う状態です。
しかしワクチンが普及した状況においては、「感染経路や由来が不明な単発～少数感染例があちこちで散発し続ける状況」が続くと考えられます。例えると「どこからともなく飛来したバラバラなタンポポの綿毛がそこかしこに落ちつづける」状況になると考えられます。そして周辺のワクチン非接種者/体力や免疫が弱った方を中心に、重症例の散発も続くと考えられます（ただしワクチンの普及とブースター接種により「発症者に対する有症状～重症者の割合」は著しく減少）。
来月末頃になれば、若年者の多くもワクチン接種が完了し、「恐怖指数」は再び大きく減少すると考えられます。「新たに強い恐怖を呼び起こす状況（強い変異株など）」が無い場合は「再び指数が上昇する見込みは低い」と考えられるため、第6波以降は「大きな抑止要因を失う」という新たな展開に入ると考えています。
「恐怖指数」の減少に伴い、人々は「2週間後の会食の予定」「1ヶ月後の家族行動/パーティーの予定」「2ヶ月以上先の旅行の予定」を入れ始めます。結果として必然的に「少し期間をおいて感染者数の増大を来してくる」と予想しています（これが波と波の間に一定の期間が存在した理由と考えています）。今回はそこに年末年始が到来します。2年間も我慢したので、（祖父母～12歳以上の小児まで接種完了して）「移動を思いとどまる理由」に乏しく、里帰りを含め劇的な人流増加に至る可能性が高いと予想しています。そこに「活動的な人々の間でステルス保持されたウイルス（新コロ以外を含む）」の種火が着火しないかを懸念しています。
コロナと内服薬の関係
順調に進めば、本年末には内服薬の発売が期待されます。内服薬が出ることで自宅療養が容易に行えるようになり、感染後の管理は劇的に改善すると考えられますが、残念ながら感染コントロールについては「簡単に解決しない」可能性を考えています。
インフルエンザにおいて病院検査と投薬による感染コントロールが可能なのは、ひとえに「感染したらすぐ高熱が出るというわかりやすさ」が大きいと考えています。先ほど述べたように、ワクチン後の新型コロナにおいては、「感染初期には症状が出ない/ごく軽微」である可能性が高く、病院を受診する動機付けに乏しいため、症状→検査→内服薬→「地域感染の鎮静下」という流れを「医療機関だけで実現することは困難」で、感染収束効果は限定的になると考えられます。
以上より、医療負荷増大による通常医療崩壊/社会不安状態を回避するための感染制御には「（病院外の）継続的な一定規模の地域感染サーベイランス」が有用と考えられ、「レーダー」に当たるような検査体制の維持が必要になると予想しています。
また、感染制御の観点だけでなく、反復感染/重症化による身体ダメージを避けることによる健康寿命/社会の維持・医療機関への負荷軽減の観点から、各々の「物理レベルの防護徹底／維持（特にマスクと換気）」が大切になると考えます。
今後、更に克服困難な変異株の出現も予想されており、具現化しないことを祈っておりますが、万一現実化した場合にも新型ワクチン＆上記対策が奏功すると考えています。
国内外の文献/分析結果を中心にしていますが、導かれる推論も含んでおりますことをご承知いただき、参考にしていただければ幸いです。
文責：飛騨市民病院 ICD 中林玄一
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