必要以上に恐れていた教室

 中学校の頃、教室に入ることが怖かった。
 正確に言うと、教室に入った瞬間から始まるクラスメイトとのコミュニケーションの取り方が分からないから恐ろしかった。どのタイミングですでに教室にいる人と目を合わせ「おはよう」と声を掛けていいのか悩む。さらには朝のホームルームの時間までを誰とどのように過ごせばいいのかも分からなかった。

 私が住んでいた場所では大体の人が一つの小学校に通いそのまま中学校に上がる。転校生が来たら一大ニュース。だから、中学校に上がった時点で充分に友達はいたし、ひとりぼっちだった記憶はあまりない。だが、中学生に上がって人間関係は違う形にいつの間にか変わる。
 まず、部活に入るとそれに伴いちょっとしたカーストが出来上がる。小学校まで一直線に並んでいたお友達に上下ができる。もちろん自分は上ではないのでちょっとビクビクしている。
 次に男女というものを意識しだす。みんな常に好きな人の発表会をするし夏休み前は告白ラッシュ。ちなみに冬休み前には別れている。

 そのような少しずつ変わっていく周囲の関係と、それに当たり前に順応していくクラスメイトに必死についていった。それでも私には理解できないものも多かった。「中学生から〇〇の法則に従って周りとコミュニケーションを取ってください!はい、よーいスタート!」と言ってくれればいくらか楽なんだけど。恋愛に盛んなのは放っておいてよいにしても女子間のコミュニケーションは大事である。当時の私にとっては学校内の女子の友達がほぼ全ての世界であり、居場所を作らなければならなかったのだから。


 そのなかでもっとも悩んだのが朝一発目の挨拶なのである。


 どこからがカーストの違いによる分断で、どこからが「友達」への無視なのか分からない。
 例えば、女バス所属の常に前髪を気にしている子には席が近いときは挨拶するが遠いとしない。暗黙の了解である。その子と小学校のときは一緒に通学していたのに。

 そして、ここで問題となるのは教室の入り口から自分の席までの距離である。自分の席が入り口に近いならそれは問題ない。自分の席に「今日中に提出の宿題が終わってないんですよ~」の顔をしながら急いで座りノートを机に広げればよい。このとき、ちゃんと私は宿題を前日までに終わらせている。そして、後から教室に入ってきて声を掛けてくれる子にだけ「おはよう」を返せばいいのだ。もちろん、私は声を掛けられ顔を上げるその瞬間まで「この宿題を終わらすのに必死です!」という表情を欠かさず作っている。もう一度言うが、宿題はすでに終わっている。
 問題なのは、席が一番窓側にある時である。このとき、席に行き着くまでに何人かの前を横切らなければならない。男子ならばいっそフル無視でよい。しかし、女子ならそのようにもいかない。そこで中学生の私なりに思い付いたのである。一番先に教室に入ってしまえばいいのだと。そこから先の中学校ライフは窓際の席になるたびに15分早く家を出た。挨拶をするかしないか考えずに学校に行けるってすごく楽。ストレスフリー。その矢先に生じた次の問題。

「朝のホームルームまでに誰にも声を掛けられなかった場合次の5分休みに何もなかったかのように話の輪に入って良いのか否か」。

私はずっと、悩み続ける。

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