卓球混合ダブルス感想 - 2020 2021東京五輪ピック

いやあ、東京大会が本当に開催されるとは。

1月の全日本卓球選手権ごろですら不透明だった、五輪ピックの行方。自国開催にモチベーションの沸かない選手などいるはずもありませんが、流行りのウイルスもありますし、開催を強くは希望できません。選手らにはプレーの他に気にかけるべきことが多い、とても難しい大会になったと思います。それでも、自国の選手たちは全力で試合に臨んでくれました。

そして、水谷さん・伊藤さんの掴んだ、卓球日本勢初の金メダル。

失礼を承知で書きますが、自分が生きているうちに邦人が五輪の卓球種目で優勝するなど、ありえないと思っていました。そう書きたくなるほど、水谷さんたちより前の世代では、(とくに男子は) 世界トップレベルに及んでいなかったのです。あのころを多少なりとも知る身としては、表彰台の一番高いところを目指す選手、何なら、メダルを獲得しても金メダルでないなら悔しがる選手が出てくるだなんて、思いもしませんでした。それほどに日本勢は力をつけてきました。

この記事を書いている時点では男女シングルスの日程を終え、まだ団体戦が残っているところですが、今大会を通して「伊藤封じ」はおおむね成功しているように感じます。

強い回転のサービスや、ラリーでの強打を上手に利用できる伊藤さんに対して、対戦相手はバック前に回転の弱いサービスを出してきたり、ラリーでもやや威力のないボールや高めのボールをバックに出しているようです。伊藤さんはこれらのボールに強打を仕掛けるもコートに入らず失点するケースが目立っています。

この戦術を使われ、あわや、というところまで追い詰められたのが、混合ダブルス準々決勝のドイツペア戦です。伊藤さんに送るボールでは彼女のミスを誘って得点。ゾルヤの振り回すバックハンドとフランチスカの一撃で決める台上バックハンドでプレッシャもかけていき、第2, 第3ゲームは大差で獲得。競い合った末の最終ゲームも、水谷・伊藤ペアから見て4点ビハインドのマッチポイントまで追い込みました。

ここで真骨頂を見せたのが水谷さん。いえ、水谷様。迷いなく叩くフォアハンドで、1点また1点と積み上げ、ついには10-10にまで追い付きます。デュースでは不運なネット・エッジボールや、ゾルヤのファインプレーで厳しい状況が続くも、終始強気の姿勢を見せた水谷さんと、勝利のかかる最後の1本で強心臓のロングサービスを出した伊藤さんに、勝利の女神が微笑むこととなりました。試合終了直後の伊藤さんの涙が忘れられません。「楽しむ」コメントと笑顔のプレーが世間を賑わせている伊藤さんですが、当然それだけで世界のトップクラスに君臨できるわけもありません。彼女の優勝にかける思いや、そこから来る重圧をあらためて感じました。

おおむね上手くいっている「伊藤封じ」ですが、混合ダブルス準決勝においては伊藤さんの持ち味が発揮されていました。対戦相手の台湾ペアは、レシーブから一撃で決められる男子選手の林がおり、僕としてはドイツペアより苦しい展開になると睨んでいました。ところが蓋を開けてみればそんなことはなく快勝。伊藤さんがことごとく返球するのですよね、林のボールを。3位決定戦で台湾ペアが圧勝するのを見て、さも当然のように対応していた伊藤さんがどれほどの実力者なのかを感じずにはいられませんでした。

一方の水谷さ……水谷様。彼の積極的なプレーは、この混合ダブルスで如何なく発揮されていました。回り込み3球目で仕留める姿勢は初戦から決勝まで変わらず、フットワークも軽快でした。決勝での第4ゲームをとった1本とか最高でしたね。フォア側に飛び付いたあと、大きくバック側まで回り込んでのフォアハンド連打。その執念と、瞬時に状況を判断して最適なプレーができるスマートさ。これまで何度も水谷さんのプレーに見惚れてきましたが、こんな大舞台で披露できるのは、さすがとしか言いようがありません。

ふたりの、優勝への貪欲な思いが、今回の結果をもたらしたのだと思います。メダルが遠かった日本勢から「メダルが欲しい、それも、金メダル」とここまで強く思えるのは、このふたりくらいかもしれません。「メダル獲得しさえすれば、何色でも」とわずかながらでも思っている他の選手とは一線を画す意識です。その強い思いが生んだ最高の結果を、心から祝福したいです。

決勝の話も、もう少し書けたら書きます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?