【禍話リライト「ねないこだれだテープ」】
※この話は禍話(@magabanasi)の「ねないこだれだテープ」をリライトしたものです。元の話はこちらから▹https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/510577717
【ねないこだれだテープ】
とある大学の、映像研究サークルでの話なんですけど。
その映像研究サークル、倉庫を持ってたんですって。そこには、今となってはどうやって再生するんですか、みたいなテープとかが色々と保管してあって。
ある時、サークル部員の酒の席で、そのテープの中から何か面白そうなものを皆で見てみようという話になった。
カビていないのが奇跡のようなVHSの背表紙が並ぶなか、ひときわ目を引くテープがある。
なぜって、背表紙に「ヤバい!!」とマジックで書かれていたからだ。他にも、「怖すぎる!!」とか、「禁断!!」とか笑
で、横を見てみると、詳しく説明が書いてあった。
「ねないこだれだテープ」。
部員みんなが首を傾げた。
「ねないこだれだテープ」? 怖くなさそうだな……。
設立して何年も経っているサークルだから、この場にいるメンバーにテープの詳細を知っている人なんていないわけで。シュールなアートビデオみたいな、ある意味トラウマ! みたいな話なのかな? とか、そういう絵本があったよね、それを実写にしたのかな?笑 みたいな話になって。
じゃあ、テープもカビてないし、これを見てみようかって話になったんですって。
で、見てみたらザーっと砂嵐。今はDVDだから砂嵐なんて出ないもんねーなどと話しながら続きを見る。
そうしたら砂嵐がプツンと切れて、これ電源入ってないだろう、みたいなでっかいマイクを持った男がテレビに映った。いかにも学生といった出で立ち。
その男、口を開いたと思ったら、「えー私は今ですねー、心霊スポットに来ております」なんて言う。
普通、出だしでそんなこと言うか? ヘッタクソな台本だなあ。
拍子抜けしつつ、それでも続きを見てみたけれど、それが本当に下手くそなんですって。台本も棒読みで、多分カメラの向こうにカンペがあってそれを読んでるっていうのが丸わかり。目も泳いでるし。
撮影場所は田んぼらしく、水路を指さし「この水路に子供が落ちて」とか言うけれど、いくら子供でも落ちそうにないくらい狭くて。
これは頑張って死のうと思っても死ねないだろう……。
マイクを持った男は「いやー本当に怖いですねえ!」とか言ってるけどこっちは全然怖くない。
「これを見てたら寝ちゃうから怖いってこと?」ってくらい怖くない。
でもこのテープ、随分と長いのよ。一応編集も入ってるらしくて。で、またザーッとなって場面が変わる。あっちこっち行くんだけど、その全部が面白くない。
途中で「野菜が売ってますね! 食べてみましょう」とか言う。もう心霊スポット関係ねーじゃねえか! と。
見てる方も嫌になってきてて、まだ続きがあんのかよー、なんて言ってたら、また場面転換。
今度は夜になったんですって。
照明がないから何が映っているのかも分からない。男は何を言うかと思いきや、
「夜になりましたーっ!」
見りゃ分かるわ!
「ここは〇〇洞窟と言うんですけどー、」
暗いせいでマイクと口ぐらいしか見えないんだから撮影するならせめて昼間にしろ!
「ここはですねー、昼間言った冗談とは違って」
今までのは冗談だったんかい!
「昼間行ったらブラフになると言いますか」
うるせえよおめえは! ブラフって言いたいだけだろ!
「ここは本当にヤバいところなんです」
で、男がそのヤバさを説明しだしたんだけど、昭和の戦争が終わったあとにですねー、などと喋っていた時、遠くの方から声が聞こえた。
「ねないこだーれだ!」
みんなそこでおっ? となった。
だるまさんがころんだ、みたいな感じで誰かが遠くで叫んだけど……。
やらせ? とみんなで顔を見合わせる。
でもやらせなら、マイクを持った男が「今何か聞こえませんでした……?」とか何とか言って反応するはず。でも男の説明は続く。
「男が洞窟で一人暮らしをはじめてー、それがでっかい男だったからみんなほっといたらしいんですけ『ねないこだーれだ!』」
また聞こえる。しかも声は明らかに近づいてきている。
流石にみんなが「うわっ!」となった。
おいこれやばくないか? いやでもやらせでしょう?! いやでも本当にやらせだったらさあ、そろそろ何か聞こえる〜、とか言ってる頃合でしょ。
そうこう言っている間にも相変わらず男の下手くそな説明は続いている。
「で、この男、ひとりで住んでると思ってたんですけどそうじゃなくて、村人が気がついたんですけど実はその男、女の子と暮らしていてですね」
とか言ったのと同じくらいのタイミングで、そいつの横から
「ねないこだーれだ!!!」
妙齢の女性のような声で絶叫が聞こえた。
それでもう、みんな震えが止まらなくなってしまって。
でもその声が一番近くに聞こえたのはその時だけで、あとは「ねないこだーれだ!」の声がどんどん遠ざかっていくんですって。
ようやく男の説明が全部終わったんだけど、話は全然頭に入ってこなかった。
で、いよいよ中に入ろうと思います!とか言って、そいつ本当に洞窟に入ったんだけど、真っ暗で何も映ってないし「うわーっ笑 すべるーっ笑」とか言うだけ。
洞窟から出てきて、「洞窟は暗くて危ないです!」とか言って、テープは終わったの。
砂嵐のザーッと言う音を聞きながら「なんだこれは……」とみんなで顔を見合わせる。
恐怖演出だけだったら一級品だけど、これは一体なんなんだ……?
みんなで顔を見合わせていると、その中のひとりがめちゃくちゃ怯えてる。
ほかの部員が気遣って、まあでもやらせだよ! もし戻ってこれてなかったら禁断! とかも書けないでしょ、とそのひとりに声をかけると、そいつ「まだ気づきませんか」って言う。
「そのテープに書いてるマジック、えらく新しくないですか?」
みんな「は?」と思ってテープを見てみたら、確かに一番奥から出した、カビてなくてラッキー、ぐらいなはずのテープなのに、貼ってあるラベルが何故か新しい。
それでもうみんな真っ青。誰もこんなテープ見ていないはずだし、存在すら知らなかったのに。
怯えていたそいつは、その事に気づいてしまったから、映像が始まる前から見るのも嫌だったらしいんだけど。
誰がなんの意図をもってこのテープを見せようとしたのだろう……。それに気づいてみんなシーン……となっちゃった。
そしたらその場に、ドヤドヤとやってくる人がいた。
「今『ねないこだーれだ』って聞こえたけど?! ダメだよあれは!」
大学のサークルにたまにいる、「こいつ何年前からここにいるんだよ」っていうような、サークルの主みたいなOBだった。土日だからたまたま遊びに来ていたらしい。
部室に入るなりその先輩、「うわっ!そのテープまだあったの?!全部捨てたと思ったのに!」
そう言いつつテープを手に取って、「うわあっ! 新しくラベルしてある! こええー!!」などと叫んでる。
と思ったらその先輩、「ダメだってこれ!」とか言いながらそのテープを床に叩きつけて、踏んだり潰したりで、テープをあっという間に粉々にしてしまった。
「何か知ってるんですか?」とひとりが聞くと、先輩は重々しく口を開いた。
「このサークル、昔と名前が変わってるんだよ。一度潰されてるから。同じ連中がサークルを作り直したから機材とかはそのまま引き継げたんだけど」
「そうなんですか? そんなことサークルの歴史とかにも書いてなかったけど……」
「書けないよあんなこと! このテープ見たの?」
「み、見ました……」
「見たんだ……。このテープ、当時サークルで話題になったんだよ。編集してる最中に声に気づいて。俺も含めたごくごく内輪で見たんだ。で、テープはダビングしてまだ二、三本あるって言うから、全部捨てさせたんだ。そのはずだった」
「下手くそなやついたろ、あいつ部長だったんだ。あいつが企画した、本当にやらせなしで心霊スポットを回ろうみたいな内容だったんだけど。みんなで残念だなとは言いつつもヤバいテープだから、なかったことにしろよって話になった。でもなあ、その部長、二週間後になあ……」
「……え? 死んだとかですか?」
「死んだ方がマシだったかもな。大教室で授業してたんだ、昼間にな。そしたら突然、そいつ立ち上がって。なんで立ち上がるんだ? なんて思ってたら、
『ねないこだーれだ!!!』って叫んで。
大教室は三階ぐらいにあったんだけど、その窓に向けてバーン!! とぶつかった。
強化ガラスだったからか割れはしなかったんだけど、骨はボロボロ、膝はグチャグチャ、みたいになって。で、教室は阿鼻叫喚。しかもそいつ、また立ち上がって、顔なんて半分潰れたような状態なのに、『ねないこだーれだ』ってまたぶつかろうとする。
それを周りに止められて、入院してそれっきり。で、部活で変な薬やってるんじゃないかとか、カルトとか疑われて中止になったんだ。
このことを知ってるのは俺だけなのに……なんでこのテープが、今ここにあるんだ?」
「新しくラベルが貼ってあったから……」
部員が弱々しく言う。その先輩、今踏み潰したボロボロのテープのラベルを見て、言った。
「これ、部長の字にすげー似てるんだけど」
※リライトに辺り細部を改変しています。
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