リヴァイヴァル2_7

第三回コラボ祭り【小説】 アストロノーツ・アナザーアース『episode:countdown』

はじめに
【※本作品はシナリオ形式(厳密には違いますが)となっております。】
【このシナリオは、アストロノーツアナザーアース( https://note.mu/haruku/m/ma0c3857e0e43 )の世界観及びキャラクターを使用して構築してあります。 】
【リヴァイヴァル登場シーン及び設定→ https://note.mu/heso/n/n28ffe7480249 】

登場人物

メトシェラ     金髪の少年の姿をしたヒーロー。右足が特殊な義足であり、空中を自由に高速移動できる。右手は触れるデータ全てを無効化させる。
ジッキンゲン    トレンチコートを着た長身の男性ヒーロー。メトシェラの相棒。

リヴァイヴァル   赤いジャケットを着た青年の姿をしたヴィラン。メトシェラに執着している。
コヨーテ      太った中年男性の姿をしたヴィラン。今回の事件の首謀者。

ジーニアス     アストロノーツ開発者であり管理者。
キャプテン・ギーク ジーニアスから信頼されている男性ヒーロー。ジーニアスの代わりにヒーロー達への指揮を執ることもある。
テディ・ベア    こぐまをモチーフにしたデザインの女性ヒーロー。
リーゼント     髪型が特徴的な学ラン姿の男性ヒーロー。首に赤いスカーフを巻いている。

圧倒的・理不尽   ジーニアスと敵対しているヴィラン。
囁きのヴィスパー  花魁姿の女性ヴィラン。
ジュノサイド・ザザ 男性ヴィラン。

フォックス     βテスト時代にある事件を起こした人物。

以下、本編。

【アストロノーツ・アナザーアース 『episode:countdown』】

○ アストロ・エリアニューヨーク
 夜の街。
 高層ビルの屋上に金髪の少年とトレンチコートを着た男がいる。
 少年は望遠鏡を構え、遙か彼方の倉庫街を覗いている。
メト「ねぇねぇ、どっちが勝つかな」
 望遠鏡から目を離さずに、後ろで何やら小さな箱をいじっているコートの男。
ジキ「んー?キャプテンじゃないか?」
 白い手袋をした大きな手で小さなペンチを器用に操り箱の中の配線を切っていく。
 小さな箱には液晶がついており、タイマーがカウントダウンしている。
メト「だよねー。こぐまの女の子守りつつとはいえキャプテンの強さは圧倒的だもんね」
ジキ「そうだな。ところでだ、メトシェラ。少しは手伝ってくれてもいいじゃないか」
メト「だめ、今いいとこ。それに俺が手伝わなくても爆弾解体できるだろ、バロンなら」
 少年・メトシェラも望遠鏡から目を離す気がない。
ジキ「まぁ僕の手にかかればあっという間だな。こんなものは」
 バロンと呼ばれたコートの男・ジッキンゲンは胸を張る。
メト「なら早く解体して。こっちももうすぐ終わりそう」
ジキ「む。ならばこちらも本気を出すとしよう、奥義…」
メト「喋ってないで、手を動かす」
ジキ「はい」
 ジッキンゲンがしゅんとして解体作業を再開する。

メト「バロン、そろそろ終わる?」
 相変わらず望遠鏡を覗きながらジッキンゲンに話しかける。
ジキ「あと1分ほど」
メト「そっか、じゃあ先に俺が相手してるから」
ジキ「わかった」
 メトシェラが望遠鏡から顔を離した瞬間、望遠鏡が真っ二つになる。
 黙々と解体作業を続けるジッキンゲン。
メト「あーあー高かったのに」
ヴィス「あーら、ごめんね坊や。大事な玩具壊しちゃって。でも坊やだって人の玩具壊してるでしょ」
 給水塔の上に立つ人影が喋りかける。
 派手な着物姿、月夜で明るい夜とはいえハッキリと姿がわかる。
 セキュリティホールから侵入したヴィランの1人、通称”囁きのヴィスパー”だ。
メト「弁償してくれるなら許すよ。おばさん」
ヴィス「生意気な口をきくわね、坊や。あとで泣いても知らないわよ?」
メト「誰が泣くって?」
 ヴィスパーの背後にメトシェラが立つ。
ヴィス「相変わらず速いわね。でも、いつものようにはいかないわよ」
 相手の攻撃を察知したメトシェラが距離をとる。
 着物の袖を振ると様々な柄の布が飛び出す。
 あっという間にビルの屋上をすっぽりと覆い尽くす。
ヴィス「この狭い空間なら坊やの瞬足も活かせないんじゃない?」
メト「少しは成長してるんだね、おばさんも」
ヴィス「ムカつくわね、ホント。これだからクソガキは嫌い。爆弾もダメにしやがって。ザザといいなんでこう男ってガキなのかしら。もういいわお喋りは終わり。あんたたちも終わりよ」
 ヴィスパーが宙に舞い、メトシェラに向かって攻撃を仕掛ける。
 メトシェラは高速移動によって空中を自在に移動し攻撃をかわすが、狭い空間のためすぐに追い詰められてしまう。
メト「くっ、狭い」
 ヴィスパーの攻撃がメトシェラの右足をかすめる。
メト「ちっ」
 給水塔の上に着陸し、跪く。
 ズボンの布がちぎれ右足の義足がむき出しになる。
 ダメージを受け、回線がショートし、右足から火花が散る。
ヴィス「残念ながら、これでもうその義足は使い物にならないわね」
メト「ちょうどいいハンデじゃないか。」
ヴィス「強がりもそこまでよ」
 ヴィスパが袖をメトシェラに向けて構えると、中からヴァルカン砲が現れる。
ヴィス「さよなら、坊や」
メト「バロン!それ投げろ」
 メトシェラが叫ぶ。
ジキ「マジか」
 ジッキンゲンが取り外した小さな箱を投げる。
 ヴァルカン砲から弾丸が放たれる。
 箱に弾が当たり、爆発が起こる。

 ビルの上に出現していた布で出来た球体から光が漏れ、揺れ、破裂する。
 そして、轟音。

 色とりどりの布が散り散りになって舞う。
 ジッキンゲンがメトシェラを抱える形で落下していく。
 爆発の中から飛び出したが、さほどダメージを受けていない2人。
 メトシェラの右腕が金色に光り輝いている。
ジキ「もうちょっと後先を考えて行動して欲しいもんだな。せっかく解体したのに現場で爆発させちゃ意味がないだろう」
メト「予定時刻より早いから奴らの計画は阻止できたでしょ」
ジキ「いや、計画は阻止できたけど…で、ここからどうする?」
メト「そろそろ来るんじゃないかな」
ジキ「何が」
 2人の落下速度が緩やかになる。
メト「ほら」
キャプテンギーク「ほらじゃないだろ、少年。危機一髪というところかな」
 爆発に気づいたキャプテン・ギークが駆けつけ、落下する2人を掴まえる。

 ゆっくりと2人を地上に下ろすギーク。
ギーク「あんまり無茶をしないでくれよ、メトシェラ。いつでも助けられるわけではないからな。バロンも大変だとは思うが」
ジキ「面目ない」
メト「そういえば、ヴィスパーどうなったんだろ」
ギーク「相手はヴィスパーだったのか」
メト「まだ、屋上にいるかも」
ギーク「わかった。もう危険を冒すんじゃないぞ」
 メトシェラが頷く。
 ギークがジッキンゲンに視線を移す。
 ジッキンゲンが頷いたのを確認すると布が舞う屋上に向かって飛び立つ。
 メトシェラが歩き出す。
 それを追うジッキンゲン。
ジキ「またキャプテンを利用したな」
メト「いいじゃない、アストロ内にはたくさんヒーローがいるんだし。それに頼まれごとは片付けたよ。アストロの平和は俺達以外に守ってもらえばいいの」
ジキ「それでよくもまぁジーニアスからヒーローに選ばれたな」
メト「運はいいからね」
ジキ「僕は君と組んでから死にそうな目に何度も合っているぞ」
メト「でもまだ死んでない。俺といるからだよ」
ジキ「出来れば次こそ平和的に任務を解決したいところだね」
メト「がんばりたまえ、相棒」
ジキ「君が無茶をしなければ出来そうなんだけどなぁ」
 右足を引きずる少年の後ろを見守りながら長身のコートの男が歩いて行く。
 2人の姿が路地の暗闇に消えていく。

○ アストロ・エリア各地
 アストロを利用している一般ユーザーや日常、各エリアの風景。
 ヒーロー達の姿など。
ナレーション「自分の精神を特殊なデバイスによりアバターとリンクさせて操作するSNS”アストロノーツ”。サービス開始から数年で爆発的に世界中のユーザーを増やし、ヴァーチャルリアリティ(仮想現実)ではなくセカンドリアリティ(第2の現実)と呼ばれる存在となった。
従来のオンラインゲームと違い、自分の精神とリンクするためアストロ内では自由に動くことが可能である。例えば、身体が不自由な人も新しい肉体を手に入れて、ネット世界とはいえ社会生活を行うことが可能になった。
またアストロにハマり、常にログインしている若者も増え”アストロ廃人”などと呼ばれる社会問題を引き起こした。依存しているだけならばまだ救いはあるが、アストロ内で犯罪に巻き込まれるなどして、アバターに想定以上のダメージ及びデータ破損が起きた場合、精神にダメージが行き最悪死亡するケースが存在する。この場合の死亡は肉体的には生存しているが、精神つまり脳にダメージが行き、脳が生命活動を拒否してしまうケースである。
ユーザー数が増えるにつれアストロ内の治安も悪化し、死亡ケースが増加した。いつしかアストロ廃人はヘビーユーザーではなく、精神が死亡する現象のことを指すようになった。
事態を重く見た各国政府がアストロノーツの運営に通告し、運営側はアストロ内でログインしているアバターへのダメージ判定の中止、データバックアップによる対応などでアストロ廃人を新たに生み出さないよう対策を取った。
だが、ある日セキュリティホールから何者かが侵入し、アストロ内で犯罪を犯すアバター達(ヴィラン)が出現した。
正規登録手続きを踏んでいないため、アバターへのダメージ判定などのプログラムが適用されず、無差別殺人などが多発する。
再び治安が悪化するアストロノーツ。
管理者であるジーニアスはヴィランへの対策として、自身が選出したアバター達にヒーローとしての活動を行うことを許可し、ヴィランと同条件になるようデータ制限を解除した。
長きにわたるヒーローとヴィランによる戦いの幕開けである」

○ タイトル

○ アストロ・エリア各地(トーキョー、ニューヨーク、モスクワ、ロンドンなどを模したエリア)
 秋。某日。
 アストロ内で断続的に接続障害が起こる。
 ログインは可能だがログアウトが出来なくなるという現象が起きる。
 混乱が起き、不安な表情を浮かべる人や不満を漏らす人たちで溢れかえる。

○ アストロ中枢・本部
 巨大モニターが壁面に埋め込まれており、様々なデータや映像が映し出されている。
 その部屋の中心にいる奇抜な衣装に身をまとった青年・ジーニアスが部屋にいる部下達に指示を出している。
ジーニアス「とりあえず、エリアニューヨークを中心に解析を進めろ」
オペレーター「了解」
ジーニアス「どうやって侵入した…どうやって…」
 エラーをはじき出すモニターを見つめながら呟くジーニアス。

○ アストロ・エリアロンドン
 接続障害事件の数日後。
 落ち着きを取り戻した町。
 ベイカー街を彷彿とさせるエリア内にあるメトシェラの探偵事務所。

○ メトシェラの事務所
 事務所のソファーに寝転がっている右足が義足のヒーロー・メトシェラと相棒のジッキンゲンがテレビを見ている。
 ジーニアスの会見映像が流れている。
ジーニアス「今回の接続障害は既に発表しておりますが、年末に向けたユーザー数増加に耐えうるためのサーバーを増設した際に上手くプログラムが動作しなかったためです。ご迷惑をおかけ致しましたが解決済みですのでご安心下さい。また現在新たなファイアウォールも構築中でして近日中に試験運用を開始する予定です」
メト「よく言うよ、実際は何者かによる攻撃で今も調査中、全ヒーローに厳戒態勢をとるように通告済みのくせに」
 モニターを見つめながらメトシェラがぼやく。
ジキ「そのまま発表したら余計に混乱が大きくなるから仕方ないだろう」
メト「あの日も過去最大の同時接続数だったらしいね」
ジキ「そこにヴィラン達による無差別攻撃が仕掛けられたら大惨事になるところだった」
メト「でも結局、起きたのは小さないざこざぐらいで何も起きなかったじゃん」
ジキ「だからこその厳戒態勢じゃないか。次の攻撃があるとジーニアスも予測しているんだろう」
メト「犯人も捕まってないしね」
 メトシェラがテーブルの上に置いてある封筒を手に取る。
メト「俺たちも調査しなきゃダメかな」
ジキ「ジーニアスからの通達だからね」
メト「それこそ、だからこそだよ」
ジキ「どういうことだい?」
メト「ジーニアスからの通達なら、全ヒーローに伝わっているということだろう?こんな俺たちの元にも届くぐらいだから」
ジキ「つまり?」
メト「俺達よりも優秀なヒーロー達が動いているんだから、俺達が動かなくてもこの事件は解決できるんじゃないかってこと」
ジキ「まぁ確かに。でもそれだと僕らは優秀なヒーローじゃないということにならないかい?」
メト「う」
ジキ「とりあえず情報収集して、お昼ご飯を食べながら、やるかやらないか決めても遅くないと思うよ?どうかな?」
メト「ベーグル食べたい」
ジキ「3丁目に出来たお店のかい?」
メト「そう」
ジキ「じゃ、決まりだね。そうと決まれば出かける準備を始めようじゃないか」
 ジッキンゲンに促され渋々、出かける準備を始めるメトシェラ。

○ アストロ・エリア各地
 さらに数日が経過する。
 事件の手がかりを探すべく捜査するメトシェラとジッキンゲン。
 空をヒーロー達が飛び回っている。

○ アストロ・エリアニューヨーク
 雪が降っているニューヨーク。
 明かりが灯っているBAR。

○ アストロ・BAR
 ならず者達が下品な笑い声を上げながら酒を飲んでいる。
 扉が開き、赤いジャケットを身にまとった青年・リヴァイヴァルが入ってくる。
 その姿に気づき、ざわつく店内。
 グラスを拭いていた女主人も思わず声が漏れる。
女主人「…リヴァイヴァル」
 リヴァイヴァルはその言葉を無視し、目の前のカウンターに座り、ポケットから懐中時計を取り出して机に置く。
女主人「まさかこんなところでお目にかかることになるとは…注文は?」
リヴァ「シードル」
 リヴァイヴァルは本を取り出し視線を落としたまま答える。
 女主人は頷くとグラスに注ぎ、差し出す。
 ※データ上の世界のため、注ぎ口は同じでも要望通りの酒を提供することが出来る。
 リヴァイヴァルがグラスを手に取ろうとすると後ろからやってきた男、ジュノサイド・ザザがグラスを奪い、一気に飲み干す。
ザザ「なんだこの甘ったるい飲み物は…ガキの飲み物じゃねぇか」
 周りのならず者達が笑う。
ザザ「その赤いジャケットに懐中時計、お前だろ最近、派手に暴れてるリヴァイヴァルって言う奴は」
 男を一瞥して、再び本に視線を落とすリヴァイヴァル。
 無視され、頭に血が上ったザザがカウンターを叩く。
 叩いた部分が拳の形に変形する。
ザザ「俺が話しかけてんだろうが」
女主人「ザザ、店の中では暴れないで」
ザザ「うるせぇ」
 ザザがいつの間にか手にしていた刃物で女主人の首を切り落とす。
 飛び散った血がリヴァイヴァルの本につく。
ザザ「おい、聞こえてんだろ。お前も」
 本を閉じ立ち上がる。
 それと同時に出現したショットガンを手に取り、ザザの横っ腹に放つ。
ザザ「なっ」
リヴァ「読書の邪魔だ」
 ザザが崩れ落ちる。
 左脇腹が完全に消失しており、えぐれている。
ザザ「うわあああああああああああああ」
 自分の状況を理解し、叫び声を上げるザザ。
 先ほどまで笑っていた、ならず者達が一斉に立ち上がり、逃げようと1つしかない入り口に殺到する。
 「どけ」
 「俺が先だ」
 「正気じゃねぇ」
 「ショットガンどっから出しやがった」
 リヴァイヴァルは鎖で繋がれた懐中時計をつかみ、ヒュンと振り回す。
 鎖が伸び、部屋を一周した懐中時計は、ならず者達の首を綺麗にはね飛ばす。
 静まり返る店内にザザの叫び声だけが響く。
 リヴァイヴァルはしゃがみ、崩れ落ちているザザに目線を合わせる。
 ザザは恐怖に怯えた目でリヴァイヴァルを見る。
リヴァ「ジェノサイドはこうやって演(や)るんだよ、おっさん」
 にこりと笑うリヴァイヴァル。
ザザ「…あ…ああ…」
 リヴァイヴァルが立ち上がり、カウンターに置いた本の上にコインを置く。
 懐中時計をポケットにしまい、死体の山の上を平然と歩き出て行く。
 血まみれの店内に、1人取り残されるザザ。

○ アストロ・ニューヨーク
 翌日。昼間。
 雪は止んだが街は白く染まっている。
 BARの前にアストロ内の警官達が規制線を張っている。
 キャプテンギークが空から現れる。
警官「キャプテンご苦労様です!」
ギーク「現場の状況は?」
警官「無残なものです。店内に生存者は見当たりません。何人か逃げ出すのが早くて生き残った者達が朝になって保護を求めてきたので事件が発覚しました」
 警官と共にBARの中に入っていく。

○ アストロ・BAR内
 薄暗い中、警官達が鑑識を行っている。
 店中に血が飛び散っており、壁や床が赤黒く変色している。
警官「死亡していたのはザザの取り巻きの小悪党達ですね。ヴィランではなく一般ユーザーなので全員、脳死判定になっています」
ギーク「“アストロ廃人”になったということか…」
警官「はい」
 ギークがカウンターが拳の形にえぐれている事に気づく。
ギーク「ここにザザもいたということか…ザザは?」
警官「駆けつけたときには取り巻き連中と女主人の遺体しかありませんでした」
ギーク「ザザによる犯行か?」
警官「いえ、それが生き残った取り巻きに確認したところもう1人いた、と」
 ギークがカウンターに置きざりの本“旧約聖書”とコインに気づく。
警官「銀髪に赤いジャケットの青年で、ザザはリヴァイヴァルと呼んでいたそうです」
ギーク「リヴァイヴァル…ザザと同じヴィランか…」
 コインを眺めながら呟く。
警官「その青年がショットガンでザザを撃ったという証言もあります。恐らくその青年とザザのいざこざに取り巻き達が巻き込まれたのではないでしょうか」
ギーク「ザザが誰かと組むような奴とは思えないんだけどなぁ」
 ギークが本を手に取りパラパラとめくる。
 すると血でくっついているページに気づく。
警官「とりあえず、非常線を張ってはありますが、いかがいたしましょう」
 くっついているページを剥がし、中身に目を通す。
ギーク「ザザがまだアストロ内に潜んでいるかジーニアスに確認してみるよ」
警官「わかりました。くれぐれもお気をつけください」
 警官が敬礼をして去る。
ギーク「あ、それから」
 ギークに呼び止められ警官が振り向く。
ギーク「メトシェラに気をつけるよう、キャプテンギークが言っていたと連絡しといて」
 本を閉じるギーク。
 

○ アストロ中枢・本部
 ジーニアスが中央に位置しオペレーター達が慌ただしく動いている。
 リーゼントが出入り口の横で腕を組んで立っている。
オペレーター「ベースプログラム安定しています」
ジーニアス「“イージス”起動」
 ジーニアスが指示を出す。
オペレーター「”イージス”起動」
 メインオペレーターが復唱し、プログラムを起動させる。
 静かになる部屋。
オペレーター「システム安定しています」
 息を吐き肩の力を抜くジーニアス。
ジーニアス「これで一安心か。とりあえず、24時間様子見だな。不具合が起きないか監視を怠るなよ」
 ジーニアスが出入り口に向かって歩き出す。
リーゼント「成功したのか?」
 話しかけられて初めてリーゼントに気づく。
ジーニアス「見ていたのか。あぁ、24時間経っても不具合が見つからなければこのまま試験運用に移行する。ひとまずは成功だ」
リーゼント「なんだよ、イージスなんて大層な名前がついてるから波動キャノンみたいに派手だと思ったら地味なんだな」
ジーニアス「波動キャノン?なんだそれは」
リーゼント「戦艦知らないの?これだからお坊ちゃんは」
 首に巻いた真っ赤なスカーフをひらひらとみせる。
 よくわからないといった表情のジーニアスを見て落ち込むリーゼント。
ジーニアス「ところで、君だけここで油を売っていていいのかい?他のヒーロー達が飛び回っているというのに」
リーゼント「チッチッチッ、侮ってもらっちゃ困るよ。今回の首謀者とおぼしき奴を捕獲したから報告に来たわけよ」
ジーニアス「なんでそれを早く言わない。どこにいる」
リーゼント「このタワーの地下にある尋問室に連れてきた」

○ アストロタワー・地下尋問室
 警察の取調室のような部屋に座っている太った男。
 マジックミラー越しに隣の部屋から見ているヒーロー達。
 メトシェラやジッキンゲン、テディ・ベアやキャプテンギークたちがいる。
 扉が開きジーニアスとリーゼントが現れる。
ジーニアス「ご苦労。やつが?新手か」
ベア「奴の名前はコヨーテ。特に目立った活動はしていなかったためヒーローによる監視がなかったのと奴の能力のせいで発見が遅れたわ」
ジーニアス「能力?」
ベア「恐らく、ジーニアスと同等のスキルを持っているわ。そのスキルで独自に作り上げたステルスプログラムを身にまとっていたため、ヴィラン固有のノイズを打ち消していたみたい。現在、正規登録ルートを通さずにこのアストロに出現している犯罪者、ヴィラン達はそれぞれ固有のノイズを放っていてジーニアスが作り出した感知プログラムで居場所をある程度、特定できるようになっているはず。だけど、奴はそのノイズを消す事ができるから感知プログラムに引っかからなかった」
ジーニアス「ステルスプログラムか…他のヴィラン達に広まると厄介だな…」
ギーク「それが広まりつつあるんだな。昨日、ザザがリヴァイヴァルによる攻撃を受けたBARもステルスプログラムによって守られていた。発見はそのせいで半日遅れて、2人とも逃がしてしまった」
 リヴァイヴァルの名前に反応するメトシェラ。
ジーニアス「ではどうやって見つけ出した」
ベア「それが…ステルスプログラム受け渡しの匿名の通報が私のところに届いて、半信半疑で行ってみたらコヨーテがいたのよ」
リーゼント「それをお嬢ちゃんからの応援要請を受けて俺たちが確保したわけ。攻撃能力は高くないのかあっさり捕まったよ」
ジーニアス「ふむ」
ジキ「恐らく、コヨーテが今回の接続障害を起こした犯人で間違いないだろう。障害時のプログラム筆跡と奴のステルスプログラムを調べたところ、9割一致した」
ジーニアス「わかった。コヨーテに関するデータをこっちに回しておいてくれ。尋問は君たちに任せる」
ベア「え?ジーニアスが尋問するんじゃないの?」
ジーニアス「私は先ほど起動させたイージスに集中したい。安定しているとはいえ24時間は何が起きるかわからないし。それにキャプテン達もいるしね。何かあったらすぐに連絡してね、テディ」
 ジーニアスがテディの頭に手を置き、他のヒーロー達を見渡す。
 ギークやリーゼント達が頷く。
 テディ1人だけ頬を赤らめる。
ジーニアス「では、よろしく頼む」
 ジーニアスが部屋から出て行く。
 扉が閉まる。
リーゼント「さて、と」
 リーゼントが一歩前に出て髪をなで上げる。
リーゼント「尋問始めますか」

○ メトシェラの事務所
 コヨーテ捕獲から1週間。
 テレビでは新型ファイアーウォール“イージス”の試験運用が開始されたニュースが流れている。
 メトシェラとジッキンゲンがチェスをしている。
メト「今日だっけ」
ジキ「何がだい?」
メト「コヨーテが移送されるの」
 ジッキンゲンが壁に掛かっているカレンダーを見る。
ジキ「そうだね。もう移送が始まってる頃じゃないかな」
メト「結局、口割らなかったの?」
ジキ「口割らなかったよ。途中から私に押しつけたのは流石にひどい」
メト「だって、何が悲しくて太った小汚いおっさんが黙ってるのを何時間も見てなきゃならないんだよ」
ジキ「おい、そういうこというんじゃない。僕は君の代わりにそれをしてきたんだぞ」
メト「チェック」
ジキ「あ」
メト「ま、奴に目的があるならその内わかるでしょ」

○ 第1級刑務所・独房
 薄暗いガラス張りの部屋の中心の椅子に括り付けられたコヨーテが静かに座っている。
 何かをじっと待つかのように瞑想している。
 それを監視するヒーロー達。

○ アストロ・倉庫街
 大量の木箱が積み上げられた薄暗い倉庫。
 倉庫の奥の方から光が漏れている。
 木箱の上に置かれたブラウン管のテレビの光だ。
 ソファーに寝転がりながら、ハンバーガーを頬張るリヴァイヴァル。
 テレビではジーニアスが会見を行っている。
ジーニアス「今回、アップデートした新型ファイアウォール”イージス”は順調に稼働しております。現在試験稼働中ですが、このまま大きな問題がなければ年明けには正式稼働の予定です」
リヴァ「大層な名前をつけたもんだ」
ジーニアス「イージスの特徴は現在独立していたアストロ内のそれぞれのシステムを今まで以上に強固に紐付け、高速に処理出来ることにあります。もちろん、セキュリティ能力も格段に向上しております。アストロノーツの世界をこれまで以上に安心して楽しんでいただけます。また運営側はクリスマスや年末に向けてイベントを用意しておりますので楽しみにしていただければと思います」
リヴァ「そう。これからもっと楽しいイベントが待っているからね」
 懐中時計を取り出して時間を確認する。
 時計の針がそれぞれバラバラに回転している。
リヴァ「おっと、時間だ。こういう大きなイベントは準備が肝心だ」
 ソファーから飛び上がり、ジャケットを着る。
ジーニアス「みなさんのご協力でアストロの平和を維持出来ております。引き続き、これからもよろしくお願いします」
 倉庫から出て行こうとするがジーニアスの言葉を聞き再びテレビを見るリヴァイヴァル。
リヴァ「そう、協力は大事。みんな協力し合わないとね」
 笑いながら倉庫から出て行く。

○ 第1級刑務所・独房
 薄暗いガラス張りの部屋。
 コヨーテが静かに座っている。
 電子制御の扉が開き、奇抜な衣装を身にまとった青年・ジーニアスが現れる。
 監視をしていたヒーローが敬礼をする。
 コヨーテはゆっくりと顔を上げ、ジーニアスを見つめ、そしてにやりと笑う。
ジーニアス「お前の目的は何だ?」
 ジーニアスがガラスの奥で身動きのとれない男に問う。
コヨーテ「よぉ、やっと現れたか…お前はどっちだ?」
ジーニアス「…」
コヨーテ「まぁどっちでも構わないか、どうせもう1人には筒抜けなんだろ。それよりもどうだった俺様が突いたシステムの穴は。なかなかの目の付け所だったろう」
ジーニアス「もう一度だけ聞こう」
コヨーテ「せっかちだなぁ。これだから若い奴は。すぐ自分だけイこうとする。自分だけが気持ちよければそれでいいと思ってるから困る」
ジーニアス「目的は何だ?」
コヨーテ「ふはははは…ひゃひゃひゃひゃ…」
 コヨーテの下品な笑い声が響き渡る。
 笑うのを止め俯きながら呟く。
コヨーテ「お前には用はない。だが、ヒントをくれてやろう。2人で仲良く謎解きをするんだな」
 顔を上げジーニアスを真っ直ぐと見据える。
コヨーテ「俺の目的は…リヴァイヴァルだ」
 ジーニアスもコヨーテを見据える。

○ メトシェラの事務所
 メトシェラがトランプタワーを作りながらくつろいでいると電話が鳴る。
メト「バロン出て」
ジキ「君の方が近いだろ」
メト「今出たら集中力が切れる」
 ジッキンゲンが読んでいた新聞からメトシェラに視線を向け状況を理解したのか立ち上がり電話に向かう。
 あと1段で完成直前のトランプタワー。
ジキ「はい、メトシェラ探偵事務所。やぁ、ジーニアスじゃないか。どうしたんだい?」
 メトシェラがピクと反応する。
ジキ「メトシェラ?いるけど今手が離せないんだ。用件は伝えるよ」
 電話を気にしつつ、そっと最後の1段を下ろすメトシェラ。
ジキ「え?博物館で強盗?」
 ジッキンゲンの大きな声に驚くメトシェラ。
 崩れるトランプタワー。
メト「あっ」
ジキ「わかった」
 ジッキンゲンが受話器を置く。
ジキ「痛っ!右足で蹴るのは反則だって」
 義足である右足でジッキンゲンを容赦なく蹴るメトシェラ。
メト「で、用件は?」
ジキ「あ、なんか今博物館に強盗入ってるから対処してこいって」
メト「…博物館で強盗?なんでまた」
 メトシェラが舌打ちをし、机に散らばったトランプを無造作に片付け、椅子にかかっているコートを羽織り、ハンチング帽を被る。
ジキ「通報からしばらくしてデータセンターへの扉が解除されたらしい。狙いは博物館ではなくて地下にあるデータセンターっぽいよ」
 ジッキンゲンも同じコートが何着も入っているクローゼットからコートを一着取り出し羽織る。
 机の足下に置いてあった革張りのアタッシェケースも手に持つ。
メト「だからなんでそんなところ強盗が狙うんだよ」
ジキ「さぁ?行けばわかるんじゃない?」
 顔を見合わせて出て行く2人。
 ジッキンゲンが部屋の電気を消す。
 扉が閉まる。

 
○ アストロエリア・ロンドン・博物館
 新旧の建物が入り交じる、現実世界での英国のロンドンをモチーフに再現したエリア。
 その中にひときわ古めかしく巨大な博物館がある。
 表向きはアストロ内で最大の博物館であるが、裏の顔は欧州エリア最大のデータ中枢センターでもある。
 エリア内に存在するアバターデータを管理しログを保存しており、随時、ノーツタワーとデータの送受信を行っている。
 何者かに攻撃を受けたとしてもバックアップをノーツタワーでも行っており、最悪の場合復旧が可能である。
 だが、基本的にマスターデータは各エリアごとのデータセンターで管理されている。

強盗A「マスターデータをもらおうか」
 覆面を被り、マシンガンを構えている強盗達が5人。
 強盗達に囲まれて、頭に袋をかぶせられ、腕を縛られて座っている観光客達。
館長「ここにはそんなものはありません」

 展示されている彫刻が撃ち抜かれる。
強盗A「いいから地下に案内しろ。お前もああなりたいか?」
 館長が諦め、セキュリティを解除する。
強盗B「おい立て。お前も来い。人質だ」
 袋をかぶせられた赤いジャケットの男も連れられていく。

 壁が動き地下への扉が開く。
 階段を降りていくと無数のサーバーが稼働している。
 そしてその奥の壁に金庫が埋め込まれている。
強盗A「開けろ」
 館長に指示を出す。
館長「この金庫を開けるとジーニアスに通知がいく仕組みになっているがいいんだな」
強盗A「そんなことわかってる。ヒーローが来る前にデータを奪って去るだけさ。時間稼ぎしてないでさっさと開けろ」
 扉を解除する。
 大きな音を立てて扉が開く。

 強盗のうち1人が館長と人質を監視し、2人が金庫の中に入っていく。
強盗A「なんだこの空間」
強盗B「何もないじゃないか」
 真っ白でだだっ広い空間が広がっている。
強盗A「おい、館長連れてこい」
 外で見張っていた強盗が呼ばれ、館長を連れて行く。
 人質だけ取り残される。
強盗A「館長、どうなってる」
館長「どうなってると言われましても」
リヴァ「特殊な眼鏡がないと見えないんだよ」
 館長がびくっと肩を動かす。
強盗A「おい、人質見張ってなかったのか」
強盗C「いや、確かに腕は縛ってあったはず」
強盗B「じゃあ、なんであそこに立ってるんだよ」
 金庫の入り口に立っている眼鏡をかけたリヴァイヴァル。
リヴァ「僕のことはいいから館長の眼鏡をかけてみなよ」
強盗A「よこせっ」
 強盗の1人が館長から眼鏡を奪い取る。
強盗A「なんだぁ?」
 眼鏡をかけた強盗Aが驚く。
 眼鏡越しに見ると先ほどまでの何もなかった白い空間の中央に木製の机と椅子が置いてある。
 机の上には本が開いた状態で置いてある。
 強盗Aが近づく。
強盗A「なんじゃこりゃ」
 すさまじいスピードで白紙のページが細かい文字で埋め尽くされていく。
 そして、ひとりでにページがめくられていく。
リヴァ「それがこの欧州エリアのマスターデータだよ。大英博物館をモチーフにしてあるだけあって、洒落ているね。洋書の形をしているとは」
館長「くっ…どこでその情報を」
リヴァ「さぁ、どこでだろうね。バックアップはどこだい?」
 館長が目をそらす。
リヴァ「この部屋を爆破しようか?」
館長「どこまで知っている」
リヴァ「情報通りだな。なるほど、この部屋自体がバックアップ機能を備えているとは」
館長「貴様の目的は一体…」
 いつの間にか手にしていたショットガンを館長に放つ。
強盗B「てめぇ」
 容赦なく2発目3発目を強盗A、Bに向けて放つ。
 邪魔者を排除し、中央の机に向かう。
リヴァ「ふむ」
 洋書を手に取りペラペラとめくるリヴァイヴァル。

 爆発音が響き博物館が揺れる。
 人質が悲鳴を上げる。
強盗D「なんだ、何が起きた」
 煙の中、階段を上がってくるリヴァイヴァル。
 それに気づく残りの強盗2人。
強盗D「おい、なんでお前1人だけ戻ってくる」
強盗E「仲間はどうした」
 答えずにショットガンを放つリヴァイヴァル。
 その音に怯える人質たち。
 弾切れのショットガンを放り捨てる。
 人質達を無視して出て行こうとすると正面玄関からメトシェラとジッキンゲンが現れる。
リヴァ「おや?」
 立ち止まるリヴァイヴァル。
メト「強盗よりも厄介な奴と出くわしたぞ」
ジキ「ひょっとしてあいつがリヴァイヴァル?」
メト「そうだ」
 リヴァイヴァルに気づき足を止めるメトシェラとジッキンゲン。
 明らかに嫌そうな顔をするメトシェラ。
リヴァ「久しぶりだね、義足の少年!会いたかったよ」
 洋書を持ちつつ、両手を広げて大げさな芝居をするリヴァイヴァル。
メト「俺は会いたくなかったね」
リヴァ「寂しいことを言うねぇ。どうだい右足の調子は。僕が君の右足を奪ってしまったからね、これでも心配しているんだよ」
メト「おかげでお前の顔を一度たりとも忘れたことはねぇよ」
リヴァ「いいねぇ。そうだ、そうやって僕を覚えておきたまえ。重要なことだ。うん。おや、えーと…失礼。君は新しい相棒かな?」
 ジッキンゲンを指す。
ジキ「ジッキンゲンだ。覚えておきたまえ」
リヴァ「ははは、面白いことを言うね。彼の相棒はすぐに死んじゃうんだよ。もう覚える気にもならない。前回のはどれぐらいだったかな?1週間?簡単に死んじゃったよ。ビルの下敷きになったかな。あれは中々、派手だったね。君は彼と組んでどれぐらいなんだい?」
ジキ「半年だ」
リヴァ「おぉ、それは凄い。記録更新じゃないか?そろそろじゃないか?なぁ、メトシェラ」
メト「ごちゃごちゃうるせぇよ」
リヴァ「まぁまぁそうカリカリするなよ。君の悪い癖だよ。ヒーローたる者、余裕を持たないと」
メト「バロン、こいつと話してても仕方ない。とっとと片付けるぞ」
ジキ「わかった」
リヴァ「言うねぇ。一度も勝ったことないのに」
 メトシェラが義足の力を使い高速移動する。
メト「それはお前も同じだろうが」
リヴァ「勘違いしているね。僕は君と出会った時点で勝っているんだよ」
メト「何をわけのわかんないこといってるん…だよ!」
 メトシェラがリヴァイヴァルの背後上空に移動し、義足のかかとを振り落とす。
 リヴァイヴァルが攻撃をかわすと着地した場所にマシンガンの銃弾が放たれる。
 それを避けつつ、放った方向に視線をやるリヴァイヴァル。
 ジッキンゲンがアタッシュケース型のマシンガンで狙っているのを確認する。

 防戦一方のリヴァイヴァル。
 コンビネーションを発揮するメトシェラとジッキンゲン。

リヴァ「なるほど、半年も生き残った理由がわかる気がするよ。相性は良さそうだね」

 挑発に乗らずに高速移動を繰り返し、リヴァイヴァルとの間合いを計るメトシェラ。
 メトシェラを援護し、リヴァイヴァルに反撃の隙を与えないジッキンゲン。

リヴァ「そろそろ僕も時間があるから行かないと…」
 避けながら懐中時計を確認するリヴァイヴァル。
メト「なら、そろそろ終わりにしようか」
 メトシェラがスピードを上げ、リヴァイヴァルに重い一撃を与える。
 避けきれず、ガードで防いだため一瞬、隙が生まれる。
 リヴァイヴァルの眼鏡が飛ぶ。
 その瞬間に、ジッキンゲンが放ったワイヤーがリヴァイヴァルの足を捕る。
リヴァ「ちっ」
 よろめいた瞬間、メトシェラがリヴァイヴァルの腹に膝を入れる。
 呻くリヴァイヴァル。
 ジッキンゲンの二発目のワイヤーで身体の動きを奪われるリヴァイヴァル。
 そこにかかと落としを食らわすメトシェラ。
 気絶して倒れるリヴァイヴァル。
メト「俺の勝ちだな」
 オーバーヒートを起こしたメトシェラの右足から煙が出て、火花が散っている。
 ジッキンゲンがほっとしていると、正面玄関の電話が鳴る。
 メトシェラを見るジッキンゲン。
メト「このタイミングで鳴るって事はジーニアスだろ」
 受話器を取るジッキンゲン。
ジキ「はい、えぇ」
 ジッキンゲンがメトシェラに合図を送る。
メト「やっぱり」
ジキ「わかりました」
 受話器を置くジッキンゲン。
メト「なんだって?」
ジキ「今、ジーニアス直属の捕獲ユニットが向かってるからそいつらに引き渡せって」
メト「直属?なんでまたいきなり。今までリヴァイヴァル相手に出てきたことないじゃん」
ジキ「なんかコヨーテが喋ったみたいですよ…あ、来たみたいですね」
 玄関の外でサイレンが鳴っている。
メト「…なんか、気にくわないな」
 メトシェラが呟く。
 

○第2級刑務所・独房
 第1級刑務所と違い、強制ログアウトをした抜け殻が檻の中で転がっている。
 本来通常のSNSであれば悪質なアカウントは削除して終わりになるのだが、ヴィラン達にはそれが通用しない。
 そのため、刑務所を設置し、収容するという方法をとっている。
 だが、大半は強制ログアウトし、アバターの抜け殻だけ残るという形になる。

 特殊な形状の手錠をかけられて歩いているリヴァイヴァル。
 ジャケットと懐中時計は奪われている。
リヴァ「部屋はこいつらと違ってマシなんだろうね」
 刑務官に挟まれつつ、抜け殻達の部屋を横目に歩いて行く。
刑務官「入れ」
 奥の部屋にたどりつき、扉を開けた刑務官が冷たく言い放つ。
リヴァ「おいおい、ここがスウィートルームか?これだったらまだ病院の方がマシだぜ」
 明かり取りの窓は遙か上部に位置し、低いベッド、汚れたシーツ、隅っこに壊れかけの便器が備え付けてある。
 中を覗くため足を踏み入れた瞬間に、刑務官達が扉を閉める。
刑務官「おとなしくしてるんだな」
リヴァ「はーい」
 リヴァイヴァルが笑顔で返す。
 刑務官が去る。
 笑顔を崩し、冷たい表情に戻るリヴァイヴァル。

○ 第1級刑務所・独房
 ガラス張りの部屋、コヨーテの独房。
 ジーニアス、メトシェラ、ジッキンゲン、その他数名のヒーロー達がいる。
ジーニアス「リヴァイヴァルは捕まえた」
 コヨーテが立ち上がる。
コヨーテ「コヨーテは先住民達に神として崇められている…コヨーテは彼らにあらゆる物をもたらした。太陽や死もだ」
ジーニアス「…」
コヨーテ「私も君たちに授けようと思う」
 コヨーテが立ち上がる。
コヨーテ「死を」
 コヨーテが笑う。
リーゼント「てめぇっ」
 ガラスを殴りかかろうとするリーゼント。
 それを制止するジーニアス。
コヨーテ「のんびりと探すんだな答えを。私はどこへも逃げない」
 コヨーテの笑い声が響き渡る。
 

○ アストロ・エリアロンドン
 クリスマスの飾りで眩しい街。
 雪が積もっている。
 フランスパンなどが入った紙袋を抱えながらジッキンゲンが歩いている。

○ メトシェラの事務所
 メトシェラが新聞を顔に被りながらソファーで寝ている。
 ジッキンゲンが帰ってくる。
ジキ「すっかりクリスマスムードだな、街は」
メト「あぁだから騒がしいのか」
 メトシェラが新聞の日付を見ると24日と書かれている。
ジキ「こう大人になってもワクワクするよね」
メト「そう?」
ジキ「ワクワクしない?」
メト「中身が出てるぞ、バロン。浮かれすぎて人前でボロ出すなよ」
ジキ「むむ、すまない。だが、中身が女性であるということを知っているのは君だけだ」
メト「あと、ジーニアスね」
ジキ「何故彼が?」
メト「この世界の管理者なんだから、調べりゃ一発でしょ。過去ログだってサーバーに残ってるんだから。バロンの中身が24歳の寂しい独身女性だって事も」
ジキ「まだ23です。そんなことをいったらメトシェラも17歳なんだから彼女の1人や2人はいるでしょう」
メト「ふっ」
ジキ「何その笑い」
メト「過去ログはまだ調べてなかったな」
ジキ「なんの?私の?」
メト「違う。コヨーテの過去ログだよ」
ジキ「でも、コヨーテは他のヴィラン同様、ホールから侵入してきてるから正規サーバーには過去ログは残ってないんじゃないか」
メト「そう。だけど、ヴィランがこの世界に出現したときにそれぞれ固有のノイズを発するよね」
ジキ「あぁ、それをプログラムが感知してジーニアスから出動命令が各ヒーローに下る」
メト「だが、コヨーテは今回捕まるまで存在しなかったように完全に姿を消していた。恐らく、独自で組み上げたステルスプログラムを適用して身を隠していたんだろう。だけど、最初に出現したときからステルスプログラムを適用するまではノイズが発生しているはず。その時の足取りを追うことができれば…」
ジキ「少なくとも奴が何故この世界にヴィランとして現れたかがわかる…ということか」
メト「かもね」
ジキ「じゃあ、早速データセンターで過去ログを照会しにいこう」
メト「ごめん、これから用事で席外す」
ジキ「なに?」
メト「とりあえず、全エリアの過去1年分から当たってみて。明後日のお昼ぐらいにはログインするからよろしく」
ジキ「全エリアの過去1年て…僕1人でかい?」
メト「だって仕方ないじゃん、外せない用事なんだもん」
ジキ「何よ、用事って」
メト「彼女とデート」
ジキ「はぁ!?」
メト「メリークリスマス」
 メトシェラが意地悪な笑みを浮かべてログアウトする。
 1人事務所に取り残されるジッキンゲン。
ジキ「メリークリスマス…」
 窓の外では雪が再び降り始める。

○ 第1級刑務所・独房
 相変わらず沈黙を続けるコヨーテ。
 淡々と監視を続けるヒーロー達。

○ 第2級刑務所・独房
 鼻歌を歌っているリヴァイヴァル。
 手錠は外されている。
 見回りの刑務官がやってくる。
刑務官「おい、静かにしてろ」
リヴァ「今日は何日だ?時計まで取り上げられて時間の間隔がすっかりわからなくなってしまってね」
刑務官「クリスマスだよ。何でこんな日にお前と過ごさなきゃならんのだ」
リヴァ「そうかクリスマスか。メリークリスマス!楽しみたまえ!最後のクリスマスになるかもしれないからな」
刑務官「はぁ?お前頭おかしいんじゃないか」
リヴァ「メリークリスマス!」
刑務官「静かにしてろ!」
 刑務官がリヴァイヴァルに怒鳴りつけ、去って行く。
 クリスマスにちなんだ鼻歌を歌い出すリヴァイヴァル。

○ アストロ中枢・本部
 モニターにはコヨーテとリヴァイヴァル両者の映像がリアルタイムで映し出されてる。
 ジーニアスとギークが中央でそれを見つめている。
ジーニアス「どう思う?」
ギーク「動きが全くないというのが気持ち悪いが進展もなく平行線をたどるばかりだ。だが、逆にコヨーテとリヴァイヴァル2人が独房にいる限り何も起こらないかもしれない。何か起きればこうして監視している限りすぐにわかるからな。問題は他のヒーロー達にも焦りが見えていることだ。本来の業務や現実世界での生活に支障が出てきている者もいる。何せ、12月に入ってからヒーロー達は常に厳戒態勢をとらされているからな」
ジーニアス「みんなにはすまないと思っている」
ギーク「いや、誰もジーニアスを責めてはいないよ。悪いのは悪事を働く奴らだからね。正義を貫くチャンスを与えてくれたジーニアスには皆、感謝しているよ」
ジーニアス「いつもすまない。よし、現時刻を以て待機命令を解除する。各ヒーロー達は通常業務に専念し引き続きアストロ内の治安維持に勤めるよう通達してくれ。ご苦労だったと」
オペレーター「了解しました」
ジーニアス「キャプテン、ご苦労だった」
ギーク「何か動きがあればすぐに呼んでくれ。ジーニアスも休んだらどうだ」
ジーニアス「あぁ、クリスマスの同時接続数にもイージスは耐えたから一安心だ。あとは年末を乗り越えるだけだ」
ギーク「ならば休めるときに休んでおけ。若いからといってあまり無理をしてはいかん。肝心の時に使い物にならないでは困るからな」
ジーニアス「ありがとう」
ギーク「では」
 ギークが本部を出て行く。
ジーニアス「私も少し休むか。何かあったらすぐに連絡してくれ」
オペレーター「了解しました」
 ジーニアスも本部を出て行く。
 

○ メトシェラの事務所
 クリスマスの翌日。
 散らかっている事務所。
 書類の山の中でジッキンゲンが椅子に座っている。
 メトシェラが扉から入ってくる。
メト「うわ、なんじゃこりゃ」
 書類を踏まないようにジッキンゲンの近くへ行く。
メト「おはよう」
 ジッキンゲンの反応がない。
メト「起きろ!」
 ジッキンゲンの耳元で大声を出すメトシェラ。
 飛び起きるジッキンゲン。
ジキ「おはよう」
メト「おはよう」
 メトシェラがお湯を沸かし始める。
メト「どう?」
ジキ「アストロ内全エリアの正式サービス開始当初からの過去ログをチェックしたけど出現ノイズはなし」
メト「圧倒的・理不尽が出現した辺りでヴィランが大量発生してるけどそこに混じってる可能性は?」
ジキ「ない。全部クリーニングして調べた。あの時に大量発生したヴィラン142体全てチェックしたけど、コヨーテに繋がらないしコヨーテに変化した様子もない」
メト「あれ?てことは推理がはずれたかな」
 2つのカップにコーヒーを淹れるメトシェラ。
 砂糖5つとブラックの2つ。
 その様子を見てジッキンゲンが顔をしかめる。
ジキ「いや、まだ1つだけ調べられてないんだよ」
メト「どういうことだい?」
 ブラックのカップをジッキンゲンに渡す。
ジキ「リヴァイヴァルがこの前博物館のデータセンターからマスターデータを奪おうとしただろ?あの時、僕らが捕まえて回収したけど、その時点で既にある期間のデータだけが消されていたみたいなんだよ」
メト「ということはその期間の中にコヨーテが出現した可能性がまだ残っているのか。バックアップは?」
ジキ「それがバックアップも抹消されていたんだよ。保管してある部屋ごと爆破されていたから9割近くのデータが破損してた」
メト「となるとその消された一定期間が俄然、怪しくなってくるな」
ジキ「そう。わざわざリヴァイヴァルがデータを抹消したって事は限りなく黒に近い。しかも、当たりだとしたらコヨーテとリヴァイヴァルは繋がっている可能性が高い」
 メトシェラが何かを考え始める。
ジキ「でも、肝心のデータがないんじゃ…調べようが…」
メト「…いや、恐らくデータのバックアップは存在するはず。確証はないけどね」
 カップを机に置き、電話の受話器を置きどこかに電話をかける。

○ アストロ中枢・本部エントランス
 本部のエントランスを歩いているメトシェラとジッキンゲン
ジキ「本部にバックアップがあるのかい?」
メト「ジーニアスのことだから、非公式に自分だけがアクセス可能なバックアップデータを持っているはず。俺たちにも秘密のね」
ジキ「それは確かな情報なのかい?」
メト「それをこれから確かめに行くんだよ」
 エレベーターが到着し、乗り込む2人。

○ アストロ中枢・ジーニアス執務室前
 執務室の扉の前でメトシェラとジッキンゲンが並んで立っている。
ジキ「ジーニアスを説得できるのかい?」
メト「どうだろ」
 扉を開け、メトシェラとジッキンゲンが中に入っていく。

○ アストロ中枢・ジーニアス執務室
 広い執務室の窓側に置いてある執務机を挟み、ジーニアス、メトシェラ、ジッキンゲンが座っている。
ジーニアス「なるほど、君の推理は大体わかった」
 メトシェラとジッキンゲンがほっとする。
ジーニアス「現状何もわかってないのと同じじゃないか」
メト「でも、今のところ一番答えに近いかもしれない」
ジーニアス「だが、一番答えに遠いかもしれない」
 メトシェラとジーニアスが互いの目を真っ直ぐと見る。
メト「過去ログさえチェックできればハッキリする」
ジーニアス「そうだな」
 ジーニアスが立ち上がり、窓の外を眺める。
ジキ「そもそも、バックアップは存在するのですか?」
 しばし、間。
ジーニアス「その質問の答えは“イエス”だ」
 メトシェラがジッキンゲンを見る。
ジーニアス「ただ、そのバックアップは本来であれば存在しないデータだ。アストロノーツのバックアップは各データセンターで独立して管理している。それは何故だかわかるか?」
ジキ「セキュリティ上の問題かな。リスクを分散しておかないとさすがに…」
ジーニアス「それもある。だが物理的な問題も備えている」
メト「データ量か」
 ジーニアスが頷く。
ジーニアス「アストロノーツのメインシステムだけでなく全エリアでのユーザーの動きやヴィランの感知システムなど全てを合わせると膨大なデータ量だ。現状、そのままのバックアップだと物理的に3日も蓄えておくことが出来ない。だから各施設にデータを分散して保管している」
 ジーニアスが執務机に立てかけてあった杖を手に取る。
ジーニアス「万が一の時に備えてこのアストロ中枢にもデータは送っている。だが、問題はそのデータの保管方法だ。ついてこい」
 ジーニアスが執務部屋の壁の本棚に触れると通路が現れる。
 中に入っていくジーニアス。
 追いかけていくメトシェラとジッキンゲン。

○ アストロ中枢・地下通路
 ジーニアスに連れられて、メトシェラとジッキンゲンが地下通路を歩いて行く。
ジーニアス「データは私が開発した極秘技術である圧縮プログラムを使用して管理している。このプログラムによってアストロシステム全データ1年分のデータを約1日分のデータ量に圧縮することが可能になった」
メト「1年分を約1日分のデータ量に圧縮!?」
ジーニアス「おかげでデータを半永久的に管理可能になった。だが、この技術を公表することはない」
メト「そりゃ、アストロシステム全てのデータを圧縮して管理可能なプログラムは誰だって欲しがるだろうね」
ジーニアス「あぁ。アストロシステム維持のために、いくつもの極秘プログラムが存在する、この通路もそうだ」
ジキ「この通路は、パターンがランダムになっているんですね」
ジーニアス「その通りだ。常にパターンが変わっている。私以外が中に入れないようにな」
 しばらく進むとジーニアスが立ち止まり、杖を地面に突き立てる。
 杖が光ると、扉が出現する。
ジーニアス「ここだ」
 扉を開けるジーニアス。
 ジーニアスの後を追って、2人が部屋の中に足を踏み入れる。

○ 第1級刑務所・独房
 俯いていたコヨーテが顔を上げ、笑い出す。
 コヨーテの様子に気づいたヒーローが問いかける。
ヒーロー「なにがおかしい」
 肩を震わせているコヨーテが答える。
コヨーテ「いや、なんでもない」
 再び笑い出す。

○ アストロ中枢・最深部
 部屋の中央に台座があり、その上にいびつな球体が浮かんでいる。
 球体をよく見ると角砂糖のような立方体で形成されている。
ジーニアス「台座がアストロ内の全システムと繋がっており、この球体にデータがバックアップされている」
 ジーニアスが球体に近づき手を差し出すと立方体が1つ手のひらに乗る。
ジーニアス「この立方体1つ1つがバックアップデータだ」
 立方体をジーニアスが握ると光り輝き、一枚のディスクになる。
ジーニアス「これなら、君たちにも読み込めるだろう」
 ディスクを受け取るメトシェラ。

○ アストロ・エリアロンドン
 クリスマスの飾り付けから年末ムードになっている街。
 雪が降り積もっている。

○ メトシェラの事務所
 メトシェラとジッキンゲンがディスクからデータを読み込み解析している。
  

○ 第2級刑務所・外観
 はるか向こうから大型トレーラーが向かってくる。

○ 第2級刑務所・独房
 リヴァイヴァルがベッドに座っている。
 鼻歌(ボレロ)を歌っている。
 ※以下、BGMにボレロが流れる

○ 第2級刑務所・管理棟
 刑務官達が通常業務を行っている。
 外の様子を映しているモニターに、向かってくるトレーラーが小さく映っている。

○ 第2級刑務所・独房
 リヴァイヴァルが立ち上がりストレッチをしている。
 

○ 第2級刑務所・正門
 正門目がけてトレーラーが突っ込んでくる。
 警備を突破し、所内に突入する。

○ 第2級刑務所・管理棟本部
 警報が鳴り響き、刑務官達が慌ただしく動いている。
刑務官「何が起きた!」
刑務官「トレーラーが突っ込んできました!」
 爆発音が響き、管理棟が揺れる。

○ 第2級刑務所・正面玄関
 トレーラーが正面玄関の前をふさぐ形で止まる。
 中から覆面を被り武器を持った黒づくめの男達が降りてくる。
 グレネード弾を放ち、玄関の扉と刑務官もろとも吹き飛ばす。
 男達が次々と建物の中に侵入していく。

○ アストロ中枢・本部
 慌ただしい本部。
 モニターには次々と情報が映し出されている。
 ジーニアスが入ってくる。
オペレーター「たった今、第2級刑務所が何者かに襲撃されました」
ジーニアス「映像は!」
オペレーター「出します!」
 モニターに映し出されるリアルタイムの映像。
 第2級刑務所で黒煙が上がっている。

○ 第2級刑務所・廊下
 応戦する刑務官達。
 攻め込んでくる黒づくめ達。

○ 第2級刑務所・独房
 爆発の衝撃で揺れている中、目をつぶりながら足でリズムを刻んでいるリヴァイヴァル。
 扉のキーロックが解除音がして、扉が開く。
 目を開け、独房の外に出るリヴァイヴァル。

○ アストロ中枢・本部
ジーニアス「増援は!」
オペレーター「間に合いません!」

 
○ 第2級刑務所・廊下
 刑務官達が侵入者達の対応に追われ警備がいない廊下を1人歩いて行くリヴァイヴァル。

○ 第2級刑務所・管理棟
 上階で爆発が起き、倒壊していく管理棟。

○ アストロ中枢・本部
 倒壊していく管理棟の映像を見つめるジーニアスとオペレーター達。
 拳をたたきつけるジーニアス。

○ 第2級刑務所・独房監視室
 刑務官が管理棟本部と連絡を取ろうとするが、繋がらず焦っている。
刑務官「一体何が起きてるっていうんだ」
 刑務官が人の気配を感じ、後ろを向くとリヴァイヴァルが立っている。
刑務官「お前どうやって!?」
リヴァ「僕のジャケットと時計はどこかな?」
 刑務官が腰につけていた拳銃をいつの間にかリヴァイヴァルが持っており、こちらに突きつけている。
 保管ロッカーを指さす。
リヴァ「鍵は?」
 刑務官を怯えながら、腰についている鍵の束を渡す。
 リヴァイヴァルは鍵を受け取り保管ロッカーに向かう。
 ロッカーを開け、ジャケットを取り出して着る。
 懐中時計を手に取り時間を確認する。
リヴァ「時間通りだ」
 ポケットにしまい、出入り口に向かう。
 部屋を出る直前、立ち止まり刑務官の方を見る。
 身構える刑務官。
リヴァ「メリークリスマス!」
 手をひらひらと振って部屋を出て行く。
 腰を抜かす刑務官。
 扉が閉まる。(ボレロここまで)

○ アストロ・エリアロンドン
 事件発生から数時間後。
 街のモニターで第2級刑務所が炎上している映像が映し出されている。
 不安そうにモニターを見つめる人々。

○ メトシェラの事務所
 ジッキンゲンが電話を受けている。
ジキ「わかった。できる限りのことはしてみよう」
 受話器を置く。
ジキ「数時間前のリヴァイヴァルによる脱獄の裏でコヨーテも何者かの手引きによって脱獄したらしい」
メト「何をやってんだかね、ジーニアスは」
ジキ「リヴァイヴァルの方が派手に脱獄した一方で、コヨーテは忽然と姿を消したらしい」
メト「例のステルスプログラムか…」
 ジッキンゲンが頷く。
メト「で、ジーニアスはなんて?」
ジキ「全ヒーロー達に緊急招集とコヨーテ、リヴァイヴァル両者の捜索命令を出したそうだが、我々は引き続きデータの解析を急いでくれと言っていた」
メト「言われなくてもやってるよ」
ジキ「あぁ、ジーニアスには伝えておいた。急ごう」
メト「奴のことだから、これだけ派手に始めたって事はこれから更に大きな事が始まるぞ」
 テレビでは第2刑務所が倒壊する映像が繰り返し、流れている。

○ アストロ・エリア各地
 更に時間が経ち、夜。
 大晦日前日でお祭りムードの街の中、ヒーロー達が飛び回っている。
 物々しい雰囲気とお祭りムードが混じった街。
 年越しのカウントダウンを前に膨れあがっていく接続者数。

○ アストロ・エリア各地
 大晦日の10分前、全エリアにノイズが発生する。
 電気が消えたり、各アバターがノイズで揺れる。

○ アストロ中枢・本部
 本部の電気も一瞬消え、再びつく。
 ジーニアスやオペレーターの他にギークもいる。
ジーニアス「何が起きた」
オペレーター「一瞬ですが強力なノイズがアストロ内に発生した模様です。現在数値は安定…発信源はまだ特定できていません!」
 モニターにエラーがはじき出される。
 別のオペレーターが声を上げる。
オペレーター「各所で接続障害が発生しています。エリアニューヨーク、トーキョー、ロンドン、モスクワ、パリ…全エリアに障害進行中」
オペレーター「何者かがアストロシステムに侵入してきています!」
ジーニアス「コヨーテか…」
 モニターを見つめるジーニアスとギーク。
ジーニアス「キャプテン、私はこれからハッキングの対応に追われる形になる。全ヒーロー達の指揮は君に任せる」
ギーク「わかった。奴らの思い通りにはさせない」
 拳を突き合わせる2人。
 ギークが部屋を出て行く。

○ メトシェラの事務所
 テレビで緊急速報が流れている。
テレビ「現在、アストロノーツ全域で接続障害が起きており、ログアウトが出来ない現象が発生しています。皆様には大変ご迷惑をおかけしますが…」
ジキ「始まったようだね」
メト「手が止まってるぞ」
ジキ「すまない」
 再びデータに目を落とすジッキンゲン。
メト「コヨーテの奴、ステルスプログラムを使用する前にノイズを暗号化してるからダミーが多すぎる…くそっ」
 

○ アストロ・エリアロンドン
 大晦日。
 人であふれかえる中心部。
 接続障害で不安な表情をしている人々。
 都市中央部にあるビルのモニターの映像が消える。
 再び、モニターで映像が映し出され、リヴァイヴァルが現れる。
リヴァ「やぁ、諸君。もう気づいているとは思うが、諸君らはこの世界からログアウトできない。これから永遠にこのアストロで生きることになる。人類の永遠の野望、不老不死(ノスフェラトゥ)のチャンスを諸君らは手に入れたのだ。喜びたまえ」

○ アストロ・エリア各地
 エリア各地の街頭モニターや家のテレビや携帯デバイスなどで映像を見ている一般ユーザー達。
 人々の不安な顔。

○ アストロ中枢・本部
 モニターに映し出されるリヴァイヴァルの映像。
 それを見つめるジーニアスとオペレーター達。
リヴァ「それから、ジーニアス、初めに言っておくがシステムを再起動しようなんて考えるなよ。君が作り上げたイージスによって今この世界にいるユーザー達のデータは全て結びついている。システムをダウンさせた瞬間に全員アストロ廃人になるぞ。嘘だと思うなら試してごらん」

○ アストロ・高層ビル屋上
 目を閉じ、ヘルメット越しに音声を聞いているギーク。
 マントが風ではためている。
 ゆっくりと目を開く。
 アストロの街を守る正義のヒーローとしての誓いを胸に、真っ直ぐと街を見つめる。

○ メトシェラの事務所
 メトシェラとジッキンゲンも無言でテレビを見つめている。
リヴァ「そうそう。クリスマスプレゼントがまだだったな。旅行に出かけていたものだから渡すのが遅れてしまったよ。ささやかだが気に入ってもらえると嬉しい。ユーザーへのダメージ判定のリミッターを全て解除した」

○ アストロ・エリアロンドン
 リヴァイヴァルの言葉にどよめく人々。
リヴァ「ノスフェラトゥを手に入れるチャンスとはいえ、アストロで死んでしまったらゲームオーバーだ。生き残ればノスフェラトゥを手に入れることができる。二つに一つだ。おっと、そろそろ開演時間だ。せいぜい楽しんでくれたまえ」
 エリアの象徴ともいえる大きな時計台が0時を告げ、大きな鐘が鳴り響き大晦日になったことを告げる。
 それと同時に各所で爆発が起きる。

○ アストロ・高層ビル屋上
 空を飛び、爆発で揺れる街に全速力で向かっているギーク。
ギーク「アストロ内のヒーロー全員に通達。ユーザーの保護を最優先。余力のある者はリヴァイヴァルを捜索、発見次第、捕獲せよ。ログインしてないヒーローをたたき起こせ。急げ!」
 マントをたなびかせて飛んでいくギーク。
ギーク「か弱き者の助けを呼ぶ声聞こえたならば、天の向こう、地の果てまでもいざゆかん!」

○ アストロ・トーキョー
 爆発したビルのがれきの塊が人々に直撃しそうになる。
 人々の叫び声。
 そこへ駆けつけたリーゼントががれきをはじき飛ばす。
 手には木刀を持っている。

○ アストロ・エリア各地
 ギークの指示でヒーロー達が一般ユーザーの保護を最優先に飛び回っている。
 断続的に続く爆発。

○ アストロ・エリアロンドン
 時計台に人影がある。
 炎や煙が上がりパニックに陥っている街を見下ろしながら笑っているリヴァイヴァル。
 懐中時計を取り出す。
リヴァ「さて、次を始めるか」
 リヴァイヴァルが姿を消す。

○ アストロ・エリアトーキョー
 リーゼントが人々を安全な場所に誘導していると、背後から銃撃される。
 間一髪で避けるリーゼント。
リーゼント「ちっ。後ろから狙うとは男らしくない奴らだぜ」
 振り向くと闇に紛れて無数の黒づくめの男達が現れる。
リーゼント「タイマン張らないとは男らしくないねぇ」
 リーゼントが木刀を構える。

○ アストロ・エリアニューヨーク
 ギークが黒づくめの男達と応戦していると無線連絡が入る。
オペレーター「エリア全域に刑務所を襲った連中と同じ武装集団が出現しています」
ギーク「今、応戦してるよ!」
 ギークの背後に、黒づくめが出現する。
ギーク「ちっ」
 背後からの攻撃に備えるギーク。
 打撃音が響く、がギークには衝撃が来ない。
ベア「油断禁物だよ」
ギーク「テディ、すまない」
ベア「さぁ、いくよ」
ギーク「あぁ」
 ファイティングポーズをとる2人。それを取り囲む黒づくめ達。

○ メトシェラの事務所
 電話が鳴る。
ジキ「ジーニアスからだ」
 メトシェラに受話器を渡す。
メト「はい」
ジーニアス「コヨーテの居場所はまだつかめないのか」
メト「まだだ、予想以上にダミーが多くて特定に時間がかかってる。そっちの接続障害は?」
ジーニアス「コヨーテがリアルタイムで防壁を組み上げているせいでこっちも苦戦している。その作業はジッキンゲンに任せられるか?」
メト「何故?」
ジーニアス「リヴァイヴァルの居場所がわかった」
メト「向かえと?他のヒーローは?」
ジーニアス「手一杯だ」
メト「座標を送って下さい」
 受話器を置く。
 コートと帽子を手渡すジッキンゲン。
ジキ「危ないと思ったら離脱しろ」
メト「わかった」
ジキ「解析が終わり次第、こちらも向かう」
 玄関の扉をノックする音。
 扉を開けると封筒が落ちている。
 メトシェラは中身を確認し、ジッキンゲンに渡す。
メト「行ってくる」
 

○ アストロ・大聖堂
 セントポール大聖堂を模した建物の中央にある祭壇にもたれかかっているリヴァイヴァル。
 現れるメトシェラ。
リヴァ「おや、今日は1人なのかい?相棒は死んじゃったのか?」
メト「お前の冗談に付き合ってる暇はない。コヨーテはどこだ」
リヴァ「相変わらず寂しいことを言うね。僕は君を待っていたというのに」
メト「知るか」
リヴァ「見たかい、街を。美しい爆発の炎に身を焦がす人々や戦いの末に力尽きていく正義の戦士達。全て僕のシナリオ通りだ」
メト「だが、ここでお前の舞台は幕が下りる」
 メトシェラが右足に力をこめて飛び出す。
リヴァ「ははは、フィナーレにはまだ早いよ」
 高速で間合いを詰めてきたメトシェラの回し蹴りを避けるリヴァイヴァル。
リヴァ「相変わらず速いね」
メト「だったら避けるんじゃねぇよ」
リヴァ「僕よりは、遅い」
 リヴァイヴァルの蹴りがメトシェラの脇腹に入る。
 間合いをとり、跪くメトシェラ。
メト「お前の目的は何だ。まだノスフェラトゥなんてものを狙っているのか」
リヴァ「もうそんなものに興味ないね。半分手に入れたようなものだからね。君のおかげだよ」
メト「何?」
リヴァ「君も僕もいずれ死ぬ。オリジナルが永遠に生き続けることなんて不可能なんだよ。だから重要なのは最後に目的を達成しているのは君と僕のどちらなのか、ということだけさ。僕はこの世界で恐怖として生き続けたい。そして君は僕を倒したい。君が僕を憎めば憎むほど、僕の存在は君の中でより強固な物になる」
 メトシェラが立ち上がり、ファイティングポーズをとりながら間合いを計る。
リヴァ「君は僕と出会った時点で既に負けているのさ」
 メトシェラが再び攻撃を仕掛ける。
 そしてその攻撃をことごとく避ける。
リヴァ「君と同じようにこの世界の人々が今、恐怖に怯えている。そして、僕に怯えている。彼らが僕に怯え続ける限り、この世界に僕は生き続ける」
 反撃を仕掛けるリヴァイヴァル。
 間一髪で避けるメトシェラ。
リヴァ「そろそろ本気を出したらどうだい?その特殊義足の力だけでは勝てないのはわかっているだろう。それとも僕と長く遊びたいのかな?」
 メトシェラがファイティングポーズを崩し、背筋を伸ばし深呼吸する。
 右手が輝き始める。
 それを嬉しそうに見つめるリヴァイヴァル。
メト「さっさと終わらせよう」
 再び、メトシェラが間合いを詰める。
 リヴァイヴァルがショットガンを出現させ、メトシェラに向けて放つ。
 メトシェラが右手で弾丸が防ぐと、弾丸が消滅する。
 次々とショットガンを放つ、リヴァイヴァル。
 弾丸を右手で防ぎながら間合いを詰めていき、背後をとる。
 右手がリヴァイヴァルのジャケットのすそをかすめる。
 かすめた部分が消滅する。
リヴァ「ふぅ、危ない危ない。プログラムを全て無に帰す能力は厄介だねぇ。だが、触れられなければどうということはない」
 懐中時計を胸ポケットにしまい、ジャケットを脱ぎ、投げ捨てる。
 メトシェラの視界から一瞬、リヴァイヴァルが消える。
メト「ちっ」
 反応が遅れ、背後からリヴァイヴァルの攻撃を覚悟するメトシェラ。
 銃声が響き、リヴァイヴァルがメトシェラから離れる。
リヴァ「邪魔者め」
 ジッキンゲンが現れる。
 拳銃をリヴァイヴァルに向けている。
メト「バロン!」
ジキ「遅くなってすまない。コヨーテの居場所はつかんだ。さっさと終わらせて向かおう」
 メトシェラとジッキンゲンが並び、リヴァイヴァルと対峙する。
リヴァ「そろそろお開きにしよう。招いていない客が来たからね」
 祭壇が爆発し、大聖堂が揺れ始める。
メト「また爆破か」
 リヴァイヴァルがにやりと笑い、ショットガンをリロードする。

 メトシェラが間合いを詰める。
 リヴァイヴァルがショットガンをメトシェラに向けて放つ。
 援護射撃をするジッキンゲン。
 姿を消すリヴァイヴァル。
 メトシェラがすかさずリヴァイヴァルの姿を捕らえる、が動きが止まる。
 リヴァイヴァルの懐中時計の鎖が伸びておりメトシェラの足に絡まっている。
メト「ちっ」
 リヴァイヴァルがメトシェラに向けてショットガンを放つ。
 メトシェラが覚悟した瞬間、目の前に影が現れる。
メト「馬鹿!」
 リヴァイヴァルが計画通りと言わんばかりににやりと笑みをつくる。
 放たれた銃弾がジッキンゲンの胴体を吹き飛ばす。
 その場に崩れ落ちるジッキンゲン。
 懐中時計を回収するリヴァイヴァル。
リヴァ「新記録もここまでだね」
メト「ジッキンゲン!」
 ジッキンゲンを抱えるメトシェラ。
 リヴァイヴァルが床に落ちているジャケットを拾い上げる。
リヴァ「次の予定があるんでね、失礼するよ」
 姿を消すリヴァイヴァル。
 崩れつつある大聖堂。
 取り残される、メトシェラとジッキンゲン。
ジキ「事務所にデータはある。奴らの目的を阻止してくれ…」
メト「何言ってんだ一緒に向かうんだろ」
ジキ「メトシェラ、最後にお願いがある。君の右手の能力で僕を葬ってくれ。」
メト「できるわけないだろ!生きて帰るぞ」
ジキ「メトシェラ、無理だ。僕を背負って逃げることは出来ない。ここで死ぬぐらいなら君に最後を委ねたい」
メト「嫌だ」
ジキ「頼む」
 倒壊が進む大聖堂。
ジキ「僕は君の今までの相棒とは違う。頼む」
 ジッキンゲンがメトシェラを見つめる。
 メトシェラが観念し、能力を発動する。
 輝く右手でジッキンゲンに触れる。
 触れた場所から消えていくジッキンゲンのアバター。
ジキ「後は頼んだ、相棒」
メト「あぁ」
 涙を流しながら頷くメトシェラ。
 消滅するジッキンゲン。
 すぐ近くに天井のがれきが落下してくる。

○ アストロ・大聖堂外観
 崩れ落ちていく大聖堂。

○ メトシェラの事務所
 メトシェラが事務所に戻ってくる。
 電気もつけずにジッキンゲンのデスクに座り、端末を立ち上げる。

 
○ アストロ・エリア各地
 再びアストロ内にノイズが発生する。
 ヒーロー達が疲弊している中、モニターにタイマーが表示されカウントダウンが始まる。
 コヨーテの音声が流れる。
コヨーテ「やあ、アストロの諸君。この混乱を終わらせてあげよう。今年が終わる瞬間、この世界も終わる。全てを0pointに戻してあげよう」
 

○ メトシェラの事務所
 メトシェラがジッキンゲンの端末で解析データを確認している。
メト「0point…」
 何かに気づくメトシェラ。
 立ち上がり、ジッキンゲンのコートの入ったクローゼットを開く。

○ アストロ中枢・本部
 モニターには炎上しているエリア各地の映像が流れている。
 ヒーロー達の無線が飛び交い、その対応に追われているオペレーター達。
 ジーニアスもハッキング対応に追われている。
 メトシェラが現れる。
 ジッキンゲンのトレンチコートをまとっている。
ジーニアス「ジッキンゲンのことはなんと言って良いか…」
メト「ジッキンゲンのことは後回しだ。時間がないから結論から言う」
 メトシェラがジーニアスの前に行き真っ直ぐと見据える。
メト「ステルスプログラムの解除方法を教えろ」
ジーニアス「ステルスプログラム?どういうことだ」
メト「お前が作ったステルスプログラムの解除方法だよ」
ジーニアス「ちゃんと説明してもらおうか」
メト「ジッキンゲンが解析した結果、コヨーテはアストロに出現して、一番最初にフォックスという男の墓に向かった。そして、それ以降、奴は自分自身のノイズを暗号化して感知システムを欺き始める。解析に時間がかかったのはそのせいだ。だが、何故そのプログラム能力を出現した段階で使わなかったのか。理由は簡単だ、奴自身の能力は高度なプログラミング能力ではない」
ジーニアス「…トレース能力」
メト「そう。奴は相手の能力をトレースすることが出来る。ジッキンゲンが調べたところ、フォックスはβテストの頃に存在したウィザードだ。だが、ある事件をきっかけにフォックスのアカウントは凍結され墓に葬られた。コヨーテはフォックスの墓を掘り起こし、ウィザード級の能力をトレースしたんだ。その結果、コヨーテには高度なプログラミング能力が備わった。だが、そこで思わぬアクシデントが起きた。フォックスの墓を含めβテストのデータは高度なステルスプログラムで守られていた。奴はジーニアス、お前が組み上げたステルスプログラムをもトレースしたんだ」
ジーニアス「だから、感知システムに引っかからなかった」
メト「そう、ジーニアスが作ったプログラムと全く同じものだからな」
ジーニアス「だが、奴はどうやってフォックスの墓の場所を突き止めた」
メト「それはわからない。だが、奴の居場所は突き止めた。ヒントは0pointだ」
 ジーニアスが気づく。
ジーニアス「アストロノーツ始まりの場所、βテスト時代の中枢であるノーツタワー跡地か」
メト「やつはステルスプログラムを使い、そこにいるはずだ。だから、ステルスプログラムの解除方法を教えろ」
ジーニアス「お前なら勝てるのか?」
 ジッキンゲンのコートを見るジーニアス。
メト「俺じゃないと勝てない」
 右手を見せる。
ジーニアス「プログラムを無に帰す力…なるほど。トレース能力を無効化できるというわけか」
 ジーニアスが杖を手に取る。
ジーニアス「コヨーテとフォックスにどんな繋がりがあるかは知らないが、今回の事件はフォックスが起こした事件と似ている。フォックスは、元はこちら側にいたのだが自身の能力を誇示するためにアストロシステムを掌握する計画を企て、実行した。だが、フォックスの計画は失敗しアカウント凍結、アストロから追放された。おまけに、その時に起きた接続障害は記録上、ただの接続障害として処理したから奴の犯行は一切なかったことになった。数日後、奴は自宅で自殺していたそうだ。フォックスに関する復讐だとしたら、コヨーテは必ずシステムを掌握しようとする。奴が私のプログラムをトレースしフォックスの能力を兼ね備えているなら、いずれ防壁を突破するだろう。その前に奴を倒せ」
 杖をメトシェラに渡す。
ジーニアス「奴のステルスプログラムが私と同じならこの杖で解除できるはずだ。地下室と同じようにな」
 杖を受け取るメトシェラ。
ジーニアス「時間がない。お前に任せたぞ」
 メトシェラが頷き、部屋を出て行く。

○ ノーツタワー跡地
 草原が広がっている場所にメトシェラが立っている。
メト「座標だとここか」
 杖を地面に突き立てると杖が光り、地下室と同じように扉が姿を現す。
 メトシェラが扉を開ける。
 

○ ノーツタワー内部
 薄暗い通路が続いている。
 明かりが差している場所に向かって歩いて行くメトシェラ。

○ ノーツタワー深部
 薄暗く、配管まみれの広いドーム型の部屋。
 メトシェラが深部に到着するとその場所にコヨーテがいた。
 部屋の中央で焚き火がゆれている。
 巨大なモニターの前でプログラムを組んでいるコヨーテ。
メト「お前の負けだ」
 コヨーテが笑う。
コヨーテ「おいおい、何がどうなったら俺の負けになるんだ。ジーニアスですら劣勢に立たされているこの状況でお前1人がここにたどり着いてどうなるんだ」
メト「俺がたどり着いたからこそだよ」
 コヨーテが振り向く。
 メトシェラの右手が輝く。
コヨーテ「そうかお前、無効化の能力を持っているのか…厄介だな」
 コヨーテが手を叩くと、メトシェラの足下から檻が現れる。
メト「しまった」
 檻を消すべく右手で触れようとする。
コヨーテ「おーっと!止した方がいい。その檻はこの部屋のシステムの延長線上だ。檻を破壊するとこの部屋ごと消え去るぞ。それにな、既にイージスにも繋がっているからカウントダウンが終わる前にシステムが消滅するぞ」
メト「はったりだな」
コヨーテ「嘘だと思うならやってみるがいい。どのみち俺はジーニアスが作ったこのシステムを消滅させるのが狙いだからな」
メト「ちっ」
 メトシェラが能力を解除する。
コヨーテ「いい子だ。どのみち残り時間もあとわずかだ、そこでじっとしていろ」
メト「お前の目的は何だ」
コヨーテ「おまえらヒーローは頭が悪いのか?馬鹿みたいに同じ質問しやがって。少しは自分の頭で考えるってことを知らないのか」
メト「言い方を変えよう。フォックスの起こした事件をリヴァイヴァルして何がしたい。所詮お前のやっていることは模倣に過ぎない」
コヨーテ「ははは、フォックスは俺の弟だ。ジーニアスは弟が起こした事件を闇に葬った。だから兄の俺がこうして弟が達成できなかったことを代わりに達成してやろうとしているのさ」
メト「大量にアストロ廃人を出すことがか?」
コヨーテ「違う。ウィザードであることの証明だ。世界最大最強のシステム、アストロノーツを掌握し消滅させる。それを成し遂げたとき俺は伝説に名を刻む」
メト「くだらないな」
コヨーテ「ほざけ。お前はそこで見ていることしか出来ないのだからな」
 モニターに表示されているタイマーが残り30分を切っている。

○ アストロ・エリア各地
 戦い続けるヒーロー達。
 祈りを捧げる人々。

○ アストロ中枢・本部
 コヨーテの攻撃を防いでいるジーニアス。

○ ノーツタワー深部
 檻に囚われているメトシェラ。
コヨーテ「さぁこれで終わりだ」

○ アストロ中枢・本部
ジーニアス「まずい」
 ジーニアスのコマンドをモニターが弾き、エラーが表示される。

○ アストロ・エリア各地
 明かりが全て消える。

○ ノーツタワー深部
 コヨーテが笑い出す。
コヨーテ「はははははは、遂にやったぞ。俺の勝ちだ。アストロのシステムを掌握したぞ!俺は天才だ!見たか、俺は天才だ!」
 メトシェラに向けて叫ぶ。
 歓喜の表情。
 銃声が響く。
 コヨーテがショットガンで撃ち抜かれている。
 メトシェラが銃声のした方を見る。
コヨーテ「な…」
 その場に倒れるコヨーテ。
リヴァ「ご苦労様」
 暗闇からリヴァイヴァルが現れる。
コヨーテ「ラヴァル…貴様、何故俺を…」
リヴァ「話が違うじゃないか。システムを掌握した途端、崩壊プログラムを止めようとしたでしょ」
コヨーテ「掌握したからにはいつでもこのシステムを葬り去ることが出来るんだぞ!ジーニアスも私の言いなりだ!」
リヴァ「そうだね。でも、おっさんの目的には興味はないよ。今この世界の人々はカウントダウンが0に近づくことでかつてない恐怖を感じているんだ。せっかくのフィナーレが台無しになるとこだった。勝手に僕のシナリオを書き換えないでくれるかな」
コヨーテ「崩壊プログラムがこのまま作動すれば、貴様もシステムと一緒に死ぬことになるんだぞ」
リヴァ「このシステムの中でしか僕は生きられない。だけど、幕を下ろすタイミングは自分で決める。それとね、僕はもう既に一度死んでいるんだ」
 ショットガンに弾をこめる。
リヴァ「死への恐怖などない」
 リヴァイヴァルの声が男性とも女性とも聞こえる声に一瞬だけ変わる。
コヨーテ「どういうことだ…」
リヴァ「どういうことだろうね。少しは自分の頭で考えてみたら?時間だ。お喋りは終わりだよ、おっさん」
 リヴァイヴァルがショットガンを構える。
 コヨーテが力を振り絞って立ち上がり、ボタンを押そうとする。
 リヴァイヴァルがショットガンを放つ。
 コヨーテを貫きシステムに弾が当たる。
 絶命するコヨーテ。
リヴァ「ちっ」
 掌握していたシステムがダウンする。
 モニターを見るとカウントダウンは継続されている。
 リヴァイヴァルが振り向くと檻が解除されて脱出したメトシェラがいる。
 対峙するリヴァイヴァルとメトシェラ。

○ アストロ中枢・本部
 オペレーターが叫ぶ。
オペレーター「システムこちら側に戻りました。コヨーテのシステムがダウンした模様です」
ジーニアス「タイマーは!」
オペレーター「継続中です。崩壊プログラムは作動したままのようです!残り9分50秒…45…44…」
 ジーニアスが崩壊プログラム解除に取りかかる。
オペレーター「ジーニアス、緊急回線から通信が入っています!回します!」
ジーニアス「この回線は…」
 ジーニアスが回線をとる。

○ ノーツタワー深部
 再びメトシェラとリヴァイヴァルが対峙する。
リヴァ「この世界の終わりに再び君と戦うことになるとはね。これはもう運命としか言いようがないね」
メト「悪いが、お前が俺につきまとっているようにしか思えないな」
 メトシェラの右手が輝く。
リヴァ「ははは、僕は君を愛しているからね」
メト「気色悪いことを言ってるんじゃねぇ」
 メトシェラが高速移動で間合いを詰める。
リヴァ「結構本気なんだけどな」
メト「悪いが男に興味は…ない」
 蹴りをいれる。
リヴァ「おっ」
 避けきれずガードするリヴァイヴァル。
リヴァ「いいねぇ。さっきよりもスピードが上がっているよ。君の相棒を殺した甲斐があったねぇ」
 メトシェラが再び蹴りを入れようとする。
リヴァ「だが、挑発に乗るようじゃまだまだだね」
 蹴りを交わし、バランスを崩したメトシェラの背中をショットガンの柄で突き、地面にたたきつける。
メト「ぐっ」
 リヴァイヴァルが背中を踏みつける。
リヴァ「まずはこの義足を破壊しよう。そうしよう」
 ショットガンをリロードし、構える。

 銃声が響く。
 弾かれるショットガン。
リヴァ「危ないなぁ、装填したショットガンを撃つなんて」
 再び銃声が響く。
 リヴァイヴァルが弾丸を避け、メトシェラから離れる。
 避けて着地したポイントにマシンガンが放たれる。
リヴァ「ちっ」
 空中で身体をひねり、着地ポイントをわずかにずらす。
 相手の銃撃を交わしているとあっという間に壁際に追い詰められる。

 暗闇から姿を現す、機械の身体の長身の男。
ジキ「助けに来たぞ、相棒」
メト「…お前、バロンか」
ジキ「戻ってくるのが遅くなってしまったな」
メト「お前、消滅したんじゃ」
ジキ「そのことについては後回しだ。ジーニアスが崩壊プログラムを解除しようとしているが間に合わないかもしれない。だが、その前に奴との決着だけはつけておこう」
 ジッキンゲンの手を借りて立ち上がるメトシェラ。
 機械の身体がむき出しのジッキンゲンにコートを渡す。
 コートを着るジッキンゲン。

 メトシェラとジッキンゲンがリヴァイヴァルと対峙する。
 

○ アストロ中枢・本部
 プログラム解体を続けるジーニアス。
 カウントダウンが3分を切る。

○ アストロ・エリア各地
 ヒーロー達により沈静化した街。
 ぼろぼろの姿のギークやテディ、リーゼント達。
 祈る人々。
 モニターのカウントダウンを見つめる。
 

○ ノーツタワー深部
 メトシェラとジッキンゲンがリヴァイヴァルと格闘戦をして、追い詰めていく。
 一瞬の隙を突いてメトシェラの蹴りがクリーンヒットする。
 跪くリヴァイヴァル。

 ジッキンゲンがリヴァイヴァルの頭に拳銃を突きつける。

リヴァ「残念だが時間切れだ」
 手にした懐中時計の針が0時にゆっくりと集まり始める。
 モニターのカウントダウンのタイマーが10秒を切る。

○ アストロ・エリア各地
 静まりかえる街。

○ アストロ・エリアロンドン
 時計台の針が0時を指す。
 沈黙。
 0時を告げる鐘の音が鳴り響く。

○ ノーツタワー深部
 リヴァイヴァルの懐中時計が再び針がランダムに動き出す。
ジキ「消えてないということはジーニアスが間に合ったな」
メト「残念だったな、リヴァイヴァル。終演の鐘はなったようだ」
 ジッキンゲンがリヴァイヴァルを縛り上げる。
 笑い出すリヴァイヴァル。
リヴァ「君たちの勝ちだ、あはははははははは」 
 リヴァイヴァルの笑い声が響き渡る。

○ アストロ中枢・本部
 残り1秒を残して止まっているカウントダウンタイマー。
 安堵の表情のジーニアス。
 喜んでいるオペレーター達。

○ アストロ・エリア各地
 アストロの街で打ち上げる大量の花火。
 歓喜の声が上がり新年を迎える街。
 システム消滅の危機を回避したことを知り、喜ぶユーザー達。
 ほっとするヒーロー達。

○ 第1級刑務所・独房
 檻に収監されるリヴァイヴァル。
 刑務官が去って行く。
 ズボンのポケットから角砂糖サイズの立方体を取り出す。
 そしてそれを握りつぶす。
 粉々になる立方体。
 ズボンで手をぬぐうリヴァイヴァル。
「せいぜい、長生きして語り継いでくれよエノクの息子よ」
 笑い声が響き渡る。
 暗転。

○ アストロ・エリアロンドン
 街では新年祝いで喜びに満ちている。
 ログアウトも出来る状態に戻っており、ヒーロー達へ事件は収束したと通達が行き渡る。

○ メトシェラの事務所
 メトシェラとジッキンゲンが戻ってくる。
メト「ジッキンゲン、どうやって戻ってきた。プログラムは無効化されたはずじゃ」
ジキ「もちろん死んだと思ったよ…どうやらメトシェラの能力でアバターのプログラムだけが消滅したみたいだ。その結果、強制ログアウトさせられたんだよ。でも、イージスによって“ジッキンゲン”のリアルタイムログ情報は残っていて、そのせいで再ログインすることは不可能になったんだ」
メト「そりゃ、同じアバターが同時に2カ所に存在できないよな」
ジキ「そこでジーニアスに連絡して、イージス内のデータを別のアバターにコピーすることで復活できたってわけ。接続障害の関係で寄せ集めのアバターしか用意できず、機械の身体のアバターだけど」
 機械の腕をメトシェラに見せる。
メト「精神へのダメージは?」
ジキ「なし。ギリギリセーフだったみたい。アストロ廃人にならなくて済んだのはメトシェラのおかげだよ」
 電話が鳴り、受話器を取るジッキンゲン。
ジキ「ジーニアスからだ」
 受話器を受け取るメトシェラ。
メト「わかった。結果の報告は後日書類でまとめて送るよ。あぁ、ハッピーニューイヤー」
 受話器を置く。
ジキ「さぁ、僕らも新年祝いに街に繰り出そうか」
メト「お前元気だな」
 玄関のドアをノックする音がする。
 顔を見合わせる2人。
 ジッキンゲンが扉を開けると足下に一通の手紙が落ちている。
 手紙を読んでいるジッキンゲンに近づくメトシェラ。
メト「内容は?」
ジキ「君宛の次の依頼だ」

END

【アストロノーツ・アナザーアース】

原案・原作・設定・イラスト・キャラクターデザイン・総合プロデュース
富園ハルク https://note.mu/haruku 

原案補佐・設定アイデア・イラスト・キャラクターデザイン・コラボ祭り総責任者
クラゲ男爵(キクラゲ校長) https://note.mu/heso 

キャラクターデザイン
きよみ https://note.mu/kedamaya

アストロノーツ・アナザーアースマガジン表紙絵・キャラクターデザイン・第三回コラボ祭りロゴ制作
アサダ総合企画 https://note.mu/rokuku 

アストロノーツマガジン表紙絵・キャラクターデザイン
neppeta https://note.mu/neppeta 

アストロノーツ・アナザーアース小説
ZAKI https://note.mu/j_zaki 

アストロノーツ・アナザーアース小説
海見みみみ https://note.mu/umimimimimi 

アストロノーツ・アナザーアース漫画・キャラクターデザイン
あまのっち https://note.mu/tsumoru 

【『episode:countdown』】

原案・原作・脚本
加藤ヒロコ@鋭画計画 https://note.mu/acute_project 

キャラクターデザイン・イラスト
クラゲ男爵 https://note.mu/heso 

【Special thanks】

note https://note.mu/

noterの皆様

2015@Acute_PROJECT

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