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【ラノベ】『クラスで一番かわいいギャルを餌付けしている話』を読んで

■はじめに

 この記事は「HJ文庫公式レビュアープログラム」に基づいて執筆されています。

 では、さっそく7月1日発売の新作を見ていきましょう!
 今回、読んだのは『クラスで一番かわいいギャルを餌付けしている話』です。


■作品紹介

 まずあらすじを確認してみましょう。
 文庫本巻末のあらすじでは、以下の通りです。

お兄ちゃん本当に神。無限に食べられちゃう!
今日も教室で同志達とオタク話にいそしむ高一男子、風見鳳理。
彼には秘密がある。モデルもこなすクラスの人気者香月桜は義妹であり、同居中であり、恋人同士なのだ。
学校では鳳理と適度な距離を保ちつつ、鳳理ラブとオタク趣味がバレないように頑張る桜だったが、家ではアニメを見たり、コスプレをしたり、鳳理の手料理を食べたりとラブラブで!
「お魚の煮つけ、おいしー!」
そして今日も楽しい2人の夕食の時間が始まるのだった。

 コンセプトはわかりやすい「ヒロイン一点もの」ですね。これは、ヒロインの属性がそのままコンセプトになり、読者に対してそのヒロインの魅力をどれだけ伝えられるかが肝になるジャンルです。

 特性上、このタイプの作品はラブコメに多く、タイトルからその売りがわかりやすいのが特徴です。

 しかし、後述しますが、この作品は怪作の部類です。

 ミーム化している「オタクに優しいギャル」かと思いきや、「オタク趣味のギャル」であり、またそれだけに留まらない試みがなされていました。

■本作の魅力

 序盤から伝わってきたのが「テンプレから外そう」という強い意思でした。

 まず、「オタク」や「ギャル」といったテンプレ要素について、テンプレ描写で済ませず、メタ認知的な言及がなされていました。

 たとえば、以下のような記述があります。

俺たちが生まれる前から存在する、二〇〇〇年代初期のクラシックなオタク像――好きな者に対する深い知識、収集欲の肯定、爪弾き者としての娯楽自覚をなんとなく孤高に昇華させようと足掻く姿勢――に憧憬を抱いている男。

 凡百の小説ならただ一言「オタク」で済ませる描写をここまで事細かに書き上げるところから、作者の独特な言語感覚が伝わってきます。同様の傾向は「ギャル」に関しても見られました。

 個人的には、小説を読んでいて一番楽しい瞬間です。逆に言えば、ありきたりのものをありきたりな描写で済ませるだけの作品というのは読者になにももたらしませんから、読書体験としての価値がないと思うのですね。
 
 閑話休題。

 つぎに、物語開始時点でヒロインと「同居中であり、恋人同士」だという設定です。
 当然、クラスメイトには秘密であるため、「学校では他人同士のふりをする」というシチュエーションになります。
 通常であれば秘密を守ろうとすると思うのですが、ヒロインの香月桜ちゃんはたびたびオタクグループに属する主人公を「オタクくんさぁ……」といったノリで絡みに来ます。ここにも意外性があります。

「テンプレから外し、意外性を……」というのは、言うのは簡単なのですが、実際にやるのは難しいものです。
 やはり定型には定型の強さがあるから、皆そうするのであって、安易に定型を外すことはプロであればそうそうしないものです。実際、奇をてらおうとして明後日の方向に飛んで行ったアマチュアの小説は、小説投稿サイトにごまんとあります。

 ギャルとオタク、という手垢のついたネタを取り扱いつつも、高いレベルで新たな表現を成功させている快作だといえます。

 ラブコメ好きやラブコメ研究者は間違いなく「買い」の一冊ですよ。

■リンク

Amazon
https://amzn.asia/d/0htGCEkp

めちゃくちゃ売れているようです……これだけの作品ですから、納得ですね。

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