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レーザー彫刻でキーキャップのレジェンドを掘った話

#自作キーボード #自作キーキャップ


概要

PBTキーキャップをプラモデル用の塗料で塗装し、レーザー彫刻機でレジェンドを刻み、カスタマイズしたキーキャップを製作しました。

動機

私は48キーのキーボードを自作し、colemak配列で使用しています。
キーマップのレイヤーは3つあります。
この様なキーボードではキーキャップにはブランクのものを使うしかなく、実際使って来ました。しかし、自作したキーボードを販売したり他人へ提供したりすることを考えたとき、キーレジェンドがないことに引っかかるものを感じていました。
そこでレーザー彫刻機を購入し、ブランクキーに刻印することを考えました。しかし、素材の微妙な差によって結果が大きく異なることが分かりました。
以下の写真はいずれも白色のキーキャップですがレーザー彫刻に結果が異なります。

  • 左のものは綺麗に削れていますが色がなく文字の視認性が悪いです。

  • 中央のものは汚く溶けています。

  • 右のキーキャップは綺麗な黒が出ています。

素材の違いによるレーザー彫刻結果

写真右のキーキャップを安定して調達できれば良かったのですが、あいにく完売となっており同じものを調達することが困難でした。そこで、キーキャップを塗装し、塗料のみをレーザーで削れば良いのではないかと考えました。

加工手順

以下の手順でキーキャップを加工して行きます。殆んどプラモデルの塗装と一緒ですが、一般的にはキーキャップの素材がPBTやABSであるためプライマー塗装が必要となります。

  1. 脱脂

  2. プライマー塗装

  3. カラー塗装

  4. レーザー彫刻

  5. トップコート塗装

以下に各ステップごとの要点を説明します。

1. 脱脂

素材となるキーキャップの表面を綺麗にします。素材に製造時の離型剤などが残っていると塗料が剥がれてしまいます。
私はアルコールを付けたキムワイプで拭いてみました。中性洗剤を使う方法もあるそうですが試したことはありません。

2. プライマー塗装

キーキャップの材質によってはプラモデル用の塗料がのりません。
以下の写真はプライマーなしで塗装した後に、マスキングテープを貼り付けて剥がしたものです。マスキングテープに着いていって塗料が剥がれています。キーキャップの素材はPBTです。

プライマー無しで塗装して剥がれてしまったキーキャップ

これを防ぐために、プラスチック用プライマーというものを最初に塗ります。私は「アサヒペン プラスチック用プライマー(下塗り)」を使用しました。

タミヤからも同様の商品が販売されていますが、アサヒペンの300ml缶の方がコスパが良い様です。これはホームセンターで販売されています。一方、タミヤのものはプラモデル用塗料と同じところで販売されている可能性が高いです。

3. カラー塗装

私はプラモデル用のカラースプレー缶を使用しました。塗料にはプラモデル用以外でホームセンターで販売されている様なものもありますが、色の豊富さからプラモデル用を選択しました。塗面の強度に差があるかも知れません。       
塗料にはスプレー缶以外に瓶に入ったものもありますが、筆塗りよりスプレー缶の方が綺麗に塗れると考えました。大量に製作する事態になったらスプレー缶に代えてエアブラシを導入するかもしれません。
プラモデル用の塗料には水性のものと溶剤系のものがあります。水性のものを使うと、後のトップコートも水性のものを使う必要がある様です。溶剤系の方が乾燥が早いので重ね塗りの作業性が良い様です。また、塗面の強度も強い様で、私は溶剤系のものを使用しました。溶剤が身体に悪そうなので、溶剤系の防毒マスクを着けて作業しました。 

塗装に当たってはプラモデル用の塗装ツールを使用しました。

塗装の様子

塗装中に埃が着いたら、ヤスリで削ってプライマー塗装からやり直しです。

4. レーザー彫刻

キーキャップにレーザー彫刻を施すの当たって重要な2点について説明します。位置決めと、レーザーパラメータです。

■位置決め
レジェンドの位置を正確に指定する必要があります。
以前、私が使用していた分割キーボードを使い一度に3x4個のキーキャップを加工する様にしました。両脇に位置決め用のキーキャップを配置しその外縁に縦線を出力することで、レーザー彫刻機のプレビュー矩形を大きくし位置や傾きを調整しやすくしています。

レーザー彫刻するための治具とキーキャップ

レーザー彫刻機へ入力するデータはベクター形式のSVG形式を使用しました。以下に入力データの例をラスタライズしたものを示します。両端の垂直線が位置決めのためマーカーになります。

レーザー彫刻機へ入力するデータの例(実際にはSVGファイルを使用します)

治具を変えることでキーキャップの側面へも彫刻できます。

側面へレーザー彫刻するための治具

■レーザーパラメータ
制御ソフトによっていろいろ見せ方は有る様ですが、結局のところ、レーザーの焦点である点についてどれだけのレーザー出力でどれだけの時間照射するかということです。LazerPeckerでは照射時間ではなく「堀りの深さ」と表現していますが、照射時間に比例するものと考えています。「スピード」と表現するものもあるようです。スピードは照射時間の逆数に比例します。単純化すると以下の式になります。

照射量=なぞ係数×レーザー強度×照射時間

レーザー強度を半分にしても、照射時間を2倍にしたら結果は同じになりそうです。しかし、そう簡単には行きませんでした。おそらく照射時間を延ばすとレーザーの当たっている周囲の温度も上がり、レーザー焦点を移動した先の実質的な照射量が増えてしまうのでしょう。一方、レーザー強度を上げたときは、レーザー出力0%→100%の立ち上がり性能に影響されるのではないかと考えています。この辺はレーザーパラメータを変えながら良さげな値を探る必要があります。

素材によってはレーザー彫刻によって有毒ガスが発生します。換気に注意し発生したガスを吸い込まないように注意する必要があります。
キッチンの換気扇の下で加工しましたが、キッチンが有毒物質で汚染されるのか、換気が有効なのか微妙なところですw

レーザー彫刻と換気

5. トップコート塗装

最後にトップコートという無色な塗料で塗装して強度を稼ぎます。
プラモデル用のトップコートは、水性/溶剤系と、光沢/つや消しというバリエーションがあります。私は、溶剤系のつや消しを使用しました。カラー塗装と同じ理由で作業性と強度を取りました。

トップコート塗料には車用のもの等もあります。プラモデル用より強力なのかどうか確認はしていません。そもそもキーキャップとしてプラモデル用のトップコートの強度・経年劣化については未知数です。

出来たもの

私は配色に関してはまったくの素人なので参考になる良いものがあればと探したところ、某量産機向けのカラースプレー一式を見つけました。プロが設計した配色ですから安心です。

某量産機カラーのキーキャップ
MS06カラーのキーキャップ
  • GSIクレオス ガンダムカラースプレー SG06 MSグリーン

  • GSIクレオス ガンダムカラースプレー SG07 MSディープグリーン

  • タミヤカラースプレー TS-67 佐世保海軍工廠グレイ(日本海軍)

  • タミヤカラースプレー TS-34 キャメルイエロー

  • タミヤカラースプレー TS-14 ブラック

以下は、当初考えていた、グレー系のホームポジションを強調したキーキャップです。

グレー系のキーキャップ
  • タミヤカラースプレー TS-81 ロイヤルサイトグレー

  • タミヤカラースプレー TS-67 佐世保海軍工廠グレイ(日本海軍)

  • タミヤカラースプレー TS-34 キャメルイエロー

  • Mr.カラースプレー 75 メタリックレッド

写真のキーボードはこちらで紹介しています。https://note.com/herniankb/n/nf47b07137ff5

評価

プラモデル用の塗料を使うことで色の選択肢が多くなります。
家庭用レーザー彫刻機でキーキャップに十分に精細な加工を施せました。
耐久性についてはまだ未知数です。1週間使ったところでは顕著な変化は有りません。ただし、キーキャッププラーで雑に引っ掻いたら塗装が剥がれてしまいました。

今後の展望

真面目なレジェンドを作れることが分かったので、今後はキートップ全面を使って線画を描いてみたいです。痛キーです。
そのためにはXDAプロファイルではキートップ間のすき間が大きすぎます。F10プロファイルが良さそうです。発注したのでそのうちトライしてみます。ちょっと高いです…


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