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ハルクウーベン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち〜

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オールドスクールファンタジー世界『ハルクウーべン』のモンスターや種族を詳しく紹介するクリーチャーガイドブック。
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#短編小説

ハルクウーベン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち〜 序章&項目一覧(2024年7月更新)

『ハルクウーべン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち』は、オールドスクールファンタジー世界『ハルクウーべン』に住まう様々な種族やモンスターたちを紹介するnoteマガジンだ。 ここで記される様々な事物を突き止めるため、多くの冒険者や探検家、魔術師、そして学者たちが多大な労苦と時間を費やし、また時に道半ばで命を落とした。原本はハルクウーベンに住む人々の言葉で書かれているため、それを我々の言葉に訳し、君に届けるのは何大抵のことではないが、これから時間をかけて少しずつ、しかし着実に掲

短編読物:野伏マルドゥクの憂鬱

北方の流れ者ガルス、遍歴の行にある聖職者アレクセイ、青年魔術師アルドレドの三人は、放浪の野伏マルドゥクに従い、冒険者として各地を渡り歩いている。すでに何度か仕事をこなしているが、まだ一行の結束は固くはない。いや……より正確に言えば、そりの合わない者が二人いた。ガルスとアルドレドだ。 それぞれに有能で、どちらもマルドゥクとアレクセイには信を置いている。だが、当人同士がどうにも合わない。白ケ原に生まれ、傭兵として各地を渡り歩いてきた戦士ガルスは、マルドゥクが組んで久しい無二の相

短編読物:どんぐりの木の下で

一日の仕事を終えて食卓についたボリスは、母にようやく、自分の考えを伝えることができました。今まで何度も口にのぼせては、そのたびにはぐらかされてきましたが、今夜ようやく、母はボリスの話を最後まで聞いてくれたのです。 言い終わったボリスが冷たくなったお茶をすすると、母はため息をつき、悲しそうな声でボリスに言いました。 「おまえはまたそんなことを言うのかい。ここにいれば、おまえはずっと安穏に暮らせるんだよ、ボリス」 「おまえは、里の学校を一番の成績で卒業したじゃないか。どうし

短編読物:はなれ森の王

折からの西風が窓に叩きつけ、窓枠のせわしない軋みが室内の空気をかき乱していた。本陣にしている空き家の柱が悲鳴を上げている。蝋燭の灯が隙間風に煽られて右へ左へと踊るのを、グルッソは灰色の目で見つめていた。 襲撃の準備は万端だった。北側の細い吊り橋を除き、四方の橋は全て落としてある。今や、メーゾルの町は丸裸だ。メーゾルはその高い防壁で外敵の襲撃を堪えてきたが、それも今日で終わる。この季節になると吹くこの強風を待っていたのだ。町壁はしょせん木造りでしかない。空気が乾燥している中、

短編読物:帝国軍将たちの群像

大広間の窓から見える城外の光景に、ガルソーグ卿は顔をしかめた。泣き叫ぶ民衆をオークどもが追い回し、城下の略奪を始めているではないか。大広間で隊伍を組み直す部下たちへ向き直るや、黒騎士は大音声で呼びかけた。 「皆の衆、ご苦労。城は落ちたが、伏兵が残っているやもしれぬ。まだ予断はならぬぞ。して、ドゥルクスはおるか」 「御前に、閣下」 「第四軍の愚行を今すぐやめさせよ。あのふしだらな女妖術師め、軍将にもなってまだ理を解さぬと見える」 「御意。閣下のお言葉、第四軍将どのに申し上げて

短編読物:北方古墳の墓荒らし

ピートルとカルロスは名うての盗掘者だ。神聖アルフモート王国と大ズンゲールサン帝国を隔てる白鷺山脈の南側……王国北部国境の山麓部……に点在する北方人の古墳群を掘り返しては財宝をかっさらい、故買商たちに売りさばくのが二人の生業である。 その名前でわかるように、ピートルとカルロスはもともとレリエ公国の出身だ。のっぴきならぬ理由で国から逃げ出したこの二人は、めぐみ川を下ってケイポンへいたり、内ケ海さえも渡ってアルフモートへ流れついたのである。かれこれ十年近く、二人は古墳の盗掘専門で

短編読物:トロールのなかよし兄弟

「なあ、スナッパ。おれはやっぱり、なっとくできねえんだ。かんがえたけど、やっぱ、へんだ。よう、スナッパよう。おきろよう」 ボルゴに耳元で話しかけられ、スナッパは心地よい眠りを諦めねばならなくなった。ドゥームゴブリン部族「悪どい大目玉」の用心棒として、洞穴の入口守備を引き受けてから一月。数日に一度の頻度で、兄は同じ話を蒸し返しているのだ。右手で目を擦りながら、スナッパは忌々しげに口を開いた。 「……ボルゴ兄さん、またかよ。何事かと起きてみりゃあ、またその話か……何度話し合え