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ハルクウーベン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち〜

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オールドスクールファンタジー世界『ハルクウーべン』のモンスターや種族を詳しく紹介するクリーチャーガイドブック。
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#ハルクウーベン

ハルクウーベン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち〜 序章&項目一覧(2024年7月更新)

『ハルクウーべン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち』は、オールドスクールファンタジー世界『ハルクウーべン』に住まう様々な種族やモンスターたちを紹介するnoteマガジンだ。 ここで記される様々な事物を突き止めるため、多くの冒険者や探検家、魔術師、そして学者たちが多大な労苦と時間を費やし、また時に道半ばで命を落とした。原本はハルクウーベンに住む人々の言葉で書かれているため、それを我々の言葉に訳し、君に届けるのは何大抵のことではないが、これから時間をかけて少しずつ、しかし着実に掲

種族解説:オウルベア

オウルベア。その名前が示す通り、フクロウと熊が合わさったような外見の猛獣で、昼なお暗き森の内奥に暮らす。この獣がいつハルクウーベンに現れたかは定かでないが、ロメノール(神聖アルフモート始祖王家に血脈を継ぐ古王国)の玉座には梟熊、すなわちオウルベアの毛皮が敷かれていたというから、上古の時代にはすでに珍しい獣として知られていたようだ。 本項の記述は、森林生物の研究者として広くその名を知られるハウプト・ホーデマークの研究によるところが大きい。ホーデマークは神聖アルフモート王国東部

種族解説:ズノート

ズノートは醜く、見るからに邪悪な外見であるにも関わらず、上等な装備を身につけ、聡明に言葉を話す豚面の亜人種として人間の目に映る。人間よりもがめつく、エルフよりも秘密主義で、ドワーフよりも蓄財を好むこの種族は、薄明の時代において突如として広がり、ハルクウーベン全土で暗躍を始めた。 他種族から長らく「オーク豚」の蔑称で呼ばれ続けているこの種族は、確かにオークめいた体躯を持ち、豚のごとき顔をしてはいるが、実際のところオークとまったく無縁だし、豚とも一切関わりがない。この蔑称は、も

種族解説:ドラゴン(およびその眷属)

ドラゴンと人の関わりは、今やほとんど消失してしまった。上古よりも前の時代…太古においてドラゴンは様々な種族と関わりを持ったが、それらの記憶はあまりに遠い過去のことだ。こんにち、文明社会で暮らす人々が一生のうちで本物のドラゴンを目にすることはほとんどない…君がとてつもない不運か幸運の持ち主でない限りは。 しかし、ドラゴンとその系譜に連なる者たちの研究はかなり早くからなされてきた。その白眉といえば、ケイポンの竜学者ガイルースによって編纂された名著『竜王とその名を継承せるものたち

種族解説:トロール(およびその亜種)

トロールははるか昔から現在に至るまでハルクウーベンに棲まう怪物だ。それなりに研究も進んでいる。その生息場所によって細かく分類され、生態もかなり判明しているため、読者諸君にとってはかなり信憑性の高い資料となるだろう。 本稿に収載された情報の多くは、トロール研究の草分けである学者イブリースの編纂した『穴から伸びた影の秘聞』に依るところが大きい。なお、イブリースはサレクロフトにおける霜トロール捜索中、野人に襲われてその生涯を終えた。 *** トロールに関する記録で最古のものは

種族解説:モングレル

モングレル。より直接的な言い方をすれば“混ぜこぜ”となる。元は家畜の異種交配で生まれた雑種を指す語の一つだったが、モングレルという名が、かの呪われし変異者を指す蔑称に変じて久しい。 モングレルとは、人ならざる生物の外見的特徴を併せ持つ人間をさす。その姿はまさに奇怪そのもので、人間の両親から生まれたとはにわかに信じがたいものだ。モングレルの抱える変異相は、身体の奇形や欠損といったものではない。最も多いのは体の一部が他の生物に置き換わっているというもので、下半身が獣の後足であっ

種族解説:ノーム

ノームはドワーフの遠い親戚にあたる種族で、両者には多くの共通点がある。どちらも人間より背が低く、男性はひげを生やし、岩屋に暮らしていて、見た目よりずっと器用に動く指で細工物をこしらえるのが上手だ。ゆえにこの世界に住まう多くの人間は、ノームとドワーフの違いをほとんど理解できていないし、しようともしていない。 実際のところ、一部の知ったかぶりが勘違いしているように、ノームは単に生活習慣の異なるドワーフ民族では断じてない。気質や性格、文化と思想において、両者には大きな隔たりがある

種族解説:リッチー

この世に生を受けし者に等しく訪れるもの。それが逃れえぬ死の宿命である。人間はむろん、彼らより遥かに長い寿命を持つドワーフやエルフでさえ、いずれは訪れる死から逃れる術はない。 不死への憧憬。それはこと人間たちの間で根強い。他の種族でも葬儀や供養の習慣はあるが、人間たちの編み出した葬祭文化たるや、他種族とは全く別次元の込み入りようだ。宗教や時代、地域ごとの差異こそ大きいが、多くの人々はいずれも死後の安寧のみならず、魂の転生や死からの帰還さえ信じている。 この暗き時代にあって、

種族解説:エルフ

エルフは古き種族であり、ドワーフよりも早くハルクウーベンに栄えた民である。彼らは歌と星空を愛し、秩序だった世界を求める種族だ。上古よりも昔の時代…まだ人間が文字はおろか、言葉さえ知らなかった太古の黎明において、人の子らに言葉と歌を贈ったのがエルフであると伝わる。人間は、エルフやドワーフといった種族の助力があってこそ生存し、文化文明を発達させるにいたった。野人が昔ながらの暮らしをそのまま送っているのを見れば、文明諸国を興した人間の先人たちがエルフやドワーフから施された恩恵がいか

種族解説:ゴーレム

上古に生きた人間たちは、現在よりもはるかに高度な文明を築いていた。だが、この真実はほとんどの人々に知られていない。 庶民はおろか王侯貴族に至るまで、現在こそがもっとも文明が進歩している時代と信じて疑わないのは、彼らが愚かなせいではあるまい。為政者たちにとってはむろん、庶民たちでさえ、自分たちの暮らしが過去に劣るとは信じがたいことなのだ。 考古学者や魔術師、そして墓荒らしたちはこの事実を知っているものの、彼らが取り立ててそれを喧伝することはない。学者や魔術師たちは、現在の退

種族解説:コールド・ドレイク

上古の終わり……この世に〈深淵〉が溢れ出た〈大崩落〉にあって、種族の存続を投げうって諸種族と世界を滅亡から救ったのは、他ならぬドラゴンたちであったと歴史書は伝える。確かに〈奈落〉の蓋は閉じられたが、その代償としてドラゴンは筆頭者である竜王らを喪い、種族として大きく衰退を遂げた。 〈大崩落〉後に続いた薄明の時代はまさに悲惨であった。ドワーフは岩戸の奥へ引きこもり、エルフは世の行く末に絶望して森へ還った。そして人間の古き諸王国はことごとく滅びるか分裂して名を変え、人の暮らしはか

種族解説:ミミック

ミミック、すなわち“擬態せるもの”に関する記録は古い。上古に栄えた国ヘイデリアで記された粘土板に“人食い箱に食われた王女”の記述がある。つまり今から約四千年前に、ミミックに人間が接触した(と言うよりも喰われた)記録がしたためられているのだ。 現在ミミックは、魔術師や学者の間でこそ存在を知られてはいるが、人々の間で、この恐ろしい魔物はほとんど、あるいはまったく知られていない。オークやゴブリン、ノールやコボルド、ドワーフやエルフといった種族は別としても、同族ならざる者たちの存在

種族解説:サハギン

サハギンと呼ばれるこの種族は、ハルクウーベンを囲う海で栄える、謎と恐怖に満ちた水生人間の一種だ。その性質は邪悪にして凶暴で、人間の言葉は話さない。 サハギンが暮らすのは、大陸東部から南部にかけての、比較的温暖な海域である。サハギンの生活圏はもっぱら海中で、それゆえハルクウーべンの陸上に住まう者たちとほとんど関わりはないが、無縁ではない。沿岸を離れすぎて沖に出た漁船や交易船は、時折サハギンによる襲撃に遭遇することになろう。一度や二度ではなく、船が沈むまで何度もだ。ゆえに船乗り

短編読物:はなれ森の王

折からの西風が窓に叩きつけ、窓枠のせわしない軋みが室内の空気をかき乱していた。本陣にしている空き家の柱が悲鳴を上げている。蝋燭の灯が隙間風に煽られて右へ左へと踊るのを、グルッソは灰色の目で見つめていた。 襲撃の準備は万端だった。北側の細い吊り橋を除き、四方の橋は全て落としてある。今や、メーゾルの町は丸裸だ。メーゾルはその高い防壁で外敵の襲撃を堪えてきたが、それも今日で終わる。この季節になると吹くこの強風を待っていたのだ。町壁はしょせん木造りでしかない。空気が乾燥している中、