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ハルクウーベン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち〜

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オールドスクールファンタジー世界『ハルクウーべン』のモンスターや種族を詳しく紹介するクリーチャーガイドブック。
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#オールドスクールファンタジー

ハルクウーベン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち〜 序章&項目一覧(2024年7月更新)

『ハルクウーべン博物誌〜ファンタジー世界の住人たち』は、オールドスクールファンタジー世界『ハルクウーべン』に住まう様々な種族やモンスターたちを紹介するnoteマガジンだ。 ここで記される様々な事物を突き止めるため、多くの冒険者や探検家、魔術師、そして学者たちが多大な労苦と時間を費やし、また時に道半ばで命を落とした。原本はハルクウーベンに住む人々の言葉で書かれているため、それを我々の言葉に訳し、君に届けるのは何大抵のことではないが、これから時間をかけて少しずつ、しかし着実に掲

短編読物:野伏マルドゥクの憂鬱

北方の流れ者ガルス、遍歴の行にある聖職者アレクセイ、青年魔術師アルドレドの三人は、放浪の野伏マルドゥクに従い、冒険者として各地を渡り歩いている。すでに何度か仕事をこなしているが、まだ一行の結束は固くはない。いや……より正確に言えば、そりの合わない者が二人いた。ガルスとアルドレドだ。 それぞれに有能で、どちらもマルドゥクとアレクセイには信を置いている。だが、当人同士がどうにも合わない。白ケ原に生まれ、傭兵として各地を渡り歩いてきた戦士ガルスは、マルドゥクが組んで久しい無二の相

種族解説:エルフ

エルフは古き種族であり、ドワーフよりも早くハルクウーベンに栄えた民である。彼らは歌と星空を愛し、秩序だった世界を求める種族だ。上古よりも昔の時代…まだ人間が文字はおろか、言葉さえ知らなかった太古の黎明において、人の子らに言葉と歌を贈ったのがエルフであると伝わる。人間は、エルフやドワーフといった種族の助力があってこそ生存し、文化文明を発達させるにいたった。野人が昔ながらの暮らしをそのまま送っているのを見れば、文明諸国を興した人間の先人たちがエルフやドワーフから施された恩恵がいか

種族解説:ゴーレム

上古に生きた人間たちは、現在よりもはるかに高度な文明を築いていた。だが、この真実はほとんどの人々に知られていない。 庶民はおろか王侯貴族に至るまで、現在こそがもっとも文明が進歩している時代と信じて疑わないのは、彼らが愚かなせいではあるまい。為政者たちにとってはむろん、庶民たちでさえ、自分たちの暮らしが過去に劣るとは信じがたいことなのだ。 考古学者や魔術師、そして墓荒らしたちはこの事実を知っているものの、彼らが取り立ててそれを喧伝することはない。学者や魔術師たちは、現在の退

種族解説:コールド・ドレイク

上古の終わり……この世に〈深淵〉が溢れ出た〈大崩落〉にあって、種族の存続を投げうって諸種族と世界を滅亡から救ったのは、他ならぬドラゴンたちであったと歴史書は伝える。確かに〈奈落〉の蓋は閉じられたが、その代償としてドラゴンは筆頭者である竜王らを喪い、種族として大きく衰退を遂げた。 〈大崩落〉後に続いた薄明の時代はまさに悲惨であった。ドワーフは岩戸の奥へ引きこもり、エルフは世の行く末に絶望して森へ還った。そして人間の古き諸王国はことごとく滅びるか分裂して名を変え、人の暮らしはか

短編読物:どんぐりの木の下で

一日の仕事を終えて食卓についたボリスは、母にようやく、自分の考えを伝えることができました。今まで何度も口にのぼせては、そのたびにはぐらかされてきましたが、今夜ようやく、母はボリスの話を最後まで聞いてくれたのです。 言い終わったボリスが冷たくなったお茶をすすると、母はため息をつき、悲しそうな声でボリスに言いました。 「おまえはまたそんなことを言うのかい。ここにいれば、おまえはずっと安穏に暮らせるんだよ、ボリス」 「おまえは、里の学校を一番の成績で卒業したじゃないか。どうし

種族解説:ミミック

ミミック、すなわち“擬態せるもの”に関する記録は古い。上古に栄えた国ヘイデリアで記された粘土板に“人食い箱に食われた王女”の記述がある。つまり今から約四千年前に、ミミックに人間が接触した(と言うよりも喰われた)記録がしたためられているのだ。 現在ミミックは、魔術師や学者の間でこそ存在を知られてはいるが、人々の間で、この恐ろしい魔物はほとんど、あるいはまったく知られていない。オークやゴブリン、ノールやコボルド、ドワーフやエルフといった種族は別としても、同族ならざる者たちの存在

種族解説:ゴブリン

ゴブリン。数の上では人間と同じかそれ以上に栄える種族であり、その生活圏は大陸全土に及ぶ。ゆえにその親類も多く、研究が進んでいないものを含めれば、数十種にのぼるゴブリンが現在でも栄え、その分類は近年ますます複雑化しているようだ。ここでは、大陸全土の平野部や山林で見られる最も一般的なゴブリンたち...コモン・ゴブリンを例に、ゴブリンがおしなべてどのような種族であるかを解説しよう。 ゴブリンの背丈はドワーフと同じくらいで、細い手足を持つ。実のところ、人間の成人男性と同じかそれ以上

種族解説:バグベア

この巨大で毛むくじゃらの凶暴な種族がバグベアと呼ばれるようになったのには諸説あるが、おそらく古語由来であろう。今では話す者もいなくなった古の西方語(アルフモート古語の一種)で“燃やす”をバーグ、“けだもの”をボルアと言うが、村々を襲っては火をかけて回った人もどきをバーグボルアと名付け、これが訛ってバグベアとなった、という説がもっとも有力だ。この「古代西方語由来説」は、バグベア及びノール研究の権威たるケイポンの学者デンヴァンが提唱したものである。デンヴァンの著作『ヘネテガルトの

種族解説:ドラウグル

ドラウグルは恐ろしいアンデッドだ。〈冥王〉の支配下になく、また、死霊術師やヴァンパイア、あるいはリッチーといった〈不死なる君主〉に従属する訳でもない。いわば、上位者の存在しないアンデッドである。 ドラウグルは上古の昔に葬られた北方の英雄や豪族、あるいは主君のために殉死した近臣の成れの果てだ。上古のころ、北方の王や英雄の遺体は、丁寧な防腐処理を施され、多数の殉死者と共に埋葬された。神聖アルフモート王国東部から北部に点在する古墳群は、多くが北方人のものである。 スケルトンやゾ

短編読物:帝国軍将たちの群像

大広間の窓から見える城外の光景に、ガルソーグ卿は顔をしかめた。泣き叫ぶ民衆をオークどもが追い回し、城下の略奪を始めているではないか。大広間で隊伍を組み直す部下たちへ向き直るや、黒騎士は大音声で呼びかけた。 「皆の衆、ご苦労。城は落ちたが、伏兵が残っているやもしれぬ。まだ予断はならぬぞ。して、ドゥルクスはおるか」 「御前に、閣下」 「第四軍の愚行を今すぐやめさせよ。あのふしだらな女妖術師め、軍将にもなってまだ理を解さぬと見える」 「御意。閣下のお言葉、第四軍将どのに申し上げて

種族解説:バーバリアン

「野人」とは、文明諸国の間では“未開”とされる北の辺境で暮らす人間にあてられた呼び名だ。彼らは、文明諸国の“進歩”した暮らしを知らぬ代わりに、南方人が忘れ去ったものを今なお備える人々である。しらなみ海峡の北に広がる白ケ原、白鷺山脈を北に越えた先にあるサレクロフトに住まう人々が、諸国における野人の代名詞だ。 無論、文明諸国の支配が及ばぬのは北方だけではない。極東の荒れ野ハラクマーンや帯草原、あるいは南方のパポライカ諸島や熱極密林にも、諸国の支配が及ばぬ人々が暮らしている。北方

短編読物:トロールのなかよし兄弟

「なあ、スナッパ。おれはやっぱり、なっとくできねえんだ。かんがえたけど、やっぱ、へんだ。よう、スナッパよう。おきろよう」 ボルゴに耳元で話しかけられ、スナッパは心地よい眠りを諦めねばならなくなった。ドゥームゴブリン部族「悪どい大目玉」の用心棒として、洞穴の入口守備を引き受けてから一月。数日に一度の頻度で、兄は同じ話を蒸し返しているのだ。右手で目を擦りながら、スナッパは忌々しげに口を開いた。 「……ボルゴ兄さん、またかよ。何事かと起きてみりゃあ、またその話か……何度話し合え

種族解説:ドワーフ

ドワーフ。彼らの言葉にならえば「ガルトワッフェン」...は、丘陵や山をくりぬいた岩屋に住む種族である。彼らは自身の岩屋を「砦町」と呼びならしめており、往時の栄光はないにせよ、大陸の至るところにドワーフの砦町が残っている。砦町にはそれぞれ王がおり、砦町の同郷意識は、人間やエルフのそれとは比較にならないほど強い。 ドワーフの背は人間より低いが、がっしりとした体型で、体力もあり頑健だ。男は豊かな髭をたくわえ、女は髪を長く伸ばす。彼らは優れた採掘者であり、建築家であり、並ぶものなき