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橘玲 永遠の旅行者(下)を読んで

1. はじめに

お久しぶりです、佐々木です。

10日ほどぶりの更新となりました。

ここまで期間が空いてしまうと、いざ書くのを再開して何から書き始めればよいのかわからなくなりますね。反省です。

そんな状況だったので、そういえばまだ書いていなかった、書評について書きたいと思います。

2.  本紹介

なんの本についてかと言うと、橘玲さんの「永遠の旅行者(下)」という本です。

この本は上下巻セットであり、以前私は上巻についての書評を書きました。

下巻については一ヶ月ほど前に読んでいたのですが、そういえばこれ読みっぱなしだったなと思ったので、ここでまとめておきたいと思います。

3. 内容

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上巻
元弁護士・真鍋に、見知らぬ老人麻生から手紙が届く。「二十億の資産を息子ではなく孫に相続させたい。ただし一円も納税せずに」重態の麻生は余命わずか、息子悠介は百五十億の負債で失踪中、十六歳の孫まゆは朽ちた家に引きこもり、不審人物が跋扈する。そのとき、かつてシベリア抑留者だった麻生に殺人疑惑が浮上した――。謎とスリルの上巻。

下巻
まゆは幼い頃に母を殺された未解決事件にまだ苦しんでいた。アメリカで失踪した悠介の居場所はつかめない。麻生の死期は迫る。真鍋には時間がなかった。そもそも麻生はなぜ無税の相続に拘るのか? そして、まゆが何者かに誘拐された――。人間の欲望と絶望、金と愛情、人生の意味までを、大胆かつ繊細に描ききった新世代の『罪と罰』完結!
           
          (amazon紹介ページより)
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4. 独断ポイント

登場人物の資産家(20億)は、本中で"麻生老人"と呼ばれたり、麒一郎(名前)で呼ばれたりしているのですが、ここではわかりやすく麻生老人で統一します。

この本を読みながら、というか上巻を読んでいた時からずっと思っていた事があり、それが、

「麻生老人って実在した人物の誰かに似てないか??」

と言う事でした。

ずっと答えが出なかったのですが、ふとした事でわかりました。

そうだ、中内㓛だ。

知らない方のために紹介すると、中内功は、スーパー・ダイエーの創業者です。

「ダイエー...??」

と思った私と同世代の方、下の企業マークを見れば、特に都心部に住んでいる方だったら「あー」となるのではないでしょうか??

               (参照)


私が中内氏のことを知ったきっかけは、大学受験がおわり、やっと心置きなく本が読めるという頃でした。

高校まで住んでいた静岡の田舎にはダイエーがなく、もちろん中内㓛なんて誰か知りませんでしたが、とにかく時間がたくさんありましたので、ちょうど本棚にあったこの本を読んでみることにしました。

読んだのがかなり前になりますが、なんとなく覚えている一節で、次のようなものがありました。

"中内は戦争でフィリピンへ送り込まれ、そこで極限の飢餓を味わった。
戦地から帰国した中内は、まるで別人のようになってしまった"

というものです。

ダイエーのトップであった中内氏の"人間不信"は、この戦争が原因だったのではないかと言われております。

「永遠の旅行者」のなかで、麻生老人はソ連へ徴兵され、そこで文字通り地獄を見た、そこから人間不信になったという描写がされておりましたが、そこを含めた周辺描写が中内㓛と重なったのだと思います。

また、本書に登場する、同じく戦争に参加した佐鳴老人の、

「わしはこの国(日本)を、心の底から恨んでおる」

という発言も、印象に残りました。

この3者(中内氏、麻生老人、佐鳴老人)に表向きに共通していることは、

①戦争経験&生き残った
➁戦後日本の発展を支えた

となるのでしょうが、裏向きにはそれぞれどのような感情だったのかはさまざまです。

戦後から74年が経とうとし、今年もあと4日で、「原爆の日」を迎えます。

戦争開始〜原爆投下から全面降伏までを戦中、降伏後を戦後と呼ぶのなら、

戦中は、戦争をどのように、またどういう気持ちで生き抜いたのかという、"個人"には焦点を当てず、大きな"時代"として捉えているような気がします。

その理由は、色々と思いつくのですが、その一つに、日本政府が戦争へ参加した、また命からがら帰還した国民へ目を向けることを恐れた結果なのではないかと思うのです。

まさか戦争で散々な目に遭った人も、また戦死して一家の大黒柱を失った家族にしてみても、日本万歳、とはならないでしょう。

本書に出てきた佐鳴老人同様、国を憎んだ人も大いにいたでしょう。

それは、今問題が再燃している韓国も同じだと思います。

というか戦争を経験した国はどこも同じ。

そういった、国を恨んだ一部の人たちが税金を払わなくなったり、五・一五事件のように反乱を起こされることを恐れ、国は戦争参加者を敬い、敵国を憎い宿敵とみなし、怒りの矛先が自国へ向かないようにしたのでしょう。

...と、話が大幅にずれてしまいました。

相続に関わらず、生きていく上で様々な税金を納めることは避けては通れません。

戦争によってすべてを失い、そこから数十年間の奇跡的な発展を支えてきた人たちが、心のどこかでは国を恨んでいたのだとしたら(それがどのくらいの規模なのかはわかりませんが、)切ないことだと思います。

物語の面白さもさることながら、"相続✖️戦争経験者"の組み合わせにある人がどんなことを考えていたのかも考えさせてくれたという意味でも、面白い本だったと思います。

本日はこの辺で。

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