ある人生の妄想(タクシー運転手さん)
時間を間違えて、タクシーに飛び乗る。
タクシーの運転手さん、時々話しかけてくる。
夏になるとカレーメニューが充実するねー、とか、最近のファミリーレストランがねー、とか。
私は比較的、タクシー運転手さんには寛容。話しかけられれば、基本は聞く。
続く話、そしてふと、前にたつビルを見て、
あ、チャコット、ここに移動したんだ。と。
チャコットとは知る人ぞ知るバレエを中心とするダンス衣装の専門店。
推定年齢50代後半の彼が目ざとく見つけたことはかなり渋い。
その話はまだ続いた。
チャコットは、殆どバレエの衣装ですよ、アイススケートの衣装とかないから、みんな作ってますよ、など。
私の頭の中の彼像が膨らむ。あー、きっと
アイススケートやってる娘さんがいるのね、衣装で苦労したのね、と。
作るの大変ですね、と言ったら、いや、いい縫製工場捕まえれば大丈夫、あの衣装は生地が意外と硬いから、三種類のミシンが必要でうんぬんかんぬん、、、と、
あら、お父さん、結構真面目に娘さんの衣装担当やってたのかしら?と印象が変わる。
ダンスの衣装あるでしょ?あれ昔は、結構単純だったし、着替えも大変だったんだよ、最近のはすごいファッショナブルでしょ?、など会話は続く。
へーとかほーとか、相槌うっていた。
レオタード、あれ、知ってる?最近は股のところ、ドットボタンついてるの。
んん?なんだ?股のドットボタン??なんだなんだ?
あれさ、昔は脱ぐの大変だったんだよーいちいち。
ほー、なんだかもはや、彼の印象が娘さんの衣装担当を超えた。
昔さ、言われたの、脱ぐの大変なのって。
ほー、そうきたか。私に対するセクハラなのか?!以前モテた自慢話なのか?!
そこで、私の行き先に到着。
私は、なんと相槌うっていいかわからない。
はーそれはー、、(そんなお話があったのですねー、)と、言おうとした。
そして彼は、料金払う時に初めてくるりとこちらを振り向き、こういった。
でね、そのニーズを知って、私が日本で初めてその衣装にドットボタンつけたの!
私、昔ダンスの衣装屋経営しててね、日本で初めてドットボタンのレオタード出したのも私、日本で初めてダンス衣装をファッショナブルに売り出したのも私!
意気揚々と語った彼の髪型はタクシーの運転手らしからぬ、七三分けポマード止め。
え!そんな話?!と半ばズッコケながらも、ついつい、興味を惹かれ、タクシー降りてから、最後に首突っ込んで聞いた。
それいつ頃のお話ですか?
昭和60年ごろ。
彼は即答。
・・・なるほど。
彼の生きたバブル時代が一瞬頭をよぎった。
なんとなくそこからの彼の10年などが想像できた。
ふっと、感じたタクシー運転手さんの人生。
色んな人が生きている。
そんな事、感じるのがとても好き。
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