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台湾 | 大学院での講義【Vol.71】

台湾で高齢化社会に向けたセミナーを開催したり、雑誌社主催セミナーの企画・登壇をしてきましたが、それらには大学・研究機関の先生方も多く参加してくださいました。

台湾國立台北科技大学院の建築系学部で高齢者施設関係の教鞭を取る蔡先生もセミナーにお越し下さっていて、大学で講義してほしいとオファーをいただきます。

初講義の日、授業に先立って学部長といろいろお話しをするのですが、私のこれまでの海外での経験にも興味があるそうで、介護施設のみならず海外の経験も学生たちに伝えてほしいとの事で、台湾は小さな島国でマーケットが小さいので台湾政府も企業の海外進出を積極的に後押ししており、その流れで今後はデザイナーも海外で対応できないといけないので、大学でグローバル人材を育成する必要があるのでしょう。
日本は内需の国でグローバルな教育がほとんどされていませんが、台湾のようなグローバルな国では私の経験が活きていくのでしょう。

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さて、大学での初講義ですが、私はあまり難しく考えていなかったのですが、蓋を開けてみると台湾建築界の重鎮が続々と教室に入ってきます。
教室の1/3程がこれらのプロで「おいおい、学生向けとちゃうんかい」と心の中で呟くのですが、蔡先生がお声がけされたそうで、まあプロが聞いてくださっても全く問題ありません。

日本の介護保険制度や高齢者施設の概要などの成り立ちや仕組みを丁寧に紹介し、日本での私の設計事例を通してデザインのポイントを説明し、日本で話題の施設なども紹介します。
真似すべきところ、逆に真似してはいけないところも掻い摘んで伝えるのですが、私は中国語がわかりませんので、日本の大学院に留学していた日本語が話せる優秀な建築デザイナーの弊社台湾スタッフKさんが翻訳してくれるのですが、介護関係の講義は専門用語が連発するので通訳は大変だと思います。

実は日本の高齢者施設はオペレーション目線では機能的ですが、建設コストを重視するあまり病院建築のように殺風景なデザインになりがちで、台湾や中国から日本の施設見学に来られても「なにこれ?」な感じで、装飾を好む国民性も相まってどこの施設に行ってもデザイン面で感動される事はまずありません。
床はビニル系シート、壁と天井はビニルクロス、特に装飾もなく、冷静に考えてみれば、とても高齢者にとって居心地の良い住まいを提供しているとは言えません。病室と同じです。
私は日本の機能性やシステム面の設計は参考にすべきだと思いますが、高齢者の居住空間としてデザイン面では真似してほしくないとはっきりと伝えます。

制度設計の背景や事業規模観が異なるので、日本を参考にするのも良いですが中国も日本を真似てトライアンドエラーを繰り返して独自の高齢者施設が確立されつつあるので、中国も参考にした方が台湾のこれからに近いので、いいとこ取りをした方が良いと伝えます。
私なりに中国の介護施設の状況把握はしているので、海外での日本の優位性はこの分野では現実的に人的ホスピタリティー面しか無くなってきているのです。

そうは言っても、大学の授業なので学生はテクニック論を学びに来ている部分があるので、講義時間は限られていますが技術的な部分も伝えるように配慮し、グローバル人材育成の目線では海外の情報を取るように心がけ、設計職人にならずに経営感覚も身につけておいた方が良いとアドバイスをします。

初講義時はプロもたくさん来ていたので、最後はほとんどプロから専門的な質問の連発ですが、結構この時間は重要で、本当に台湾でほしい情報や課題はプロ目線では何なのか理解することができます。
データ的な情報がほしいと言われる事もあるので、それは後日提供して、皆さんの課題解決のために努めます。

毎日台湾にいるわけではありませんので、非常勤という立場でこの後講師を続けることになるのですが、セミナーでも大学でも講師は資料を作るのが大変ですが、学生も國立とは言え高い授業を払っているので大学のお客様です。講師も僅かでも報酬をいただいているプロなので学生の満足度の高い講義をしないといけません。
本来であればガッツリ講義ができれば良いのですが、まあそこは台湾に通う身なので仕方ありません。
それでも、時には知人の日本人専門家を招いてリアルな講義をしてもらって、他大学では聞けない授業も受けてもらっています。

大学主催の高齢化社会学術討論会にも講師として登壇させていただき、これは一般にも開放しているセミナーで、台湾の高齢化社会の発展などに興味がある人は誰でも受講できます。
台湾の発展に貢献できますし、各分野のプロ、他大学の先生とのご縁も増えていくので、中長期なスパンで考えれば、大学の授業もセミナー講師も私自身にとってはメリットのある事だと信じて取り組んでいます。

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また、蔡先生のご友人が「台湾建築Ta」という老舗建築専門誌の発行に携わっていて、私は日本の最新事例紹介や記事提供もさせていただき、弊社台湾スタッフKさんは翻訳が大変だったようですが、こちらは建築家向け雑誌なのでより専門的な情報になりますが、台湾の高齢化社会の発展に役立ててもらえるなら、このような形での関わりも良い事だと考えています。

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台湾で高齢化社会の情報発信を様々なところで行うのですが、なぜ台湾はこんなに日本や他国の情報を欲しがるのだろうと思うでしょうが、私が現地で感じたのは、台湾は日本よりも意外と情報がクローズされていて、日本であれば建築系の雑誌でも出版されていたりネットでノウハウがある程度公開されていますが、台湾はそのようなものが少なく、バリアフリーのビジネスをしている人もノウハウで稼いでるので公開する必要がないと言う考えの人もいて、まあ、国民性の違いもあるのでしょう。

セミナーなどでは誤った情報を発信している台湾人コンサルもいて、日本の介護事業社の成功事例として紹介している会社が実は日本で問題を起こして倒産していて、日本人専門家が聞いたら「それは紹介したらあかんやつやろう!」と突っ込みたくなる事も結構あります。
どこで情報を拾ってきたのか知りませんが、誤解を与えてしまう現地専門家が何割かいるので、受講する側の立場になると気の毒な事ですが、まあ、これも台湾の現状と言う事です。

また、台湾建築界の重鎮から高齢者施設系の日本の建築基準法や消防法を教えてほしいと言われ、重鎮は台湾政府の建築系法規の制定にも関わるポジションですが、台湾は日本政府にとって国交がない、あの国の地域と言う位置付けなので、公式に政府レベルで情報提供できない状況にあるようで、民間レベルの交流から情報を得る方が手取り早いのでしょう。
親日で東日本大震災時など日本が国難の時に支援してくれる台湾、日本政府は「大切な友人だ」と表現していますが、現実は私たち日本人が思っているより日本と台湾の政府レベルでは距離があるのです。
民間の日本人であっても台湾に対して果たすべき役割がたくさんあるのです。

学生から政府機関や民間企業、介護が必要になった高齢者やそのご家族、様々な人が高齢化社会のこれからについて関心のある台湾國民へ、新しく、正しい情報を大学やセミナー、雑誌などを通じて提供し続けていくことが私に与えられた役割なのでしょう。

私のノウハウが学生の成長に役立って、彼ら彼女らが台湾の発展のためにデザインで貢献してくれるなら、こんなに嬉しい事はありません。

「世界へ羽ばたけ、北科大のみんな!」

これからもグローバル人材を輩出できるように頑張りたいと思います。

#コラム #仕事 #建築設計 #介護 #海外 #台湾 #大学 #教育

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