すてきなたんじょうび
登場人物
山田峻斗(やまだしゅんと)
主人公。幼稚園児
山田裕二(やまだゆうじ)
峻斗の父親
山田直子(やまだなおこ)
峻斗の母親
梅ヶ枝威(うめがえたけし)
特撮ヒーロー番組「改造剣士ヤイバ」の主役。テレビの中の存在。
ヤイバ
威が変身した姿。ここでは、ヒーローショーでスーツアクターが演じているものも指す。
結城まどか
ヤイバのヒロイン
怪人モーゼル
ヤイバの敵
本編
◯山田家
◯峻斗の部屋(8時くらい)
カレンダーが、11/28(日)をさしている。
山田峻斗、寝息を立ててベッドで眠っている。
目覚まし時計(ヒーローものの時計)が鳴る。峻斗、目覚まし時計を止め、起き上がる。
◯リビング
山田直子、ダイニングキッチンで朝食の準備をしている。
そこへ、峻斗がドアを開けてリビングに入ってくる。
峻斗「ママおはよう。」
直子「峻くんおはよう〜」
峻斗、目を擦る。そしてふと目の前を見る。
峻斗「うぉぉっ!」
テーブルの上には、豪華な朝食が並べられている。
峻斗、テーブルに駆け寄る。
峻斗「ママ、今日の朝ごはんすごいね!」
直子「今日は峻くんの誕生日だから、いつもよりたくさん作ったのよ。峻くん、お誕生日おめでとう。」
峻斗「わぁ、ありがとう!いただきます!」
直子「あっ、ちょっと待って峻くん。」
峻斗「えっ?」
直子「朝ごはんもいいけど、もうそろそろあれが始まる時間なんじゃないの?」
峻斗、少し考える。
峻斗「あっ、そうだった!ヤイバがもう始まっちゃう!」
峻斗、いそいそとソファに座り、テレビをつける。
テレビの声(ヤイバの主題歌)「改造改造改造剣士、ヤーイバーーーー!!!」
峻斗、キラキラした目で画面に食いついている。
◯岩船山の石切場(画面の中の世界)
改造剣士ヤイバ、怪人モーゼルに圧倒されてピンチに陥っている。猛攻撃を受けた結果、ヤイバは変身が解けてしまう。(威の生身の姿になる)
モーゼル「これで貴様も終わりだな。改造剣士ヤイバ!」
威、口元に傷を負っていて、立ち上がろうとしても力が出ない。
ヒロイン結城まどかは、岩にくくりつけられている。
まどか「威、逃げて!」
モーゼル「ハーッハッハッハッ!この体で逃げられるとでも思うのか??」
威、拳を強く握りしめる。
威「ああ、俺は、逃げない。逃げずに、戦う・・!」
モーゼル「なに?」
威「おばあちゃんが言っていた。諦めなければ、必ずそこに道は開けると。」
威、徐々に立ち上がる。
威「怪人モーゼル!俺はお前を必ず倒す。お前を倒して、必ずまどかを連れ戻してみせる!」
モーゼル、怒りスイッチが入る。
モーゼル「ええい小癪な!もういい。梅ヶ枝威、お前は用済みだ。お前にはここで死んでもらう!」
モーゼル、手から電流を放つ。威の周囲が大爆発する。
威「うわぁぁぁぁっ!!」
威、意識を失って倒れる。
まどかの絶望感漂う表情。
まどか「威、、、」
まどか「威!!!!!!」
「つづく」というテロップ。
◯リビング
「つづく」というテロップが出ている画面を、呆然としながら見ている峻斗。次の番組(ブリギュア)が始まる音。
峻斗、次第に何が起こったのか理解し、徐々に泣き出す。
峻斗「うわぁぁぁぁぁん!!」
直子の「あちゃー」と言わんばかりの仕草。
直子「峻くん。」
直子、峻斗の背中をポンポンする。
直子「大丈夫よ峻くん。大丈夫。また来週には生き返ってるわよ。」
峻斗「うわぁぁぁぁん!!」
峻斗、直子の懐で泣き続ける。
直子の困った表情。
すっかり冷めてしまった朝ごはん。
◯山田夫婦の部屋
山田裕二と山田直子が話をしている。メガネをかけている裕二。
裕二「あー、それは災難だったなあ。」
直子「ほんとねぇ。せっかくの誕生日なのに、ヤイバのせいでめちゃくちゃだわ。だいたいああいうヒーロー番組なんて、子供が気持ちよく早起きするために流してるはずなのに、なんでそういう展開になっちゃうのよ、、。」
裕二「今は大きいお友達もヒーロー物を見るからね。客層に合わせてるんだろう。」
直子、ため息をつく。
直子「峻くんもあんなに元気だったのに、すっかり寝込んじゃって・・。」
裕二、しばらく考える。
裕二「あっ、そうだ。峻斗の中でヤイバが死んだことになってるなら、『ヤイバは生きてるんだよ』っていうところを見せてあげたらいいんじゃないかな?」
直子「それ、どういうこと?」
裕二「例えば、デパートにヒーローショー見に行くとか。」
裕二、スマホを取り出しておもむろに操作する。
裕二「ほら、今日やってるよ。」
直子「場所はどこ?」
裕二「梶ヶ谷レイクタウン。」
直子「梶ヶ谷レイクタウン・・あっ。」
直子、何か思いついた表情。
裕二、それを不思議そうに見る。
裕二「どうしたの?」
直子「裕くん、私に考えがあるの。」
◯高速道路(午前中)
裕二が運転する車に、直子と峻斗が乗っている。
峻斗「ママ、今からどこに行くの?」(テンション低め)
直子「ないしょ。」
峻斗、今一つ察しがついてない様子。
◯梶ヶ谷レイクタウンデパートの駐車場(昼)
山田一家、車から降りてすぐ。
裕二「あっ、しまった!」
直子「どうしたの?」
裕二「僕、家に財布忘れちゃった。」
直子「ええっ?💢なんで今まで気づかなかったのよ!」
裕二「ごめん、、今からすぐに取り帰るから、2人は先行ってて。」
直子「しょうがないわね、。峻くん、行きましょう。」
峻斗「うん、、。」
直子と峻斗、先に行く。
裕二、二人が見えなくなったのを確認する。
裕二「よし!」
裕二、二人とは別の方向へ歩いていく。
◯デパートのステージ
観客席はたくさんの親子連れで賑わっている。
峻斗、直子に連れられて到着。
峻斗「今からなにがあるの?」(不安そうに)
直子「さあ。見てのお楽しみよ。」
峻斗、不思議そうに首を傾げる。
すると、ステージ袖から悪の怪人リゲラゼルと、戦闘員が複数人登場する。
リゲラゼル「ようこそ諸君、悪の祭典へ。我々はジョーカー。そして俺は、悪の怪人リゲラゼルだ!ヒーッヒッヒッヒッ!!」
戦闘員「ゲァァァッ!」
峻斗、怖がって直子に抱きつく。
峻斗「ママ、怖い!」
直子「大丈夫。ほら、よく見ててね。」
すると、どこからか声がする。
???「そこまでだ!ジョーカー!」
BGMと共に、ヤイバが颯爽と登場する。
リゲラゼル「誰だ貴様!」
ヤイバ「俺は改造剣士ヤイバ。正義の使者だ!」
峻斗、一気にテンションが上がる。
峻斗「ヤイバ!」
ヤイバとリゲラゼルが戦う。
峻斗、それをキラキラした目で見ている。
その様子を見た直子、得意げな表情。
◯ステージ(昼下がり)
お姉さんの声「それでは、みなさんお楽しみの、ヒーローとの記念撮影でーす!」
ちびっ子がヤイバを前に列を作って並んでいる。
直子「峻くんちゃんと列に並べる?」
峻斗「うん!」
峻斗、列に並ぶ。
ステージ上で記念撮影に応じるヤイバを、憧れの眼差しで見る峻斗。
お姉さん「次の人どうぞ〜」
峻斗、ステージへとつづく階段を駆け上がる。ヤイバの前に立つ。
峻斗「威!僕とお話ししよう!」
その瞬間、場が凍りつく。直子の「あっ、」という表情。
お姉さん「えーっと、それは、、」
峻斗「威、なんで黙ってるの?威!」
お姉さんの申し訳なさそうな表情。
峻斗「もしかして、威じゃないの、?」
ヤイバの物言わぬ仮面を映す。
◯駐車場(夕方)
峻斗と直子、手を繋いで歩いている。峻斗はひどく落ち込んでいる。
直子「峻斗、大丈夫?」
峻斗「・・うそつき・・」
直子「ん?」
峻斗、直子の手を振り解く。
峻斗「ママの嘘つき!!ぼくは威に会えると思ってたんだ!それなのに、、ママの嘘つき!」
泣き出す峻斗。
直子、困った表情。
直子「峻くん、」(背中をさすろうとする)
峻斗、直子の手を払い、走り出す。
直子「峻くん!止まって峻くん!駐車場走ったら危ない!!峻くん!!」
峻斗、弾みで車道に出てしまう。そこへトラックが走ってくる。鳴るクラクション。
峻斗「あっ!!」
キキーッというブレーキの音。
誰かに抱き抱えられた峻斗、目を閉じている。
??「危なかったね。」
峻斗、目を開ける。すると、自分を抱き抱えているのが、あの梅ヶ枝威だとわかる。
峻斗「威!」
威、マスクをしているが、目が笑っている。
威、峻斗をゆっくり立たせる。
威「びっくりさせてしまってごめんね。峻斗くん。」
峻斗「ううん!あ、ありがとう!」
峻斗、威がマスクをしていることに気づく。
威「あれ、なんでマスクしているの?」
峻斗「え、ああ、これ?さっきの戦いで、口元を切ってしまったんだ。峻斗くんも、テレビ見てくれてただろう?」(テレビの戦闘シーンの回想)
峻斗、再び目を輝かせる。
威「わぁぁ、ほんとうに威なんだ・・!やったーっ!!」
峻斗、全身を使って喜びを表現する。
威、マスク越しの笑顔。
威「峻斗くん。」
峻斗「ん?」
威、峻斗の両肩に手を置く。
威「忘れないでね。諦めなければ、必ずそこに道は開ける。僕だってあんなに酷い目にあったけど、生きることを諦めなかったんだ。自分を信じる気持ち。それがあれば、君はなんだってできるはずだよ。」
峻斗「うん!僕、頑張るよ!」
笑顔を見せる威と峻斗。
威「じゃあ、僕はそろそろ行くね。」
峻斗「えっ、なんで?」
威「僕はこれからも、ジョーカーと戦わなければいけないんだ。」
峻斗、再び落ち込みかける。
威「でも大丈夫。君が僕に会いたいと願えば、いつかまた会えるから。」
威、峻斗の頭をポンポンとなでる。
峻斗、笑顔を取り戻す。
峻斗「うん!威、今日はありがとう!バイバイ!またね!」
威「バイバイ!峻斗くん!」
威、どこかへ去っていく。
直子、峻斗の元へ。
直子「よかったわね。峻くん。」
峻斗の笑顔。
◯デパートのメイク屋さん
周囲をキョロキョロ恥ずかしそうに見渡しながら、店内に入る威。
◯メイク屋店内
威を見て、「お疲れ様でしたー」と声をかける店員。
威、かつらとマスクを取り、メガネをかける。威の正体は、裕二。
裕二の充足感溢れる表情。
◯エンドロール
裕二の鼻から上がメイクでいかにして威のそれに近づいていったかを早送りで流しながらエンドロール。
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