見出し画像

上原歩夢「Dream with You」から見るあれこれ(アニガサキ一話、十二話、十三話感想)


言い訳とまえがき

 以下簡単にまとめると、一話と十二話の重なりのお話です。書いてるうちに視野がめちゃくちゃ狭くなっていくのは自覚しているところで、こういうのやっぱり難しいなと思います。では本題。

本題

 十二話「花ひらく想い」初見の時は、あそこまで重い精神状態になった歩夢が心を入れ替えるにはせつ菜の一言「始まったのなら、貫くのみです!」は軽すぎるんじゃないかと思ったんです。でも、この言葉は歩夢が第一話で最初の一歩を踏み出す時に"自分で"言った「それでも、動き始めたのなら止めちゃいけない。我慢しちゃいけない」の言い換えで、過去の自分の発言と重なったのもあってより痛切に響いたんだろうなという……。
 この一話・十二話のリンクで注目すべきなのはもう一つあります。十二話、歩夢が恐れていたのは「侑の変化」だけでなく「歩夢自身の変化」でもあったということが明かされハッとした視聴者も多いはず。でもこれ新情報じゃなくて、一話から言及があったんです。上で述べた「動き始めたのなら……」と順番は前後しますが、同じく例の階段前での会話で歩夢は「けど、(せつ菜に)会っちゃったら自分の気持ちが止まらなくなりそうで怖かったの」と告げます。「歩夢自身の変化」を恐れての言葉だと受け取れるでしょう。このことから、十一話で「侑の変化」に対して歩夢が起こした一連の行動は、ある意味フェアなミスリードだったと考えられはしないでしょうか。この段落はこの記事の本筋とは関係ないんですけど、どうしても言いたかったし、他にどうすれば良いのかもよくわからないのでこのままここに置いときます。
 話を戻しますと、「始まったのなら、貫くのみです!」と「動き始めたのなら、止めちゃいけない」ですが、意味を同じくするこれらが歩夢の二皮剥ける成長を象徴するものだとすると、並べて語らずにはいられないことがあります。第一話挿入歌「Dream with You」です。これは一つの歌で二段階の進歩を象徴しています。第一話の時点では明確に「You(侑)」に向けた歌詞だと読めるのですけど、

飛び立てる Dreaming Sky
一人じゃないから
どこまでも 行ける気がするよ
空の向こう
強く 願う 今
高く 高く ほら
ずっと隠してたの ココロの奥
芽生えてた気持ちを見ないフリして
自信持てなくってうつむいてた
そんな私の背中 押してくれたね
繋いだ手 その温もりが
胸いっぱいの勇気をくれたから
歩き出そう Dreaming Way
未来へと続く
始まったばかりの夢から射す光
トキめくよ Dreaming Light
言葉じゃ足りないから
歌に乗せるんだ
あなたに届いてほしいよ
Beating my heart


これが第十二話を見た後だと「You(二人称複数=みんな)」に向けた歌と取ることもできる。例えば「一人じゃない」という歌詞は、一話を見た後ならば「侑ちゃんがいる」だけど、十二話を見た後ならば「みんながいる」と解釈し直せる。「繋いだ手…」のところだけ危ういというか、侑ちゃん以外と手繋いだかなぁというところではありますけれど(2021年5月追記:「みんな」に向けた歌でもはじまりは侑ちゃんであることを明示するのは自然かも)、他の歌詞は一話十二話の両方に対応していると言っても無理がないのではないかと思います。
 これだけだとまだ「Dream with You」が二段階の進歩に対応する歌だと言い切るには弱いかもしれません。そこで、最終話の演出を考えてみます。
 最終話、スクールアイドルフェスティバルで歩夢が披露した歌は「Dream with You」でした。歩夢が劇中で歌った曲には「Awakening Promise」もあるにもかかわらず、ステージでは「Dream with You」だけを披露した。なぜか。「Dream with You」の歌詞が指す相手はこの時点で「みんな」になっていたのに対して、「Awakening Promise」は真に侑だけに向けられた歌であるからではないでしょうか。ここでこちらも歌詞を確認してみます。

この胸に蒔いた
小さな種をあたためて
気付けば夢中で追いかけた
その温もりを感じて
ねぇ おんなじ空 眺めて
遠い夢見てた
あれから 巡った季節 今
ふたりをここへ 運んできたね
昨日とは違う
風が心を締めつけるけど(ずっと)
思いは繋がってるから
明日へ続く 並木の道
希望の花が咲いていくの
あなたが私にくれた
勇気を抱いて…
ほら笑顔でね 交わす約束
そう 鮮やかに 咲かせていくの
きっときっとね 強くなるからね
(I Promise to you)
伝えよう 沢山のありがとう
私らしく進もう
描いた未来
いつかいつか 叶えよう…!!

ここでは明確に「ふたりをここへ…」といった歌詞が見られ、歩夢と侑だけを指しているといえますね。他の歌詞からもこの歌は十二話のステップだけを指し、侑だけに向けて歌われた、一度きりのメッセージソングだと受け取れるのではないでしょうか。これを「みんな」の見ているステージで歌うのはちょっとおかしいし、こうして「侑だけに向けた歌をステージで歌うのはちょっとおかしい」が曲を歌わない理由になるならば、実際にステージで歌われた「Dream with You」が侑だけに向けられた歌であっても、やっぱりおかしなことになってしまう。だから、十二話の時点で「Dream with You」は「みんな」に向けられた歌へと変容していて、一話と十二話で二度にわたって意味付けされた、「二つのステップ」を象徴するような歌なのだと受け取れます。

 本筋は以上です。まとめると、このアニメでは一度使われた言葉と歌の解釈を、起承転結で言えば「転」に当たる部分で、大きく変えるような演出がなされていたことになります。

 このアニメ、セルフオマージュや伏線回収があまりにも巧妙で、その上一見普通のカットにも普通じゃない真意が埋め込まれていたりと、本当にしゃぶれるところばかりですね。前シリーズファンの自分でも、正直ここまでハマるともこういうハマり方をするとも思っていませんでした。ラブライブというシリーズに一つ新たな(それも極めて大きな)流れを生み出した、存在感のある作品でした。

  「届いたよ、ときめき――」



 格好つけて締めようとしたわけですが、今思ったこともついでに書いておきます。こんなこと次いつやるか分からないので。
 「届け!ときめき――。いままた夢を、追いかけていこう!」
  これは生放送などのあらすじ紹介で幾度となく読まれたキャッチコピーです。これ、上記「Dream with You」の曲名や歌詞ほぼそのまんまではないですか?ですが、「また」が気になります。「また」夢を見るってことは、その前は?
 ……さっき述べたことで、いち解釈の目処は立つのではないでしょうか。「また」追いかける夢は「みんな」と見る夢、その前は、侑ちゃんと二人で追いかけるはずだった夢、なのではないでしょうか……。(普通に読めば、「もうそういうのは卒業だよ」とあきらめかけていた「大好き」にもう一度向き合ってみよう、ってところですが)

あとがき

 以上、殆どがただの思いつきですし、わかりづらいですし、他にもアプローチはいっぱいあるでしょうが、とりあえず本記事では「Dream with You」を視座にいくつか考え事をしてみました。アニガサキ、最高だったよ。

 しばらくぶりの冷え込みを見せる大晦日の深夜、布団にて暖をとりながら、けれども指先を冷やしながら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?