考えること
前夫に「考えることが好きなんだね」とあきれた顔で言われたことがあった。不思議と時々よく思い出す場面だ。
大学生になった頃から、なんだか色々考えることが増えた。自分の気持ちとか、他人の気持ちとか、今自分が苦しいことの理由とか。
より深いところまで悩むことになったのは、結婚してからだろうか。
大学時代に付き合い始め、お互いとても大切に思って、ずっと一緒にいることを信じて疑わずに結婚した。けれど半年ほど経ったある夜、仕事のことで悩みを深めて眠れなかった彼に無理やり起こされて「出ろ!」「俺が眠れないのにお前が寝てるのがいらつくんだよ!」と怒鳴られた。意味が分からず抵抗を示すと、布団ごと抱え込まれ、廊下に投げ捨てられた。その後寝室のドアはいきおいよく締められ、私はただただ茫然とした。「何が起きているの?」という驚きと悲しみと、しばらくしてから怒りもやってきた。
すぐに『離婚』という文字が頭によぎったけれど、半年前の結婚式に参加してくれた方々の顔が思い出され、とても決断できなかった。とりあえずは寝室をわけて、私はその後半年以上リビングの横に布団を敷いて寝ることにした。彼からはその夜のことについての謝罪は一言もなかった。
友達からは「そんなことされたら即離婚だよ!」と言われたが、出来なかった。普段とても仲良くしていたし、私は彼の仕事をとてもリスペクトしていたから、「よっぽど思い詰めていたんだろう」と考えるようにしていた。
その頃の記憶があいまいになっているけれど、私はずっと苦しかったんだと思う。なんで苦しいのか、その頃からずーっと考えるようになった。
自分のことを大切にしてくれる人だと信じていた人が、豹変して自分を誰よりも傷付けることに本当に驚いたけれど、彼は普段とても優しい言葉をかけてくれるし、私よりずっと沢山友達がいて人気者だった。私が至らないのかと思って、自分なりに頑張ったけれど、時々爆発する彼と一緒にいることが嫌で逃げたくて仕方なかった。なんでこんなに苦しいのか、考えてばかりいたけれど、それがまた彼をイラつかせて、爆発させた。私は現実でのパニックに対応することと考えることの両立が出来なくて、疲れ果てた。
いくら考えても他人の本心までは分からない。私には彼がどうして私にそこまでのことをするのか分からなかったが、彼の中で理由はあるとは思う。
とにかく私は私の気持ちしか見つめることができない。
最近彼のことをよく知る大学の先輩達と会うことがあり、思い出しながら過去のことを話すことが増えた。離婚したことで彼を選んだ私の選択自体を嘲笑されることもあるが、私は私なりにちゃんと好きだったし、結婚したことを後悔もしていない。幸せな時間もたくさんあったし、別れてもしばらく思いが残った。
でも今、私なりに最小単位ながら自立して、自分の場所を自分で作ることができるようになったのは、別れたことも含め一生懸命考えて生き抜いたからだと思っている。
考えることは悪いことではないし、時々悩みを深めてくよくよしたっていいと思っている。関わった人や自分が好きなった人のことを考えることは、私にできるひとつの『誠意』であると思っている。
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