夜明け #7

今日は、何事も無くこの分だと定時で上がれそうです。
どうしても、今日も彼女に会いたくて、電話してみました。
「もしもし、今日も早く上がれそうなんだけど、デートしよう!」
「あはは」
って笑われましたが、いい兆しです。彼女があははと笑ってくれるときは、機嫌がいい証拠です。つかの間の沈黙の後、
「いいよー」って、
「じゃあ、食事できる所予約しておく~、決まったら電話するよ」
「はい」
と言うことで、今日も課長に定時に上がりますと告げて、会社の門を出たところで、お店に電話し、予約しました。
今日も彼女より先にお店に着いて、今日は先にビールと食事もオーダーしておきました。
結構遅れて彼女がやってきました。
「ごめんねー、遅くなって」
「いや、大丈夫だよ、今ここに有るものと後はこれとこれを頼んだよ、飲み物は?」
「じゃ、ビールで」
と言うことで、飲みながら、早速、昨日の話の続きを切り出します。
「昨日のさあ、続きで、改善の」
「あー、そっちか。デートしようって言うから、なんか期待してきたのにね」
「ごめん、そうだよね、デートって言ったよね。でも映画の話も音楽の話も一緒で、ちょっと仕事っぽいけど、こういう話もいいかな。と言うよりね。昨日目が輝いていたよ。まぶしいぐらいにね」
「あはは、そう」
と言いながら、また彼女の目が輝き出しました。
「実はね、もっと具体的な話をしてあげたかったけど、そのままだとお客さんの仕事内容をばらしてしまうのね。それだと仕事的に問題があってね。実は今日上司にどこまで機密扱いなんですか。って聞いたのよ。そしたら、改善の話なんで、俺も事例で良く話すので大丈夫だよ。って言われたのよ。だから、いい話を教えてあげられそう」
「ほんとに、いいね。助かります。」
って言いながら、ビールを呑んで、彼女が仕事が楽しくて仕方が無いなんて話を聞きながら、なかなか本題に入らないけど、まあいいかなと、なんか凄く嬉しそうだし、誘って良かったと。
2杯目のビールを呑んだ後に、彼女が「なに飲もうかなあ」って、「ビールじゃなくて、日本酒呑む?」と聞かれ、「そうだね。辛口がいいね。もちろん純米酒で、じゃあこれ注文するね」と、日本酒がくるのを待って、早速、お猪口に注いで、かるくお猪口を合わせて乾杯し、一息ついて、彼女がついに話し始めてくれました。
「作業時間を正確に見積ことは困難って言ってたよね。」
本題に入ったんだね。と思いながら、頷きます。
「計画のための作業時間は、目標時間だから、正確では無くても、この時間で出来るはずと言う時間が必要なの。現場の人からは、実時間では無くて、リソースを考慮した時間をリードタイムとして教えてもらうんでしょ。それは、工程管理の基本から外れてしまっているのよね。工程計画、工程設計とか言うんだけど、プロジェクト管理の基本で、パート計算って聞いたことある?」
「PERT計算でしょ、PERT、CPMとか、パートチャート書いて、最早とか最遅を計算するんだよね」
「なーんだ、知ってるじゃん。そこで計算に使用する処理時間というか作業時間はどうするの?」
「どうするのって、その時間が分からないから、なんか平均したり、余裕時間入れたりとかするんでしょ」
「まあそうだけど、楽観値とか悲観値とか言うんだけどね。私のお客さんは、大手の自動車メーカーで、金型を作っているのね。金型って知ってる?」
「知ってるよ。バルブの鋳物も金型使ってるしね。」
「良かった、じゃあその説明は入らないよね。そのお客さんは改善を上手にやる会社なのね。だから、計算に使用する処理時間は、楽観値というか、この時間でできるはずと言う、非常に厳しい時間を設定するのね。もちろん、その時間通りには作業ができないんだけど。」
「えっ、じゃあだめじゃん」
「まあまあ、まず最初に言っておくけど、納期を守るという話はちょっと置いておいてね。そのお客さんは、たとえば、3時間の作業を4時間かけて作業したら、目標が3時間だったので、4時間との差の1時間を宝の山と呼ぶのよ。その1時間を3時間に近づけるのが現場の仕事というか、改善活動なんだって。だから、遅れるのは許容してるのよ。なんか凄いでしょ!」
「えー、そんなのうちの会社じゃ、怒られるよ。全く参考にならないんだけど。」
「うふふ」
って笑っているけど、なんか良く分からないけど、馬鹿にされてるんじゃないよね。多分俺のこと好きだし。
「はい、話はまだまだ続くのよ!。ちょっともう少し食べようか。」
「あー、そうだね。」
と言って、メニューを見ながら、
「これ、伊藤君好きでしょ!私もちょっとは食べられるようになったのよ。」と言いながら、彼女が、牡蠣のオイル漬けと白子とお酒を注文しました。
「さて、」と言って、また彼女の話が始まります。
「今までの話は、工程計画とか工程設計の話で、スケジュールじゃないのよ。どこの会社でも、工程計画とスケジュールを一緒に混同して、同時に処理しようとするから、難しくなるのね。工程計画は、ベストタイム、つまり厳しい目標時間を設定して、リソース負荷の競合を解消するのがスケジューリングでしょ。いわゆる山積み、山崩しね。だから、工程計画とか工程設計するときには、リソースのことは忘れて欲しいの。」
「うん。その工程計画とスケジュールの話は納得できるけど、でもそれじゃ、納期を守れないよね。」
「今度は、スケジュールの話を聞いてね。スケジュールとかスケジューリングとか、山崩しとか言われているけど、私のお客さんはね、順序計画って言うのね。」
「へー、順序計画って」
「順序計画は、各リソースに対する作業順番を決めると言う事よ。だから順序計画」
「あー、なるほど」
「オーダーとか製番とか呼ばれる受注した作業は、それぞれ工程計画で決めた作業手順が有るよね。そして、納期があるでしょ。たとえば工場の中に、一つのオーダーだけが流れていたら、そのオーダーだけやればいいので、かなりの納期余裕が生まれるよね。」
「そうだね。実際には複数のオーダーが流れているので、作業者や設備が空いていないから、そんなに納期余裕無いけど。」
「そうなんだけどね。厳しい目標時間を設定して、工程計画をするでしょ。そして、複数オーダーをまとめてスケジュールするでしょ。前詰スケジュール、正確にはフォワードスケジュールって言うんだけどね。納期を遵守して、前詰めでスケジュールすることにより、ある程度の納期余裕を確保した状態で、作業指示、つまり順序計画を現場に提示するの。この状態で納期余裕が無い場合には、納期調整が必要ね。大抵は、過去の経験則的なリードタイムを考慮して、受注しているので、大抵は、納期に収まるんだけどね。ここまで分かった?」
「だいたい分かった、でもリソースの負荷が」
「そうね。負荷が平準化されているかと言えば、されていないかもしれないのね。納期遵守でスケジュールしているので、どこかのリソースは、過負荷が解消されていないかもしれないんだけどね。でもそれでいいのよ。特定のリソースが200%以上の負荷状態にあるときは問題なので、残業、休出、休日出勤とか、でもグループや係などで集計した負荷をみたら、そんなに大きな過負荷では無いかもしれないし。そもそも昨日、作業時間を正確に見積もる事は困難。しかし経験的な工数算出は可能だが、作り直しが発生したり、設計変更が発生する。と言うことは、事前に予測することは困難でしょ。って説明したよね。」
「そうだね。」
「だから、遅れたり、新たな作業が発生した場合には、タイムリーに計画を組み直すしかないでしょ。」
「なんか分かったような、」
「そう、そのためには進捗状態をタイムリーに把握できないと行けないの。」
「うんうん、その進捗状態って言うのが問題で、設計変更や仕様変更や補正作業が発生した時は、工場の中を駆けづりまわって、どこまで進んだいるかをメモして、また計画を作り直しているんだけどね。しかも徹夜で!」
「進捗状態の把握は難しいのよ。理想は、現場作業者や班長とかが、タイムリーに進捗状態を把握してくれる仕組みが必要になるよね。私のお客さんはね、作業現場の要所要所に端末が有って、そこに作業者が開始や終了、進捗率や残工数を入力してるの。」
「えー、たいへんだよね。」
「そうよ。でも量産工場の様に、センサーで数量をカウントしたり出来ないし。設定した作業時間が正確ではないでしょ。10時間の予定作業を5時間作業したからと言って、50%の進捗じゃないよね。」
「そうだね」
「でしょ。実際に作業している人は、後どのくらいで終わるか解るよね。だから残りの時間を入れてもらうの。残工数って言うんだけどね。その日に作業を開始して、その日に終了するときは、入らないけどね。明日も作業の続きがあるときは、残工数とか進捗率とかで補正してもらうの。」
「そんなの入力してくれるかな、現場の作業者にお願いできそうにないな。」
「アレー、だって、頻繁に計画変更が発生して、その度に現場の人から次は何やるんだよ。とか現場の人に現物確認をお願いしたりとか、現場も毎回困ってるんだよね。って言ってたけど。」
「うん」
「だから、毎回みんなあたふたするのは厭でしょ。だったら、進捗の見える化って言うんだけど。なにが何処まで進んでいるか一目瞭然になったら、計画変更も直ぐに出来るでしょ。会社としては、ムダな時間が無くなるはずだけどね。それに比べたら、実績や進捗報告する時間なんて、何分もかからないでしょ。現物確認したり、進捗確認したりする時間ってどのぐらいかかるか分かってんの?。私たちの仕事も必ず報告書書いたりするでしょ。ほんとにこんな簡単な事ぐらいちゃんとやって欲しいのよね。って、あっ、ごめん、別のお客さんの愚痴ぽいこと言ってしまった。ごめんなさい。」
途中から話に熱がこもっっていたので、なんか私の理解が悪くて、怒っているのかと思いましたが、違ってました。
「この話は、現場の方が負担無く、報告できる仕組み作りがポイントなんだけどね。」
「解った。
要点をまとめると、
前詰めで計画をする。
負荷の見える化が出来ていれば、少々の負荷オーバーは気にならない。
進捗の把握ができる仕組みを用意する。
でいいかな。」
道玄坂で別れ、彼女をタクシーに乗せ、一人道玄坂を上り246を三軒茶屋へ歩きます。
自宅に帰り、明日は、トラブルが無ければ、早速実践しようと思いながら、結構呑んだな。
なんか楽しかったな。と思い出し、睡魔に誘われ、朝を迎えました。


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