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リズムゲーム戦 #4

僕はメロンもない部屋でイルカ男の謎と共に取り残されていた。

リンゴ、バナナ、パイナップル、マスカット、オレンジ、キウイ、グレープフルーツ、マンゴー、梨、ブドウ…

このリズム、どこかで覚えている。箱から出した時、やけに高いスコアを出せたのは僕が過去をなぞっていたからか。そうだ、僕はこのリズムゲーム戦で一度勝ったことがある。僕は思い出す。

「いらっしゃいませ」

青いワンピースの女性は何も言わず、重たくて沢山の色が宿ったカゴを船に置く。

リンゴ、バナナ、パイナップル、マスカット、オレンジ、キウイ、グレープフルーツ、マンゴー、梨、ブドウ…

「4890円です」

「ごめんなさい、少し待ってくださる」

「かしこまりました」

そういってそのみずみずしい女性は、かなり遠くの青果コーナーからメロンを投げた。

ピンポーン

チャイムの音でハッとする。

ピンポーン、ピンポーン、ピピピピ、ピンポーン

仕掛けられている。さっきのイルカ男か?僕はチャイムのリズムを崩すようにゆっくり、ガチャリと重い扉をあける。
そこに立っていたのはイルカ男ではなかった。青いワンピース、白い肌はみずみずしい。あの女性だ。そうだ、果物を沢山買い、僕のリズムを翻弄し、エロ登山家と一緒に山に登った、あのニヒルな笑みを浮かべたあの女性だ。

「あなたが僕に果物を送ったんですか?」

「ご冗談を。」

彼女はやはりニヒルな笑みを浮かべて返す。

「私と山に登ったこと覚えてる?」

「はい。」

「あなた、海が好きと言ったわよね。」

「はい。」

「私ね、海って言うの。」

「海…」

「私ね、一緒に山に登ってくれた男の人と暮らすのが夢だったの。」

「イルカに似たあの男の本当の姿は、イルカなんじゃないですか?」

彼女は僕の質問を無視して部屋の中に入ってくる。そして彼女はおもむろにキッチンで料理を始めた。

トントントン、トトン、トントン

キャベツを切る。手際がいい。これは料理に慣れているのではなく、リズムゲーム戦になれているからだろう。
僕はその挑発に乗らないようにリビングでぼーっとする。
すると彼女は香ばしい匂いと共に、僕の目の前に現れた。

「これを一緒に食べましょう。」

彼女は机に大皿の焼きそばを置く。

「どういうつもりですか。」

僕の質問を無視して彼女はこう言った。

「ここは今日から海の家なの。私が住むから、海の家。海の家といえば焼きそばなの。」

こんな面白くない鉄板ジョークから、僕と海の不思議な暮らしが始まった。

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