薄暗がりで

七股池の東側は雑木の茂る小さな里山になっていて、その先に畑が続いている。里山のヘリに小道が通っていて、朝夕の通勤と畑作業の車が通るほか、昼間や夜は静かなところだ。街灯もまばらで道の脇まで迫った雑木が鬱蒼とし、日が沈むと結構な薄暗がりに包まれる。
その一角に小さな墓地があり、そこは50年ほど前まで小さな火葬場があったところだ。お墓があるからとか、火葬場があったからとか、そのような意識を持ったことはないが、夕暮れ時の暗がりのこの道はやっぱり気味が悪い。
少し体の調子が良かったので夕方この道を久しぶりに歩いて散歩した。墓地を過ぎた辺りで畑の隅で黒っぽい人影がたたずんでいた。畑作業の後始末でもしているだろうか、もしかしてこの先でハウス栽培をしているKさんかもしれないと思い声をかけようとしたところで風が通り抜け、同時に人影が宙に浮きあがり、何かの映画で観た覚えのある死神の動きに似ていたせいでびっくりして声を上げそうになった。
人影と見間違えたことにはすぐに気づいたが心臓の鼓動はすぐには収まらず、周囲の静けさも手伝って耳の奥でどくどくと鳴っている。人影と見間違えたのは杭にかぶされた黒いビニールだった。その杭の後ろにも同じ丈の若木が植わっていて、杭にかぶせてあったビニールと若木が重なり合って、人がたたずんでいるように見えたのだ。
歳を取ったせいもあって薄暗がりや雨の日などは物の判別がつきにくくなり、風に煽られたり雨に打たれ揺れていたりすると、人と見間違えることがよくある。
自分が見間違えたことを知った時、あまりいい気分になれないが、半面、不思議なものを見たという少々の愉快な気持ちにもなるものだ。

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