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自治会 噛み合わない会話

御園第二区町副会長KKさんには敬老会で行われる演芸会の演題を筆で書いてもらっている。現役時代は会社の書道部にいたらしい。力強い奇麗な字を書いてくれる。文科系男子。
御園第二区町会長Hさんは関東一校野球部出身で歳を感じさせない体育会系男子。

自治会の会議では噛み合わない二人の会話が幹事会内での楽しみの一つ。不思議なものでこの二人の噛み合わない会話も結局それなりにまとまって完結する。起承転結が一応成り立っているようだ。会話が噛み合わないというのか、話の筋は同じはずなのだが、どういうわけか最初からお互いの文脈がずれてしまい、話の前後が分からなくなってくる。
二人の絡みを面白がって見ているのは私だけではない。常任幹事、特に三嶋区会長Fさんと谷区会長Kさんはこの二人の絡みを煽って面白がっている。高区会長Bさんはパソコンをポチポチしながらクスクス笑ってその様子を面白がっている。
H会長は自覚していて、弄られ役に徹している。今年の自治会で最年長のKK副会長と次に年長のH会長は名コンビである。もちろん二人は自分で名コンビだとは思っていない。特にK町副会長は御年齢のせいもあるのかかなりの天然である。H会長の説明にKK副会長は充分に理解できず、話が進まない。

H会長 「あのね、出席者の数がこれ、欠席者の数がこれだけあるんですよ。欠席者の人に配るのは、お赤飯と甘酒ね。」
KK副会長 「弁当は配らなくていいんですか?」
H会長 「そう、欠席者の人にはお弁当はないんですよ。だからこのお弁当は出席者の分。ってことで今は欠席者の数だけしっかりと把握しておいてほしいの。それで欠席者に配るお赤飯と甘酒の数が合っているのかどうか確認したいんですよ。」
KK福会長 「お弁当の数がこれだけあるけどこれはどうすればいいんですかね。」
H会長 「だから今は欠席者の数だけしっかりと把握しておいてね、お弁当のことは考えなくていいから。」
KK副会長 「ああそう、で、この数字は何?」
H会長 「これは出席者の数。さっき話したでしょ。で、こっちの数字が欠席者の数。今はこっちの欠席者の数のことを話してるところ。」
H会長の眉間に皺が寄る。
KK副会長 「で、お弁当の数が足りないと思うんだけど・・・」
H会長 「あのね、この数字はお弁当の数じゃなくて欠席者と出席者の合計の数字で、お弁当の数じゃないから」
KK副会長 「お弁当は誰が食べるんだっけ」
H会長 「だからお弁当は出席者に配るだけ、欠席者にはお弁当はつかないの。解る?」
H会長、目が三角になる。
KK副会長 「ああそう、でこのお弁当は・・・」
H会長 「だから、今はお弁当のことは考えなくていいから。お弁当は出席者に配るの。今は、欠席者の数の話をしてるんですよっ。解ってる?」
H会長上唇が突き出る。
KK副会長 「お弁当は・・・・」
H会長 「だからぁ・・・」
KK副会長 「・・・・」
KK副会長は弁当を見つめる。下唇が突き出ている。

辺りには薄ぼんやりとした空気が漂い、時々霞もかかったりする。

その様子をちらちらと他の幹事たちが見てはにやにやしている。
傍目には噛み合っていないように聞こえるが、いつも最終的にはちゃんとまとまっている。この二人に関しては多少進捗にもたつきがあっても放っておくのがいい。

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