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「どこでギってきたんだい?」 ー ドヤ街・山谷地区と泥棒市の現状
南千住駅・三ノ輪駅から、南に徒歩15分弱の場所に位置する山谷地区。この場所は、かつていわゆる「ドヤ街」として名が知られていた。
高度経済成長期であった1960年代、建設需要の急激な増加により、日本各地の主要都市には、地方から来た日雇い労働者のための簡易宿泊所が立ち並ぶ、ドヤ街が形成された。中でも、規模の大きい日本の3ヶ所のドヤ街(東京・山谷、神奈川・寿町、大阪・西成)は、「日本三大ドヤ街」と言われる。
ドヤ街の「ドヤ」の語源は、立ち並ぶ簡易宿泊所が、とても「宿」と呼べるような代物ではなかったため、反対から「ドヤ」と呼んだことに由来するそう。
また、山谷は「暴動の街」としても悪名高かった。
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1960年8月1日、ドヤの番頭と宿泊者の喧嘩があった。その喧嘩への警官の対応に対しての抗議として、山谷地区交番を400人の日雇い労働者達が襲撃する事件が発生した。その暴動は8日まで続き、延べ約6,000人が押し掛け、負傷者が多数発生する事態となった。
その他にも、放火事件や殺人事件をはじめとした、あらゆる犯罪が多発するなど、当時は「スラム街」の様相を呈していたという。
今回はその山谷地区と、盗品の取引が行われているとの噂がある、山谷某所で催される通称「泥棒市」の現状を紹介する。
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南千住駅着。住宅街を歩く。下町特有の柔らかい洗剤の匂いが、優しい風と共にあたり一面に漂っている。
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南に歩くこと15分弱、山谷に到着。
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山谷は「あしたのジョー」の舞台らしい。
見知らぬ土地を知るには、地元の居酒屋で、地元の人の話を聞くのが一番良い。最初に目に入った居酒屋に入る。
「居酒屋 堤や三ノ輪」
〒111-0031 東京都台東区千束4丁目37−12
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まさかノーゲスだとは思わなかった。寡黙な店主に勇気を出して話しかける。
前述の山谷の歴史、日雇い労働者の現状を簡単に教えてくれた。最盛期と比較すると日雇い仕事は減っているものの、まだあるにはあるらしい。近頃は「空き缶集め」が儲かるらしく、そちらに精を出す人も多いそう。
店を出て、いよいよ山谷の中心にある「玉姫公園」へ向かう。
「台東区立玉姫公園」
〒111-0022 東京都台東区清川2丁目13−18
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…明らかに空気が違う。およそ人がいる場所の臭いではない。牧場だとか、競馬場の厩舎付近の臭いがする。おそらく、余所者が入れる公園ではない。そこは家出老年達の解放区と化していた。
ビビっていても仕方がない。1人で喫煙中の男性に、コンビニで買ってきた缶ビールを渡し、接触を試みる。
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話せたは良いものの、ほとんど何を言っているのか分からない。ほとんど「アニョアニョ」としか聞こえない。暗がりの中よく見ると、歯が2本しかなかった。
なんとか泥棒市の場所を聞くことができた。
泥棒市が開かれるまであと6時間はある。ドヤに宿泊したかったが、何軒訪ねても断られた。時間が遅いのと、長期宿泊を約束してくれないとチェックインはできないそうだ。無念。
そこで、彼らと共に野宿をすることにした。
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よく見えてなかったが、この公園にはあり得ない数のダンゴムシがいる。見える範囲で十数匹は死んでいて、その周りにあり得ない数のアリが群がっている。見なかったことにした。
蚊もあり得ないくらい飛んでいる。何だここ!
結局、1時間程寝た。自動車の排気音と茹だるような暑さ、多すぎる虫で深く眠ることはできなかった。起きたら、数え切れない程蚊に刺されていた。
浅草まで徒歩30分程で行けるらしい。時間を潰すために向かう。
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昼間は観光客で賑わう浅草は、深夜にはひっそりと息を潜める。さらに、山谷はその陰に隠れる。
地方出身の私は、そんな「東京」という街が持つ「動」と「静」の二面性に驚かされる。
田舎は一面的だと思う。そもそも「動」がなく「静」だけがある。どこを見渡しても同じ風景、同じ人間。落ち着いてはいるが、面白くない。その一方で、東京は目紛しく変化を繰り返す。面白い。
明るくなり、山谷に戻る。
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公園に戻ると、多くの人はいなくなっていた。どうやら、既に現場に出かけた後らしい。
さて、教えてもらった「泥棒市」が催される場所に行ってみる。
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全然いない。一人、小さなお婆さんが立っていた。古びた服やタオル、財布や時計などの雑貨がバラバラに売られている。ぼんやり眺めていると、
「今日は現場は休みかい?」と彼女から話しかけられた。まあ、そんなものです、と要領を得ない返答をしてしまった。
「今日も暑いね」「田舎はどこだい?」と次々に話しかけられる。ちゃんと話せる人に会えて嬉しくなり、つい長話をした。
基本的に毎日立っていること、儲ける気はなく、ボランティア的にやっていることを教えてくれた。
そして、どうやら平日は彼女しかいないこと、週末になれば多少人が増えることを教えてくれた。無駄足…。
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黄ばんだ扇子と草餅を買い、その日は泥棒市を後にした。
土曜日、夜勤バイトを早々に切り上げ、泥棒市まで直行した。道中、またゴミを漁る男性を見かけた。さて、泥棒市は盛り上がっているのか…。
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結構いる!確認できるだけで4人が、各々雑多に物を売っている。面白い物がないか見てみる。
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店主と客が競馬談義をしていた。
「ルメールと武豊、今年は全然駄目だね!アテにならないよ!」
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※JRA公式ページより
ルメールは1位、武豊は9位。
そんなことは絶対にない…と心の中で突っ込んでいたとき、別の客が耳を疑うような言葉を発した。
「こりゃ良いね!どこでギってきたんだい?」
「ギる」は「盗む」を意味する。冗談かもしれないが、噂通り盗品が売られている可能性が高まった。
「それは言えねえよ」と店主は答える。
「これ盗品なんですか?」と尋ねる勇気はない。足早にその店を去り、横にある別の店を見ることにした。
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ちょっと見せられない。ざっと100作品以上はあるアダルトビデオと、現場仕事の道具が売られている。
ビデオは、ディスクの現物とパッケージのカラーコピーが半々で並べてある。
カラーコピーを指差し「これって売ってるんですか?」と店主に聞くと、持っていた大きめのリュックサックから真っ白なディスクを出してきた。ほぼ確実に違法コピーされたものであろう。
夜勤バイト明け、早朝から大量のアダルトビデオのパッケージを見て、本当に疲れた。「ありがとうございます」とだけ言い、私は山谷を後にした。
今回は、山谷地区の現状と泥棒市を見てきた。
いわゆる下町の人情だとかそんなものは一切なく、普通に殺伐としていて怖かった。
彼らの生活をサポートするのは、行政ではなく、NPO法人や教会。それに、地域住民の相互扶助によって成り立っている。
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もっと行政の介入が必要なのではないかと思ったが、彼らは自らのやり方で幸せそうに生きている。彼らや彼らが生活する地域に対して、自分はどのような態度でいれば良いのか。答えは出なかった。
それはそれとして、別に行く価値はないと思う。
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