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現代の奴隷は4000万人以上⚫︎私達も奴隷にされた人達が作った商品を使っています⚫︎中国のウイグル人権侵害に世界がハッキリとNOを言えない理由は…

⚫︎奴隷労働が関わる製品輸入
米国(144億$
日本(47億$
ドイツ(30億$
英国(18億$
フランス(16億$

⚫︎奴隷人数2018年
インド1835万
中 国 338万
パキスタン 316万
北朝鮮 260万
(日本37,000人)

「現代奴隷」は世界に4千万人 コロナ禍で悪化する労働搾取・性的搾取【奴隷制度廃止国際デー】
2020-12-02

奴隷制度は歴史の教科書や遠い国の出来事ではない。現代でも、世界では4千万人を超える人たちが「奴隷」として強制労働を強いられたり、人身売買や性的搾取の標的となっている。さらにその傾向は、パンデミック禍でさらに悪化していると専門家たちが警告している。(フロントロウ編集部)
12月2日は「奴隷制度廃止国際デー」

 毎年12月2日は、「奴隷制度廃止国際デー(International Day for the Abolition of Slavery)」。この日は、1949年に米ニューヨークで行なわれた国連総会で、『人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約』が採択されたことにちなんで制定されたもの。

画像: 12月2日は「奴隷制度廃止国際デー」
 以来、「何人も奴隷にされ、または苦役に服することはない。奴隷制度および奴隷売買は、いかなる形においても禁止する」という世界人権宣言第4条を踏まえて、あらゆる形での奴隷制度の廃止を願い、組織犯罪防止条約をはじめ、人身売買に関する条約が策定されている。

現代にも存在する「奴隷」として扱われる人々

 「奴隷」という言葉からは、貧しい国から船などで移送されてきた人々が、劣悪な環境で労働を強いられている姿を想像するかもしれない。そんな光景は、小説や映画に出て来る作り話で、現実にそんな扱いを受けている人々がたくさんいるなんて信じられないかもしれないが、国連の国際労働機関(ILO)が2019年に発表したところによると、奴隷制撤廃に関するさまざまな条約が策定された後も、世界では4030万人以上の人々が、いまだに何らかの現代奴隷制の被害者となっているという。

 現代奴隷制撤廃を目指す英チャリティ団体「Anti-Slavery International(アンチ・スレイバリー・インターナショナル)」が解説している、現代における「奴隷」の定義は、自分の意思に反して労働を強いられていることや、“雇用主”と称する人物や企業などから物のように所有され管理され、搾取されていること、そして、行動や生活の自由を制限され、人間性を奪われ、人身売買の道具のように扱われていること。

 4000万人以上いる現代奴隷のうち、71%が女性、25%が子供が占める。過半数の2490万人以上が強制労働をさせられているほか、1500万人以上が望まない結婚生活を送らされているという。

画像: 現代にも存在する「奴隷」として扱われる人々
 強制労働を強いられている人たちの大半が民間企業で働いており、人々の家を掃除したり、私たちが日々着ている衣料品を製造したり、果物や野菜を収穫したり、漁業に携わったり、スマホや電動自動車などに使われる鉱物の採鉱などに従事している。

 それとは別の480万人の人々(女性が99%を占める)は、望まない性産業への従事を強いられ、性的搾取の対象にされている。

パンデミックの裏で増大するリスク

 “使う側”の人間たちにとっては、莫大な富を生み出すビジネスとなっている現代奴隷。だからこそ、なかなか根絶の兆しが見えないが、人権を踏みにじられ、劣悪な生活を強要され、健康リスクに晒されている人々を少しでも減らそうと、近年、各国はさまざまな取り組みを行なってきた。

 しかし、2020年初頭から世界的に広がった新型コロナウイルスは、現代奴隷の撲滅を目指す動きに大きくブレーキをかけてしまうだろうと、国連の専門家たちは警鐘を鳴らしている。

 国連大学政策研究センターで現代奴隷制プログラムを統括するアンハラード・スミス氏は、パンデミックは、少なくとも以下の3つの点から、現代における奴隷問題に悪影響を及ぼすだろうと推測している。

①すでに労働搾取の状態にある人々や、どうにかして奴隷としての扱いから解放された人々(サバイバー)たちの健康リスクが高まる
→人口過密で衛生状況も劣悪な労働者収容所などで暮らしているため、感染予防が充分にできない。もし感染した場合に、医療制度で保護されていないため、充分な治療が受けられない etc.

②パンデミックの影響により貧困に直面した人々が、奴隷状態に陥りやすくなる
→奴隷制を促進してしまう要因である貧困や財政危機により、低賃金労働をせざるを得ない人々の母数が増える。雇用側がより安く使える労働者を求める傾向が高まることで、搾取を行なう余地が大きくなる。教育システムの停止により、児童労働を強いられたり、児童婚をさせられる子供が増加する危険がある etc.

③奴隷制対策関する政府の対応に遅れや中断が生じる
→ パンデミックによる社会と経済の混乱により、奴隷問題への対処や資金の投入が一時停止となったり、遅延が生じてしまう etc.

ソース:国連大学政策研究センターが立ち上げたプロジェクト「Delta87」にスミス氏が寄稿した『The Impact of COVID-19 on Modern Slavery(COVID19が奴隷制度に及ぼす影響)』より一部抜粋して引用
 こういった危機を踏まえ、国連は、11月30日に50名以上の人権活動家や有識者による声明を発表。パンデミックと社会経済的脆弱性や搾取リスクの増大には直接的な繫がりが認められているとしたうえで、各国の政府は、より奴隷問題に関して強固な姿勢を持って取り組み、被害者たちの保護に努めるべきだと呼びかけている。(フロントロウ編集部) 

記事内の写真はすべてイメージ画像です。

2020-12-02

【報告書紹介 vol.2】現代奴隷制の世界推計:強制労働と強制結婚

本企画はILOの活動や労働問題に関心のある方に、ILOの取り組み内容をより知っていただくことを目的としています。ILOがこれまで刊行してきた報告書をご紹介することで、報告書がテーマとしている分野の実情やILOを中心に作られてきた国際労働基準を皆様にご紹介していきます!

グローバルリスクコミュニケーション

TrendsWatcher

世界に存在する現代奴隷の実態

20.07.2018

Photo: msn

 オーストラリアの人権団体「ウォーク・フリー・ファンデーション」が毎年発表する「世界奴隷指数」によると、「現代の奴隷」状況を余儀無くされている人々が世界で約4,030万人に上る。「現代奴隷」には、性労働や児童労働のため人身売買された人、生れながらにして奴隷状態にある人、強制労働者、強制結婚などを含む、脅し、脅迫、暴力、権力による強制などで拘束され奴隷状況にある人々を指す。

 167カ国を対象に行われた調査で、人口比率で見る「世界奴隷指数」では北朝鮮が最も高く、10人に1人、約260万人が奴隷状況にある。奴隷の数ではインドが最も多く、推定1,835万人。インドに続き中国は338万人である。インド、中国、パキスタン、バングラデシュ、ウズベキスタンの5カ国で世界の約58%を占める。

アフリカでは、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、南スーダン、中央アフリア共和国で奴隷状況にある人口比率が高い。これらの国では、貧困率が高く、紛争や独裁政権で法の支配が崩壊、もしくは生活が困難となった人々などが強制的に奴隷状況に追い込まれていくことが多い。

先進諸国における現代奴隷

現代奴隷が少ないと思われる先進諸国だが、アメリカでは800人に1人が奴隷状況にあると報告されている。英国では13.6万人が奴隷同様な労働や性労働を強制されている。奴隷制が廃止されている先進諸国では、不法移民や貧困者、児童などが人身売買によって性労働や奴隷労働を余儀なくされている。

奴隷労働は製造業のサプライ・チェーンの一部
 多くのグローバル企業は奴隷状況が比較的高い国に製造拠点をもっているため、認識がないまま、奴隷労働で作られている製品を先進国消費者が買っていることになる。G20主要国への輸入製品のなかで、最も製造プロセスで奴隷労働が使われているとされる製品のトップ5は、①ノートパソコン、デスクパソコン、携帯電話、②衣類、③魚介類、④ココア、⑤サトウキビである。


 奴隷労働が関わる可能性の高い製品を最も輸入しているのは米国(約144億ドル)に続き、日本(約47億ドル)、ドイツ(約30億ドル)、英国(約18億ドル)、フランス(約16億ドル)である。

 奴隷制度に異を唱える人々も日々の生活で、奴隷労働に支えられた製品を購入し、食品を口にしているのである。しかも現代奴隷制度は巧妙にサプライチェーンに組み込まれているために、植民地政策や資本主義、白人至上主義などわかりやすい社会制度や人種差別によるものではない。当たり前の日常生活が、奴隷制度を容認し支援していることになる。

日本でも起きている!? 人身取引・現代奴隷の問題2018年10月18日 12:30

ノット・フォー・セール・ジャパン(NFSJ) の山岡 万里子です。
今日10月18日は、EUでは「人身取引反対デー」、イギリスでは「奴隷制反対デー」です。(ちなみに国連では7月30日を「人身取引反対世界デー」とし、問題の存在を知らせ行動を促す日に定めています。)

人身取引(=人身売買)や奴隷と聞くと、歴史上の、あるいは遠い第三世界でのできごとだと思っている方が多いのですが、じつは今この瞬間にも、日本をふくむ世界中のあらゆる国で起きていて、約4030万人が奴隷状態にあると言われています。(2017年ILO,WFF,IOMによる推計値。)

本プロジェクトにもイラストを寄せてくださっているみなみななみさんが、2年前にNFSJの「人身取引反対世界デー」キャンペーンに合わせて描いてくださったイラスト

大ざっぱに言うと、人身取引とは「他人を奴隷にする行為」のことで、その目的は「搾取」、つまり他人をこきつかって利益をかすめとることです。労働搾取・性的搾取にくわえ、臓器売買、児童兵士、強制結婚、物乞いやスリの強要などを目的とした人身取引もあります。多くの国の鉱山、農場、工場、建設現場、売春宿では、まともな賃金も払われず体罰・脅し・借金でしばられ、働きつづけている人々がいます。

人身取引・奴隷労働は、この日本でも起きています。いまや全国に28万人いる外国人技能実習生の一部は、借金を背負って来日し、時給300円という低賃金、月百時間以上の残業、休日無し、劣悪な住環境、不当な罰金、虐待、強制帰国の脅し、などに耐えながら、奴隷状態で働いています。だまされて入国し売春を強要される外国人女性もいます。

内閣府が発行している人身取引啓発ポスター2018年版

日本人の女子高生や若い女性たちは、ネット広告や路上スカウトにより、パーツモデルなどのバイトに応募したつもりが、実はアダルトビデオへの出演を強要されるという被害もあとを絶ちません。年間1,000件近く摘発される、18歳未満の子どもの性を買う児童買春は、たとえ強制的な手段をとっていなくても、また被害者が同意していたとしても、国際的な定義によれば人身取引にあたります。

ノット・フォー・セール・ジャパン(NFSJ)では、このような人身取引の問題を伝え、他団体とともに政府や国連機関への提言活動を行っています。NFSJが担当する「企業のエシカル通信簿」の「人権・労働」部門では、企業行動の中に人身取引や奴隷制への関与が入り込みそうな部分について、いくつかの問いを設定しています。

たとえば、
・自社あるいはサプライチェーンにおいて、強制労働を防ぐ手立てがあるか。
・長時間労働や低賃金を防いでいるか。
・イギリスの「現代奴隷法」を遵守しているか。
また「性の商品化への加担を防ぐために、社員旅行・行事での買春等を禁止しているか」などという、企業調査では珍しい項目もあります。昨年調査したコンビニ業界については、成人向け雑誌等の販売禁止の有無を問う項目も設けました。

人身取引や現代奴隷は案外身近にひそんでいます。犯罪組織だけでなく、企業も間接的に加担している可能性があり、「企業のエシカル通信簿」は、その点に光を当てようとしています。ご支援をよろしくお願いします。

人身取引問題を考える、ノット・フォー・セール・ジャパンの講演会

「現代奴隷」が経営を揺るがす
狭まる投資家の包囲網2020.06.15藤田 香(日経ESG シニアエディター)

藤田 香

サプライチェーン上流や国内の外国人労働者の人権問題が深刻になってきた。投資家の評価も始まった。人権は企業にとって経営の根幹に関わる問題だ。

 「グローバル企業として恥ずかしい。自分が外国人なら働きたいとは思わないだろう」。ある専門家は残念そうにこう話す。

 2019年9月、日立製作所はフィリピン人の技能実習生43人に対し、技能実習計画とは異なる単純労働をさせていたとして、技能実習適正化法違反で厚生労働省から改善命令を受けた。同社は18年も、実習生に異なる仕事をさせているとして国から実習計画の認定が下りず、100人近い実習生を解雇した。その際、「違法ではない」と話した中西宏明会長のコメントが、実習生の人権を軽んじているとして同社の印象を悪くした。

 日立といえば経団連の会長企業。そして、「グループ人権方針」を社の行動規範と同じレベルで13年に策定した “人権先進企業”だ。当時、日経ESGもそう紹介した。しかし、「人権配慮はCSR部など一部の社員でしか共有されず、ガバナンスに統合されていなかったのではないか。経営上の重要リスクだという内部統制ができていなかったのだろう」とこの専門家はみる。

 日立ばかりでない。19年1月には三菱自動車やパナソニックが、改善命令より重い、技能実習計画の認定取り消しを受けた。

 ここ数年、人権侵害の不祥事が後を絶たない。かつてはアパレルなどの海外委託先工場で起きる人権問題で日本企業が批判される例はあったが、最近は国内の外国人労働者の待遇など足元にも人権リスクが及んできた。個人情報の取り扱いなど人権問題の範囲も広がっている。

■ 最近問題になった日本企業の人権侵害の例

出所:企業活力研究所「新時代の『ビジネスと人権』のあり方に関する調査研究報告書」を基に日経ESGが編集

現代奴隷、有史以来最大

人権問題というと日本人の多くは遠い世界の話か、差別やセクハラ・パワハラをイメージする。しかし世界標準の「人権」は極めて範囲が広く、サステナビリティの中核テーマであり、企業の経営課題でもある。サプライチェーンで起きる「人間の権利の侵害」はすべからく企業にとって人権問題に当たる。調達・生産現場での強制労働や児童労働、長時間労働や劣悪な環境下での労働はもちろん、開発によって環境を破壊し、地域住民のきれいな水や大気、森林、海を奪うことも人権侵害に当たる。企業に投資や融資を行う金融機関の責任も免れない。それゆえPRI(責任投資原則)は毎年の総会の主要テーマに人権を入れてきた。

■ PRI総会での重要テーマ

出所:QUICK ESG研究所の資料を基に日経ESGが編集
 強制労働や自由を奪われて人権侵害を受けている人は「現代奴隷」と呼ばれ、国際労働機関によると世界に4030万人いる。有史以来最大と言われる。19年のPRI総会でも現代奴隷がテーマになった。その現状を伝えたAP通信の報道が16年にピュリツァー賞を受賞し、衝撃を与えた。インドネシアの漁船で働くミャンマー人船員が島で監禁され、何年も漁業に従事させられ、その水産物が米小売り大手ウォルマートなどに流れている可能性を伝えた。私たちの日常生活と無関係ではない。

 企業が関係する人権問題には3種類ある。1つはサプライチェーン上流の原材料調達で起きる人権侵害。ウォルマートの例がこれだ。2つ目は業務委託先やサプライヤーの工場で起きる人権侵害。アパレルや電子機器は委託生産している場合が多く、リスクが高い。3つ目は国内の外国人労働者や海外の移民労働者の問題。入国時に借金を背負い債務労働の状態にある労働者は現代奴隷と見なされる。日本の技能実習生にはこのリスクがある。

 11年に国連が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、「指導原則」)は、企業は人権を尊重する責任があることを明確にした。この考え方はその後、経済協力開発機構(OECD)のガイダンスとしてビジネス界の常識になった。このソフトローは近年ハードローへと進化した。2015年に英国は現代奴隷法を制定。同国で事業を行う企業に対し、サプライチェーン上の人権リスクの調査と取り組みの報告を義務付けた。同様の法律をフランス、オーストラリアも相次いで制定した。

 世界の関心が高まる中、日本企業の人権対応は遅れてきた。ロベコSAMの評価では、日本企業の「人権の取り組み」のスコアは、欧州企業の平均の65%と劣る。

投資家の評価が始まった

しかしここ数年、その重大さに気付いた日本の大手企業が、慌ただしく人権対策に動き始めた。

■ 人権報告書が各社から発行


ANAグループは2018年5月、日本企業で初めて人権報告書を発行した。ユニリーバやネスレなど海外企業も人権報告書を既に発表している
 ANAグループは18年5月、日本企業で初めて「人権報告書」を発行した。海外企業ではユニリーバやネスレなどが出している。ANAは自社事業を分析し、人権リスクが「外国人労働者」「機内サービス・物品・機内食のサプライチェーン上の労働環境」「人身取引」「贈収賄」の4分野にあると特定し、進捗を開示した。

 イオンは18年7月、トヨタ自動車は19年8月、人権対策に取り組む「ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)」に加盟し、国内の外国人労働者の問題解決に向けた情報共有を始めた。「今後、外国人労働者の活躍は不可避。既に連結会社の外国人労働者の自主点検を進め、子会社や規模の大きなサプライヤーでも確認中だ」とトヨタは言う。

 各社が人権対策のギアを上げた背景には、東京五輪が迫り、人権や環境に配慮した持続可能な調達に国際社会の厳しい目が向けられるようになったこともある。しかし大きな理由は、投資家による人権の評価や格付けが本格化したことだ。

■ 企業に人権配慮を求める包囲網


英保険大手アビバ・インベスターズや北欧最大のノルディア銀行などの投資家が、NGOと設立したイニシアティブ「企業人権ベンチマーク(CHRB)」が、企業の人権の取り組みを採点し、発表している。17年までは試行段階だったが、18年に農業、アパレル、資源採掘の約100社の点数を正式に公表した。

■ 人権ベンチマーク「CHRB」の2018年スコア

英アビバ・インベスターズなどが関わる企業の人権ベンチマークのスコアリングでは、スコアは0〜30点に集中。ファーストリテイリングやイオンのスコアは2019年に上昇することが見込まれる
 多くの世界企業が厳しい評価を受けた。日本企業ではイオンとファーストリテイリングが対象に選ばれたが、100点満点中、イオンは10〜20点、ファーストリテイリングも20〜30点と厳しかった。開示ができていなかったことが大きな理由だ。これが発奮材料ともなったのか、2社は19年にかけて、人権の体制を整え、開示を進めた。19年は情報通信分野の企業も加わり、世界で約200社、うち日本企業18社が採点される(結果発表は19年11月)。20年には試行段階として自動車メーカーの採点が始まり、日本企業も加わる予定だ。

 CHRBプログラム・ディレクターのダニエル・ニール氏は、「人権方針を策定していても、人権デューデリジェンスをビジネスに組み込めていない日本企業が多い」と話す。

 ファーストリテイリングのグループ執行役員サステナビリティ部の新田幸弘氏は、「CHRBの評価基準を見て、世界では人権問題の何が重要かを学んだ。体制を整え、開示も進めた。19年はスコアがどうなるか見守りたい」と話す。

人権配慮企業は株価が高い

これまで人権などESGの「S」の評価は定量化が難しかったが、このような人権ベンチマークができたことで、投資に活用する動きが出てきた。CHRBに自ら関わるアビバ・インベスターズは、以前から人権への関心が高く、16年7月から17年末の1年半に人権関係のエンゲージメントを182回も実施した。同社は人権をガバナンスだと捉えている。同期間の人権に関する議決権行使も100回を超える。新しい人権方針の策定やデータ開示を企業に求めた。

■ 英アビバ・インベスターズの人権関係のエンゲージメントと議決権行使

2016年7月~2017年12月の1年半の実績
 18年からCHRBスコアをESGインテグレーションにも活用している。スコアが低い企業へ人権担当の役員再選に反対票を投じるなど、19年上期で38回の議決権を行使した。

 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントも、人権問題で企業とエンゲージメントを実施している。注目する人権侵害は4つ。「途上国のサプライヤー工場における労働問題、国内での長時間労働、国内下請け工場で働く外国人技能実習生の強制労働、パーム油と資源採掘の開発に伴う環境破壊や汚染だ」とスチュワードシップ責任推進部長の小野塚恵美氏は話す。

 エンゲージメントで感じるのは、日本企業の人権問題への無頓着ぶりだ。一例が一18年からエンゲージメントしている自動車メーカー。東南アジアの工場で労働訴訟などの人権侵害が起きているため、投資金額を減らした上でエンゲージメントを始めた。対話で驚いたのは、「同社が人権侵害を理由にESG評価機関から低いスコアを付けられていることを知らなかったこと」だ。改善を求めた結果、同社は人権問題を是正し、ESG評価機関の「S」のスコアが10ポイントも改善したという。

 ゴールドマン・サックスが人権問題で企業とエンゲージメントを行うのは、企業価値を高められるからだ。「リスク回避だけでは投資家は後押しできない。人権対応はブランド力が上がり、人材確保につながると捉えている。企業の成長戦略に関わる」と指摘する。

 同社のESG評価を行うグループ会社「GSサステイン」は、人権に配慮した企業は株価が高いというデータをまとめている。消費財セクターで児童労働・強制労働禁止の方針や、サプライチェーンの社会的リスクに関する方針を持つ企業は、ブランド力が高く、方針のない企業に比べ株価が年率5.6%上回っているという。人権対策はチャンスになる証左だ。

 それゆえ、投資家は人権関係の正しい情報を求めている。ニーズの高まりを示すのが、SNSやNGOの評価、メディアの記事も取り込み、「S」の情報収集に定評があるESG評価機関アラベスクと契約を結ぶ投資家の増加だ。ESG評価サービス「S-Ray」の契約件数は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)やスウェーデンの公的年金基金AP1など約50件に上り、トライアルが20件、カスタマイズが5件と増えている。

 日本の投資家で人権の取り組みに積極的なのは、りそな銀行だ。エンゲージメントでは、日本企業に対して「指導原則」への賛同と開示を求めている。19年PRIで立ち上がった「アパレル企業の強制労働リスクへの対応」の協働エンゲージメントにも参加し、19年4月以降アパレル企業と対話している。その際、CHRBなどの人権ベンチマークを活用し、アパレル企業に人権対応を促している。

 最近は外国人労働者に関する質問も始めた。「質問の際、重視するのはリスク管理の範囲。自社だけか、子会社や協力会社まで対応しているか。その上で経営理念との関係性を尋ね、ガバナンスに落とし込まれているかを見る」と責任投資グループリーダーの松原稔氏は言う。

SDGsに貢献、融資も受ける


 人権に取り組むことは、金融機関からの融資でも評価される。三井住友信託銀行は19年3月、国連環境計画金融イニシアティブが定めた「ポジティブ・インパクト金融原則」に沿った世界初の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」を実施した。融資先は不二製油グループ本社だ。

 ポジティブ・インパクト・ファイナンスは、資金提供を通じてSDGs達成へのプラスのインパクト(効果)を増大させるもので、SDGsへの貢献を定量的に示せる企業に融資する。不二製油を選んだ決め手の一つは、同社がパーム油の調達方針にNDPE(森林破壊ゼロ、泥炭地開発なし、労働搾取なし)原則に基づく目標を定め、農園の労働者が人権侵害を訴える「苦情処理メカニズム」を設置し、その登録件数やトレーサビリティ達成率をKPIにしていること。インパクトを定量的に評価できると三井住友信託は判断した。

 企業が人権問題に対応することは、SDGsが掲げる貧困、働きがい、不平等、つくる責任つかう責任に貢献し、日本の産業基盤を支える人材の確保につながる。取り組まなければ投資先から外される恐れがあり、SDGs達成に向けた融資のチャンスも逃す。人権後進国から抜け出すために、経営が変わる時が来た。

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