米国上場の中国企業が香港に避難している

何が起きているのか。

2019年11月、アリババが香港で再上場し129億ドルを調達したことに始まり、続いてインターネットコングロマリットのNetEase、EC大手のJD.com、教育グループのNew Orientalが香港証券取引所への二次上場を実施。それぞれが市場から10~30億ドルを調達。2021年には、オンライン旅行会社のCtrip、動画プラットフォームのBilibili、検索エンジンのBaiduが加わり、それぞれ約10~30億ドルの資金を獲得した。今現在は、音楽ストリーミングプラットフォームのTencent Music、オンラインディスカウントストアのVipshop、ライブストリーミングプラットフォームのJOYY Group、Bytedanceなど、多くの中国企業が香港での二次上場を目指していると言われている。

一方で、中国軍との関係が疑われる企業の株式を米国投資家が保有することを禁止する大統領令をドナルド・トランプ大統領(当時)が出したことを受け、ニューヨーク証券取引所は、チャイナモバイル、チャイナテレコム、チャイナユニコム香港など中国の通信会社3社のADR(米国預託証券)を、2021年初めに正式に上場廃止にしました。そして、中国国有石油大手の中国海洋石油総公司はバイデンの監視下でNYSEから押し出され、「難民」となった。

なぜ、このようなことが起きているのか。

1)押し出す米国
2020年5月ラッキンコーヒーの不正問題が発覚した直後、米上院は、会計監査や外国政府の持株比率の証明に関する規制強化を打ち出した「外国企業説明責任法」を全会一致で可決。この法案は、米国上場している中国企業にとっては非常に厳しいものであり、この法案が通過したというニュースは、アリババ、バイドゥ、JDに影響を与え、株価が一日で6%〜10%下落。2020年12月2日、この法案が米国下院で正式に可決された直後、トランプ前大統領が署名した。

トランプ氏の任期最後である2021年1月、米国政府は、世界第3位のスマートフォンメーカーであるシャオミを含む9社の中国企業を「中国軍関連」のブラックリストへ。このようなリストは、2020年11月にトランプ氏が初めて導入したもので、アメリカの投資家に対して、2021年11月11日までに「ブラックリスト入り」の企業の株式を売却することを求めている。それ以来、アメリカ政府は「ブラックリスト」を継続的に拡大し、より多くの中国企業を対象としている。そのため、中国企業はブラックリストに含まれた場合やその他不測のリスクに備えて、代替案を考えなければならない。皮肉なことに、昔はアメリカ企業が中国で「不測の事態」に直面していたが、今はその真逆になっているといえる。

2)引きずり込む香港
2018年4月30日、香港証券取引所は、2018年5月1日に発効する上場規則を発表。主に2点の緩和に関する規則です。1つ目は、バイオテック企業が上場するために営業収益を上げる必要がないこと、2つ目は、Google、Facebook、Atlassian、Rokuが採用しているデュアルクラス構造と同様に、特定の人物にその持ち株に比例しない議決権を与えることができるという、加重議決権(WVR)が認められていること。

もちろん、このような規制の変更は、二次上場を引き寄せる追い風のようなものに過ぎず、元々香港はすでに素晴らしい金融環境をもっている。
二次上場の選択肢として、2大取引所であるニューヨーク証券取引所とナスダック、続いて日本取引所グループと上海証券取引所があり、香港証券取引所は、世界で5番目に大きな取引所である。企業が香港証券取引所と日本の市場を比較した場合、日本語の書類を作成するだけでなく、日本の投資銀行とのコミュニケーションも含めて、言葉の壁は高い。日本市場の投資家が中国企業を正しく評価できないのは言うまでもなく、理解不足が原因であるといえる。一方で、上海証券取引所について、香港証券取引所と比べてみると、3年以上にわたって純利益と純キャッシュフローが黒字であることが条件など、より保守的な上場基準といえる。また、中国と香港を結ぶクロスボーダーの投資ルートが2014年からすでに整備されていたため、SSEに上場していなくても、中国の投資家を呼び込むことができる。
香港証券取引所の投資家は米国投資家よりも中国企業を高く評価しているが、これは米国投資家が中国企業に対する理解不足のためであり、米国内のプレイヤーに投資したいと考えているためだと思われる。
香港取引所は、これらの中国の「難民」を迎え入れ、大きくなっている。2020年末時点で、香港でのIPOによる資金調達額は515億ドルで、世界第2位である。

3)止めない中国
中国政府は、上海証券取引所の上場基準を変更したり、中国での上場に金銭的かつ政治的なインセンティブを与えたり、そもそも中国企業が香港証券取引所や他の取引所での二次上場を行うことを禁止したりすることも簡単なのである。それにも関わらず、中国政府は上記のいずれも行っていないので、このような黙認にも注目していただきたい。


上場を控えた日本の難民

何が起こっているのか。
中国企業が米国市場で押し出される難民になっている一方、日本では違う意味での難民がでている。日本でIPOを目指す企業の多くが、IPO準備のための監査人を確保できなかった。監査法人に断られた企業の正確な数は不明だが、多くのメディアがこの現象を報じており、有名監査法人であるあずさKPMGをはじめ、1年間は新規のIPOクライアントを引き受けないと発表したところもある。

なぜ、このようなことが起きているのか。
1)レピュテーション・リスク
上場企業による不正会計の事件が増えている。2020年には58件が報告され、東芝や伊藤忠のような歴史的な名門企業もあれば、LIXILのような新規上場企業もある。監査法人は、クライアントを増やすことで自分の評判がさらに落ちることを恐れているようだ。

2)需要の増加
2008年のリーマンショック以降、IPOの数は増加しており、2020年には107社が上場、10年前の約2倍となった。さらに、東京証券取引所は上場廃止率が非常に低いため、上場企業数が増加傾向にある。2011年には2,290社だった上場企業が、現在では3,831社となっている。

3)供給量の減少
日本政府は、すべての事業者が対象となる「働き方改革」を推進している。監査法人の仕事は長時間労働であることが知られているが、この新しい規制では1日および1ヶ月の労働時間の上限が厳しく設定された。このような制限がある中、監査法人は上場予定の企業ではなく、大規模な上場企業にサービスを提供することに集中しているようだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?