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『ヘドバン』Vol.11(2016年7月13日発売)に掲載された、SABATONの“司令塔”ヨアキム・ブローデン(Vo)のインタビュー!

 もはや「スウェーデンの」という枕詞など必要ない、名実共にパワー・メタル界を背負って立つバンド、SABATON。8枚目となるスタジオ・アルバム『The Last Stand』をリリースするということで、ヴォーカリストのヨアキム・ブローデンに話を聞いてみた。今回のインタビューはSkype経由。伝えられていたSkype IDでヨアキムを検索してみると、複数のアカウントがヒット。その一つがSABATONのTシャツを着たヨアキムのアイコンだったので、これで間違いないだろうと前もってメッセ―ジを送っておいたのだが、当日電話がかかってきたのはなぜか別のアカウントからだった。

(文◎川嶋未来/SIGH)


【日本で人気が急上昇しているという実感は、もちろんあるよ】

ヨアキム ハロー、SABATONのヨアキムだ。

――調子はいかがですか。

ヨアキム とてもいいよ。珍しく天気もいいし。

――すみません、前もってメッセージしていたつもりだったのですが、相手はあなたの偽者だったようです。名前もあなたで、写真もSABATONのTシャツを着たあなたのものだったのですが…。

ヨアキム ハハ、そうやって女でも引っかけようとでもしてるんだろうな。

――頭のいい奴ですね(笑)。ではインタビューを始めましょう。LOUD PARK 15でのあなた方のパフォーマンスは大きな話題を呼びましたが、日本でファンが急激に増えたという実感はありますか。

ヨアキム 正直言うと、そもそもあんな大歓迎を受けるとは予想すらしていなかったんだ。日本に行くこと自体が初めてだったからね。しかし、ファンのリアクションは素晴らしいものだったよ。もちろんラッキーな面もあったんだ。タイミングが良かったというのかな。ステージ・セットの戦車を持って行くこともできたし、SABATONを知らないというお客さんもたくさんいた。とても素晴らしいショウができたと思うし、俺たち自身もとても楽しかったよ。あらゆる面でいいことが重なったんだね。日本で人気が急上昇しているという実感は、もちろんあるよ。メディアだけでなく、ファンからメールがたくさん来たりもするし。素晴らしい経験になったよ。

――SABATONをベスト・アクトに挙げる人も多かったですからね。

ヨアキム それは良かった!

――ニュー・アルバム『The Last Stand』がリリースになりますが、このアルバムは過去のSABATONとは違うものでしょうか、それとも変わらずピュアなSABATONらしいアルバムなのでしょうか。

ヨアキム うーん、両方かな。ワイルド・カードも入っているしね。『Heroes』(2014年)は、ニュー・ラインナップとしての最初のアルバムだったから、“メンバーが変わってもSABATONはSABATONに変わりがない”ことを証明しようと頑張った部分がある。それが証明できたので、今回は少し先に進もうかという気持ちになったんだ。音楽的にも歌詞的にもね。俺たちは常に現代の戦争について歌ってきたけれども、今回は世界中の、そして期間にして2500年に渡る広大な範囲の様々な戦いを取り上げた。1曲目の「Sparta」は紀元前480年のテルモピュライの戦いについてだし、8曲目の「Hill 3234」は1988年のアフガニスタン紛争についてだ。あらゆる時代、場所について取り上げたよ。

――なるほど。では音楽的には、どの曲が新しいSABATONの一面を見せていると思いますか。

ヨアキム うーん、音楽的にかぁ。そうだな、「Blood of Bannockburn」かな。スコットランドに関する曲だけど、きっと多くの人がびっくりするんじゃないかな。ロックンロールみたいだからね、ハモンド・オルガンが入っていて(DEEP PURPLEの)「Highway Star」っぽい雰囲気があるんだ。

――そう言えば、あなたは元々ハモンド・オルガン・プレイヤーとしてこのバンドに加入されたんでしたよね。

ヨアキム 実はそうなんだよ。元々俺はハモンド・オルガンやチャーチ・オルガンを演奏していて、SABATONにもオルガン・プレイヤーとして参加したんだ。バンドがキーボード・プレイヤーを探していたからね。ところが「お前歌も歌えるの? とりあえず正式なヴォーカリストが見つかるまで、ヴォーカルをやってくれよ」って言われてヴォーカルをやることになったんだ。あいつらときたらとんでもなく怠け者で、あれから17年経った今も正式なヴォーカリストを見つけやしないけど(笑)。

――オルガニストとして正式に訓練を受けていたのですか。

ヨアキム そうだよ。でもずっと弾いていないから、もうきちんとは弾けないけどね(笑)。

――やっていたのはクラシックですか。

ヨアキム 元々は教会音楽をやっていたんだ、バッハとかね。それからDEEP PURPLEのジョン・ロードなどからもインスパイアされるようになった。

――今回ハモンド・オルガンを弾いているのは、あなたではなくトーマス・スンモ氏ですよね。

ヨアキム そうなんだよ。

――彼は80年代にTORCHやMERCYといったスウェーデンのメタル・バンドのプロデュースをやっていますよね。

ヨアキム ちょっと待ってくれよ、何でそんなことを知っているんだ! ファック! 信じられないよ。TORCHやMERCYといったバンド自体知らない人もたくさんいるというのに! 本当に驚いた。

――80年代のスウェーデンのメタル・バンドというのはお好きでしたか。

ヨアキム いや、正直言うと、俺にとってへヴィ・メタルの入り口となったのは、スウェーデンのバンドではなかったんだ。

――メタルの入り口については、のちほどまた詳しくおうかがいしたいと思います。この「Blood of Bannockburn」ではバグパイプが使われていますよね。バグパイプというのはヘヴィ・メタルでは「普通」の楽器とは言えないですが、一方でAC/DCではおなじみだったりと不思議な楽器です。

ヨアキム そうなんだよ。この曲はスコットランドにおける戦いの歌だからね。そして幸運にもこの曲はキーがメジャーなので、メロディーをバグパイプでうまく演奏することができたんだ(注:バグパイプは、基本的にメジャー系のスケールを演奏する作りになっている)。バグパイプの音をうまく使うのって難しいんだよね、何だか鼻にかかったような音だし、目立ちすぎるから。これまでに10曲くらいバグパイプを試したことがあるのだけど、一度もうまくいかなかった。この曲でやっとという感じさ。もちろんプロデューサーのピーター・テクレンの手腕によるところも大きいけど。

――バグパイプを演奏したのはヨナスですよね(注:ヨナス・チェルグレン。スウェーデンのミュージシャン、音楽プロデューサー。今回はマスタリングを担当すると共に、バグパイプでゲスト参加)。

ヨアキム そうだよ。

――― 彼の苗字の発音はチェルグレンで良いのですか。

ヨアキム そう、チェルグレンだよ。


【城山の戦いという、まさにサムライのラスト・スタンドとでもいうべき出来事を見つけた】

――この曲は先ほどおっしゃられたように、キーがメジャーで全体的にさわやかで、例えばJOURNEYのようなバンドを思い出したりもするのですが。

ヨアキム 具体的に何かのバンドから影響を受けてできたというわけではないんだ。たまにあるだろ、座っていたらいきなりメロディーが降りてくるというようなラッキーなことが。この曲のギターのメイン・リフは、『Herose』を作っているときに思いついたんだ。だけどそのときは使わずにしまっておいた。で、あるとき書きためてあるメロディーを見直していて、このリフを見つけたんだよ。ピアノで弾いてみて、今度はハモンドにしてみて、なんてやっているうちに次々とアイデアが浮かんできて、あっという間に自然に1曲出来上がった。SABATON用の曲を書こうというつもりもなかったし、果たしてSABATON向けなのかもわからなかった。他のメンバーに出来上がった曲をいろいろと送るときに、試しにこれも一緒に送ってみたんだ。「これはいつものSABATONとは随分違うけど、どう思う? あまりメタルではないのだけど」ってね。そしたら彼らは「メタルかそうでないかなんてどうでもいいよ。大事なのはいい曲かそうでないかだ」って。それで収録することにしたんだ。

――今回は、日本の城山の戦い(1877年の西南戦争の最終決戦)についての曲もありますね。日本の歴史についても興味がおありなのでしょうか。

ヨアキム そうだね、興味があるというか、厳密には去年10月に日本に行ってから興味を持つようになったというべきかな(笑)。LOUD PARKのあとに少しオフがあったので、ワイフと京都などいくつかの場所に行ったんだよ。ちょうどその頃『The Last Stand』用の曲を書き始めていたんだ。それで“Last Stand”(=最後の抵抗)というコンセプトにふさわしい歴史上の出来事について調べていたときに、城山の戦いという、まさにサムライのラスト・スタンドとでもいうべき出来事を見つけたんだ。ちょうどそのタイミングで初めて日本に行くチャンスがあるなんて、これはただの偶然じゃないぞと思ってさ(笑)。

――将来的に取り上げようと思っている、ほかの日本の出来事はありますか。

ヨアキム そうだな、まあ、何というか正直言うと日本の歴史にそんなに詳しいわけではないんだ(笑)。これからもっと勉強しようとしているところさ。次のアルバムを作るまでに2年半はあるだろうから、その間にしっかり勉強するよ(笑)。

――なるほど。では過去のアルバムに比べて、『The Last Stand』の一番進歩した点は何だと思いますか。

ヨアキム 主に、クリス(・ローランド/G)とハネス(・ヴァン・ダール/Ds)のおかげで、まあ彼らはもはや新メンバーでもないのだけど。すでにアルバムは2枚目だし加入してから4年も経っているからね。しかし今回のアルバムでは、彼らがより彼ららしくなったと言えばいいのかな。例えばハネスがドラムを叩くときに「どう叩けばSABATONらしいドラムになるだろう?」とか、クリスが「どういうソロがSABATONっぽいだろうか?」というようなことばかりを気にしなくて良くなったという感じさ。もちろん彼らのプレイは十分にSABATONらしいのだけど、SABATONとしての過去ではなく、彼ら自身であることに専念できるようになったことだね。これは非常に大きな進歩だよ。

――今回ボーナス・トラックとしてJUDAS PRIESTの「オール・ガンズ・ブレイジング」(1990年発表の『Painkliller』収録)が入っていますが、これはSABATONとして非常に妥当な選曲ですよね。JUDAS PRIESTのアルバムでは『Painkliller』が一番お好きですか。

ヨアキム JUDAS PRIESTに関しては、お気に入りのアルバムはたくさんあるよ! 彼らがメタルの歴史と共に、その音楽性を発展させていったのはとても素晴らしいことだ。俺にとって、最初の本当に素晴らしいJUDAS PRIESTのアルバムは『背信の門(Sin After Sin)』(1977年)だね。このアルバムで、JUDAS PRIESTは今俺たちが思い浮かべるJUDAS PRIESTになったと思うんだ。彼らは非常にプログレッシヴなバンドだよね。同じことを繰り返して時代遅れになったりすることがないんだ。そりゃもちろん『Turbo』(1986年)や『Ram It Down』(1988年)のような作品に怒ってる奴らはたくさんいたけどさ、俺はどっちも好きだよ! 『Painkliller』がリリースされたとき、このアルバムはある種のへヴィ・メタルのスタイルを定義する作品だと思った。時代の先を行っていて、初めて聴いたときは床に引っくり返ったものだよ。ギターのトッペ(エングランド)も同じ経験をしているので、「All Guns Blazing」のカヴァーは、俺とトッペのデュエット形式にしているんだ。

――一方でスタン・リッジウェイのカヴァーは意表をついていますよね。スタン・リッジウェイやWALL OF VOODOO(注:アメリカのニュー・ウェーヴ・バンド。スタン・リッジウェイがヴォーカルを務めていた)がお好きなのですか。

ヨアキム いや、実を言うとこの意表を突いたカヴァーをやろうと提案したのは、ハネスなんだ。とても良い出来になったと思うよ。俺はオリジナルはほとんど聴いていなくて、ハネスとトッペがヘヴィ・メタルにアレンジしたんだ。もちろん多少は手伝ったけどさ。俺はあまり同時にいろいろなことをやれる人間ではないので、アルバム本体の11曲を完成させるほうに専念していたからね。スタン・リッジウェイのオリジナルと全く違う曲になり、とても新鮮だったよ。「てっきりカントリー・ウェスタンっぽい曲だと思っていたのに、これは完全にヘヴィ・メタルじゃないか! 一体どうやったんだ?」ってね。

――とても良い仕上がりになっていますよね。

ヨアキム そうなんだよ。実際全く期待していなかったのだけど、とてもよく仕上がった(笑)。


【俺はメタルに限らずクラシックであっても、キャッチーな曲というのが大好きだからね】

―――さらにボーナスDVD(2016年2月24日フランス・ナントでのライヴを収録)が付いています。残念ながら私はまだ観ていないのですが、どのような内容なのでしょう。

ヨアキム 実を言うとこれは、俺個人的にお気に入りのショウの一つなんだ。普通DVDを作る場合、大きな会場でたくさんの機材を使ってやるものだろう。実際俺たちも前回リリースしたライヴDVDは、WACKEN OPEN AIRでのショウのものだった。大きいショウはもちろん素晴らしいのだけど、なかなかオーディエンスとのコミュニケーションがとれない。それにDVD用に撮影をしているとわかると、メンバーもどうしても緊張をしてしまうしね。今回のDVDは、記憶に誤りがなければ今年の2月に撮影したもので、フランスのテレビ用に60分の映像を撮らせてくれと言われて録ったものなんだ。大げさな打ち合わせや機材とかはなしでね。ただ担当者が来て、「ハロー、こんな風に録るからよろしく」って。そしたら素晴らしい出来でさ。あとからわかったのだけど、彼らはHELLFEST(注:フランスの巨大メタル・フェスティバル)のビデオ・クルーだったんだ。メンバーだけでなく、オーディエンスの雰囲気も非常に良い。クラウドサーフをしていたり、オーディエンスとの距離もとても近いしね。俺たちも全く緊張をしていなかったし。何しろツアー中の普通の1日で、ビデオを録るといっても大げさなものじゃなかったから、意識をしていなかったのが良かったんだろうね。SABATONのDVDの中で、もっとも良い雰囲気のライヴだと思うよ。

――SABATONの音楽は常にキャッチーで、一度聴けば一緒に歌えるものが多いですよね。曲を書くに際してのポリシーというのはありますか。キャッチーな曲を書こうと意識をされているのでしょうか。

ヨアキム 俺は個人的にキャッチーな曲が大好きなんだよ。だけどSABATONのアルバムには、もっとハードな曲も入っている。アルバムにつき、だいたい2曲くらいはね。ハードというか、全然キャッチーでない曲。例えば『Primo Victoria』(2005年)に入っている「Stalingrad」などは全くキャッチーでないし、むしろプログレみたいで少々スラッシュっぽい部分もある。俺としてはそういう曲を書いたりレコーディングしたりするのは好きなのだけど、残念ながら俺たちのファンの大半は、どうもそういう曲が好きではないらしいんだよ。ファンが気に入ってくれないのなら、そういう曲をやる意味は何なんだ、ということになってしまう。それでそういうちょっと変わった曲は、アルバム中1、2曲にしようと決めているんだ。だけどもちろん妥協をしているということではないよ。俺はメタルに限らずクラシックであっても、キャッチーな曲というのが大好きだからね。

――ではあなたにとって、へヴィ・メタル初体験というのはどのようなものだったのでしょう。

ヨアキム 初めてへヴィ・メタルに接したのは、実は非常に小さい頃のことなので、おぼろげな記憶しかないんだ。母親はそのときのことをよく覚えているようだけど。俺はリビングで一人でテレビを見ていたんだ。母親はキッチンにいたのだけど、突然俺が大声で叫びながら飛び跳ねているのに気付いた。母は俺が癲癇の発作か何かを起こしており、死んでしまうのではないかと思ったらしい(笑)。何しろ突然大声で叫びだし、腕を振り回しながら暴れ始めたわけだからね。テレビの画面には、TWISTED SISTERが映っていた。母もはっきり覚えていないようなのだけど、「I Wanna Rock」か「We're Not Gonna Take It」どちらかのMVだったようだ。また母が随分と心の広い人間で、「このシンガーは見かけは酷いけど、歌は上手いのね」と思ったらしく、俺に『Stay Hungry』(1984年発表)を買ってきてくれたんだ。これが初めて俺が手にしたレコードだよ。これは今でも持っている。ただあまりに聴きすぎて、今では針を落としても、もはや鳴るのは音楽ではないけどね(笑)。

――では、あなたご自身で初めて買ったヘヴィ・メタルのアルバムは何だったのでしょう。

ヨアキム EUROPEの『The Final Countdown』(1986年発表)か、SLADEの『The Amazing Kamikaze Syndrome』(1983年発表)のどちらかだったと思う。このどちらかを初めて自分で買って、それからやがて90年代の中盤頃にBLIND GUARDIANやRHAPSODYといったバンドを見つけたんだ。最初に本当に入れ込んだのは、HELLOWEENだったよ。『守護神伝 -第二章(Keeper Of The Seven Keys Part 2)』(1988年)を発売日に買ったときのことをはっきり覚えているよ。

――“第二章”を先に買ったのですか?

ヨアキム そうなんだよ、お金がなかったからね。何しろまだ7、8歳だったから(笑)、お金を借りてさ。その頃隣に住んでいたいとこがHELLOWEENやMÖTLEY CRÜE、W.A.S.P.なんかが大好きで、よく彼の家に行って一緒に聴いていたよ。

――― それにしても7歳でHELLOWEENのファンというのは凄いですね。

ヨアキム ハハ、そういう環境にいたからね。母親は俺がTWISTED SISTERが好きなことに気付いていたし、いとこがヘヴィ・メタル好きだったから。いとこの兄弟は、いわゆる普通のラジオで流れるような音楽を好んでいたけど、俺はそういう音楽は好きではなかったんだ。初めて音楽を聴いて鳥肌が立ったという経験はTWISTED SISTERだったのだけど、そのあとSLADEの「Run Runaway」、HELLOWEENの「Future World」、EUROPEの「The Final Countdown」などを聴いて育ったからね。もちろんヘヴィ・メタル以外の音楽も聴くけど。例えばTHE PRODIGYなどはライヴを観てとても気に入ったよ。彼らは独自のことをやっているだろう。そういうバンドはリスペクトするよ、例え俺が普段好んで聴くような音楽とは違うスタイルであってもね。俺はQUEENからTHE PRODIGYまで、いろんな音楽を聴くんだ。


【(メタル初心者にお薦めは)TWISTED SISTERの『Stay Hungry』を挙げないわけにはいかな】

――QUEENからの影響についてはお聞きしたいと思っていたんですよ。SABATONのコーラス・パートには、QUEENを思わせる部分がありますので。

ヨアキム QUEENほどキャリア全体に渡ってたくさんの名曲があるバンドって、世界にどれだけいると思う? そうはいないだろう。ラジオで流れればみんなが知っているような名曲をこれだけ持っているアーティストとなると、おそらくロック以外だと、例えばマイケル・ジャクソンとかエルヴィス・プレスリー辺りしかいないだろう。あとはABBAとか(笑)。俺はABBAが好きなんだ。

――「The Final Countdown」については、SABATONのショウのオープニングでも使用されていますよね。

ヨアキム 実は最近は俺たちのヴァージョンの「In the Army Now」をかけているんだ(注:STATUS QUOのカバー。)。「The Final Countdown」を使っていたのは、あれをかけると、まずムードが良くなるからね。それから他に隠れた理由もあって、バンドを始めた頃は、フェスでも出番が早いだろ。あるいはオープニング・バンドの場合だと、お客さんが機材転換の間にバーに行ってしまったりする。そこで「The Final Countdown」を大音量で流すと、メッセージになるわけだよ、次のバンドが出てくるよって。普通のイントロを30秒間流しただけでは、例えばトイレやビールの列に並んでいたら、演奏のスタートまでに間に合わない。代わりに「The Final Countdown」が流れれば、ビールを買う時間もあるし、何か起こっているようだからステージに行ってみようという気になるわけさ。

――へヴィ・メタルの初心者たちに、是非これは聴いておけというアルバムを推薦してください。

ヨアキム やはりTWISTED SISTERの『Stay Hungry』を挙げないわけにはいかないな。これは最高の1枚だ。それから入門編としてふさわしいと思われるのが、ウド・ダークシュナイダーのソロ…U.D.O.の『Faceless World』(1990年)。ファンタスティックなアルバムだよ。これがハードな音楽への道を開いてくれると思うんだ。何しろこれを気に入れば、ACCEPTに遡って行けるからね。俺たちのようなオッサンの作品ではなくて、もっと最近のものが聴きたいという人には、BATTLE BEASTの2ndアルバム『Battle Beast』(2013年発表)がおすすめだね。この作品もファンタスティックで、こんな素晴らしい正統派のメタル・アルバムを聴いたのは本当に久しぶりで驚いたよ。

――日本のファンはSABATONの再来日を期待していますが、日本でのライヴの予定はありますでしょうか。

ヨアキム 実はちょうど今、日本に行けないかスケジュールを調整しているところなんだ。アルバムが完成して、これからフェスのシーズンで、ツアーの日程を組んでいるところだよ。まだ日程は決まっていないから発表することはできないけれど、当然日本に行くという可能性も視野に入れている。ツアーのルートを決めるのはいつも簡単なことではないのだけれど、このアルバムのツアーでは必ず日本に行くよ!

――では最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。

ヨアキム LOUD PARKでの、ファンタスティックなサポート、どうもありがとう。あれほどの歓迎を受けるなんて信じられなかったよ。サンキュー、アリガトウ!


 欧米では物凄い人気を誇っているのに、日本では知名度がイマイチ。そういうバンドは、当然欧米の人気に比例してギャラも高騰する一方、日本でそのギャラを支払えるほどの集客が見込めないため来日がなかなか実現せず、未知の強豪となりやすい。ヘヴィ・メタル界において、そんな地位にいるバンドの代表が、このSABATONであった。LOUD PARK15への出演が実現するまでは、である。ヨーロッパのフェスティヴァルではヘッドライナーを任されるクラスの人気を誇るSABATONが、満を持しての来日をする。日本にももちろん存在していたSABATON・ファンたちは狂喜したに違いないが、来日決定のニュースに対して一般的な反応は、それほど大きなものでなかったように思う。だが、LOUD PARKでのステージが終わるや否や、状況は一変。ヘヴィ・メタル・ファンの間の話題は、一時SABATON一色になったと言っても過言ではない。会場にいた何万人のお客さんのうち、一緒に合唱できるほどSABATONの楽曲に通じていた人はそれほど多くなかったのではないか。しかし、SABATONのわかりやすい、即効性の高い楽曲の数々は、「予習」を必要としないのだ。1番を聴けば、すぐに2番から拳を突き上げられる。「予習」は必要ないが、ライヴを観ると、必ず「復習」をしたくなってしまう。そんなわけでSABATONは、たった一度のライヴで万単位のファンを新たに獲得したのである!

 TWISTED SISTERでメタルに目覚めたというヨアキム。大名曲「I Wanna Rock」や「We're Not Gonna Take It」を含む彼らの3rdアルバム『Stay Hungry』がリリースされたのが1984年なので、1980年生まれのヨアキムは、そのときまだ3、4歳であったということだ! 7歳のときにはすでにHELLOWEENに夢中であったという、まさに人生がメタルそのもののヨアキムが、メタル入門編としてお薦めする『Stay Hungry』『Battle Beast』、『Faceless World』は、ぜひチェックしてみて欲しい(アクセプトではなくU.D.O.のアルバムというのは、結構な変化球という気はしますけど)。

 新作『The Last Stand』は、もしあなたがすでにSABATON・ファンであるのなら、何も心配いらない。あなたがSABATONに期待するものが全て、期待を上回るクオリティーで詰まっている。楽曲も歌詞も演奏も、全てがSABATON。キャッチーで勇壮で、拳を突き上げ今すぐ戦いの場に赴きたくなる。そしてもしあなたが、まだヘヴィ・メタルという音楽にあまり接したことがないということであれば、この『The Last Stand』をぜひ手に取ってみて欲しい。『Stay Hungry』や『Painkliller』といったアルバムがヨアキムの人生を変えたように、このアルバムがきっとあなたの世界観を変えることとなるだろう。

 SABATONは、アルバムも素晴らしいのだが、そのライヴを観るとさらに好感度が倍増してしまうバンドだ。ヨアキムの口調からすると、再来日の可能性は高そうである。LOUD PARKでSABATONにヤラれた人も、惜しくも見逃してしまった人も、再来日の際には必ず会場に駆けつけよう!


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