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ヤーナムの石と聖体について(断章)

ヤーナムの石について

ヤーナムの石とは「トゥメルの女王、ヤーナム」を撃破することで手に入るアイテムである。

そのテキストからは、ヤーナムの石は意識を持つ生きた存在であること、そしてその意識が現在眠っていることが分かる。

トゥメルの女王、ヤーナムの残した聖遺物

女王の滅びた今、そのおぞましい意識は眠っている
だが、それはただ眠っているだけにすぎない…

「ヤーナムの石」より

また、ヤーナムを女王として戴いていたトゥメル人たちは地下遺跡を作った神秘の知恵を持つ人ならぬ者たちであり、上位者の眠りと呼ばれる何かを崇拝していたとされる。

トゥメル=イルとは、トゥメル人の王ないし王都を意味する
それは、上位者の眠りを祀るトゥメル文明の末裔たち
せめて彼らの王を戴こうとした証しであろう

「トゥメル=イルの大聖杯」より

さて、Bloodborneに数ある「夢」や「眠り」に関連した物の中でも、それ自体が「眠っている」と明記されており、なおかつトゥメル人に関係がある物に限定すると、該当するのはヤーナムの石だけである。

したがって、上位者の眠りとヤーナムの石の間には深い関係があると考えられるが、このとき上位者の眠りが「眠れる上位者」を意味すると仮定したならば、ヤーナムの石が眠っているという事実から、消去法的にその正体が上位者の眠り=眠れる上位者であるという推論が成り立つ。

つまり、ヤーナムの石はトゥメル人たちが崇拝していた上位者の眠りにして、現在進行形で眠り続けている上位者そのものだと考えられるのである。


聖体について

トゥメル人たちの時代から長い年月が経過した後、その地下文明に対して接触を試みるビルゲンワースという集団が現れた。

彼らは聖体と呼ばれる何かを神の墓聖杯ダンジョン)から奪い取り、やがてそこから医療教会血の救いが生み出されたという。

狩人なら知っているでしょう。ヤーナムの地下深くに広がる神の墓地
かつてビルゲンワースに学んだ何名かが、その墓地からある聖体を持ちかえり
そして医療教会と、血の救いが生まれたのです

「血族狩りアルフレート」より

さて、ここで当然「聖体とはなんなのか」という問いが生じる訳だが、それに答える為には「ビルゲンワースはどの聖杯ダンジョンで聖体を入手したのか」という問いを先に解消する必要がある。

聖杯ダンジョンは大きく「イズ」「僻墓」「ローラン」「トゥメル」という4種類に分けられており、聖体はこの内のいずれかで出土したと考えられる。

この内、イズの大聖杯は医療教会の上位会派である聖歌隊が地上に持ち出したとされていることから、「聖体が医療教会を生み出した」という時系列と矛盾するため、候補から除外される。

医療教会の上位会派「聖歌隊」の礎となった、イズの大聖杯は
ビルゲンワース以来、はじめて地上に持ち出された大聖杯であり
遂には彼らを、エーブリエタースに見えさせたのだ

「イズの大聖杯」より

そして僻墓は「祭祀色の薄い」地域とされていることからも分かる通り、聖体と呼ばれるような物が出土するとは考え難く、事実としてプレイヤーが立ち入った際にそれらしき物を入手することも出来ないため、こちらも除外される。

僻墓は、祭祀色の薄い、墓と死の区画であり
また危険な毒蛇、毒虫の巣でもある

「僻墓の汎聖杯」より

したがって、聖体はローランとトゥメルのいずれかで出土したと考えられる訳だが、このときローランで出土した可能性は極めて低い

前提として、ビルゲンワースの最終目標は「瞳によって高次元の超越的思索を獲得すること」であり、これは後世の医療教会にも受け継がれた神秘の研究者たちの根源的な目標である。

「瞳」はまた、学長ウィレームが追い求めた探究の象徴である
彼は人の思索のあり方に絶望し、高次元思考者たるを目指した
自らの頭、脳の中に、思考の瞳を欲したのだ

「瞳」より

「聖歌隊」は、医療教会の上位聖職者であると共に
ビルゲンワースから思索を引き継ぐ学術者でもある

見捨てられた上位者と共に空を見上げ、星からの徴を探す
それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ

「聖歌装束」より

我らの脳に瞳を与え、獣の愚かを克させたまえ

「悪夢の主、ミコラーシュ」より

ここで注意すべきなのは、ビルゲンワースと医療教会の決定的な断絶として、両者の間には医療教会の基本思想である拝領思想が横たわっているということだ。

それは医療教会、あるいはその医療者たちの象徴である
血の医療とは、すなわち「拝領」の探究に他ならないのだ

「拝領」より

この思想が具体的にどういった内容であるかは、作中で明確に示されない。

しかし、医療教会の上位学派であるメンシス学派のミコラーシュは、赤子を用いた儀式によって外部から上位者を召喚し、その上位者から瞳を得ようとしていた

ああ、ゴース、あるいはゴスム
我らの祈りが聞こえぬか

白痴のロマにそうしたように
我らに瞳を授けたまえ

「悪夢の主、ミコラーシュ」より

そして、同じく医療教会の上位会派である聖歌隊は星界の観測と交信を試みており、現在は見捨てられた上位者であるエーブリエタースと共に空を観測して星からの徴を待ち続けている

見捨てられた上位者と共に空を見上げ、星からの徴を探す
それこそが、超越的思索に至る道筋なのだ

「聖歌装束」より

両者に共通しているのは、ウィレームが望んだように「人として上位者に伍する」のではなく、呼び出した上位者や、あるいは星からの徴によって瞳を得ようとする他力本願な姿勢であろう。

かつて学長ウィレームは「思考の瞳」のため、これを求めた
脳の内に瞳を抱き、偉大なる上位者の思考を得るために
あるいは、人として上位者に伍するため

「3本目のへその緒」より

これら上位会派に共通する超越的思索へのアプローチを考えると、彼らの根底にある拝領とは「自らの力で瞳を得るのではなく、瞳を持った高次元存在(上位者)に引き上げてもらう形で瞳を得る」思想なのではないかと考えられる。

そして拝領思想を掲げている医療教会、その設立メンバーと目されるローレンスと志を同じくしていたらしいゲールマンは、プレイヤーである狩人に神の墓から聖体を拝領するよう推奨する。

聖杯は神の墓を暴き、その血は狩人の糧になる
聖体を拝領するのだ

「助言者ゲールマン」より

これは聖体が拝領の対象となり得る物……つまり、それを拝領した者に瞳を与える何かであることを示唆している。

ここで聖杯ダンジョンに話を戻すと、ローランが獣の病によって汚染された地域であることは、ビルゲンワースの学徒(および医療教会の聖職者)の間では周知の事実であったと思われる。

遺跡の獣の唸り声の表音とされる「獣」が最初のカレル文字であることから、少なくともビルゲンワースにカレルが在籍していた時点でローランにおける墓暴きと獣狩りは行われていたと考えるべきだろう。

ビルゲンワースの学徒、筆記者カレルの残した秘文字の1つ
それは遺跡の獣、その唸り声の表音であり
「獣」の意味が与えられ、一時的獣化の効果を高める

「獣」は、最初のカレル文字であり、同時に最初の禁字である
血の発見とは、すなわち望まれぬ獣の発見であったのだ

「獣」より

であれば、拝領によって獣の愚かを剋さんとしている医療教会が獣に満ちたローランで手に入れた物を聖体として拝領するとは考え難く、実際にプレイヤーがローランを攻略した際にも聖体と呼ぶに相応しい物は手に入らない

したがって、消去法的に考えて聖体はトゥメルで出土したと考えるのが妥当なのである。

また、それ以外にもトゥメルから聖体が出土したと考える理由は存在する。

神の墓、すなわち聖杯ダンジョンという形でアクセスされるトゥメル人の地下遺跡はヤーナムの地下にあるとされている。

狩人なら知っているでしょう。ヤーナムの地下深くに広がる神の墓地

「血族狩りアルフレート」より

そして、トゥメル人たちの王都トゥメル=イルと呼ばれており、これはトゥメル人たちの王という意味を持つ言葉でもあった。

トゥメル=イルとは、トゥメル人の王ないし王都を意味する
それは、上位者の眠りを祀るトゥメル文明の末裔たちが
せめて彼らの王を戴こうとした証しであろう

「トゥメル=イルの大聖杯」より

この符号は単語としての一致というだけではなく、トゥメル人たちが自分たちの王と王都を何らかの形で同一視していたことの証左であると考えられる。

加えてトゥメル人の王たちは代々古い名を継いでいたとされており、作中に登場する唯一のトゥメル王が「トゥメルの女王、ヤーナム」という名であることから、トゥメル人の王たちは代々「ヤーナム」という名を持っていたことが分かる。

トゥメルの王は伝統的に女性であり
代々古い名を継いだという

「トゥメル=イルの汎聖杯」より

このとき、先ほど述べたトゥメル人たちが自らの王と自らの王都を同一視していたという考えが正しいとすれば、トゥメル人の王都は王と同じく「ヤーナム」という名を持っていたという可能性が浮上する。

そして、トゥメル人たちの王都(トゥメル=イル)はBloodborneの舞台であるヤーナムの地下にある聖杯ダンジョンの一つであるため、土地としては同じ場所に存在している

そして、実際のゲーム内において「ヤーナム」という単語が専ら「物語の舞台となる古い医療都市」を指していることは、敢えて言うまでも無いだろう。

つまり、Bloodborneというゲームの舞台となる「ヤーナム」という都市の名称は、かつてその地に存在していた古代文明の都と王を指す名称に由来しているのであり、したがって現代のヤーナムが地理・歴史的な面でその都、すなわちトゥメル=イルからの影響を強く受けていることは間違いないだろう。

これらの仮説がすべて正しいとすれば、「ヤーナムの地下深くにある神の墓」は、特にトゥメル=イルのことを指していると解することができる。

したがって「ヤーナムの地下で出土した聖体」は、「トゥメル=イルで出土した聖体」でなければならないのである。

ところで、先ほどから「聖体拝領」に関する話題が頻出しているが、この単語は現実世界のキリスト教で行われる宗教儀礼の名称に由来している。

そしてキリスト教における「聖体拝領」とは、キリストの血である葡萄酒を飲み、キリストの肉であるパンを食べることで、信者とキリストとの間で霊的な合一を図る儀式である。

フィクションであるBloodborneの世界に現実の宗教を当てはめて考察するのは慎重な姿勢が求められるものの、単語的な一致に加えて先ほど述べた医療教会の拝領思想から察するに、現実の聖体拝領とBloodborneにおける「聖体拝領」に何らかの類似性があると見て間違いはあるまい。

であれば、現実の聖体拝領でキリストの血である葡萄酒が用いられるようにBloodborneの聖体拝領で聖体に由来する血が用いられていたとしても何らおかしくはないということになるが、そうして当てはめると輸血液の源とされる聖体は必然的にキリストそのもの……医療教会的に言うなら、拝領によって瞳の獲得が期待できる上位者そのものでなければならないことが分かる。

そして、これを裏付けるようにBloodborneでは血によって生命の形や在り様が変化することが示唆されている。

「上位者という外的な要素から瞳を得る」という拝領思想を掲げる医療教会が、そうした知見に基づいて上位者の血を体内に取り入れようとすることは、むしろ自然な成り行きですらあるだろう。

…我ら血によって生まれ、人となり、また人を失う
知らぬ者よ
かねて血を恐れたまえ

「祭壇の頭蓋」より

血晶石の強化は、また武器の性質を様々に変化させる
それは、血そのものが生き物を規定するように

「血晶石の工房道具」より

そして、聖体が出土したと思しきトゥメル=イルの最奥には「トゥメルの女王、ヤーナム」がおり、これを撃破するとヤーナムの石が手に入る。

そして、このアイテムがトゥメル人たちによって信仰される上位者の眠りにして眠れる上位者そのものであったことは、先に述べた通りである。

トゥメル=イルから出土した聖体、その最奥にいた女王とヤーナムの石、そして聖体拝領……

これらを総合して考えると、最初に述べた「聖体とはなんなのか」という問いに対する答えは自ずと導き出されるだろう。

すなわち、聖体とはヤーナムの石なのだ。

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