言語学する文法05 ~副詞~

誰しも大人になっていく過程で、いろんなものごとをおざなりにしてしまうのだと思います。それはそうです。学校で習ったこと、親に言われたこと、友達から聞いたこと、テレビやネットで見たこと、そのどれもを完璧に理解し、覚えることなんてできません。むしろこの時代、その中から何が大切で何が大切でないかを見極め、大切なことをしっかり理解する代わりにそうでないことにはエネルギーを割きすぎない、という器用さこそ求められているのかもしれません。

たとえばそう、「おざなり」と「なおざり」の違いをしっかり説明できますか?コトバンクにはこんな風に書いてあります。

「おざなり」と「なおざり」は意味が近く、共にいい加減な言動を指していうが、「おざなり」は「御座成り」と書くように、当座の間に合わせの意味であり、自分で意識的にいいかげんな言動をしてその場を逃れようとすること。一方「なおざり」は、注意深くないことであり、自分では意識せずにおろそかな結果になってしまう言動にも用いる。だから「忙しくて仕事をなおざりにしてしまっていた」なら許される可能性があるが、「仕事をおざなりにした」では、わざとその場逃れの仕事ぶりを発揮していたことになる。 

そう言われるとなるほど…と思いますが、それでもうっかり忘れてしまうものです。でも大丈夫。忘れてしまったら、使わないという手があります。「その場凌ぎで/テキトーに済ませた」とか言えばちゃんと伝わるのですから。

でもどうしても、なおざりにしてほしくないことがあります。いや、気持ちはわかるのです。中学ではじめて英語を勉強したとき、S だの V だの be 動詞だの、ただでさえ数学で x とか y とか出て来る横で見慣れない文字に囲まれて、ついつい頭の隅に寄せてしまいたくなる気持ちは。けれどもう言い訳はできません。大人になったあなたは自分で、外国語を学ぼうと決意したのです。となれば文法の理解は必須、おざなりにせずしっかりと区別しないといけないことがあるのです。

そう、それは “形容詞” と “副詞” の違いです。

前回書いた通り、形容詞は名詞を修飾します。では副詞はどうかというと、動詞、形容詞、副詞を修飾すると説明されることが多いです。でも「副詞は副詞を修飾し…」とか、かなり無理がありますよね、、実は副詞は “品詞のゴミ箱” と揶揄されるくらいで、もうあれもこれも副詞、みたいな、つまりカオスなんです。

だからやめましょう。一気に覚えようとするからいけないんです。ここはひとつ「ホワイトチョコレート作戦」でいきましょう。

…説明します。「ホワイトチョコって何?」と聞かれると閉口してしまいませんか?それは何故か。実のところ、「チョコって何なのか」よくわかっていないからです。チョコレートとはカカオ豆を原料に砂糖やミルクを加えて作った菓子類を言いますが、このうちカカオマス(カカオ豆を磨り潰して固めたもの)という成分を含むものをいわゆる(ブラック)チョコレートと言うのです。対してホワイトチョコは製造の過程でカカオ豆からカカオマスを取り除き、ココアバターと呼ばれる脂肪分だけを使います。そしてブラックチョコ特有の色味と苦みはすべてカカオマスに入っているため、ホワイトチョコは茶色くないし、甘いのです。

ポイントはカカオマスです。広い括りではカカオ豆が原料になっていてココアバターを一定量含むものをチョコレートと言うのですが、そのうちカカオマスが入っているものをブラックチョコと定義することができ、同時に、それが入っていないことによってホワイトチョコをも定義できるのです。

本題に戻りましょう。形容詞と副詞でした。まとめて修飾語と言ったりしますが、これがつまりチョコです。そして形容詞がブラックチョコで、副詞はホワイトチョコです。ブラックチョコの方が美味しいです。ではカカオマスは何か?何が入っていたらブラックチョコ=形容詞になるのか。それはもちろん、名詞です。そして、ホワイトチョコ=副詞にはカカオマスが入っていない、つまり名詞を修飾しないのです。

整理すると、形容詞は名詞を修飾し、そして副詞は動詞、形容詞、副詞…つまり名詞以外を修飾します。では、文中で用いるときの語順はどうでしょう?

前回の記事でも触れましたが、形容詞を使うときにはしばしば語順に注意が必要になります。たとえば英語では前置、フランス語では後置がスタンダードなのでした。そして、形容詞は「名詞の名刺である」というお話もしました。これはどちらかというと形容詞の持つ “情報” の側面を表しています。今回はもう少し、修飾語ですから “飾り” としての機能に着目してみましょう。

形容詞と副詞を分ける決め手は名詞なのでした。つまりこれが本体、名詞=体だと思ってください。形容詞と副詞はどちらも飾りという意味では一緒ですが、その働きは幾分違います。たとえば、形容詞は服のようなものです。服の着用にはある程度ルールがあります。Yシャツは履けないしズボンは羽織れません。このように各言語ごとに、何をどこにつけるかの取り決めがあるのです。(冠詞は文字通り、頭にかぶるものですね)

では肝心の副詞はどうかというと、これはもう缶バッジみたいなものなのです(あ、捨てるのは待って…)。服に着けようが、あるいはカバンにつけようが問題なし。服 (=形容詞) や帽子 (=冠詞 ) と違って、どこにでもつけられるのです。ただし、体にはつけられません。痛い目見ますよ。

だから副詞は名詞を修飾しないし、位置も比較的自由なのです。

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