豆苗は幼子のように伸びる

いつもいったり来たりしている。身体はもっと遠くまで伸びやかになる。
塩素水に手を浸すと皮膚が融けて温かくなる。花を炙り、締め、いのちを延ばすようなことをしている。延びないとは分かっているので、じつは花に火を入れる口実にしている。行けるようになったからもっと目まぐるしくなって、その分やすんで、夏は川へいく。

言い淀んでよかったことがある。大きさのちがうホウキとちりとりでなんとかきれいにするのは楽しい。指の一つでも切り落せば反省するのかと自分を恨んでいる。恨みながら楽しく暮らしていける。ルールというものはなくて、思いやりによって成り立っているらしい。心して静かに歩く。

紙が要る。濡れてもいいように、日陰をつくるために、うんと丈夫な紙で守りたいとおもった。けれど、まだもごもごと言っている。布をいくつか買って、肌が熱くならないようにしている。豆苗は陽射しに向かって伸びていき、鎮守森のようになっている。僕にはできないことなので羨ましくおもう。いつ精根尽き果てるのか、とか、もっと高くとか思って、切り取らないでそのままにしている。

外とは家の窓よりも向こう側のことをいい、空がつながっているなら外に出なくても良かったんだけれども、家と外で、なんだか同じ世ではないような気がしたので、あわててとび出て月をみた。猿腕のような枝が絵に伸びて影をつくり、月に雲がかかったようになっている。足で踏む床に雨の気配がする。

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