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科学的革新性の評価と知識生成プロセスの可視化

科学的革新性の源泉の探求: 知識生成プロセスの可視化手法の提案

2021/2/10に開催された「科学的革新性の源泉の探求: 知識生成プロセスの可視化手法の提案」を聴講しました。講演者は、柴山創太郎さん(スウェーデン・ルンド大学経済経営学部 上級講師)です。

主なトピックは下記の2つです。

 1. 科学的革新性(オリジナリティ)をどのように評価するか?

 2. 知識生成プロセスを可視化できるか?

1. 科学的革新性(オリジナリティ)の評価

本講演では、オリジナリティを下記の2つに整理していました。

 (1) オリジナル = 他の知識から遠い

 (2) オリジナル = 遠くにある知識を組み合わせている

特に(2)に関する研究を発表されていました。遠距離にある知識の組み合わせが現れる文献(論文、特許)をオリジナリティが高いと見なす、という指標を開発しています。さらに、このオリジナリティ指標と様々なテーマとの相関を明らかにする研究を発展させています。国際比較、組織サイズ、競争的資金エージェンシー、人材育成など。

Uzzi et al. : "Atypical Combinations and Scientific Impact", Science, 2013

Shibayama et al. : "Measuring originality in science", Scientometrics, 2019

Shibayama: "Sustainable development of science and scientists: Academic training in life science labs", Research Policy, 2019

こういった指標は、企業の研究開発戦略を作っていくシーンでも、見るべき論文の優先順位を定めたり、社外研究者の探索などにも利用できそうです。直接的な利用(社内の研究者・技術者評価など)は難しいと思いますが、このように間接的に利用してみるのはいいかもしれません。

ちなみに、これらの指標を計算するためには、知識と知識の距離を測定する必要があります。知識の単位は単語・文章・文書等が考えられます。距離は引用分析やテキストマイニングを活用することで計算することができます。この距離の計算方法については、下記のような情報が参考になると思います。

伊神正貫: "文献の関連性の分析:書誌結合,共引用分析,自然言語処理 " , 情報の科学と技術 , 2020

松尾豊: "学術俯瞰とウェブからの情報抽出", 知識社会研究会 2008 年度報告書, 2008

手前味噌ですが、私も特許・論文情報に対して、テキストマイニングやデータ可視化の技法を援用して、技術動向を読み解くことに取り組んでいます。

T. Hayashi: "R&D Trend Analysis of Wellbeing AI Using Panoramic View Analytics", The AAAI 2017 Spring Symposium, 2017


2. 知識生成プロセスの可視化

柴山さんは、研究者や知識労働者のためのアイディアマネジメントツールを開発しています。講演会の中でDemoをされていましたが、アイディアのGitHubのような印象を受けました(ツールに関する情報はWeb上では見つかりませんでした)。ざっくりしたフローは下記の通りです。

 (1) 自分のアイディアを書き留めておく(優先順位、確信度を設定可能)

 (2) アイディアのポートフォリオの可視化(テキストマイニング?)

 (3) アイディア同士の連関フローの可視化(発展、結合、消滅、分裂など)

このツールは大学院生や研究者に使ってもらって、データを取得するようです。これで取得できるアイディアの生成データと、先の論文のオリジナリティ指標の関係性などを分析することで、人材育成や研究環境作りといった施策への知見が得られるかもしれません。


科研費:イノベーション人材育成を通じた知識社会の持続的成長

ちなみに、これらの研究は下記のプロジェクトの一貫だと思います。私も興味のあるテーマなので、今後の研究成果がとても楽しみです。