犬、かもしれない

   目があった、ただ何となくそんな気がした―――どこに目があるのはわからないけど、その外見のシルエットからして、多分、おそらく、間違ってなければ「犬」なのでしょう。
   
   若干湿っぽい箱の中にある「犬」からは雨に打たれた垢や長く太陽に照らされて黄ばんだ痕跡が見られる。毛一つなくちっとも柔らかそうに見えないぼろい表面は多分、体。途中から折れていて内部が少し見える部分は、おそらく、尻尾。そして元の物とはシルエットしかあってないように思える、ザァーザァーっと雑音が流れる「もにたあ」によって構成された、間違ってなければ、頭部。

   一瞬だけ見ても「これは犬」と頭は連想するが、その外見は自分の知ってる犬と全くもって違う。「それはそうですね」と自分の意見に相槌を入れた。環境課に入りそこそこ時間が立ったけど、まだ簡単に使える!と書かれていた物の少しも上手に扱えない「機械」で構成されたそれは、はっきり言って自分の頭では理解しがたいものである。
   
   勿論いつかは朝飯前の焼きイモリを食べるかのように簡単にできる予定ですが、今ただはもうちょっとだけ勉強が必要だ。
   
   それはともかく、何気なく道を通り過ぎて、ふっとした瞬間に意識もせずに目を向けた街角にそれがあって、そして何故かビグッともしないその「犬」と目があった気がした。
   
   浮かんできたのは遠い昔―――今では本当に遠い昔に、仲が良かった友達の顔。小さい頃からずっとそばにいた友達で、一緒にいるとすごく安心感が得られる友達。よく大人たちから彼の狩りの武勇伝を聞かされたけど、その微妙にアホっぽい顔からはとても想像できない、どっちかと言えば離れようとするとついてくる、顔に「寂しいです!」と書いてある間抜けな犬のイメージが強い。その時の視線が今この機械の犬と目があった時にほんの少し感じた。
   
   犬、しかも「かもしれない」が付くそれと一体どこで姿を重ねたのか、答えが出たのはそんなに時間がかからなかった。

   「怪我、したの?」首を傾け、多分目がある部分を見つめ。一秒、二秒、特に反応がない。しかし元気がない時は誰も反応するのが辛いものだとレナの中で勝手な納得があった。しかも自分の家族の中でも、怪我など辛いはずのことを隠そうとする人達がたくさん居るのだ。

   軽く自分を頼ってほしい願望が湧きあがると同時に、この子を治せるのは間違いなく自分よりはるかに頼りになる家族達だと分かる。

   「今君を治せる人たちのところに連れて行くね!」フーンっと力を入れて思ったより重量がある箱を持ちあげ、汚れる服を気にもせずにレナは歩き出した。

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