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何のために、誰を救うために

ニュー・ノーマル
今週から新たな生活リズムが追加された。午前1時から9時の間、ネット回線が遮断され、それが月末まで継続されるらしい。

国民の健康を考慮した“官製デジタルデトックス”なのだろう。
特に最近はFacebookの利用時間も増えているし、夜も物騒になっているから、深夜くらいはネットを離れたほうが健康的という配慮に違いない。そういえば、ナチスも国民の健康管理にはとても敏感だった。

そんな空々しさに包まれながら迎えた、回線停止初日の月曜。通信が復帰した途端、SNS上には、戦車が街中を疾駆する様子が飛び交った。
そういうことか。分かりやすいものだな。

さらには、国際線の発着が禁止されているにもかかわらず、なぜか近所の某国を往復したフライトレコードが残っている。
追加で「シーフード」を空輸しているのか。それとも、国内にいると身の危険を感じるようになってしまった「さる界隈の方々」がトンズラをかましたのか。何も断言はできないが、ずいぶんと想像力をくすぐってくれるではないか。

怪奇現象
週明け2日は鳴りを潜めたデモは、17日水曜日に大きなうねりとなって立ち現れる。
アウンサンスーチー氏の勾留延長期限であり、さらに、彼女への追加訴追が発表されたこの日、これまでで最大規模のデモが発生する。

日本で例えるならば、日比谷に該当する場所だろうか。一国の最大都市の中心に大勢の人が詰めかけ、思いの丈をぶつけている。
この場所は交差点で、普段は激しい交通渋滞が発生するのだが、当然この日は車など通れない(後日、ここは封鎖された)。

そしてこれ以降、ヤンゴンでは路上での「トラブル」が相次ぐようになる。

・道路で車の「故障」が頻発する
・(同時多発的に)通行人が玉ねぎや米を車道に「落とし」てしまう
・靴ひもが(なぜか他人のものと)「絡まった」人らが、道に倒れ込む

一連の「怪奇現象」はすべて、市民による抗議活動である。道を塞いで市内交通を滞らせ、現在国内で行われているストライキに拍車をかけるのが目的と言われている。それにしても、次から次へとよく思いつく。

大使より
20日土曜日には、在ミャンマー日本大使館・丸山市郎特命全権大使が声明を発表。
大使館に詰めかけたミャンマーの方々からの嘆願書を受け取り、淀みないミャンマー語で下記のように述べられた。

ミャンマーは歴史的に非常に重要な国です。
ミャンマー国民は、日本国民にとっても親しい関係にあります。重要な国民です。ですから、日本政府として、ミャンマー国民の声を無視しません。

それを前提に、ミャンマーと日本の関係をつくっていきます。
ミャンマー政府、軍に要求しているのは、

1.リーダーのアウンサンスーチー氏をはじめとする拘束中の政治的指導者たちの即時解放、

2.どんな困難があろうと民主的で平和な解決をすること

それらを軍に要求しています。
この点に変更はありません。

みなさんにお願いしたいのは、自分の身の安全を守ること。それが重要です。
日本政府と日本大使館は、ミャンマーの民主化のために引き続き努力していきます。

ありがとうございます。
みなさん全員と話ができずすみません。ありがとうございます。

この発言が、複雑な外交実務上どのような意味を持つのか、私には分からない。
しかし、日本を頼みとするミャンマーの方々にとって、大きな安堵をもたらしたことは察するに余りあるし、現在ミャンマーに残る日本人の発言として、もっとも重いものであることは間違いない。

暗転
だが、この安らぎは同日中に脆くも打ち砕かれる。
ミャンマー第2の都市マンダレーにて、軍あるいは警察の銃撃により、数名の市民が死亡する事態が発生する。加えて、ヤンゴン郊外でも深夜、1人の民間人が警察によって射殺された。

報道を見る限り、いずれの犠牲者も非武装であったようだ。丸腰の相手は、通常射撃対象になり得ない。たとえ相手が被疑者であってもだ。

あり得ないなんてことは“あり得ない”

これがミャンマーの「今、そこにある危機」なのだ。

1つ教えてください。大河内さんは、何のために、誰を救うために警察官でいるんです。

『相棒 -劇場版II- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜』で、及川光博扮する神戸警部補が、怒気を込めて上司に言い放った言葉がこだまする。ちなみに、この映画のコピーは「あなたの正義を問う」である。

明日は、市場や店がすべてクローズし、これまでにないデモが展開されるとのこと。
方々から入る情報を総合し、スタッフの出勤も取り止めることにした。

キメ顔で語られるカッコいい未来予測に、もはや何のリアリティも持てなくなっている。今はただ切実に、誰も傷つかないことを希うばかりだ。

ブラックジャックのこの場面を噛みしめながら、大切なものを守り、明日を生き抜く決意を固めた。

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