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闇に沈んで


夜の停電は厄介だ。陽が落ちて気温が日中よりも低いのはいいが、けして涼しさを感じるわけではないし、騒音からジェネレーターを稼働させるわけにもいかず、真っ暗闇の中で耐えるしかない。
ネットも切れて、予定していたオンライン講座も諦める。漆黒に沈む土曜の夜。静けさと暑さの中、ぼんやりすることすらままならない時間を過ごす。

雨が降り出すと、なぜか停電になる。不可解すぎるこの連関に興味を持ち、以前誰かに理由を聞いた気がするが、忘れてしまった。
この日の雨は風もセットで、時折天に「電気」が走る。空から電気が降ってくると地上からは電気が消えるという謎現象に、復帰を待ちながら、なす術なくうなだれた。

ブランク
今週、いつ以来かもはや記憶のない外食に出た。
車で10分少々のレストランで、セキュリティは万全、かつカード決済も可能(今は切実にありがたい要素だ)。偶然だったが、広い店内に客は私しかおらず、感染対策的にも問題ない。そこでのんびりと食事をした。

フードデリバリーで頼んだ弁当を、動画を観ながら食するのも悪くないが、静かにゆっくり料理を味わうのもたまにはいい。頼んだものすべてが美味しかったし、久々に口にしたジントニックも、その味と香に、もはや懐かしさすら覚えた。

引きこもり生活にすっかり慣れ、それに特段のストレスを自覚することはなかったが、いろいろな感覚が閉じていたことを改めて思い知る。
「座してすべてが完結する」のは確かに便利だが、頭のてっぺんから爪先まで、五感を総動員して周囲のディテールを感じるのはやはり大切だ。1年以上になる「ブランク」は、そんな当たり前をどんどん遠くする。

気軽に出かけては、気のおけない仲間たちと夜まで語り尽くす日は戻って来るのだろうか。かつての一瞬一瞬は、掛け値なしに尊い時間だったのではないか。
そんなことに思い及ぼしながら、西日を横目に時間は過ぎていった。

寂寥
週末、日本からの救援便が来るのと時を同じくして、拘束中の日本人ジャーナリストの方が解放されることとなった。すぐさまヤンゴン発成田行きに搭乗することとなり、帰国の途に着かれたとのこと。突然だったが、ともかく無事で何よりだ。

概ね3週間に1度飛んでいるANAの救援便。2月以降は帰国者が相次ぎ、今回の便でも、それなりの数の方々が日本に戻られたとのこと。

毎度何人かの知り合いが含まれているのだが、このフライトでも同様であった。中には、事前に聞き及んでいなかった方もいらっしゃることがあり、都度驚きがある。
様々なご事情の上で、忸怩たる思いを胸に戻られる方が多い印象受ける。それぞれの今後についてはまさに千差万別だが、ご帰国の報を耳にするたび、ただただ寂しさが募る。

時期的に、暑さもそろそろ一段落する頃だろうか。
気づけば雨が降り出し、10月まで続く長い雨季がやってくる。その時に、この国は一体どうなっているのだろうか。

長いようで短く、短いようで長く。
いずれにせよ、今この瞬間を大切にせねばと思い直し、また明日に備える。

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