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土に根をおろし、風とともに生きよう。種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう

月曜は物静かに始まった。
ミャンマーはいつもと変わらぬ週始めである一方、日本が成人の日で休みのため、海を越えての業務連絡が一切来ない。

時折ある休みのズレ。代わりに、13日はミャンマーが祝日で、日本は平日。この状況には慣れているが、同じ週で2日発生するのはなかなか新鮮だ。

そんな静けさの中、月曜の朝から全開でミーティングをこなし、いいスタートが切れたかと思いきや、13日にはヤンゴンに激震が走る。
市内中心部に位置する外資系五つ星ホテルが、来月からなんと9ヶ月も休業するとのこと。

日本で言えば、赤坂のリッツ・カールトンに当たる一流ホテル。一時休業とはいえ、この途方もない長さを考えると、苦しい「台所事情」は察するに余りある。去年3月からの鎖国は、この「巨象」をも倒してしまうのか…。他のホテルの状態も、推して知るべしということになる。

週末は、今年最初の団内勉強会。
混沌の連綿が切れぬままに突入した2021年、その不確実さと向き合うヒントを探るべく、『シン・ニホン』をテーマに取り上げた。

データと事実を基に、日本社会の強みと、積み残した「宿題」を紐解きながら、その展望を描いた本。著者である安宅和人氏が、2016年頃から様々な場で発信してきた、説得力と意志あふれる変革論をまとめたものだ。kindleで読んだため実感は薄いが、600ページを超える大部である。
今回の学習会では、その最終章「残すに値する未来」を中心に、内容の共有を図った。

“「風の谷」を創る”という言葉が、心に刺さる。某有名アニメ映画を想起させるそのワーディングもだが、内容自体がとても魅力的に映った。

「風の谷」とは、都市集中型の未来に対する代案のこと。風光明媚な日本の地方を、その歴史の中で編み上げられてきた重層的な記憶をもとに、Society5.0とSDGsの思想で“非破壊的に”リニューアルする。それによって形成された、独自色と快適さあふれる、多元的で寛容なコミュニティのことだ。

宮城で生まれ育ち、長野で学生生活を送った私にとっては、とても嬉しい未来感覚に包まれる。
掛け値なしに尊い、各地の「土地の記憶」に立脚しながら、現代の叡智で豊かな暮らしを現出する。宮本常一や和辻哲郎にも想いを及ぼしながら、興味深く読んだ。最近読了した、山口周氏の『ビジネスの未来ーエコノミーにヒューマニティを取り戻す』とも合わせ、身体の芯が温まる感覚が湧く。

現実を直視し、その上でクリエイティブな未来をどう作っていくか。極端すぎる楽観論や悲観論、ましてや陰謀論とも無縁の、深い示唆をくれる優れた論考である。

外形的には必ずしも分かりやすく表在化しないものの、確かに存在する文化価値。そのきらめきは、どう時代が揺れ動こうとも、変わらず世界に火を灯す。
これまで、各地で目にした数々の風景や芸術が、優しい光を帯びてよみがえると同時に、両手に力が湧いた。

“土に根をおろし、風とともに生きよう。種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう”。どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんの可哀想なロボットを操っても、土から離れては生きられないのよ。

ジブリ映画『天空の城ラピュタ』の終盤で、シータがムスカ特務大佐に言い放った言葉だ。
「風の谷」から連想し、ふと思い返したシーンだが、今は不思議な感覚質とともに受け止められる。

発災から26年目となる鎮魂の日の直前、ヤンゴンでそんなことを考えた。

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