禍話リライト『おしまいの儀式』

 度胸のある奴がいて。土木関係の仕事をしてる、俺より一、二こ上の人なんですけど。
 急に呼ばれてね。大学時代の付き合いの人達に呼ばれて、「ちょっと来てくんねぇか」って。
 何だろう、と思ってね。飲み会でもねぇなと思って、久しぶりーっつって行って、何かお通夜みたいな雰囲気なんですって。普段はこうイェーイ!とか言って飲んでんのに。
 あれ、どうしたの?って訊いたら、
「〇〇さんって覚えてる?」って言うから、「あーあの先輩のね」って。まぁAさんとしておきましょう。
 あのーちょっと馬鹿なことをやっちゃう、全裸になって外に出ちゃうようなことしちゃう人ね、酔うと。馬鹿な人ね。まぁ度胸もあるというかね、素直な人っていうかね。悪い人じゃないっていう。
「あれ、でAさんが何か……あぁ全裸で外に出て、警察に捕まったとか、で身元引受人が俺とか、そういうことですか?」
って冗談で言ったんですって。
 そしたら当たらずとも遠からずって言うから、本当にまさか全裸で……と思ったんだけど全裸じゃなくて。
 あのー、心霊スポットに行ってるって。で、帰ってこない、変なこと言ってるからちょっと行ってくんねぇかって話で。
 ……心霊スポットに行ってる?
「皆で迎えに行ったらいいじゃないですか」
「うーん、そのね……最初から話すと」
 心霊スポットに行こうって言って。知る人ぞる場所にね、近所にあったら行きたいな、ってことで掲示板かなにかに、こう訊いてみたみたいな。
 そしたらなんか、そんなにインパクトのないところばっかり言ってくるから、『いやもう本当に知る人ぞ知る、みたいなとこないすか』みたいなこと言ってたら。
『JKですけど』
みたいな感じで出て来た奴がいて。
 絶対嘘じゃないですか、そういうのって。
 嘘だJKじゃないだろ、みたいなことで最初はそれで盛り上がったんですけど。
 なんか、「これJKじゃないの?」みたいな。サクラだとしてもなかなかうまい奴というか。
『私高校生なんですけど、今流行ってるとこだとここが怖いですよ』
みたいなことを言われたんだと。
 そこが、なんかその、廃アパートの四階か三階か忘れたんですけど、その部屋で、そこに行ったらすぐわかると。入り口に紙が詰まっててわかると。
で、何故かそこ開くんだと。
 そこは女性が一人暮らしで住んでたんだけど、なんかその、仕事も辞めて、家族もちょっと仲悪くて、恋人もいなくなっちゃって、孤独死したみたいなとこで。
 ベッドで孤独死した、そのまま死んだからベッドに染みが……みたいな。
なかなか気付かれなかったと。亡くなったのが夏じゃなくて。
 でも最終的には気が付いて、大変なことになって。
 何故か知らないけどそこが開くんだと。
『そこに行くと恐ろしいことが起きるって私の行っている高校じゃ今評判なんですよ』とかなんとか。
『昔先生が昔行って酷い目にあったっていうんですよ』って言うから。
「そこ行ってみるわ!JKが教えてくれたし!」とか言って、Aさん行って。
「昨日の夜行ったんだよね」って。
「えっ昨日!?一日経ってるじゃないですか」
「うーん、帰って来ないんだよね」
「可笑しいなと思って俺らメールしたのよ。電話出てくんないから、留守番電話に切り替わっちゃうから。メールは返事くれるの」って。
「『しくじっちゃった』って来るんだ」
 それ見せてもらったんだって。
『どういうことですか?』って送ったら、
『儀式みたいなことをしないと出られないらしい』って来て。
 怖いじゃないですかもう、その文面が。儀式って、普段ふざけてる人間が儀式って言うと怖い。
 え、なんでってなって。 
 で、『悪いけど、ヨシダと、あと誰か来てくんない?』みたいに書いてあるの。
 なんでヨシダ名指しやねんと思ったんだけど、ヨシダって気の弱い奴なのよ、一番。だからなのかわかんないけど。あと一人……他の奴は来るなみたいな。二人ぐらいでいいから、それ以上の人数来たらちょっと駄目だからとか言われてて。
「困ってさぁ。やっぱり、こういうとき、お前……」
 (なんで急に俺?)とか思ったけど、(まぁ確かに、度胸があるって言ったら俺かなぁ)ってなって。
「じゃあ、アパートの中には行きますよ俺とヨシダで。アパートの外で待機してるのは駄目とは言ってないんだから、もしほら錯乱して大騒ぎとかになったら来てください」って言ったら、
「それはいいよ!行ってくれるか!?」って言うから、
「いいですよ行きますよ、世話になった人だから」って。
 行ったんですって。
 で、皆が駐車場で待機してて、「行ってきます」って言って。
 行ったらもう、わかるんですよ、パンパンに紙がまだ……ああいうのって退けると思うんだよね、人死んだら。
(チラシみたいのが詰まってる……えぇ気持ち悪い)
 なんでこんなの捨てないんだろうね、とか言って、ノックしたんですって。
「おおーう」って声がするの。Aさんの声なんだって。
いつも通りだなぁっつって。
 開けたら当たり前だけど真っ暗なのね、電気点いてないから。
中行ったら、奥の方に、ソファかなんかの上に座っているのね、Aさんが。もともとあったソファに。
 で、多分そこにもともとあったボロボロの毛布やタオルケットとかで、自分の体をグルグル巻きにしてるというか、別にそんな寒いって訳でもないのに。
「なんでそんなグルグル巻きなんですか」って言っても、そこは応じてくれないんだって。
「あぁー、ちょっとな」って。
「あのー、聞いたんですけどなんかその……」
「しくじったよ」って言うんですって。
 全然目を合わせてくれないっていうの、自分たちに。結構な距離に来てんのに。
 どこを見ているんだと思ったら、ソファの対角線上っていうか、部屋の奥にベッドがあって。U字になってるっていうかね、ほら、ベッドって傷んでくると中央がへこんでくるじゃないですか。しかも近付いたら、染みっぽいのも見えて、うわぁ、嫌だなって。
「いや、悪いんだけど。悪いんだけどじゃあ最初、ちょっとやって貰っていいか」って。
「最初って……何、何をすればいいんですか?」
「ベッドの下に、手を入れてくれ」って言うの。
 えぇ……何言ってんだろと思って。
「じゃあ俺からですか?」
「じゃあ、ねぇ、せっかくねぇ。指名してないのに来てくれたから、うん、そっちから行こう!うん、そっちから行った方がいいな!うん!うん!」
 なんか、頷き方が変なんだってね。
 誰かの指示を待ってる感じで、うん、うん!じゃあお願いって言うから。怖いのよね。懐中電灯とか持ってくればよかったなとか思いながら。もっと早く済むと思ってたから。
 ベッドの下をこう、気持ち悪いから自分から見て右側の方。探ったら、何かあると思って。
「なんかありますよ」って言ったら、
「出して、それ出して!」って言うから。あーはいはいって出したら。
 右手の手袋。女性がつけるようなちょっと可愛い、キャラものではないんだけど可愛い感じの。
「何が出て来た!?」
 別にそんな距離がある訳ではないから、「持っていきましょうか」って言っても、
「持ってこなくていいけど、何が出て来た!?」
「右の手袋ですね」
「そうかぁ。いいぞぉ」って言うの。
 何がいいのか全然わからない。
「よしよしよしよし、今いい感じに進んでる」
「ぎ、儀式がですか?」「進んでる」って言うから。
「次はヨシダだな!」
 ヨシダくんもうガクガクなんですよ、もう意味わかんないし。
「じゃあヨシダ……ちょっと左の方探って貰っていいかな」
「ハイ……」
 探ってんの。その様子って、暗いし見えない筈なのに、
「もっと奥の方、もっと奥の方」って言うんだって、Aさんが。
 Aさん動いていないのよ、全然ね。くるまった状態で。
 そしたらね、ヨシダくんがね、小さい声で、「アァッ」って言ったんですって。
「どうした!?」と言おうと思ったら、
「それじゃないんじゃないの!?」って言うんだって、Aさんが。
「それじゃないな。もっと左の方、もっと左の方だと思うよ」
「ハイ……」ってヨシダが言って、
「なんかあの……布みたいなものが」
「それそれそれ」って。引きずり出したら、左の手袋なんですって。
(うわ、一式揃ったな)とか思ったんですって。
 ただね、ヨシダの震え具合が尋常じゃない。三十八度とか九度の熱がでた人みたいになってんの。
 で、ヨシダくんがね、自分だけに聞こえるように、小声でね、
「誰かいる」って言うの。
「ベッドの下に、誰かいる」って。
「はぁ?いや、人が入れるスペースなんかないだろ」
「いや、あの……唇に当たりました」って言うの。
「ええぇっ!?」
「カラッカラに乾いた唇に当たりま」ぐらいで、
「よーしじゃあ俺がやるぞぉ!!」
 急にね、Aさんが立ち上がって。
「これで終わりだから!ごめんな二人とも、ごめんねぇ」
 とか言ってどんどん立ち上がってって、ベッドの下に、両手をズッと突っ込むんですって。
 すごい勢いよくね、割と。ズバーッと突っ込んで。
「いやーこれで終わりだ、やっとこれで終わりだ。良かった良かった良かった!!!」
 ズズズズズズ、と音がしてね。
 カチカチでペラペラ状態になっている何かを、引きずり出し始めたっていうんですよ。
 で、なんか詰まっているらしく、なかなか全部出て来ないんだけど。
 でもね、途端に腐った臭いがプーンってして、ウエッてなって、
「ちょっとちょっと、ちょっとAさん、Aさん!!」
 って言おうと思ったら。
 引きずり出していたものがね、明らかにそれが生き物としたら無理なんですって。もう生き物としては無理な乾き方というか、ペシャンコななり方というか、判別のつかないようなものが、引きずり出されてたものが。
 途中から自分で動き出して、Aさんをギューッと抱きしめたっていうの。
「うわあああああっ!!!」ってなってたら。
 そのよくわけのわからないけどとりあえずAさんに抱きついたものと、Aさんが同時に、

「「はいおしまーい!!!」」

 って言ったんですって。


 フッて気が付いたら駐車場で。皆から往復ビンタされているの。
「しっかりしろー!」とか言って。「しっかりしろお前!!」っつって。
「えあ!?」って目を覚ましたら、すごい頬が痛いんですけど、自分が泡を噴いてて、人につかみかかった感じだったのはわかる。
 ヨシダくんは、なんかずっと三十九度出た人みたいになってて「大丈夫か!?」「大丈夫か!?」って言われてて。
「お前がヨシダ抱えて飛び出してきてなぁ、それで、それで……」
「ヤバい、そうヤバいんですよ!Aさんどうしたんですか!?」
「お前らが出て来たすぐ後になぁ、Aさんも『おしまいだぁ!おしまいだぁ!』って言ってブワーッと飛び出していってねぇ、裸足で……半分の奴はそれを追っかけていってるところなんだ」
「ええぇぇ……」っつって。
「これこれこういうことです」って。
「マジでかぁ……」ってなって、皆で。
「え、でも、他の奴から全然電話ないんだけど」
 心配で電話とかして。
「どうなってんのどうなってんの?」
「途中で切られた……今警察にいるとか言ってる……」
「ええぇぇ……」とか言って。
 ……まぁAさんはそのー、結局実家に帰っちゃったらしいんですよ、色々あって。保護はされたんですけど。
 ヨシダくんも、ガリッガリに痩せちゃったらしくて、心労とかで。実家帰っちゃったらしいんですよ。
「元気なのは俺一人なんです」って。友達にもそれで会いづらくなっちゃって。
 そのアパート、それで大騒ぎになったこともあって。結構奥まった場所にあって取り壊しが進んでなかったんだけど、土地持ってる方が「もう壊すしかないか」ってなって。近くの住民に言って、「悪いけど」って大規模な工事車両入れて、更地にしたっていうんですよ。

 でもその引きずり出してきたものって相当ヤバいじゃないですか。
 そんなの高校生が知ってる訳ないって言うの、奥まった場所にあったし。
「あれは偽JKだ!」ってなって。
 笑い要素としては、偽JKに踊らされてるよって言うんですけど。
 その後に「怪談職人……禍職人みたいな奴がいて、どうも人間じゃないらしい」って話を聞いたときに。
 そういうのを広める為だけにね、掲示板とかに投下するというか、「そういう奴もいるんですよ」って。
「絶対、あれ、普通の人間がもし体験したら、人に勧めようと思わないっすもん」って。少しでも片鱗を体験したらね。
「あれ、撒き餌を撒いてる奴ですよ」って言うの。
 いるんですよ、だから普通の日常生活でも、ネットとかでもいるんですよ。
 多分Twitterとかにもね、いるかも知れませんよって言われたんです。


※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「ザ・禍話 第一夜」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(51:50ごろから)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/599438369











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