―何故、屋根裏堂にあの商品が並んだのか―

こちらは、
2018.05.03 SUPER COMIC CITY 27
にて発行された「HisStory:Restart」へ寄稿した考察のweb再録です。

題材は「西洋骨董屋根裏堂に並んだ商品と地平線」

当時の原稿をそのまま掲載しているため、その後、提示/示唆された内容や、現在の筆者の考察内容と矛盾が生じている可能性がありますが、ご了承いただければと思います。

 第九の地平線「Nein」の中で、Noëlが迷い混んだ西洋骨董屋根裏堂、店主の言葉を借りればその場所は地平の狭間にあり、「地平を超えてキセキが集まる場所」であるという。
 では、あらゆる地平線の物語の中から、何故その品々が選ばれ、店頭に並べられていたのだろうか。例えば…何故、ランプだったのか、母の形見の本ではなく死神の鎌だったのか、童話の本でも壊れた人形でもなく紡錘だったのか…そして、何故、抽斗の中の物を手にとってはいけないのだろう。そんな事柄について考えていきたいと思う。
まず始めに、地平線には数字が割り振られており、未だ、第八の地平線が世に出ていない以上、「Nein」には八番目を飛ばしてまで九番目でなくてはならない理由がある。つまり、地平線に割り振られた数字には意味がある"可能性が高いという事だろう。
分かりやすく意味を持つ数字がないかを考えた私は、第一から第九の地平線を、タロットカード(*注1)に使用される大アルカナに当て嵌めたら面白いのではないかと考えた。また、それ以外にも理由があるのだが、それは後述する事とする。
同時に限定盤の絵柄やライブのセットにおいて、屋根裏には多くの時計が飾られていた事から、時間もまた、地平線を示す数字が表すものと仮定し、各地平線(今回は第一から第九とする)に時間を割り振りたいと思う。
‎ また、SH世界において、朝(昼)と夜は重要であり、区別すべきと考え、そこから24時間表記をした際の、午前と午後の両方の時間を当て嵌めてみたいと思う。
‎ 更に、時間と大アルカナを地平線に当てはめるにあたり、客であるNoëlが訪れた時間が夜であるため、今回は午後以降の時間帯…つまり13から21番目を当て嵌め、考えていく。これらの事をふまえて、各商品を見ていきたい。

【白銀の甲冑 [死神] 】
 第一の地平線から選ばれ、屋根裏堂に置かれた商品は白銀の甲冑である。歌詞にもあるように、この甲冑はChronicle並びにChronicle 2ndに登場する、聖戦の英雄―アルベール・アルヴァレスの甲冑だろう。
第一の地平線と対応し、かつ12以降のアルカナに関してだが、この地平線に振り分けられた数字は一であり、午後の1時とは同時に13時のことも示す時間である。
13番目の大アルカナと言えば死神で、更にウェイト版のタロットカードでは、白馬に乗り甲冑を纏った騎士の姿で描かれる。カードの騎士は死の象徴として骸骨なのだが、その姿は銀色の死神、アルヴァレスを彷彿とさせる。彼は「アーベルジュの戦い」の中では"死神が招く戦場"へと赴き、「聖戦と死神」の中では白銀の甲冑を身に纏い、白馬に跨がり戦場を駆け抜け、死神と呼ばれながらその生を終えた。
また、アルカナの解釈には様々なものがあるが、死神のカードの意味としては[死・別れ・決着]などがある。戦いの為に恋人との別れを経験し、多くの生死に関わり、生涯を終えたアルヴァレス。
そして、Chronicleの改訂版とも言うべきchronicle 2ndにおいて、彼の活躍もまた、その先の歴史を切り開く一因となったのだと思うと、それはカードの逆位置である[再生(再スタート)]を表しているようにも思えるのではないだろうか。

【少女の《操り人形》 [節制] 】
 第二の地平線からは少女の《操り人形》が店頭に並んでいる。これは、「壊れたマリオネット」の《操り人形》だろう。
前述の仮定の通り、第二の地平線が2番目と14番目の大アルカナの性質を持つとし、尚且つ12番目以降を考えるとすると、14番の大アルカナは節制である。節制のアルカナは[調整・安定・管理]等を表しており、そこに描かれるのは天使である。
また、このアルカナのカードに描かれる物たちは、女性性と男性性や陰と陽、意識と無意識など、相反するものを象徴するものたちであるという。
原曲「壊れたマリオネット」の歌詞を思い出すと、曲の主人公である人物は「もう一人の自分」という表現を用いている。ここから、意識の彼岸で目覚める「彼女」とは、二重人格の、自分とは混ざり合うことのないもう一つの人格なのではないかと考える。一見、安定や調整とは真逆のようなこの曲の主人公は、それらを求めて相反する人格を有するようになったのではないだろうか。

【黄金のランプ [悪魔] 】
 第三の地平線より並べられた商品は、「魔法使いサラバント」に登場する、黄金のランプで、この地平線に該当する数字である、15番目の大アルカナは悪魔となる。
悪魔のアルカナは、[裏切り・堕落・誘惑]の意味を持つもので、一般的に黒魔術を表すものであるという。
そして、この黄金のランプだが、曲の歌詞を信じるならば、中には魔神が入っているのだ。この魔神とは、「魔法使いサラバント」に出てくる黒髪の少女だろう。原曲より、彼女は罪と罰によりランプに閉じ込められていたらしい事がわかる。これこそが悪魔のアルカナによって示される堕落であるのではないか。
また、ランプが置いてあった洞窟には祭壇があり、黒魔術をしていたのではないかと疑わしい。そして、"彼"は取り引きをした"胡散臭い髭の男"を裏切り、ランプを手に入れる事になるのだ。たとえそこに悪意がなく、偶然だったとしても。

【ひび割れた仮面 [塔] 】
 第四の地平線から並ぶのは、男が着けていたと思われる仮面である。また、この地平線に対応するのは14番目の大アルカナ、塔である。
塔のアルカナは、バベルの塔がモデルではないかと考えられており、正位置では[崩壊・悲劇]等のあまり前向きではない意味を持つ。
その上で、この商品の仮面がElysionで登場する場面を考えてみる。例えばABYSSサイドの曲からもわかるように、曲中の登場人物は(例え、本人の感じ方がどうであれ)悲劇に見舞われ、そして仮面の男と邂逅している。また「エルの天秤」においては、彼は身から出た錆とはいえ、貴族令嬢からの復讐で命を断たれているのだ。
ノアの方舟から来ているのであろう「Ark」、バベルの塔の様に楽園が崩れ崩壊する仮面の男、神に背き、背徳を紡ぎ続ける第四の地平線。この地平線は、まるで、その全てで塔のアルカナとの関連性を深く示しているようである。

【深紅の宝石 [星] 】
 第五の地平線から選ばれた深紅の宝石。これは『殺戮の女王』だろう。では、17番目の大アルカナはというと…それは星である。星は[希望]の意味を持つアルカナであり、おおよそ”彼女”には合わないように思える。しかし、”彼女”を希望だと思った人物は確かにいたのだ。その大元となる原石を掘り出した男…Hiverである。彼は、その原石を掘り出した時、これなら妹のことを胸を張って送り出せる、嫁ぎ先で幸せに出来る…そう願いながら、”彼女”を掘り出したのだ。掘り出した原石は彼にとって希望であり、未来への光だっただろう。
結果として、多くの命を奪った『殺戮の女王』であるが、”彼女”が第五の地平線で初めて目覚めた時は、希望を、光を望まれて”彼女”は生まれたのだ。
そして、それこそが、この商品が星のアルカナの性質を持つと言うことなのではないだろうか。

【死神の鎌 [月] 】
第六の地平線から選ばれたのは、死神の鎌である。鎌は冥府の支配者…θが持つ鎌であり、それは死せる者達の魂を刈り取るものだ。18番目の大アルカナは月であり、その意味は、[不安定・幻想・潜在する危険]などがあげられる。
月はSound Horizon世界においても死の側の存在であり、Moiraのアルテミシアもまた、名前からして月由来であり、死に際には月を手にする。また、死神の鎌その物も、欠けた月のようである。
ウェイト版の月のカードには2つの柱が描かれているのだが、それらは生と死の門を示しており、月の光に導かれ、幻想にのまれてしまう事は、その先の死をも意味していると解釈される。
Moiraの世界は、幻想ギリシャと呼ばれる地平線であり、さらに月とも深い関わりがある。それ故に、死に纏わる商品がならんだのではないだろうか。

【野ばらの紡錘 [太陽] 】
 第七の地平線から選ばれたのは野ばらの紡錘である。言うまでもなく、「薔薇の塔で眠る姫君」に登場する、あの紡錘だ。
19番目の大アルカナは太陽であり、[誕生・祝福・約束された将来]などの意味を持つ。
野ばら姫は、両親に誕生を祝う宴を催されており、また賢女達から祝福を受けている。第七の地平線において、彼女は誰よりもわかりやすくその性質を持っているのかもしれない。
また、この大アルカナのカードは、あえて死神と似た構図になっており、月とは構図が対称的である。それはつまり、この太陽は人の生を表しているのだろう。まさに、"月"である"死神の鎌"と"死神"である"白銀の甲冑"があるあの場所にこの紡錘があることで、人の意思とは関係なく野ばら姫が言ったように「朝と夜は繰り返す」のだ。

【《遮光眼鏡型情報端末》及び「Nein」】
 第八の地平線は、完全な推測の域から出ないため、今回は割愛させてもらうが、20番目に当たる大アルカナは審判であり、天使による音と光の干渉が描かれている。輪∞廻を見ると、何やら関連もありそうではある。
また、光と関係がある可能性から、棚の上に置かれた《遮光眼鏡型情報端末》は第八の地平線とも何かしらの関わりがある可能性がある。どちらにせよ、まだ今はその地平線について語ることは出来ないだろう。
最後に、第九の地平線についてだが、この骨董品とは、棚の上に乗っている《遮光眼鏡型情報端末》と、限定盤で抽斗の中に入っていた『Nein』と『マーベラス超宇宙』のCD…つまり、二つの第九の地平線そのものではないだろうか。
いくら地平の狭間であっても、物語の中に入り込んでしまったNoëlがその先の展開や本質を知ってしまってはいけない。箱の中の猫は生きているのかいないのか、思考実験に入る前にすでに結末が確定してしまっていては、シュレディンガーの猫は…この地平線は成り立たなくなってしまうのだ。そのため、棚の中を覗いてはいけなかったのではないか。
また、アルカナとはラテン語で"神秘"や"秘密"という意味の言葉だが、そもそもそれは、"机の引き出し"の意味を持つ言葉だったという。抽斗の中に隠されていた第九の地平線そのものが、21番目の大アルカナの性質を持つとするならば…これが冒頭で後述するとした、私が屋根裏堂に並んだ骨董品と大アルカナを関連付けて考えた理由のもう一つである。
そして、その21番目の大アルカナは宇宙の神秘性や永遠性を持ち、[完成・完墜・良い結末]などの意味を持つ"世界"である。
便宜上R.E.V.O.と呼ばれる彼は、第九の地平線において、悲劇的な結末を否定して(少なくとも彼にとっては)幸福な結末を導く為に物語を改竄した。
彼により繰り返されたであろう思考実験。その時点でこの地平線は"世界"の性質を持っていると考えられる。そして、Noëlに否定されることにより、その完全な永遠性を失い、檻の外へと物語は広がっていくのだろう。
なぜ、各地平線からあの商品たちが屋根裏堂に並んでいたのか、こんなアプローチもまた一つのロマンだと思ってもらえれば幸いに思う。

※1:大アルカナの解釈をするにあたり、今現在日本においてスタンダードとなっている、ウェイト版のタロットカードを参考にした。

【参考文献】
著・井上教子「タロットの歴史」

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