【雑記】愛だの恋だの、すぐアップデートしようとするから。

今日は雪が降った。去年も同じ時期に降ったことを私はよく覚えていた。

「私は今ここであなたのジャケットにボタンをつけているけれど、」と呟いた瞬間、針が指に刺さった。うっすらと滲んだ血液で服を汚さないよう、キッチンで手を洗ったんだった。
「うん?」
目線は私に向いていないことくらい知っていたし、動画サイトを舐めるように見ながら片手ではスマートフォンでゲームを操作するなんて、まあ、器用だと感心することが多かった。
「なんでしてるか分かってるの?」
「僕のことが好きだからでしょ?」
「違う、頼まれたからだよ。」
でも本当は互いに分かっていて、私が彼が好きだから頼まれたことをこなしてたし、彼は私が好意を持っていることを知っていて、頼み事をする。それだけだった。

「私、なんでこんなことをここでしてるんだろう?セックスして、あなたの服にボタンをつけて、希望があれば料理をして。それはなんでなんだろう。好きだから。好きだからやってもらったことに対して、あなたはそれについてどう思ってるの?関係性じゃなくて、あなたが私の役割に名前をつけてほしい。」
そこまでまくし立てて後悔した。お互いにベクトルの合っていない気持ちをアップデートさせようとしたってどうにもなるわけがない。
案の定彼は黙ってしまった。

本当は分かっていた。彼はそこまで私に執着していなくて、私の好意を食いつぶしてた。甘えていた。関係性に名前をつけなかった。愛だの恋だの、アップデートはしたがらなかった。私はそれが悔しくて、そういう二人を肯定できる材料を一生懸命探していた。ささいなプレゼントをしてくれた、とか誕生日はお祝いしてくれた、とか、クリスマスは時間が取れなかったから予定を調整してくれたじゃないか、とか。探せば探すほど虚しく心が縛られた。一緒にいて楽しい理由や彼の素敵なところをたくさん伝えて伝えて伝えきって、最終手段はひとつしかなかった。それが間違いだって、誰が言えるんだろう。誰が私の寂しさを分かってくれるんだろう。理屈で恋を通過することはできないのに、「したい」ではなく「できる」のセックスを選ぶ私の気持ちを理解出来る人は、いるんだろうか。なんでいつも恋の先にはセックスしかないんだろう。それすらもただの屁理屈だけど。

それから数週間後に雪が降った。
雪が降ってるね、という一言をきっかけに私達は恋人になったけれど、あの時雪が降らなかったらよかったのかもしれないな、と、今日はふと思ったのだった。今は同じ一言を言える相手がいないからだ。

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