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足を絡めた粘りの野球が「野球は9回2アウトから」を具現化した阪神タイガース!

⚾️2024年7月9日
ヤクルト 000 100 000 =1
阪  神 000 000 002x=2

勝利投手 石井
敗戦投手 田口

「勝ちに不思議の勝ちあり」。かつて、ヤクルトや阪神を率いた名将・野村克也氏の名言だが、まさにそんな試合だった。
試合は4回表に宮本のタイムリーツーベースでヤクルトが先制。その後ゼロ行進が続き、9回表は3番手の石井がオスナから始まったヤクルトの攻撃を三者凡退で抑えて9回裏を迎えた。
マウンドに上がったのは、ヤクルトの守護神田口。最初に迎えたのは佐藤輝明だった。阪神ファンなら、昨年5月24日の神宮での試合で、1点ビハインドで迎えた9回2アウト1、3塁の場面に登場し、田口から逆転2点タイムリーツーベースを放ったのを覚えているだろう。
おそらく今季阪神戦は2試合目の田口も覚えているはずで、前の登板でもヒットを打たれており、苦手意識がある打者か。しかしここは佐藤輝明が4球目の甘いストレートを打ち損じてレフトフライ。難関を切り抜けて田口はホッとしたかもだが、しかし阪神打線は諦めない。島田に代打で送り込まれたのは野口。

2022年育成ドラフト1位で入団し、2シーズン目の外野手だ。ファームで3割を超える打率をマークし、先月末に1軍に昇格したばかり。彼の良さは思い切りの良いスイングとファームで四球を17個という選球眼の良さ。この場面も初球から積極的に打ちに行きながらもボール球をしっかり見極め、フルカウントから四球で出塁。田口としては、まずこの四球が痛かったのではないか。
代走で送られたのは、足のスペシャリスト植田。今季はここぞという場面で起用されることが増え、同点あるいは決勝のホームベースを踏む機会も増えている。それだけ、首脳陣の信頼が厚くなっているのだろう。

1アウト1塁となって、梅野の打順。ここで、代打の2番手として渡邉諒が送られた。昨季から加入した"直球破壊王子"。4球目の外角低めの球を打つも惜しい当たりのライトフライ。これで2アウト1塁、ヤクルトはあと1つアウトを取れば逃げ切れる。
阪神の岡田監督は、さらに代打攻勢。小幡に代わって代打の切り札原口を送った。日曜日の試合では、ライト前ヒットを放ち、打者走者として"必死のパッチ"で1塁に駆け込み、相手外野手の悪送球を誘ってサヨナラ勝ちの立役者となっていた。
原口は、野口や渡邉諒と同様に初球から打ちに行き、空振り。しかし、その後2球ボール球を見極め、4球目をしっかり捉えて三遊間を抜けるヒットを放った。

2アウト1、2塁と逆転サヨナラとなるランナーが出たところで、ヤクルトはタオルを持った投手コーチがベンチを出て間を取った。ベンチには熊谷や豊田が残っていたが、岡田監督は原口には代走を出さず、石井の代打には坂本を送り込んだ。
解説の上田次朗氏は、もっと前の場面でベンチ前に坂本の姿が見えた時に「バントでしょうかねえ」と話していたが、もう2アウトで打つしかない場面。そこで打率がようやく2割に乗ったとはいえ同じ右の豊田がいるのに坂本? と阪神ファンも、ヤクルトサイドも当惑しただろう。
坂本は、ストライク、ボールの後3球目をファウル、1-2と追い込まれた。運命の4球目を打つが、緩いサードゴロ。ここで、スタートのいい植田の存在が影響したのかもしれない。ランナーが1、2塁なのだから、ゴロをキャッチして3塁ベースを踏めば試合終了。だが、三塁手の北村には視界の端に走ってくる植田が入ったのではないか。
北村は、ショートバウンドしたボールを完全にキャッチしないうちに3塁ベースを踏みに行ってしまい、ボールをファンブルしてしまった。

2アウト満塁。試合終了となるはずが、なおチャンスが続き沸く阪神ベンチと対照的に座ったままの選手たちのヤクルトベンチ。まだヤクルトがリードしている場面なのに、ベンチの選手たちの表情がすでに勢いの差を示していた。
ヤクルトの高津監督やベンチを映していたため、北村がどういう行動を取ったのかはっきりしないが、おそらく田口には詫びる言葉をかけただろうけれども、マウンドまでは足を運ばなかったように見受けられる。ベンチから1回マウンドに行っており、もう1回行くと投手交代になってしまうう。ここは、ベンチから選手たちで間を取れと指示を出すべきだった。
3塁前にゴロが転がった瞬間、田口をはじめヤクルトの選手たちは勝ったと思いホッとしただろう。引き締め直すためにも、はっきりとした間が必要だったが、そのまま打席の近本を迎えてしまった。

6月は月間打率1割5分7厘。4番を任されたこともあったが不振に陥り、スタメンを外されたことも。しかし、メンタルの強さは人一倍。「試合終了のはずが⋯」とショックを引きずる相手チームを、どんな時もクールにプロフェッショナルに徹する男が仲間の繋いだチャンスを結実させる。
生還すればサヨナラとなる、2塁ランナーの原口はそのままだった。だから、ヤクルトの守備は、足の速くない原口よりも、近本の打球が外野の頭を越されるのを警戒して極端な前進守備を採らなかった。
外角低めのスライダーのボールを見送った後の2球目。高めに抜けたスライダーをフルスイング。慌てて前進するライトの丸山の前にポトリと落ちた。キャッチしたタイミングが遅く、しかも打者走者は俊足の近本。ライトゴロは無理で、バックホームしかない。
だが、原口は3塁で止まろうかとは微塵も思わなかったような再び"必死のパッチ"の全力疾走で本塁突入。慌てた丸山の返球は高く逸れ、その間に原口がしゃちほこのような不格好なヘッドスライディングで本塁を陥れた。歓喜の輪を作る阪神の選手たちと、唇を噛む田口の表情が残酷なコントラストを描いていた。

劇的勝利の阪神・岡田監督「ミスで点取るのも野球やそれは、はっきり言うて」「諦めずにやった結果」一問一答/阪神タイガース/デイリースポーツ

相変わらず、記事を出したら見直しをしていないようで、いまだに文章が"中揃え"になっているのに気づいていないデイリースポーツだが、監督はインタビューで原口に代走を送らなかった理由を述べている。
守備のやりくりという点で言えば、延長になった場合マスクをかぶるのは坂本だが、ベンチに捕手が2人しかいないので、坂本にファウルボールが当たるなど万一のことがあった場合捕手ができる選手がいなければならない。そのために、かつては捕手だった原口を残す必要があったと思う。投手陣の駒を揃えるのも必要だが、やはり捕手はベンチに3人置くべきだと感じる。9回裏でもなければ先発捕手に代打を送れない状況は、自分たちで戦術の幅を狭めているだけではないか。

日刊スポーツによれば、阪神の2試合連続で9回2アウトからの逆転勝ちは、1936年(昭11)の1試合目から、通算1万1270試合目で初のミラクルだそうだ。実況の寺西裕一アナウンサーが「北村のエラーの場面までは重苦しい雰囲気だった」と話していたように、土壇場まで劣勢だったのに、奇跡的な勝利。「野球は9回2アウトから」を2試合連続で具現化できたのは、選手たちの諦めない気持ち、とにかく繋いでいくという思いが結実したからだろう。原口のようなベテランも、全力プレーに徹したからこそ相手のミスを呼び込んだ。この時期に一丸野球を思い出せたのは今後に向けて大きい。
先制されたら負け、という試合が続いていたのに、ここにきて逆転で3連勝。試合前の声出しで原口が「いい波が来ている」と選手たちに話したそうだが、さらに大きな波にできるのか、暑い7月に昨年覇者の真価が問われる。

【追記】
【広報密着】劇的サヨナラ勝利!!#近本光司 選手のヒットに#原口文仁 選手が全力疾走!!勝利の裏に事件発生!?ロッカールームが爆笑に包まれました!

原口の足ではシングルヒットで帰ってこれないと思われていたのと、坂本のサードゴロで試合終了となるところがチャンスが続く形になってサヨナラを迎える準備の時間がなくて、あの場面で水を持っている選手がいなかったようだ。
その激走した原口選手のユニフォームの下に履いていたスパッツが大きく破れていたそうだ。全力疾走の時かホームに突っ込んだ時なのかはわからないが。俊足の全力疾走はもちろんだが、足が速くない人の全力疾走もまた相手の脅威となりミスを誘うこともある。全力プレーは大事。

地元網走に帰ってきて5年半経ちました。元競馬専門紙編集部員。サッカーや野球、冬はカーリングなどスポーツ観戦が好き。もちろん、競馬も話題にしています。時事ネタや網走周辺の話題なども取り上げます。よろしければ、サポートもお願いいたします。