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『アスリートは歳を取るほど強くなる』 - 37歳から強くなった僕の経験的書評

2019年のプロスポーツでは30代半ば以上の活躍が目立った。長距離走では1:59のエリウド・キプチョゲは35歳直前、彼の世界記録に2秒だけ届かなかったケネニサ・ベケレは37歳でのカムバック。ウィンブルドンでは38直前のロジャー・フェデラーと32歳ノバク・ジョコビッチとの決勝はアニメかCGでも見ているようだった。お互い完璧なプレーの激突なんてアニメなら不自然すぎるけど、人間同士なら実現するのだな。そういえばメイウェザーおじさん1年前に日本観光がてら何かしてたっけ。

※2022年9月追記:37歳10ヶ月のキプチョゲ神、マラソン世界記録を30秒更新。前半59:51はハーフ日本記録より9秒速い!後半61:18も国内歴代59位相当で箱根の有名エース何人かよりも速い!(メイウェザーおじさん45歳も日本の若者をイジって大金まきあげる遊びを継続中)

このように、世界トップアスリートのピークが延びているのは何故なのか? ビジネス寄りの科学ジャーナリスト、ジェフ・ベルコビッチが最先端情報を集めたのが『アスリートは歳を取るほど強くなる: パフォーマンスのピークに関する最新科学』(2019/10)

・年長選手の身体も進化する
・疲労を残さないうちにトレーニングを終える
・脳をだましてトレーニングを効率化する(=高負荷・加圧)
・低強度でトレーニングをする(=二極化)
・異なるトレーニングを組み合わせる
・フィールドで一番速いのは身体ではない(=判断速度で勝負)
・瞬発力は必須とは限らない(=経験)
・精神は歳をとるほど安定する

という章だて。タイトルは「強くなる」(表紙むっちゃ強調してる!)とアオっているけど、内容はトッププロが対象なので、ピークの維持が主。原題 "PLAY ON" とは、現役続行!くらいの意味かな。

ジャーナリストが書いてるので、読み物としての情報量が多い。だから自分自身が強くなりたいプレイヤーなら、自分に関係あるところだけツマミ食いするといい。いきなり全ページ一字一句読み込みにいくのはコスパ悪い。なのでこの書評文も、37歳からロードバイクとトライアスロンの練習を始めた僕の視点から書こう。

選手寿命が延びた理由

30歳を超えたアスリートは、以前と同じトレーニングをしていては、新しい才能に負けてしまう。対策は2つ:

・減ってゆく体力を増やすトレーニング

・増えてゆく知力を活かすゲーム戦術

サッカーやテニスのような対戦型では後者の経験が武器になる。力の抜きどころで抜くことで、要所に体力を集中させる。「ベテランらしいプレー」というやつだ。ただこれ自体は昔から同じこと。変わったのは、減ってゆく体力のカバーの仕方だ。それは大きく、

・筋力の強化

・回復への集中

による。

筋力は、筋肉量だけでなく、動かし方=神経系も劣化して非効率な使い方になりがち(拮抗筋の同時活性化)。筋肉に酸素を送る心筋も弱る。トータルで最大酸素摂取量も低下する。ワンセットなのだ。

すると太りやすくなるし、メタボな一般人なら内臓脂肪の存在がエストロゲン(いわゆる女性ホルモン)を増やしてオッサン感が増してゆく。

対策

ここまで説明すれば、僕のSNSを読んできた方なら、次に僕が何をいうか予測できることだろう。

たとえば質の重視。減少のはやい速筋に対する刺激=筋トレ。あるいはスピード強化:

そのための休養、その応用としての二極化=Polarizedトレーニング:

この本の前半の結論もだいだい同じだ。

練習のやりすぎは、年をとるほどデメリットが大きくなる。よく「日本人は勤勉で練習し過ぎる」と言われるけど、実はあんまり根拠なく言ってる人も多くて、欧米人もハードに追い込む練習が大好きなのは映画ロッキー観ればわかるだろう。

加齢により、トレーニング疲労からの回復に時間がかかるようになる。

その変化にあたって、何を優先し、かわりに何を捨てるのか? 

その決断が、加齢アスリートの戦略だ。

そこで、クロストレーニング(=だから30代からトライアスロンやるといいよ!)、少ない高強度と多めの低強度のミックス(二極化=Polaraized)、などが浮上する。

なおSNSのランニング界隈では、スピード=VO2Maxやりすぎの弊害など議論されることがあり、それはそれで正しいのだけど、30前後までの若者と40以降では、そもそも身体が変わると思う。(プラス競技歴の違いにもよる)

休養については、『Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実』(2019/3)が詳しい。(時間あれば書きます)

メンタル

経験や心理的安定性など、知的・心的要素は、ベテランの強みが活きる領域だ。主に対戦型で複雑性の高いゲーム形式の競技について7−8章で説明されている。

僕は経験ないし、そもそも超苦手なので(運動能力が低いから)、と最初読み飛ばしていたのだけど、ドーピングの箇所を読んで、新たな視点が入ってきたので次のブロックを ↓

実は、レース形式の長距離競技でも、日常の練習から重要なことではある。トライアスロンとか自転車ロードレースとか、あとはトレイルなど、複雑性が高いので、メンタルゲームとしての要素は大きい。

エセ科学(笑)、ドーピング(泣)

トップ選手は結構あやしい根拠の乏しいものを信じてるよ、という話(9章)もおもしろい。特に栄養関係に多い。

ドーピングにも、この思い込み=プラシーボ効果ありそうだという指摘もおもしろい。実際、明らかに効くクスリは禁止され、かつ今や厳重に検査されている。そこをすり抜けて使われるものに、果たして効果が出ているのかどうかは疑わしい気もする。

ドーピングは、一般人向けの自費診療として拡大中の「アンチ・エイジング」医療との関連が強い。成長ホルモンの補充などは、加齢デメリットの軽減手法の1つで、そのままベテランの活躍につながるから。病院では普通なことが、スポーツ現場ではドーピングになる。

だから、ドーピングも拡がっている、と同書では断言されている。これはプロに限らず、年齢別のアマチュア・トライアスロンでもそう。世界選手権の限れた検査での摘発例が毎年あるし、水面下ではもっとあるとも伝え聞く。こちらはプラシーボではなくリアルな薬効ありそうだ。。

いや、「薬効は、ありまーす!」という思いが強いメンタルを引き出してくれるのかもしれない。(これがプラシーボ効果)

すると、上記のメンタルのテーマに戻る。心理学的な対策も進化し、スポーツ現場に普及していて、たとえば大迫傑選手もメンタルコーチを雇っていると自著で書いている。ここ徹底することで、ドーピング的な成長の期待できるかもしれない。そう信じることだ。プラシーボ効果はマジで効くと思う、と以前に話を聞いたスポーツ科学者も言っていた。

アマチュアにも検査体制が強化されてゆく流れもあり、その対策が機能していることを信じて、身体からの自然な成長ホルモンを増やすべく、質のよいトレーニング、良質な栄養、十分な睡眠を実行してゆくべきだろう。

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最後11章には、ドーピングどころではない超最先端な若返りへのチャレンジが紹介されている。「すごいね」とリアクションする以外にない。。

ついでに、フェデラーすごいよね、という話が5章などあるけど、僕はテニスしないから経験的にわからないので、かわりに「27歳と37歳のフェデラーのテニスを交互に見てみる」という動画を貼っておこう。

コメントでは「フォアの威力が落ちた?」ともあるけど、同書の内容から推測するに、「体力任せのプレーでは勝負しないようにしている」面が強いのかなと思った。

本書あとがきを、草思社がこちらサイトで公開してる。著者自身が自分のホビー・スポーツで何を実践することにしたのかも書いてある ↓

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このテーマでは、トライアスロン&自転車でお馴染み、加齢に負けずハイパフォーマンスを目指す持久系アスリートのためのトレーニング教本『FAST AFTER 50』の日本語版『50を過ぎても速く! 』2021 ジョー・フリール

タイトルは50歳からだが、もともとフリール先生は40代から必要なことを書いたけど、商売上の理由で50になった、と言っている。40ではまだ自覚が薄いから。

要点は、高負荷トレーニングを中心に組み立てるということ。そのために、中程度域が減り、その分、低負荷域が増える。

フリール先生は、2013年頃からブログ等で主張しはじめ、2015年に英語版が出て、日本語版がでるのにムダに時間がかかっている。僕は英語情報中心に組み立てていたので、実践はまあまあ早いほうかなと思っている。

サポートいただけた金額は、基本Amazonポイントに替え、何かおもろしろいものを購入して紹介していきたいとおもいます