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フェデラーに見る「アスリート×投資家」という潮流

世界的テニスプレーヤー、ロジャー・フェデラーが、地元スイスの新興シューズ企業Onに出資し、経営に参画する。超トップアスリートが「投資家という複業」を競技と並行させるとは、世界的な傾向だ。(2020/7/6追記)

報道

Forbes日本版 2019/11/23(On社の日本国内でのビジネス開拓史もわかる)

NYタイムズ11/23=日本語訳NewsPicks有料版11/26(世界のスポーツシューズ市場を含む見取り図もわかる)

など大手メディアで続々報道されている。このような注目を獲得できるのも、ユニクロが払った10年300億の対価の一部だ。

「フェデラーが投資家としてOnの経営シニアチームに加入」と記事にある。「カネも意見も出すベンチャー・キャピタル」のようなものだろう。Forbes記事では、「給与や広告報酬ゼロ」 など書かれているけど、株主という立場は成果報酬の最たるものなので、そこ強調するところではないと思った。英語の発表文では "senior leadership team"、という表現。インスタの写真みると、部活の上級生ミーティングみたいな雰囲気かな?笑

NewsPicksの日本語タイトルでは、 "テニスの王者フェデラーが「スニーカー」に賭ける第2の人生" と引退後のセカンドキャリア先であるかのようだけど、NYTの原題は

"Roger Federer, Sneakerhead?"  フェデラー、スニーカーマニアかよ?

sneakerhead=熱狂的スニーカーコレクターのこと。たぶん「脳みそ筋肉」的な

NPのコメントみると、引退するかのような誤解したかのようなのもちらほら… アナタが読むべきはこのnoteではないだろうか… まあNYTも、引退近いよね?というニュアンスを、そうは書かずに、印象だけ与えるような文章操作をしているのはある。このように、細かく誤解があるなと感じた。

今の38歳は引退手前ではない

フェデラーは1981年8月生まれの38歳。一部感じたのは、トップアスリートにとっての38歳という年齢には、解釈の差がわかれるということ。かつては超ベテランだけど、今ではむしろ超ピークな年齢だ。

去年のウィンブルドン決勝ジョコビッチ戦はTVで見ていて、人類最高峰の身体&精神力の激突だと思った。お互い完璧だから全然差がつかずに神様がシビレを切らしてサイコロを転がして進行する的な。

30代後半から伸びてゆくのは、休養・ケア・筋トレなどトレーニング手法の進化が大きいと思う。マラソンのエリウド・キプチョゲも1984年11月生まれの35歳。彼の記録に迫ったケネニサ・ベケレは1982年6月生まれ。ちなみに僕がトライアスロン始めたのも38歳手前で、何の問題もない年齢だと実感する。

スポンサー契約と投資との差

もう1つ、「アスリートによる投資活動」という概念が、日本ではあまり浸透していないと思う。

フェデラーは、1998年からNIKEと契約し、20年で推定1億5000万ドル。去年3月に終了し、ウェアだけユニクロと10年3億ドルで、引退後まで含めた契約をしている。生涯獲得賞金は1億ドルちょっとで、とても多いのだけど、それ以上にスポンサー契約のほうがよっぽど稼げるのが世界のトップアスリート。

ラケットはWilsonのまま。ここはよっぽどのことがないかぎり変えたくない契約先だろうな。シューズ契約が空白になったので(今は流れでNIKE)、争奪戦は激しかったにちがいない。Wiki先生によるとスポンサー依頼は月2ペースで殺到し、その中から選ばれたのは10ちょっと

NIKEみたいな世界大手なら巨額提示できるけど、大企業にどうしてもできない提案がある。「株もってくださいカード」だと今回思った。

株式会社の株主とは、利益も含めた会社全体に対して、まるっと所有権みたいなものを持っている。ユニクロ柳井社長はフェデラーに300億払った後の利益を所有する立場で総資産3兆円超。NIKE創業者フィル・ナイトも総資産3兆円超(ほぼ全額寄付する意向だそうだ)。資本を保有するとはそういうこと。

On社も、資金調達が必要な段階は過ぎているだろうし、よっぽどのことがないかぎり出資を受け入れる理由がない。フェデラーとはそんな、よっぽどのことだ。

トップアスリートが「投資家」を複業する時代

今、世界トップアスリートには投資家としても活動することが多い。これはスポンサー契約以上の稼ぎを生んでいる。

テニスのセリーナ・ウィリアムズは2014年にベンチャーキャピタル「セリーナ・ベンチャーズ(Serena Ventures)」を立ち上げ、投資先30社超の時価総額は合計120億ドル(約1兆3400億円):

現役最高のNBA選手、レブロン・ジェームズも投資により総資産1000億円超。チーム年俸4年160億円にすぎない(笑)にもかかわらずだ。

自転車のCannondaleは2003年に経営危機に陥り、4年で再建しているが、その初期に部分的に出資、1年後に4倍に値上がりして数億円の利益を手にしているという。全体としては少額の出資だが、「トップ選手のネームバリュー」に意味があり、「レブロンも出資した」という事実が勢いを作るわけだ。これが成功体験として後の投資本格化のきっかけになったようだ。

古くは、ランス・アームストロングも全盛期にTREKの株主になってたと思う。ランスの投資は続き、ドーピング摘発後に1億1100万ドル失った後も、UBER株などによりかなり資産ふやしている雰囲気だ。

成功する理由

今、世界のビジネス全体が、個人=インフルエンサーの影響力が高まる流れがある。ただ、フェデラー自身も言うように、数年でコロコロ変わるような契約は、企業がブランドを育てるためには弱い。そこで、出資=個人と企業とが一体化するということによって、長期的なコミットメントを発生させる、ということの価値が高まっているのだと思う。最近、個人発のD2CビジネスをP&Gのような巨大企業が買収する動きがあるのも、この流れにある。

トップアスリートならではの影響力とのシナジーがある。単なる知名度を活かしたサイドビジネスではない。だからスジの良い出資依頼(=一般人には公開されない初期段階の&本物の)が集まる。

もちろん、個々のアスリートの適性、サポート可能なスタッフ、などによる話ではある。高収入の選手ほど一流の専門家を使えるわけで、スジの悪い依頼の排除もしやすいだろう。昔は結構騙されていたと思うけど(今でもあるか)。

ただ、世間的には無名でも、狭い範囲内では強い熱狂を生めるのが、アスリートの特殊性だ。低報酬でも「このアスリートに協力したい!」というサポーターを活用することもありうる。

少なくとも、「スポーツ選手はスポーツのことだけを考えていろ!」という時代ではない。どんなに練習しても、まあ1日3時間程度、それ以上はリスクが大きくなるだろう。

この空き時間をどう使うかは、「時間という資源を、どう投資するか?ということ。おカネという資源があればそれを投資するし、なければないなりにあるものを投資することができる。

アスリートにとって、資産何億ドルというレベルになると、おカネだけ一方通行でもらっても使い切れないわけで、社会にひろく影響力を拡げられるものを探しているだろう。投資なら、ちょうどいい。

マネジメント会社の差

ついでに書いておくと、日本でも最近、トップアスリートにマネジメント会社が付くことが増えてきたけど、たいていは芸能事務所がついでにやっている。その最大のゴールは、(国内では)最高収入が可能なTVのCM契約だと思う。

海外のトップは、そこではない。フェデラーのマネジメント会社Team8は、大会運営したりランキングシステムを作ったり、文字通りのマネジメントをしている感じ。錦織圭や大坂なおみのIMG社も有名だけど、スクール事業はじめ手広い大企業だ。

見ているものの違いが、こんな差にもあらわれる。

テニスシューズは?

NYの記者発表でフェデラーは「東京オリンピックで『オン』のシューズを履いてプレーする可能性はあるのか?」という質問に

「テニスシューズに関しては、まだ『オン』と一度も話したことがないから正直何もわからない。オリンピックまでに形になるシューズが出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。それは企業秘密ということで(笑)」

と言うけど、表情は、出す気マンマンに見えた。気のせい?笑

反発のランニングと、安定接地のテニスとは機能の方向性が違い、インスタのNYラン動画 ↑ でも、フェデラーだけが球技系に多い「蹴る走り」をしてる印象ある。(蹴る走りは、スポーツ万能な野球とか人気競技出身の市民ランナーが意外と伸びない要因だと思っている。フェデラーはさすが自然に「跳ねる」感はあり、動作の質は高いが、ランニング最適ではない=当然)

なおウェアもフェデラーだけ違うのはユニクロ契約による笑

実現すれば超おもしろい。テニスに限らずランニング以外の新市場を開拓できるのなら、On社にとっても出資を受け入れる最強の理由となるし、フェデラー級のセレブにとって、競技引退後も一貫した「キャリア」となる動機となるだろう。

2020/7/6追記:

7ヶ月後、「テニスにインスパイアされたスニーカー」という形で初回限定1000足が。本来なら東京五輪=今月はじまるはずだった!タイミングだったろう。

出資の内容

2020/7/6追記。テキトーに検索してみると、ちょっと情報あった:
https://pitchbook.com/profiles/company/111154-24

スクリーンショット 2020-07-06 17.52.13

たりない情報を妄想でつないでメモしておくと、Seed=創立時に約40万ドルの資本金を創業メンバーが出資したのが10年前。2010年5月11日とは僕がトライアスロン大会に始めて申し込む半月前だな。ゴムホースの輪切りをボンドでくっつけるだけではさすがに売れないので、ちゃんと製品化するためにお金が必要になるわけだけど、10年後に時価総額15兆円とかのNIKEと対抗する会社が、4000万円ちょいとは、つつましい。

1年後にVCから45万ドルが持ち分10%の優先株として追加、以後1年ほどに=昔代理店やってたシーベルへグナーさん含めて計3社が出資してる。資金調達を終えて、翌2013年にはハワイ世界選手権に出店だしてて、創業メンバーが自ら靴売ってたので(買っとけば記念になったw)、その時点ではもうビジネスが十分に回っていたわけだ。※原典確認ください

かくして、議決権は創業メンバーが安定多数を保有中っぽく、巨大資本企業の多いシューズ業界にあって、経営陣がわりと好き勝手にできる(笑)体制が続いているようだ

そして2019年11月、唐突に、4社めの外部出資者としてフェデラーがAngelとして参加したっぽい。おカネはもう要らない中で、「フェデラーを身内に引き込むための手段」としてスーパー例外的に株を渡した感じだ。

・・・

トップ写真は両親のOnと実家のキャバリアくん。高齢者のお散歩にも合う話は『ほぼ80歳のウォーキング用にランニングシューズを選んだ日記』2020/01で書いた ↓

※小説です


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