カフェとの出会い(テコ入れ)

[某年12月23日午後21時]

その日は記録的な寒波だったがこの街では
今、クリスマスの市場が開かれ
クリスマスツリーや七面鳥、ランタンなど
を買いに来た沢山の人達で賑わっている。

ここの地域は伝統工芸品の影響も相まって
職人が一つずつランタンを作り上げる為
普通の市販品より色が綺麗だった
それを求めてこんな寒い日にもかかわらず
多くの人で賑わっている

そんな人達で賑わっている市場の道を高校の終業式を終えて帰宅途中の一人の男子学生が人混みを避けながら歩いていた。

[あぁ…とても寒い、しかも喉が渇いた]
そう独り言を呟いてその場に立ち止まると学生は背負っていたリュックからカイロを
取り出して温まるのを待っている、
しかも見渡す限り人が多く自販機なんて
見える余裕なんてなかった

その事に軽い苛立ちを覚えて軽く舌打ちをすると学生はカイロをポケットにしまって
少し歩く事にした。

どれくらい歩いただろうか?五分だろうか?
それとも十分くらいだろうか?
通りの向こうでは歩行者が霜を踏んで
ザクザクと音が聞こえる。

それを無意識で見ていると急に北風が頬を刺した
『チリンチリーン…ガチャッ』という心地よい
音色のベルとドアの開く音が聴こえた方を
見るとすぐ横道に入った所のなだらかな坂道の
先に洋風のカフェが立っていた。

坂道を登り店の前まで行くと入り口の横に
『カフェ・サンマルコ』と書かれた看板が
立っている。店のドア近くにはベルを設置する
金具が付いてるのが見える

学生はとりあえず此処で少し温まって行こうと
思い店のドアを開ける。
ドアを開けるとチリンチリーンっと
客が来た事を知らせる綺麗な鈴の音が響く。

店内は暖炉があって外とは違いとても暖かい

しかし、誰も出てこない
通常ならすぐに店員がいらっしゃいませと店の奥から出てくるものだが、そんな気配はない

その事を不思議に思い、入り口から店内を見渡すが店員はおろか他の客もおらず店内は静寂に包まれている

しばらく待っても誰も出て来ないので
学生はまだ開店時間ではないのだろうと思い。
振り返って外に出ようとして横を見た時に金色の装飾の入った美しい紙とホテルにある小さなベルが置かれたアンティーク調の丸いテーブルがあった
紙には何か書かれていて学生はその紙を
手に取り読み上げる

大変申し訳ありませんが、御来店時はこのベルを鳴らして下さいますようお願い申し上げます
                 店主

紙に書かれた内容を読み終えた学生は入り口でずっと待っていた自分が急に恥ずかしくなり
いそいそとベルを鳴らす…

鳴らしてから少しすると店の奥にある扉が
開き中から綺麗なブロンド髪でメイド姿の
おそらくはこの店の店員だと思われる。女性は学生の目の前まで歩いて来て立ち止まると微笑みながらお辞儀をして言った

『ようこそ、カフェ・サンマルコへ』

その声は今まで聴いたことのないとても
透き通った美しい声だった。

それから店員にカウンター席に案内されて座ると、店員さんは軽く微笑みながらメニューを
手渡してくれる。 僕はその微笑みに少し照れながらも受け取って何を頼もうかとメニューを
見る。
紅茶、コーヒー、ココア、そして抹茶
その他の食べ物もあった

メニューを手渡してくれた後の店員さんは他の席のテーブルを拭いたり、床のモップ掛けなどの雑務をテキパキとこなしていく。 

その姿を見ながら何を頼もうか悩んでいると、先程の店員さんが出て来たカウンター奥の扉が再び開き今度は店員さんより大柄で緑の
エプロンを付けた眼鏡の男性が出てきた
おそらくここのマスターだろう。

男性はカウンター席に座る僕を一瞥すると
『おや、お客さんかい...…メアリー?』
店員さんの方を向きそう問い掛け、メアリーと呼ばれた店員さんは作業を終えてその問い掛けに軽く微笑みながら
『はい、先程お越しになられたお客様です』
と答える

それを聞いた男性は『……そうか』と一言だけ呟く、二人のやり取りを見て僕はこの大柄な
男性がこの店の主なのだと分かると。
同時に店の主にしては店主はとても若く見えるし一体何歳なんだろう?と疑問に想いながら
見ていると、店主はゴトッ…ゴトッと
ブーツと床板のきしむ音を奏でながら
歩いて来てカウンター越しに学生の目の前で
立ち止まりこちらを見てくる。

その瞳はとても真っ黒で吸い込まれるような
瞳だった、見惚れていると店主がクスリと笑い『どうしたんだい?そんなに見つめて』と
その言葉に我に返った僕は慌ててすいませんと頭を下げる。

それを見て店主はまたクスリと笑い
『ようこそ私の店へ…。御注文はもうお決まりかな…?』

店主のその問い掛けに僕は再びメニューを見てアイスティーを頼むことにした。

『アイスティーだね...。レモンとミルクどちらか入れるかい?』店主の背丈と同じくらいの
大きさの棚からアイスティーを作るための
茶葉の入った容器を取り出しながら薄く笑う。

『ミルクで…あとガムシロップも』と
僕が注文をすると白銀のミルクポットと
宝石の様な色鮮やかな色彩のグラスとの
コースターをゴシック色のアンティークな
棚から取り出し、カウンターテーブルに置くと少し困った顔をしながら…
『申し訳ないが私の店ではガムシロップは取り扱ってないんだ…ハチミツならあるけどそれでも良いかい?』と言うので、僕は頷きながら
『構いませんよ』と言った

僕の返事を聞くとメアリーさんに目配せして
から少ししゃがんでハチミツの入った瓶を
取り出し、メアリーさんは何かを持ってきて
店主に手渡す…。
それを受け取りながら
『ありがとう…メアリー』とメアリーさんに
お礼を言ってから、
『これはハニーディスペンサーといって手を
汚さずにハチミツを淹れる事が出来るんだ』と道具の説明を丁寧にしてくれた。

学生はへぇ…っと呟きながら
『それにしても綺麗なグラスとコースターですね』と言うと
『実に美しいだろう?バカラガラスとエル
コーレモレッティのグラスとコースターさ…
綺麗なガラスで作られた対のグラスと花模様のコースターだよ。よければ一つ、差し上げようかい?』

と言ってくれたので僕は咄嗟に
『いいんですか?なら…一つ頂きます』
と少し恥ずかしげに答えた

そう店主は瞳を輝かさせて嬉しそうに語り
グラスにアイスティーを淹れミルクを注ぎ込み最後に『このハチミツは私の店自家製の蜂蜜だよ』
と言いながらハニーディスペンサーでグラスにハチミツを入れてマドラーで数回かき混ぜ
ストローを差してからカウンターテーブル
に先に置いた花模様のコースターの上に
グラスを置いてさぁどうぞ……と言った。

学生は反射的にありがとうございますと言った。店など誰かに何かしらしてもらった時は必ず
お礼をする様にしているからだ

それに対して店主は
『いや、こちらこそ私の店に来店してくれてありがとう』と微笑み、側で作業をしていた
メアリーさんも微笑む

そんな二人の微笑みにつられ僕は頂きますと
呟きアイスティーを飲んだ。

 すごく美味しい………。

大袈裟だと言われるかもしれないが言葉では
言い表せないない美味しさだと心から想った

すると不意に僕の頬を何かが触れ顔を上げると、店主が緑の糸と馬のワンポイントで美しく装飾を施されたハンカチで僕の頬を優しく
拭きとても優しく包み込む様な声で

『泣くほど美味しかったのかい?』

と言った…。

そう言われて初めて自分が涙を流している事
に気がつき混乱する。
別に哀しい訳じゃないのに止め処なく
涙が溢れてきて止まらない…。

涙を流しそれでもアイスティーを飲み続ける今の僕の姿は側から見たらとても滑稽だろう…。その後も僕はアイスティーを飲み続け飲み
終える頃には涙は止まっていた。

『……スッキリしたかい?』
店主が泣き止んだ僕に優しく声を掛けてくれる。 
確かに店主の言う通り僕の心は浄化された
様にスッキリしていた。

『はい、でも綺麗なハンカチを汚してしまってすいません』
頭を下げながら謝る僕に店主は
『なに気にする事はない。むしろ私の店の
アイスティーを飲んで涙を流してくれるなんて嬉しく想うよと』
言いながらハンカチを胸ポケットにしまう

その後、僕はカウンターの水道を借りて顔を
洗って顔を上げるとメアリーさんが
『お客様、こちらのタオルをお使い下さい』
と微笑みながら言い僕はそれを受け取って顔を拭く、そのタオルはとてもふわふわでなんだか良い匂いがする。

タオルをメアリーさんに返してカウンター席に戻ると店主がさて君が泣き止んだところで…
と言った所でメアリーさんが横から
『お客様、デザートはいかがですか?』と
言い、やれやれといった感じで両手を上げな
がら店主も
『そうだね、私の店はデザートも
美味しいしティータイムにデザートは付き物
だから是非食べていくと良い。』
とススメてくれるので僕はメニューを再び開きデザート一覧の本日オススメデザートと
書かれた檸檬ケーキを注文する

出てきた檸檬ケーキはチーズケーキと檸檬を合わせた感じでチーズケーキの風味と甘味に檸檬の酸味が効いていて丁度良い甘酸っぱさで
美味しくオススメと書かれている事だけはあると思った

『この檸檬はある"お友達"に貰ったんだ
君に出すのが初めてだったんだが…お味は
どうだい…?』
と、店主が

ケーキを食べながら僕は
『とても美味しいです!』と一言
店主は微笑んで
『ありがとう』と言った

僕は店主に気になった事を聞いてみる
それはこの店の入口近くに吊り下げられている鈴についてだ。

別段、気にする事でもないのだがなんとなく
この店の外観にそぐわないと思ったからだ

その事について聞いてみた
『あぁ…あれは昔、ある"友人"から
もらった物で色々と事情が………。』

そこまで店主が言い掛けた所で店内にある
古い鳩時計がボーン…ボーン…っとその音を
五度…鳴らし静かな店内に響くと
それを合図にする様に店主は話すのをやめて『すまない…メアリー…明日の分の準備をするから、君はそろそろ店仕舞いの準備を…』
と言ってあとは任せたよと、メアリーさんに
指示してメアリーさんが『かしこまりました』と頭を下げて返事をする。

それを見て主である彼はカウンター奥の扉に
歩いて行きその扉のドアノブをガチャっと
回して扉が開き中に入っていく途中で
僕は咄嗟に『また、此処に来て良いですか?』と彼の背中に声を掛けた

すると彼は立ち止まってゆっくりこちらに
振り返り、最初の様に僕を見ながらクスッと
笑って
『そうだね…。縁があればまた来ると良いよ』
そう言い残して扉の向こうに入りドアを
閉めた。

それからメアリーさんは彼に指示された通りに食器やグラスをなどを全て洗い水気を
拭き取ってから元の棚にしまい。入口まで
付き添ってくれて別れ際に笑顔で僕に
お辞儀して『お客様、またのお越しを心より
お待ちしております』
と言って見送ってくれた。

外へ出てなだらかな坂道を下り大通りに
出る。
通りではもう日が変わると言う
時間帯だというのに未だクリスマス
グッズを買いに来た人達で賑わっている。

気温も心なしかさっきより寒くなってきている市場で売られている沢山のツリーや飾りが風に吹かれクリスマスベルなどがて透き通った
音色を鳴らしたり、ガサガサと木の擦れる
音がまるで音楽を聴いているようだった。

時刻は23時47分…良い子は寝る時間だ。
まだ空は少し明るい…と
そんな風に想いながら空を見上げていると
僕の前を二人組の女の子が嬉しそうに
クリスマスやイベントの事を話しながら
通り過ぎてゆく

きっとお気に入りの飾りを見つけたんだろう。

その子達の後ろ姿を見送りながら
僕も帰ろうと思いながら通りを歩いて行く

歩き出す一瞬、北風がまた頬を刺す。
振り返ってあの店を見ようかとも思ったが…

もし、振り返った先にあの店がなかったら…
メアリーさんとサンマルコの主である彼との
出会い...それに今日の出来事全てを夢にしたくないという想いがある
僕は振り返らずに家に帰った…。

帰宅して僕はお風呂に入って母さん、父さん、姉さん、妹、弟の家族皆んなで食卓を
囲み、テレビを見てから、自分の部屋に行き
ベッドに横たわりながら僕は二人の言葉を
思い出していた。

『縁があればまた来ると良い…。』と言った彼『またのお越しを心よりお待ちしております』とお辞儀をして笑顔で見送ってくれた
メアリーさん。

彼と彼女の二人とあの店との縁がまだある
事を願って僕は眠りについた。

部屋の窓際にある勉強机の上には、あの店の
コースターの花模様が月明かりに照らされて
鮮やかに輝いていた。

序章、完


作者からの一言

どうもどうも…作者の柳凪(やなぎ)と
申します…なんだか急に物語が書きたいな
って思って、ある尊敬してる方の物を
オマージュ…言い方を悪くすれば…
少し真似た作品となっております。
ですが、尊敬してる方は『似たようで違う
それもいいじゃないか』と了承してくれてる
ので本当にありがたい限りです。
誤字脱字があれば連絡してもらえると幸いです。
と言いながら修正しました

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