1時 「いつものフクロウ」

 ユキヤはまだ起きていた。ふとんの中で、眼が冴える。どうにもこうにもいかなくて、ふとんから出ることにした。
 そっと部屋を出てリビングにむかう。廊下の扉の向こうではお父さんとお母さんの寝息が聞こえてくる。起こさないように、慎重に進む。暗い中を手探りで進むのだが、ここは慣れた家だ。案外簡単で拍子抜けした。

 リビングについて、少し迷って電気をつける。やはりずっと真っ暗なのは怖い。電気をつけて時計を見ると、おかしなことが起こっていた。そこに、フクロウがいたのだ。ユキヤは突然現れたフクロウを前に、固まっていた。
「フクロウ」
「そうだ。」フクロウは答えた。
「何でここに?」
「それはこっちの言うことだ。もう1時も過ぎた。よい子は寝る時間だ。」
まさかフクロウに説教されるなんて思ってもみなかったユキヤは、なんだか楽しくなってきた。
「僕はよい子じゃないから。」
「そうか、まあよい子なんて滅多にいないものだ。」
「君も、よい子じゃないね。こんな時間まで起きて。」
「私は夜行性だから。」
「やこうせい。」
「そう、フクロウは夜に行動する。聞いたことあるだろう?」
ユキヤは考えながらもうなずいた。確かに聞いたことがある。しかし、一方で近所のホームセンターのペットコーナーでフクロウが売りに出されていた時、そのフクロウは昼間に明るいところにいて、寝たりもしていなかった。
「フクロウは昼も起きてるの?」
フクロウはにやりとした。少なくともユキヤには、そのように見えた。
「昼も夜も、ずっと寝てるさ。ずっと寝て、ずっと起きてる。…なんだよ納得していない顔だな。…来いよ。」
フクロウは羽ばたいた。慌ててユキヤも追いかけた。

ベランダからは夜の町が見える。寝静まったユキヤの家だが、外を見てみると案外明かりもちらほら見える。
フクロウはただ遠くをじっと見つめていた。

「俺たちはタカやワシに比べると力も弱い。だから、奴らが寝静まった夜に狩りをする。こういうのをカシコイって言うんだ。」
 爪をベランダのふちでカチカチ鳴らしながらフクロウは言うものだから、なんだか説得力がない。ユキヤは獲物を捕まえる立派な爪も持っていなかった。
「こんなに暗いのによくみつけられるね。」
「特別なことじゃない。よくみればいいんだ。ほら、あそこにいる。君の敵だ。あそこにも。」
 フクロウは遠くを見ながら話し続ける。彼が見ているものはユキヤには全然見えなかったけど、でも何を見ているのかはわかるような気がした。

「つまり、今起きてるのは君一人だ。」
そのフクロウの言葉が本当かどうかよりも、そんなことを断言できるのが不思議だった。けれどもいざそんな言葉をかけられて見ると、それを信じてみたくもなる。
「こんな時間も一人だ。」
「ああ。誰よりも早く今日を始めているんだ。」
「…うん、そうだ。」

 リビングのフクロウの形の時計はもうすぐ2時を指そうとしていた。

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