23時 夢の続きの夢

 もう遅い時間なのは知っていたけれど、時計は見ていなかったので自分がどれくらいここにいるのかタカシはよく分かっていなかった。だから、視界で光がちらつき始めた時、最初は疲れたのかなと思ってそこでようやく時間を確認した。もう既に1日が終ろうとしていることに溜息をつきながら、視界の異常は疲れではなくただ単に蛍光灯が切れかかっているだけであることに気付いた。けれどもそれを交換する気力は残っておらず、タカシはもう一度、より深くため息をついた。

 不安定な光の中で、あらためて部屋を見渡してみる。棚には様々な種類の作品が雑多に並べられている。自分が小学生だった頃は学校の中で最も縁遠い部屋であった図工準備室に今こうして夜遅くまで残って作業しているというのは不思議なものだと思いながら、ようやく帰り支度を始めた。

 床に落ちたペンを拾おうとしたとき、棚の隙間に何かが押し込まれているのに気づいた。拾ったばかりのペンを使ってそれを引っ張り出してみると、どうやらそれはマリオネットのようだった。馬と人の形がついたそれは、埃を被ってはいるが案外きれいである。よくみると小人の手がもげてしまっている。なるほど、もしかしたらいたずらな生徒が壊してしまってここに隠したのかもしれない。あるいは教師か。苦笑いしながら、生還した彼らをきれいにしてやる。

 ごめんな、折角洞窟から出てきても、ここもまた今にも電気が消えかかった空気の悪い部屋なんだ。恐らく君たちがいるはずの場所は、もっと明るくて、楽しい場所なのだろう。そんなところにいるはずの君たちが僕と出会うことになるなんて、運命というものは分からないものだな。

 なぜか先ほどまで帰ろうとしていたことを忘れて彼らに語りかけていた。暗いところから光の下に出てきた彼らは、タカシを明るい場所へと導いてくれるように思えた。実際にそんなわけはないのであるが、思うだけなら自由なのだ。蛍光灯のちらつきが大きくなるにつれ、彼らもぴかぴかと光りだした、ように見えた。

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