14時 3分間の夢


 ネズミの「先生」はよく僕に質問をした。けれど僕は一度だって先生より物知りだなんて思えなかった。先生は質問をするけれど、新しいことを知っているのはいつの間にか僕なのだ。先生はなんでも知っている。そう思えた。

「君はどうしてここにいるんだい?」

 その質問だって、僕は先生が知っているものだと思っていた。いや、別にそんなこと考えもしていないのだけれど、でもその質問に答えながら、先生の持っている「正解」と自分の答えがどのくらい一緒なのか少し不安で、わくわくしていたのは覚えている。

「わからないけど…、けど、先生が連れてきてくれたんじゃないの?」

 先生は初めて僕の答えに対して何も応えなかった。黙ってじっと、遊園地の柵の向こうを見つめていた。

「寂しいね。こんなに少ないと、やっぱり寂しい。」
「たくさんいるじゃないか。にぎやかだ。」
「彼らは木馬の夢だ。こんな時間まで木馬の夢がうろうろしてる。それはなぜか、木馬が寝ているからだ。それはなぜか、」
先生は僕を見て寂しそうに笑う。心なしか先生の色が薄く鼠色になっていっているように感じた。
「人が少ないから?」
「そうだね。人が少ないから、木馬はまだ寝てるんだ。ほんとは起きてなきゃいけないのにね。」
「起きてるよ。」
「そこがおかしなところなんだ。木馬は寝てる。木馬の夢が沢山いるのに、夢じゃない君もここにいる。」
「うん」
ケイタは先生が何を言っているのかよく分からなかった。
「夢の世界はいつまでも夢の世界ではあるけれど、夢のバランスが崩れてきてる。
…君は、何だい?」

 先生は僕を怖がっているのかもしれないと初めて思った。そして、僕もまた先生が、この世界が怖いと、ちょっぴりなんだけど、初めて思った。

 気付くとケイタは公園の隅に坐っていた。手には画用紙がある。そうだ、図工の時間だといって外へと飛び出したのだ。真っ白だったはずの画用紙には鮮やかな世界が広がっていた。そして、公園に来てからまだ3分しかたっていないなんてこと、ケイタはもちろん気付いていない。

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