21時 ひつじでなくパンダ

 ひつじなんか数えても寝られるわけがないことは分かってはいても、とりあえず数えようとは思いつくほどに自分が追い込まれているのか、あるいはひつじが文化に根差しているのかはわからないけれど、寝る前というのにそんなことを考えてしまうくらいにはコウは睡眠からほど遠いところにいた。既にベッドの中であるというのにだ。

 寝られない原因は昼間寝すぎたからではない。今日は遅刻はしたものの電車に乗って学校に行けた。だから、ともすれば疲れてすぐに眠りにつくことができるのではないかとも期待していた。しかし、体は一時の疲れよりもいつもの習慣を優先したようで、やはり夜布団をかぶっても眠りにつけない時間を過ごすことになった。

 いつもそうなのだから、何か対策を考えた方がいい気がするのだけれど、そんな元気も湧かないうちにいつの間にか夜寝る前の本番になってしまう。いつも準備不足の試合開始で、開始早々ノックアウトだ。布団の中で溜息をつく。今日少しうまくいったとしても、やっぱり明日を前にして、臆病になってしまう自分がすぐそこにいるのを感じた。まだ今日だというのに、既に今日を忘れてしまっていた。

 今日はあの不思議なパンダのぬいぐるみと会ったのだ。海を見るパンダのぬいぐるみがあのぼろい手作りのブランコから降りることはあるのだろうか。いや、もしかしたら降りられないのかもしれない。ブランコか降りられず、仕方なく海を眺めている。もう飽きてしまった海を延々と眺めるパンダは、山の方を見る自分を羨ましいと思うのだろうか。

 パンダのことを考えていた。それは楽しい時間で、もうひつじは必要ない。ようやく今日を思いだして、コウは明日へと流れていく。

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