4時 折り鶴の旅


 朝の4時、オサムは目を覚ました。同じ部屋の仲間はまだ誰も起きていない。前日陽をまたぐまで飲んでいたので当然だろう。かくいうオサムも起きられたとはいえ活動しようという気分にはならなかったが、体に鞭打ちそっとベッドから抜け出した。

 部屋だけでなく、民宿の中全体が静まりかえっている。まだ主人も起きてはいないのだろう。誰も起こさぬようにそっと外に出ると、空はようやく陽が昇る準備を始めたようだった。暗がりの中で風と鳥の声を感じ、この島はもう起きていることをオサムは悟った。

 オサムは山へと歩き始める。この小さな島全体を、そして海の向こうを見渡せる山だ。山へと向かう訳はあったが、誰にも言えなかったので早起きをしたのだ。言えないけれど、向かわなければいけなかった。そこに“彼女”がいるのではという期待と不安がオサムの中にはあったからだ。初めて会ったのは同じ山の上だった。あれから2年が経っている。会えないはずはないと思いながらも、不安が彼の脚をはやらせた。

 陽が水平線のすぐ下までやってきた頃、オサムは山の上に辿り着いた。そこには誰もいなかった。ぽつんと立つ碑に手を合わせ、彼は持ってきた折り鶴を置いた。

 オサムは岩に坐って海を眺めた。会えなかったことに安心している自分に安心した。一人で大丈夫だと彼女に言いたかったが、それ自体が甘えである気もしていたのだ。オサムのよく知るきれいな海を眺めながら、知らないはずの彼女が見てきた風景を思い浮かべる。目を閉じて初めて、やはりそこに彼女がいることに気付いた。

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