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ハトヨガ的読むヨガ 連載30 日本のヨガ 100年史

今日の内容は、連載28、29に続き、ヨガの歴史シリーズ 日本編です。私たちの時代も含まれます。岡山時代の個人的回想も織り交ぜながら考察します。

奈良時代に空海がインド仏教由来のヨガ「瑜伽」のコンセプトをもたらしたと言われていることはすでに書きました。仏教の修行の一環として瞑想は知られていますし、現代でも禅寺をはじめとして、多くの人が瞑想を習慣にしているほど浸透しています。

明治時代に入り、インドで実際に学びを深めた豪快な先生たちが、日本でヨガの実践を伝えてこられました。(みなさん相当にキャラが濃かったようです)

先駆者は、1920年代の中村天風先生。1876年(明治9年)生まれ、若かりし頃、日露戦争でスパイとして満蒙で暗躍した経歴をお持ちです😳 帰国後、不治の病だった肺結核を患います。救いを求めて欧米各国を巡るのですが、満足いく治療法は見出せませんでした。帰国途中のエジプト、カイロで吐血。そこで偶然出会ったのが、ヨガ聖者カリアッパ師でした。そのまま師に着いてゆき、インドとネパール国境の山奥に辿り着きます。その地で3年近く厳しい修行を積んで過ごすうちに、結核は回復。帰国して、自らの修行体験をもとに、呼吸法や心身統一法などを編み出しました。門下生には政財界の大物(東郷平八郎や原敬、宇野千代ら)をはじめとする多くの人が指導を受けました。今も財団法人があり、教えは実践されています。略歴を拝見するだけで、相当に波乱万丈な人生を送られたことがわかります。

中村先生が、修行をしたというインドのゴルゲ村は、世界第3位峰カンチェンジュンガの麓。実は私は、18年ほど前に、近くの村に、お気楽な家族旅行で行ったことがあります。ネパールの首都カトマンズから、空路、最東端へ移動し、そこから陸路でインドへ入国。お茶で有名なダージリン村とシッキム州(かつてのチベット仏教王国、1975年に州としてインドに併合)を訪れました。四駆で延々と山越え、谷越え、高地へ向かう道中、幼かった甥っ子は、車酔いでフラフラになってしまいました。(ごめんよ。でも楽しかった)

風光明媚な観光地でもあるダージリンは、イギリスの植民地時代に紅茶のプランテーションが進み、格好の避暑地でもありました。紅茶を運搬するダージリン・ヒマラヤ鉄道(遊園地で子供が乗るようなミニミニ鉄道みたい)が残されており、鉄道は1999年に世界遺産として登録され、観光資源となっています。我々も乗り鉄しました。(走ったほうが速いくらいの速度でコトコト曲がりくねる山間のルートを走り抜けていきます)

空気が綺麗で、夏は過ごしやすく、晴れ渡った遠くの空には、カンチェンジュンガが雄大にそびえる絶景地。そんな山麓で、瞑想や呼吸などの修行に励むうち、病んでいた肺が回復したことも驚きではありません。(しかし、朝晩や冬は、さぞ寒かったことでしょう)

1950年代  1899年(明治32年)生まれの佐保田鶴治先生の貢献も日本のヨガ界に大きな影響を与えます。
先生は、お寺の生まれで、京都大学でインド哲学を修めた後、立命館大学や大阪大学で教鞭をとられます。もともと体が弱かったにもかかわらず、60歳すぎからハタヨガを実践、研究しはじめ、多くの生徒を指導するようになりました。また、多くの経典を日本語に翻訳しました。仏教とヨガの調和を図った第一人者です。

佐保田先生の著書、経典の翻訳書は、今でも貴重なヨガ哲学の学びのバイブルとして参照されています。(ちょっと言葉遣いが古風な言い回しも時代の重みを感じさせる雰囲気)

今でこそ、いろいろな経典の解説書が、イラストや写真なども添えられて手軽に買えますが、ヨガの哲学に関する翻訳資料は、画期的だったに違いありません。そのほかにも、一般の向けに、ヨガのアーサナを解説した雑誌テキストなども出版しています。
ビジュアル的なイメージの例ですが、NHKテキストの表紙はこんな感じ。定番ファッションは、レオタード。最先端のスポーツファッションだったのですね。(NHKの体操のコーナー、つい最近まで、こんなスタイルでしたよね)

昭和の時代にヨガの大きな流れを作ったことで知られるのが、沖正弘先生。先生も病弱な体質をヨガの実践で鍛え、近代化された独自のメソッド「沖ヨガ」として普及につとめ、日本の第一次ヨガブームが起こりました。
1919年(大正8年)生まれの沖先生の略歴をみると、第二次大戦中、大陸でスパイ活動・・・。(まあ昔は外国に行くオプションとして、戦争で派遣されることも当たり前だった時代)。中村天風先生の会に入会したり、また現代西洋のヨガの母、インドラ・デビと面識を持ったりと、世界で広がっていたヨガ・コネクションの流れがわかります。

現在も沖ヨガは各地で実践されています。動画クラスを見ることができるコーナーもあります。

それにしても、日本のヨガ黎明期は、相当にストイックな先生方が、ヨガを熱心に実践し、普及に努めておられたのですね。

1960年代は、日本列島で健康ブームがおきます。きっかけは何といっても、1964年の東京五輪大会。全国でスポーツが盛んになるなか、美容体操・健康体操としてヨガの人気も高まりました。

1970年代 第二次ヨガブームが起こります。
超能力、ヒッピーブームの時代、この手の本が出版されたりしていました。ヨガの効果から、不思議な力が体に宿るといった受け止め方もされていた。

あの時代、オカルト的、不思議なものが流行った時代。たしかに、子供時代、UFOやユリゲラーからコックリさんまで、いろいろなスピリチャルな情報が溢れていたことを思い出しました。なんとなく世の中が浮かれはじめていた時期だったのでしょうか。

岡山の田舎の状況ですが、ちょっと意識の高いお母さんたちが、公民館などでヨガを習っていたと記憶しています。主に女性が健康促進と美容のメソッドとして浸透していたようです。沖ヨガをはじめ、多くの指導者がいろいろな立派のヨガを広めておられました。

日本で初のホット・ヨガが始まったのもこの時代です。

さて、ビートルズもインドで瞑想をしていたことを前回のコラムでも書きました。ここで久々に藤井風さん登場です!

@gqjapan

藤井風(日本)──世界中の『GQ』が選んだ、未来の音を生み出すミュージシャンたち。 #soundsfromthefuture #gq #gqmagazine #藤井風 #fujiikaze

♬ オリジナル楽曲 - GQ JAPAN - GQ JAPAN

瞑想をしたり、マントラを唱えたりする背景には、お父さんの影響が大きいと語っていました。こちらのトーク配信(42分ごろ)では、お父さんがビートルズやビーチボーイズの英語の歌を流暢に歌っていたことに影響を受けて、英語が好きになったと答えている部分があります。

(勝手な推測ですが)風さんのお父さんは、おそらく1960年代の生まれと思われます。ヨガやインド哲学などの情報は、すでに普及している時代です。岡山でマントラや瞑想などに触れていても、不思議ではありません。風さんは、本場インドで、瞑想や哲学に触れたご両親の影響を受けているのでしょうか。

そういえば、私がインドの話を初めて聞いたのは、80年代の高校時代。3年の担任だった英語の先生(クリスチャンだった)が、インドを訪れた体験を熱く語っていました。マザーテレサを尊敬されていて、奉仕の心の尊さを力説して、「インドはいいよー。ぜひ行ってください!」「肉を食べたら下痢になってね〜。野菜だけのカレーにしとけばよかった」などと、おっしゃっていました。外国に縁のない田舎の高校生ですので、ぼけーっと話を聞いていただけでした。まさか、その後自分がインドに行くことになるとは思ってもいませんでした。

1980年代、バブル経済時代に突入した頃、エクササイズとヨガが盛んになっていきます。1985年には男女雇用機会均等法が施行され、社会に進出した多くの女性が、余暇を楽しむようになり、ジムブームが到来します。エアロビ、ジャズダンスなどなど。アメリカ文化の影響も大きいですね。ヨガだけでなく、ダンスなども流行してました。1983年の映画「フラッシュダンス」は、日本でも大ヒットしてたのを覚えています。

1990年代に悲劇が起きます。95年のオウム事件の影響で、以降10年ほど、ヨガ人口は激減。第一人者の先生がたのクラスでも、生徒さんがぱったりと来なくなったという、受難の時代だったそうです。ちなみに私は、1997年にヨガに出会い、健康面で非常に助けられました。地道に練習を続ける教室があったからこそ、今のヨガの広がりがあることに感謝しています。

2000年代になり、フィットネスブームと融合し、アメリカのセレブを巻き込んだパワーヨガが流行するなど、さまざまなスタイルのヨガが生まれ、世界的ブームとして広がるようになります。

日本でも、健康ブームやマインドフルネスの流れ、そして科学に基づく健康と運動の効果にあわせ、ヨガが取り入れられる時代になりました。

2005年ごろから、第三次ブームが起きます。新しいフィットネスプログラムとして、スポーツクラブやジム、専門スタジオなどで、様々なヨガプログラムが開講され、ヨガフェス、素敵な情報満載のヨガ専門の情報雑誌が創刊されるようになりました。
日本のヨガ界を牽引する先生方が解説をご担当され、盛りだくさんの情報、洗練されたページデザインと素敵なウェアを着こなしたモデルの方が登場しています。

2006年 母校「アンダーザライト(UTL)」ヨガ資格の専門スクール設立。その他にもたくさんのヨガ資格を取得できるスクールがこの時期にスタート。UTLは草分け校で現在まで続く数少ないスクール。

今もUTLのクラスを受講して学びを続けています。

Yoga Journal日本版 2008年創刊

Yogini (2022年9月号で残念ながら廃刊)

The yogis magazine 23年3月に創刊された新しいヨガ雑誌。オンライン版もあり。

中村天風先生の時代からほぼ100年。日本でどのようにヨガが広まっていったかを駆け足で振り返りました。今では多くの素晴らしい先生が、日本の各地で指導をしてくださっています。私も、ヨガ指導者の端くれとして頑張ります。そして、ブームだからヨガをするというよりも、健やかに心と体を保つための技術、ライフワークとして、長くヨガを続けていきたいと思っています。

2020年以降、コロナ禍をへて、オンラインプログラムも充実し、裾野はますます広がっています。日本のヨガ人口は600万人を越え、将来は、1600万人まで増えるという予測もあります。特に、高齢化、ストレス社会の影響もあり、リラックス系、マインドフルなど、ヨガ本来の目的である、心に働きかける要素がより求められていくのではないでしょうか。

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