書き殴りA

 一年ぶりだとはあまり言いにくく、かと言って半年ぶりと言われればそれはちょっと短いんじゃないのか、つまり九ヶ月ぶりというのは実に微妙な概念だとぼくは生まれてはじめて考えた。一年の四分の三もの間、連絡はちょこちょこ取りつつも、しばらくは会っていなかった友人と一年の四分の三ぶりに再会したぼくらは、まず喫茶店でコーヒーでも飲もうや、と待ち合わせに使った駅のすぐそばにある、今流行りなのかは知らないがいわゆる「古民家風カフェ」に赴いたのだった。
「俺、小林尊の生まれ変わりかもしんないよ。マジ」
 必要以上に大きな音を鳴らす入口の戸を開けて、他の喫茶店より若干背もたれ長めなソファを携えた四人席のテーブルに座り、なぜか僅かに泡立っているお冷の入った透明なガラスコップを若い男のウェイトレスから受け取った彼は、ご注文お決まりでしたら、などとウェイトレスがマニュアルを読み上げてから厨房に戻ってから直ちに、ぼくの目を見てそう言った。
「思い違いだと思うんですけど」
 ぼくは率直な実感を述べた。喫茶店に入るまで、ぼくたちは駅からこの喫茶店に辿り着くまで、決して長い距離を歩いたわけではなかったが、その区間で交わされた会話の中から、彼がホットドッグを水と一緒に胃の中に流し込むという唯一無二の必殺技を持つフードファイターの話題を彼が繰り出すところを、誰が予想できただろうか。
 この九ヶ月の間にはこういうことがあったのだとか、彼女ができたのだとか、新しい趣味を見つけたのだとか、お互いにわざわざ連絡する程ではない、小さな発見や生活の中にある面白い体験談とか、どっちかというとぼくはそういったトークを試みたいと考えていた矢先の小林尊の話題、右手のコップに入っている冷水で胃の中に流し込めるのならぼくは咄嗟にその水を飲み干しただろう。ぼくの中で静かに沸き上がる情念の昂りを知ってか知らずか、ぼくが右手で握るコップは既に結露を始めていた。