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グラップリングの新たなスタンダードになるか。『UNRIVALED』の可能性と澤宗紀&阿部史典

ちょっと前の話ですが、5月22日に『UNRIVALED』というグラップリング大会を取材してきました。ZST系のイベントと言っていいんだと思います。別件もあり3部構成のうち2部だけになってしまったんですが、それでもとにかく見ておきたいなと思わせるもので。

最初の興味はルールの部分で、大きな要素は引き込みがマイナスポイントというところ。組技格闘技の“最大公約数”、さまざまな組技競技の選手が参加しやすいようにという狙いのようです。

グラップリングというと引き込んで下から展開を作っていく選手も多いわけですが、それは“ブラジリアン柔術寄り”なわけですね、考えてみたら。それを言うなら今のグラップリング自体、ノーギという言葉もあるくらいで「柔術の道着なし版」みたいなイメージもある。

けれど組技格闘技は他にもある。メジャーなところで言えば柔道にレスリング。これらはもちろん相手を投げる、テイクダウンするのが主眼。引き込みありだと、大きな武器、その競技の根幹をなす技が使いにくい。屈強な柔道家やレスラーに非力ながらも対抗しうる手段として柔術の引き込みがあるとも言えるわけですが。

柔道家やレスラーが存分に「投げ」という武器を使えるグラップリング大会があってもいい。そのことで参加者の幅が増えれば、そこでまたいろんな可能性も出てくるはず。ということで『UNRIVALED』では引き込みがマイナス2ポイントに。でも禁止ではないから使ってもいい。引き込んでリバーサルして上を取ればプラス2ポイントで減点解消、プラマイゼロにもなる。でもやはりプラスではない、というところの妙味。テイクダウンを狙うか、それともリスクを取って引き込むか。レスリング出身の桜庭和志がプロデュースする『QUINTET』はレスリングマットを使い、相手に触っていない状態でしゃがみ込むのは禁止。『UNRIVALED』はそこからもう一歩踏み込んだルールと言えるわけです。

さてこのルールで試合はどうなったか。それぞれの結果に関しては他のメディアにお任せしますが、第2部を見て思ったのは、やっぱり多くの試合がテイクダウン勝負になるんだなと。テイクダウン、サイドポジション、マウントポジション、バックはすべて2ポイント。加えて抑え込まれた状態から立ち上がり、相手に向き合うと1ポイント。つまり「下にならない。なっても立つ。立って投げる。上になる」ことが大事ですよと。下から立ち上がるエスケープポイントは、レスリングのカレッジ(フォーク)スタイルにも共通するもの。

アメリカでカレッジスタイルのレスリングを経験してきたMMAファイターは強い、それはこのエスケープポイントがあるから...といった話も聞いたことがあり、この『UNRIVALED』も試合の流れというのか、見ていてMMAに近いように感じるわけです。引き込んでから作る展開に比べて、より自然というのか、より“闘い”らしく見えるというのか。本部席のZSTプロデューサー・勝村周一朗さんに聞くと、やはりMMAにアダプトしやすいグラップリングというのもルールのコンセプトにあるそう。RIZINでセコンドついたりガンプロで試合したり歌ったりしながら、グラップリングの新しいルールを考えてもいる。それが勝村周一朗。

いやもちろん引き込みが悪いというわけではなくて、実際『UNRIVALED』にも引き込み→スイープからサブミッションで勝つ選手もいて、リスキーではあるんだけど、そのぶん決まると痛快な感じも。だから『UNRIVALED』では下からの攻めがある種の奇策というか、技術、戦術として際立ちやすいとも言えるのかなと。『UNRIVALED』がグラップリングのスタンダードになった場合、逆に「引き込みから一本カッケー!」とかなるのかもしれない。

ちなみに『UNRIVALED』には道着ルールもあり、その場合は投げによる「一本」も。選手双方が「一本」を狙い、どう見ても柔道という展開の試合も。こっちも思わず「ヨイショ!」とか声が出るような攻防。終わって「いや、思った以上に柔道でしたね」なんて感想を話したりしました。たとえばこの道着ルールにオリンピック(候補)級の、でも柔術は全然知らないような柔道家が出たらどうなるのか。そこでやっぱり引き込みが威力を発揮するのか。そういう想像の余地があるのもまた楽しい。格闘技はそういうところ、ありますね。「ルールをこう変えたらどうなる?」と。

組技格闘技の可能性としては、カウントがいくつかはともかくピンフォールはどうだろうなと。ピンフォール、もしくは抑え込み。絞め、関節技による一本ではないにしろ「相手の動きを完全に制圧する」という意味では組技競技における勝利条件として充分でしょうと。ただ勝村Pに聞くと、フォールがあると試合展開、攻防が変化しすぎちゃう可能性があると。それこそプロレスで見るような、腕十字を切り返して抑え込むとか。そうなるとサブミッションを狙うリスクが高すぎ、みんなやらなくなるかもしれない。なるほどなぁ。と同時に思ったのは、プロレスはそうしたいろんな攻防のシミュレーションみたいな要素もあるわけですね。

大会を見た実感として、これはグラップリングの幅を広げるものとしてかなり可能性あるなと。「これなら勝てる、自分の技が出し切れる」みたいな選手もいるような気がします。レフェリーのポイント獲得ジェスチャー、選手・セコンドにも見えやすい特典掲示があるといいのかなと思ったんですが、今回は無観客配信大会だったので「画面」主体ということでしょう。そういうところは回を重ねればいいこと。大会としてもルール(競技)としてもどんどん伸びそう。

それからもう一つ。この大会に行った理由はルールへの興味プラス、一般人・澤宗紀さんの出場。プロレス引退して一般人になって、でもたまにチラッと試合してたりして、普段はパーソナルジム「フレンジ」のインストラクターしている澤さん。気がつくとこういう大会にエントリーしているから目が離せない。ついこないだは666で見たけど。で、会場行ったらセコンドついてるのがプロレスリングBASARAの阿部史典。

実際の話、プロレスはプロレス、格闘技は格闘技とはっきり線引きされる傾向があり(それはそれで間違いでもない。お互いにとってプラスな部分もある)、ファン層もあんまり被ってないかな今はという感じもある中で、グラップリングの大会にサクッと現れる澤宗紀&阿部史典ってのは相当カッコいいですよ。結果としては一本負け。「これはもう一回ですね」と悔しがり、そこからチェリーさんとのトークイベントに向かうというのも澤宗紀にしかできないスケジュール。強くなりたい、強さを試したいという気持ちが「外」に向かうプロレスラー、やっぱりいいなと思います。いや澤さんは一般人だけど。

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