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2024.6.8家畜感染症学会レポート

要旨↓

『牛における周産期の細菌感染に起因する子宮内膜炎と卵巣機能障害の関係』

乳牛において、子宮内膜炎は卵巣嚢腫の要因とされており、子宮内感染は卵巣嚢腫の発生リスクであるとされている。

子宮内膜炎と卵巣疾患が併発するメカニズム↓
子宮内膜炎により子宮内のLPS(Lipopoiysaccharide:グラム陰性菌の細胞壁を構成する成分。内毒素・エンドトキシン)増加→TLR4(Toll-like receptor:Toll様受容体)経路活性化→卵胞の顆粒層細胞のFSH,LHレセプター減少、アポトーシス抑制、細胞増殖機能低下→卵胞発育障害
簡単にまとめると
LPS増加→TLR4経路活性化→FSH,LHレセプター 抑制→卵巣疾患

(もっと詳しく)
E,coli(大腸菌)増加→LPS増加→FSH上昇の乱れ、LHサージの遅延
顆粒層細胞におけるE2産生抑制
子宮内膜炎罹患牛では子宮内膜および卵胞液中のLPS濃度が高い
 卵胞発育、分化能、エストラジオール産生、細胞増殖活性が低下
 炎症性サイトカインが上昇、アポトーシスが抑制

つまり
LPSは卵胞発育、分化能、エストラジオール産生、細胞増殖活性を抑制

さらに炎症性サイトカインが上昇し、アポトーシスが抑制される

子宮内膜炎の診断方法にはサイトブラシ法と組織学的検査の2種類がある。サイトブラシ法と組織学的検査の相関は
PMN=子宮の表層では相関が高く、リンパ球=子宮の深部(筋層に近い)では相関がない
急性炎症=PMN、慢性炎症=リンパ球で評価できることから、表層の炎症(急性炎症)はPMNで摘発可能。つまり、サイトブラシ法は急性炎症の摘発は可能

(サイトブラシ法を用いて実験してみた)
黒毛和種牛において、卵巣嚢腫群はコントロール群と比較し、子宮内膜炎罹患率が高い
また、分娩後40-60日において有意にPMN%が高い
子宮内膜炎と卵巣嚢腫の関連を示唆
分娩後早期=急性炎症が卵巣嚢腫を誘発
分娩後後期=慢性炎症が関与?

一度炎症が起きると卵胞発育に関する遺伝子発現が変化=予防が大事(もはや炎症を起こさせない)


『ウシにおける子宮内細菌叢と分娩後の子宮環境および繁殖性との関連』


(前置き)
低受胎牛の約半数が原因不明である
ヒトにおいて、無菌とされていた子宮において、腟の約1/1000の量の細菌が細菌叢を形成していることが判明した

組織中の栄養低下は免疫応答能(サイトカイン)低下
分娩後の低栄養は、子宮内の免疫応答能を低下させるとともに、形成する
 細菌叢も変化する
・炎症性子宮罹患の有無で子宮内で形成される子宮内細菌叢は変化する

 分娩後第一週に子宮内に形成される細菌叢の違いは、その後の炎症反応と
 関連している可能性

初回AI開始時に子宮内膜組織に慢性病変が認められるウシは少なくなく、分娩後早期の子宮内膜炎が、その後の繁殖性低下に関連しているのでは?
分娩後早期の子宮環境の異常はVWP(生理的空胎期間:意図的にAIしない期間)以降の繁殖性を低下させる可能性がある

(先行研究)
どうやら受胎群と不受胎群で子宮内細菌叢が異なるらしい
農場、給餌管理、飼養管理でも子宮細菌叢が異なるらしい
Arcobactarを含む細菌ネットワークが繁殖性を低下させる?

(先行研究の考察)
・飼養環境の違いで子宮内細菌叢が異なる
 →腸内細菌叢におけるエストロゲンの代謝が異なるため、子宮内細菌叢に
  影響?

分娩後早期の子宮環境の異常はVWP以降の繁殖性を低下させる可能性がある
そして子宮内細菌叢の先行研究を踏まえると

子宮内細菌叢のバランスの変化が持続的な炎症の誘起している?
という仮説が成り立つ
(ヒト)子宮内細菌叢が多様性が低下し、病原菌が増加している状態
 →細菌叢の正常化を促す治療を選択
ウシにおいて、今後も研究を進めていく


『ウシの乳房炎と繁殖機能との関連』


乳房炎によるLPS増加は脳(LH,FSH分泌抑制)、卵巣、子宮に作用して繁殖性を低下させる

乳房炎を起こしたウシ12頭中8頭が無発情、排卵無→E2とLHパルス低下 また、PRIDによる発情同期化でも排卵率低下
さらに、コルチゾール(ストレスにより増加)を投与したら同じ反応を示した

乳房炎の負の影響
・黄体遺残増加 空胎日数増加
 乳房炎はPGを分泌促進するが、黄体遺残増加→排卵抑制が強く関連してい
 るのでは?
・乳房炎は胚死滅、流産を増加させる
・(ヤギにおいて)妊娠後の乳房炎はP4濃度が低下し、PGFM濃度は上昇。妊
  娠期間も延長させる
・ウシにおいて
 分娩後60日以内に乳房炎になると妊娠期間が延長する
 妊娠後期の乳房炎はプロスタグランジン代謝物濃度を上昇させ、P4を濃度
 を低下させる。結果妊娠期間を短縮させる
 妊娠初期の乳房炎→胚の成長を阻害 妊娠後期の乳房炎→妊娠維持を阻害

(ここで仮説)
子宮内膜炎(により発生したLPS)が卵胞に作用するなら、乳房にも移行しているのでは?
→実験により移行しているを確認
では、その移行したLPSが乳房炎を誘起するのか?
→LPS1回注入では体細胞は変化なし。TNFαは増加
→LPS複数回投与では体細胞増加

(結論)
子宮内のLPSは乳房へ移行し、炎症を誘起する

LPSが多臓器へ移動する→炎症部位が原発とが限らない(ルーメン、蹄)
→炎症を発生させない飼養管理が重要である

『総合討論』

Q.イソジンや抗生剤の投与は子宮内細菌叢を正常に戻すのか?
A.解明されていない。人では有用であるという報告がある。その後膣内にプロバイオティクスを投与?

Q.積極的に分娩後早期に抗生物質を使用する方が良いのか?
A.症状がない場合は子宮洗浄の方が良い

Q.子宮洗浄後で細菌叢は変化するのか
A.まだ研究途中。効果はあるのでは?

Q.結局は衛生や飼養管理なのか
A.
農場により問題が異なる。蹄病は積極的に治療していきたい
負のエネルギーバランスは免疫を低下させるため、栄養は関与している
乳房炎もたくさん種類があるので、抗生剤を使うのか、乳房洗浄をするのか・・・

Q,乳熱の管理を積極的にすると良い結果が出るのでは
A.その通りだと思います

Q.子宮内細菌叢を臨床応用するには?
A.大規模な解析が必要。バイオマーカーとなる菌の検出が求められる

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