本物の 名月だよと 指差して
地味な蝉 私みたいと 床に寝る
着慣れない 半袖シャツに 脇騒ぐ
銭湯の メントールシャンプー へそ冷える
夏髪を 下ろす足もと 深い影
二学期が 始まり居間は 広くなる
虫の歌 移ろう季節 出迎える
麻のシャツ 捲った肘が 刺さるから
酷暑から 逃げて隠れて 冷暗所
向日葵の 未来重くて 茎折れる
蝉うるさ 黙りこんでる スピーカー
桃洗う 手のひらを這う 心地良さ
デラウエア 飲み下しつつ かたえくぼ
戯れに 積んで妖しく 茄子光る
雨上がり ふと秋の顔 覗かせて
旅先で アイス抹茶と 恋をした
咳弾む 往生際の 悪い秋
秋空を 探し始める ホームタウン
作業用 BGMに 虫の声
声優の 声で本読む 秋の夜
夏なんて さらさら惜しく なかったのに
年は取る 梨の品種に 追い付けず
やばいねと 入道雲に つぶやいて
秋の風 逆手に構え 月を研ぐ
子ら帰り 老いに厳しき 夏残る
台風に 備えて部屋は 鉢三つ
窓だけは 多いと夏は ボクの家
素っ気なく 肩で切り裂く 秋の空
きまぐれに 重ねる視線 秋と嘘
首伝う 水いつまでも 微温いまま
面影を 行きつ戻りつ 盆踊り
トコロテン キミの好みは マスタード
文化祭 裏階段の 写真展
眠れない 虫鳴く夜は 更けてゆく
夏休み 短いと僕 うそぶいて
空っぽの 鳥籠揺らす 夏の風
今月も きみとお気にの Tシャツで
ニュータウン 錆びた看板 長い夏
幸水に 置いていかれた 不幸せ
昨日まで 焦がれたはずの 秋なのに
午後6時 サマータイムと 街歩き
部屋冷やし サマーベッドに 根を下ろす
素っ気ない 梨の甘さに 救われて
どら焼に 水ようかんも 急ぎ足す
涼求め でかい氷で 変な顔
胸疼く 夏の写真を 掘り起こす
胸に抱く 箱入りトマト 友のいま
八月の 新月に猫 願いごと
どしゃ降りが 鼓膜を覆う こそばゆさ
海の日は 白い踵を 砂に埋め